【完結】浮薄な文官は嘘をつく

七咲陸

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番外編

繋がる先に side コリン

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コリン=イェルリンは珍しく困っていた。

あの新人騎士は、辺境から姿を消した。エドガーとシルヴァがどう決断したのかは聞かなかったが、恐らく辺境からも追い出したのだろう。
彼の居場所は、事務であるコリンにすら分からないようにされていた。

それはいいとして、今現状が問題なのである。

草原でのやり取り以降、コリンはまた平和な日常を歩んでいた。
恐らく1ヶ月ほどは何事もなく過ごしていたと思う。
けれど、ある日から突然、コリンの周りにいつもあの涼やかな髪の彼が来るようになった。

「コリン、帰りましょう」
「……え?」

シルヴァは事務室まで来て、帰ることを強要してくるのだ。
最初はコリンはもちろん、隣で事務をしていたサシャですら驚いてアメジストの瞳を大きく丸くしていた。

これが、毎日だ。

「まだ仕事が」
「あ、あー! 私もアーヴィンが待ってるから帰りますね! じゃ!お先に失礼します!」
「サシャ?!」

最近サシャは何かしらプレッシャーを感じるのか、直ぐに帰ってしまう。
そんなサシャにいい笑顔で「お疲れ様です」とシルヴァは言って見送る。

最初の頃は「まだ今日の分の仕事が終わってないのにコリンさんを連れてかないでください!」とサシャは言っていたのに、どうしてか変わってしまった。

一体サシャに何があったのか。

「し、シルヴァ。サシャに何か言ったの?」
「いえ? 旦那さんのためにも早く帰った方が良いですよと言っただけですよ」
「……そう」
「さ、早く帰りましょう」
「う、うん……」

そうして、定時の帰宅をするようになった。

シルヴァの家に帰宅後からは文字通り足のつま先から頭のてっぺんまで世話をされる。

料理はもちろん、頭を洗ったり、フットマッサージをしてきたり、手の爪を切ったり、ハンドクリームを塗ってきたり。

もちろん最初は抵抗した。跪いて足の爪を切ろうとしてきたのだ。驚いてコリンはシルヴァを止めた。
けれど、シルヴァはコリンを上手く誘導して足の爪を切る事を許可させると、あとは先程言った通りである。
身体を洗うこと以外は、全てシルヴァの手によって世話をされる。

身体まで洗おうとしてきた時は止めた。
コリンがいかにいい加減な性格をしていようとも、あらぬ所まで全身洗われようとすればさすがにストップをかけざる得なかった。
シルヴァはコリンの強い拒否に渋々諦めたようだが、今でも虎視眈々と全身を洗おうと狙っていることをコリンは知っている。

コリンは困っていた。

そう、シルヴァの愛情は、めちゃくちゃ重かった。
とにかく甲斐甲斐しく世話をしたがるのだ。

「エドガー! シルヴァがあんな性格だって知ってたんだよねぇ?! どうして教えてくれなかったの!」

団長室に殴り込むようにコリンがエドガーへ文句を言うと、エドガーはクックックと笑った。

「言ったところでお前は信じないだろうし、俺は期待していたんだから言うわけないだろう」
「な、なにを……!」
「お前が素直になれる様な相手が現れるのをな。それがシルヴァだったってだけの話だ。どうだ?お前の過去ごと抱えて更に重くする相手は。今までの重い鎖なんかどうってことないように感じるだろう?」
「うぐ」

エドガーがシルヴァの性癖を知っていたことにコリンは気づいた。
廊下をすれ違いざまに「甲斐甲斐しく世話でもされてるのか?」とニヤリと笑いながら言われれば分かるというものだ。

「コリンはいい加減なところが沢山あるから、世話のしがいがあると喜んでいたぞ? 良かったな、相性バッチリだろう」
「そ、そういう問題じゃない! その内排泄管理までされそうな勢いなんだけど!」
「ほう、それは人生観が変わりそうだな」
「私という人間ごと変えてきそうでさすがの私も恐怖を感じてきたんですけど?!」

珍しくコリンは慌てた。

エドガーならば暴走気味のシルヴァを止められると思ったのだ。しかし、エドガーは楽しそうに笑うばかりで、コリンの味方をしてくれそうな雰囲気はない。

「まあ、今までのコリンの行いの悪さだと思って諦めるんだな。ちなみに誰も助けないだろう。皆、シルヴァに睨まれたくないからな」
「んなっ!」

確かに、直属の部下のサシャですら助けてはくれなかったのを思い出す。

「ほら、噂をすれば、だ」

コリンはエドガーにそう言われ、ギギギとゆっくり振り返る。
浅葱色のスフェーンを携えた彼がニコニコと立っている。

「あ、いや、これは、その」
「コリン? エドガーに何か相談ですか?」
「いや、なんの問題もない。コリン、退勤の時間だ」
「そうですか、帰りましょう。コリン?」
「え、エドガー! 覚えてなよぉ!」

シルヴァに抱えられながら、団長室を後にする。
エドガーはやはりクックックとコリンを笑っていた。


鎖は重いけど、繋がった先には、涼やかな髪の彼がずっと傍に居てくれた。
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