あなたが幸せになるために

月山 歩

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2.最後の食事

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「いい匂いだね。」

 夜になると、ライナートは執務を終え、上機嫌で居室に帰って来た。

 そして、続きの寝室で急いで湯浴みをし、着替え、テーブルにつく。

「お疲れ様。
 シチューの他にもライの好きなものを作ったのよ。」

 テーブルの上には、ライナートの好物がずらりと並んでいる。

 本当は聞かなくても、彼の好きな料理はすべてわかっていた。

「嬉しい。」

 ライナートは料理を眺めながら、椅子に座り、給仕するオーレリアにワインを注いでもらい、ほっと一息ついた。

「リアも座って、一緒に食べよう。」

「ええ、そうするわ。」

 本来なら王子と侍女が一緒に夕食を食べることなどありえない。

 しかし、二人は居室では誰にも見られないからと、よく一緒に食べていた。

「あー、美味しい。
 リアの作った料理をリアと食べるのは、最高に幸せだよ。」

「ふふ、オーバーだわ。
 料理人でもない人が作った料理を、平民と食べてるだけよ。」

「何だよ、そのいいぐさ。
 僕の幸せな気持ちに失礼だよ。」

「ふふ、ごめんね。
 ちょっといじわるしちゃった。」

「リアだから許すけど、何かあった?
 いつもこんな言い方しないのに。」

 ライナートは戸惑った表情をし、オーレリアの顔を覗き込もうとする。

 ダメだわ。
 最後まで笑顔でい続けようと決めたのに。

 心の奥底では、この思いをわかってほしいなんて、矛盾した自分もいる。

 でも、最後に私が見たいのは彼の笑顔なんだから、こんなことを言っては彼を困らせるだけだわ。

「ううん、私も幸せよ。
 私の料理も美味しいし、ライは今日も素敵よ。」

 そう言って、目に焼き付けておきたいと思いライナートを見つめると、オーレリアの王子様は恥ずかしそうに、顔を赤らめた。

 ライナートは何ごとにも真面目で、努力家だった。
 そして、この王国の未来をになう正しい王子であり、その行いは常に国民に注目され、家臣達にも慕われていた。

 それは、今は亡きライナートの母、王妃の希望だったからであり、乳母である彼女の母の希望でもあった。

 だから、ライナートはいつだって一生懸命に王子として国を守ろうとし続けている。

 一方王は、王妃が亡くなると現在の王妃と成婚し、第二王子をもうけた。

 王子が一人だけでは、この王国の未来は不確かになってしまうし、一人だけだと反逆者の狙いはライナートに向かう。

 それを避けるためでもあった。

 母が違う息子二人が、継承権を得るために争うのは良くある話だが、頭脳明晰で人気のあるライナートを次期王にすると早くから王が宣言していたこともあり、二人は仲が良かった。

 だから、ライナートがいつも居室で夕食を食べていたとしても、王達は気にするようすもなく、忙しい彼の好きにさせていた。

「リア、来週、王都にお忍びで行かないか?」

「まだ、どうなるかわからないわ。」

「もう何で王子より、侍女が忙しいの?
 おかしくない?」

「そう言われても、仕事だし。」

 オーレリアは答えを濁すしかなった。
 果たせない約束はしたくないし、もう、私達に未来などないのだ。
 二度と。

「じゃ、わかった。
 僕が針仕事を手伝うから、行こう。」

「ふふ、ライはできないじゃない。
 考えてみるわ。」

「わかったよ。
 そしたら、できるだけ早めに行こう。
 美味しいデザートの店を側近達に聞いたんだ。」

「いいわね。」

「だろ。
 帰りに新しい髪飾りも買ってあげる。」

「ずいぶん優しいのね。」

「僕はいつだって、優しいさ。」

「そうだね。」

 オーレリアは自分のことを大切に思ってくれるライナートの顔を見つめ、彼の笑顔を心に焼き付けた。

 もし、あなたがただの平民なら、私達は絶対に離れないと、わかっているのに。
 運命はとても残酷だわ。

 夕食を食べ終わると夜も更けており、オーレリアはライナートを寝室に送った。

「おやすみ、ライ
 いい夢を。」

 そう言って、振り向かずオーレリアは寝室を後にし、母に別れを告げると夜の闇にまぎれながら、長年暮らした王宮をひっそりと抜け出した。


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