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13.行方が見つかる
しおりを挟むあれからしばらく経ったが、ライナートが抜け殻のようなのはそのままで、やる気の出ない日々を過ごしていた。
妊娠中であったキアーラの出産が近づいており、王宮はいつになく浮かれていて、ローレンスに至っては、全然執務が捗らない。
ローレンスの側近達は、ヤンセンに切実な願いとして執務を押し付けて来ているようで、ドア越しに二人の会話が聞こえて来ている。
その声が執務室でぼんやりと座ったままの僕の耳にも届く。
「頼む。
ローレンス様は執務を始めても、あっという間に、夫婦の居室に帰ってしまわれるんだ。
あちこちから来る決済の催促と書類の山に、俺達は休む暇なく対応しても、全然終わらない。
だから、少しだけでもライナート様に手伝ってもらえないだろうか?」
「だが、次期王でなくなったライナート様には関係のないことだ。」
「でも、ローレンス様には大量の執務は無理なんだ。
ライナート様の時は、こんなことなかったとあちこちから責められて、もう俺達の中でも、側近を辞めて出て行こうとするものまで現れて、その者を引き止める仕事すら追加されているんだぞ。」
「それは気の毒だけど、次期王になるんだから、お前達が説得してローレンス様にやらせるべきだろう?」
「そんなことを言ったって、俺達の言うことなんて聞かないさ。
キアーラ様が心配で、俺達の話なんて上の空なんだから。
頼む、頼むって。」
「仕方ないな。
じゃあ、ライナート様に聞いてみて、いいと言ったら引き受けてやる。」
やっと話はついたようで、申し訳なさそうな表情のヤンセンが部屋に入り、話しだす。
「ライナート様。
実はお願いがあるんですが…。」
「聞こえていたよ。
ローレンスのことだろう?」
「はい。
どうしますか?」
「困っているんだろ?
やってもいいよ。」
「助かります。
では早速、伝えて来ます。」
ヤンセンは、笑顔で再び部屋を後にした。
一度執務から手を離したが、元々はライナートが、ローレンスに次期王の役割を押し付けてしまった手前、そうなるのも致し方ないと思う。
こう言っては何だが、そもそも今まで、たいして仕事をやって来ていなかったローレンスが、次期王がする大量の執務と結婚、妊婦であるキアーラへの配慮それらもろもろを急に一人でこなすなど、無理というものだ。
それに、妊娠中のキアーラを心配して、離れられないというならば仕方がない。
キアーラも慣れない王宮で、結婚、妊娠といっぺんに降りかかり、戸惑っているのだろう。
二人の自業自得だと突き放していたけれど、巻き込まれた家臣や執務が滞ったことで民達まで問題が広がっていくのは、僕としても気がかりだ。
仕方ないので、内々で手を回して、執務を代わりに行うことにする。
王位継承権がないのに、お人好しにも大量の執務を肩代わりするなんて、僕もどうかしている。
でも、それでいい。
結局僕は何もなせなかった王子なのだから。
次期後継者を産みだそうとしている二人には、むしろ感謝の念しか湧かない。
もし、自分がキアーラと結婚していたなら、キアーラを不幸にしていたのは、目に見えている。
浮気はしなくとも、愛はない。
そんなつまらない男なのだから。
それに、この先だって、政略結婚なんてしたくないし、きっと僕は後継者を得ることができないだろう。
僕にとって、気持ちが動くのはオーレリアのことだけ。
もういいかげん、どうなのだと思うぐらいのしつこさだ。
でもこれが、僕の嘘偽りない本心だった。
「ライナート様、報告書が上がっています。」
「ああ、ありがとう。」
女々しいとわかっているけれど、オーレリアの追跡だけはやめられなかった。
今は南の街に移り住んでいて、夜の飲食店の調理を担当しており、食事のおいしさも手伝って、とても繁盛している。
一方で、夫婦仲はいいものの、オーレリアの夫は毎夜飲み歩いている。
しかし、男と飲むばかりで、女性の影はなく、ただ単に遊び好きのようだ。
報告書には以上のことが記されていた。
僕が諦めた君が、遊び好きの夫を献身的に支えているとは。
でも、君ならわかる気がする。
君ならそうするだろう。
僕達が一緒の時だって、僕を支えるばっかりで、代償を求めたり、何かを要求することは一切なかったんだから。
きっと夫にも僕にしてくれたように尽くしているのだろう。
こんな報告書を読み続けるのは、苦しさが増すだけだとわかっている。
それでも、君は僕の知っている君そのもので、このような報告書を見ても、やめようと思えない自分がむしろおかしくなってくる。
でも、リア。
僕は君に、夫に大切にしてもらってほしいと願うんだ。
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