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20.洞窟のある場所で
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失意の中のユリウスは、時々森の洞窟に来ていた。
時々でいいから一人になりたいのと、落ち込み続ける自分が王宮にいると、家臣達も気を使い、明るく振る舞うことができないだろうという配慮もあってのことだった。
一人と言っても完全な一人ではなく、護衛が陰で身を潜めているのは知っていたが、遠慮なく沈んでいれるのは気が楽だった。
その時、草原の向こうに人気を感じる。
ユリウスは剣に手をかけながら、洞窟を出て、草の陰に身を潜める。
すると、若い女性が迷わず水場に向かい、水を飲んでいる。
もしかしたら?
振り返った女性はセシーリアだった。
ユリウスは走り出した。
「セシーリア」
そう言って抱きつくと、驚いた顔のセシーリアが僕を見る。
「ユリウス。」
「セシーリア、やっぱりここに来ると思ってたよ。
でも、諦めないといけないかと悩むぐらいに遅いよ。」
セシーリアを抱きしめたまま、話す。
「あぁ、ごめんね。
今回は全部歩きだし、前回滑り降りた崖は足をくじくから、遠回りをしたし、何よりワンピースなのよ。
騎士服だったら、どんなに動きやすかったか。」
のんきにセシーリアはワンピースの裾をヒラヒラさせて、話している。
「ねぇ、ユリウス、聞いてる?」
ユリウスは、顔を覗こうとするセシーリアから、彼女の背中に顔をつけることで、見えないようにする。
涙が溢れて、顔がぐちゃぐちゃだった。
「うん、聞いてる。」
「歩いて疲れたから、座らせて。」
そう言って地面に座ろうとするセシーリアを座って膝に乗せ、抱きしめる。
「ねぇ、ユリウス、私、この短剣だけで、もう何日も旅して来たの。
すごくない?
一人で生きれるようになったの私。」
「すごいよ。
それでこそ、僕のセシーリアだよ。」
「ふふ、ありがとう。
ユリウスのおかげよ。
ところで、ユリウス、まさかだけど、もう新しい婚約者がいるとか言わないわよね。
それだけが心配だったの。
連絡したら、バーンハルトにバレて、マイルズ国に逆戻りとか嫌だから、連絡できなくて。」
「セシーリア、そんなはずないよ。
僕は君だけを変わらず愛してる。
君を守りきれずに、ごめん。
一緒にメインデルトに帰ろう。」
「うん。」
二人は見つめ合うと、いつだって笑顔になる。
僕はセシーリアがいればいつだって、幸せになる。
セシーリアはバーンハルトのところから、自分の力で抜け出して来た。
それはユリウスが愛するセシーリアの生き方そのものだ。
僕はそんなセシーリアと一生共にいたい。
ユリウスはセシーリアを抱き上げると、そのまま軍馬にまたがり、メインデルト王国に向かって走り出した。
その後、失意のメインデルト王国のユリウス王は、フェルミノ王国のイーサン王子の遠縁の者であるセシルと呼ばれる女性を、王妃に迎えたと言われている。
彼女は亡きセシーリアの面影があり、ユリウスはセシーと彼女を呼び、一生涯、彼女を愛したそうだ。
だか、国交を断絶しているバーンハルトはその女性はおろか、ユリウスにも会うことはなく、一生を終える。
「セシー、アンジェはまだ6歳なのに、自分用の短剣がほしいって言うんだよ。
間違えて指を切ったりしないか、心配だよ。」
ユリウスはその女性を抱きしめながら、困った顔で見つめる。
「あら、だったら、ユリウスと一緒の時だけ使うことにして、庭園でお花を切ることから教えたら?」
完
時々でいいから一人になりたいのと、落ち込み続ける自分が王宮にいると、家臣達も気を使い、明るく振る舞うことができないだろうという配慮もあってのことだった。
一人と言っても完全な一人ではなく、護衛が陰で身を潜めているのは知っていたが、遠慮なく沈んでいれるのは気が楽だった。
その時、草原の向こうに人気を感じる。
ユリウスは剣に手をかけながら、洞窟を出て、草の陰に身を潜める。
すると、若い女性が迷わず水場に向かい、水を飲んでいる。
もしかしたら?
振り返った女性はセシーリアだった。
ユリウスは走り出した。
「セシーリア」
そう言って抱きつくと、驚いた顔のセシーリアが僕を見る。
「ユリウス。」
「セシーリア、やっぱりここに来ると思ってたよ。
でも、諦めないといけないかと悩むぐらいに遅いよ。」
セシーリアを抱きしめたまま、話す。
「あぁ、ごめんね。
今回は全部歩きだし、前回滑り降りた崖は足をくじくから、遠回りをしたし、何よりワンピースなのよ。
騎士服だったら、どんなに動きやすかったか。」
のんきにセシーリアはワンピースの裾をヒラヒラさせて、話している。
「ねぇ、ユリウス、聞いてる?」
ユリウスは、顔を覗こうとするセシーリアから、彼女の背中に顔をつけることで、見えないようにする。
涙が溢れて、顔がぐちゃぐちゃだった。
「うん、聞いてる。」
「歩いて疲れたから、座らせて。」
そう言って地面に座ろうとするセシーリアを座って膝に乗せ、抱きしめる。
「ねぇ、ユリウス、私、この短剣だけで、もう何日も旅して来たの。
すごくない?
一人で生きれるようになったの私。」
「すごいよ。
それでこそ、僕のセシーリアだよ。」
「ふふ、ありがとう。
ユリウスのおかげよ。
ところで、ユリウス、まさかだけど、もう新しい婚約者がいるとか言わないわよね。
それだけが心配だったの。
連絡したら、バーンハルトにバレて、マイルズ国に逆戻りとか嫌だから、連絡できなくて。」
「セシーリア、そんなはずないよ。
僕は君だけを変わらず愛してる。
君を守りきれずに、ごめん。
一緒にメインデルトに帰ろう。」
「うん。」
二人は見つめ合うと、いつだって笑顔になる。
僕はセシーリアがいればいつだって、幸せになる。
セシーリアはバーンハルトのところから、自分の力で抜け出して来た。
それはユリウスが愛するセシーリアの生き方そのものだ。
僕はそんなセシーリアと一生共にいたい。
ユリウスはセシーリアを抱き上げると、そのまま軍馬にまたがり、メインデルト王国に向かって走り出した。
その後、失意のメインデルト王国のユリウス王は、フェルミノ王国のイーサン王子の遠縁の者であるセシルと呼ばれる女性を、王妃に迎えたと言われている。
彼女は亡きセシーリアの面影があり、ユリウスはセシーと彼女を呼び、一生涯、彼女を愛したそうだ。
だか、国交を断絶しているバーンハルトはその女性はおろか、ユリウスにも会うことはなく、一生を終える。
「セシー、アンジェはまだ6歳なのに、自分用の短剣がほしいって言うんだよ。
間違えて指を切ったりしないか、心配だよ。」
ユリウスはその女性を抱きしめながら、困った顔で見つめる。
「あら、だったら、ユリウスと一緒の時だけ使うことにして、庭園でお花を切ることから教えたら?」
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