あなたが幸せになるために

月山 歩

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1.幼馴染の二人

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「今日は私が料理してもいい?
 ライの好きなものを作るわ。」

「珍しいね…、でも、嬉しいよ。
 最近はお針子の仕事が忙しいからって、全然作ってくれなかったから。」

 王子であるライナートは、その美しい顔を綻ばせ、嬉しそうに笑う。

「うん、ちょっと落ち着いたの。」

 オーレリアは侍女でありながらライナートに望まれて、時々料理を振る舞っていた。

 二人が住む王宮には料理人がいて、普段は彼らの作った料理をライナートは食べているが、毒味などを経て、彼の前に出て来る頃には冷めていたし、素朴な味わいの食事を食べたいと願う時もあったからである。

「だったら、シチューがいい。
 いつもの。」

「ふふ、ライはシチューが好きね、相変わらず。
 いいわ、今日はそれを二人で食べましょ。」

「よし、やる気が出て来た。
夜が来るのが待ち遠しい。」

 そう言って、この国、ロアル王国の第一王子ライナートは執務のため、軽い足取りで王宮の居室を後にした。

 でも、切ない思いで彼を見送るオーレリアは、こうして見送るのは、今日が最後と決めていた。





 二人は幼馴染で、オーレリアの母はライナートの乳母だった。

 そして、彼女が乳母だった頃に、親族の不祥事が原因で、彼女の家系の貴族籍は剥奪されてしまった。

 本来ならば、その時点で乳母の任を解かれるはずであったが、献身的に王宮で勤める彼女の働きに感謝していた王妃は、彼女をそばに置き続けた。

 そして、王妃は「ずっとライナートの乳母でいてほしい。」と言葉を残し、病いのためこの世を去った。

 残された幼子であるライナートへの彼女の思いを汲み取り、オーレリアの母は、ライナートのそばで勤め続けていた。

 オーレリアはその時からの遊び相手で、現在はライナートの侍女を務めている。

 ライナートの母は、存命であった頃も常に体調を崩しがちだったため、彼と関わることがほとんどできず、彼が子供の頃は乳母と過ごし、そこに娘のオーレリアがいることは自然の成り行きだった。

「リア、今日は何して遊ぶ?」

「そうねぇ、かくれんぼは?
 お母さんに鬼になってもらって、二人で隠れるの。」

 いつも二人は、手を繋いで隠れる場所を探して、王宮の中を歩きまわる。

 仲の良い二人は、その姿も可愛らしく、そのようすを周りの大人たちは微笑ましく見守った。

 そして、幼馴染の二人は、いつしかお互いを意識し、気がついた頃には好き合っていた。

「リア、だいすきだよ。
 僕達はずっと一緒だよ。」

「うん、私もライがすき。」

 小さな頃は無邪気にお互いに好きと言い合い、仲良く手を繋いだりしていたが、大きくなるにつれ、二人の間には身分差が横たわり、けして一緒になれないのもわかっていた。

 だから、大きくなってからは、お互いの思いをはっきりと口にすることはしなかった。

 それを告げてしまったら、このままの二人ではいられないと、心の奥底では気づいていたから。

 それでも、二人でいればいつも幸せで、いつか離れようとは思っていても、お互いに離れがたく、それを話し合うことをしなかった。



 時は過ぎ、ライナートには18才になり、最近婚約した女性がいる。

 王になる彼には、その立場に見合う家系の女性と結婚することが決められていた。

 ライナートの父である王が選んだその女性は、公爵家の一人娘で、誰もが認める絶世の美女と呼ばれ、幼い頃から礼儀作法などをみっちりと学び、ライナートと政略結婚するに最も相応しい淑女である。

 明日はその女性が結婚前の王妃教育のため、王宮に入る日と決められていた。

 なので、オーレリアは今日を最後に住みなれた王宮を出て行くつもりだった。

 ライナートを見送った後、母の部屋を訪れて、そのことを伝えるために、静かに口を開く。

「お母さん、今まで伝えていなかったけれど、私、ずっとライナートが好きなの。
 でも、彼と一緒になれないのもわかってる。」

「リア、やはりそうだったのね。
 私がずっとここにいたばっかりに、あなたに辛い思いをさせてしまったわ。
 あなた達をもっと早く離すべきだった。
 ごめんね…。」

 母はオーレリアの背中に手を当て、そっと寄り添い、目に涙を浮かべる。

「ううん、いいの。
 私、ライといれて、幸せだったから。」

 このことを母に伝えたら、母を困らせることも、悲しませることもわかっていた。

 でも、母には素直な気持ちを知ってほしいとも思っていた。

 でなければ、母とも離れてしまう未来を伝えきれない。
 
 それから、母には自分のライナートへの想いをすべて話し、理解してもらうことができた。

 そして、母も口に出せなかったけれど、二人の気持ちを薄々気づいていて、オーレリアのライナートから離れるという判断は正しいと言う。

 オーレリアにとって彼は、幼い頃から次期王になるために努力を続ける完璧な王子様で、政略結婚と言えども、自分のために彼が不貞し、後ろ暗い思いをすることを望んでいなかった。

 彼には誰にも後ろ指されず、人々からの信頼を得て、誇れるような王であってほしい。

 それに、彼が自分以外の女性を大切にし、その子供を一緒に育てる姿を間近で見続けるのは、私自身耐えられそうにないし、彼女も私がそばにいるのを心良く思わないだろう。

 二人の女性の板挟みにして、彼の良心を疑ったり、その関係に気づいた民からの心無い言葉で困らせたくはない。
 いつだって彼には、ずっと幸せしか望んだことがなかった。

 だからこそ、最後に彼の好物を振る舞い、それを一緒に食べ、この想いを永遠に封印する。

 そんな一日を迎えるつもりでいる。
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