離れ離れの婚約者は、もう彼の元には戻らない

月山 歩

文字の大きさ
19 / 20

19.失った人へのそれぞれの思い

しおりを挟む
 バーンハルトは執務を終らせ、寝室へ入る。

 予想以上にあっさりとマイルズ王国とセシーリアを取り戻し、満足していた。 

 セシーリアは以前と違って、従順ではなくなってしまったのが気になるが、その内態度を改めるだろう。

 なにせ、俺達は婚約者なのだから、結婚したらわからせてやる。

 寝る前にもう一度、セシーリアを見ようと部屋に行ってみると、ベッドにいたセシーリアはいなくなり、縄を切った後があった。

「クソッ、あの女、どこに行った?」

 廊下に繋がるドアの前には騎士を配置している。
 だとしたら、考えられるのは、隠し通路か?

 バーンハルトは隠し通路を走って、裏門前へ行く。

 セシーリアに、この隠し通路が知られていたのが仇になった。

 ふと、裏門前の湖に目をやると、手前に手紙とハイヒールがあった。

 急いで手紙を読むと

 ~さようなら、バーンハルト~

 とだけ書いてあった。

 セシーリアはこの湖に飛び込んだのか?
 そんなに俺と結婚したくなかった?

 命を絶つほど?

 逃走用の馬を使った形跡はなく、選択肢は他には考えられなかった。

 せっかく取り戻してやったのに、バカな女だ。

 まぁいい、俺の物に一度取り戻したんだから、奪われたままよりいいさ。

 そう切り替えて、バーンハルトは何食わぬ顔で城へ戻り、セシーリアがメインデルト王国に捕らわれていたため取り戻したが、すでに心が壊れており、自ら湖に飛び込んだと発表して、翌日の結婚式を取りやめた。

 そして、同時にセシーリアを無理やり婚約者にした野蛮なメインデルト王国と、マイルズ王国を勝手に占拠していたフェルミノ王国との国交を取りやめると、一方的に通達した。

 それを聞いたユリウスとフェルミノ王国のイーサンは激怒したが、マイルズ王国に攻め入って、バーンハルトを倒したとしても、セシーリアが戻らないと思うと、復讐するだけになり、士気が湧かなかった。

 一方的な国交断絶も、わざわざ外交したいとも思えないことから、あえてそれを解消しようとせずにそのままにした。




 その後、ユリウスはマイルズ王国に密偵を送り、本当はバーンハルトがセシーリアを隠している可能性はあるか、マイルズ王宮の中を探らせた。

 しかし、かつてセシーリアが使用していた部屋は空になり、地下牢まで探らせても、見つからなかった。

 バーンハルトの周りにもそれらしい女性はおらず、どうやら教会の縁者である新しい令嬢と過ごしているとの噂があり、確認するとセシーリアとは全くの別人だと判明した。

 それを聞いたユリウスの心は、どんどん閉ざされていく。

 言いようのない虚しさが徐々に広がり、何をしても億劫だった。

 ただ、民の為に働くだけの自分に絶望しながらも、かつて自分の国王としての働きを褒めてくれたセシーリアを思い出すと、やめることは出来なかった。

 そうして一週間が過ぎ、もうセシーリアがマイルズ王国にいる可能性はないと判明し、密偵を引きあげた。

 悲しみにくれ、かつてセシーリアと剣の稽古と称して、二人で遊んでいた庭園を眺めてぼうっとしているユリウスを心配したワトスは、ユリウスに休暇を取るように勧める。

 ユリウスは思うのだ。
 セシーリアはいつだって、全力で生きようとしていた。

 だから、王女なのに短剣を欲しがり、一人で生きるすべを知りたがった。

 だとしたら、バーンハルトに連れ戻されたからと言って、本当にセシーリアは自ら命を絶つのだろうか。

 それどころか、僕の好きなセシーリアは生を諦めたりしない女性だと言える。

 もし、生きているとして、向かうとしたらどこだろう?

 セシーリアが生きていると知れたら、マイルズ王国に戻される可能性がある。

 彼女が身を潜めるなら、あの森しかない。

 ユリウスはそう考えに至った。
 直後、いても立ってもいられず、走り出した。

 久しぶりに生きている実感に溢れて。

 しかし、軍馬を駆けてたどり着いたかつての洞窟には、人がいる形跡が全く無かった。

 期待した分、その失望感は計り知れず、ユリウスはしばらく立ち上がることすら出来ずにいた。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

再会の約束の場所に彼は現れなかった

四折 柊
恋愛
 ロジェはジゼルに言った。「ジゼル。三年後にここに来てほしい。僕は君に正式に婚約を申し込みたい」と。平民のロジェは男爵令嬢であるジゼルにプロポーズするために博士号を得たいと考えていた。彼は能力を見込まれ、隣国の研究室に招待されたのだ。  そして三年後、ジゼルは約束の場所でロジェを待った。ところが彼は現れない。代わりにそこに来たのは見知らぬ美しい女性だった。彼女はジゼルに残酷な言葉を放つ。「彼は私と結婚することになりました」とーーーー。(全5話)

婚約者をないがしろにする人はいりません

にいるず
恋愛
 公爵令嬢ナリス・レリフォルは、侯爵子息であるカリロン・サクストンと婚約している。カリロンは社交界でも有名な美男子だ。それに引き換えナリスは平凡でとりえは高い身分だけ。カリロンは、社交界で浮名を流しまくっていたものの今では、唯一の女性を見つけたらしい。子爵令嬢のライザ・フュームだ。  ナリスは今日の王家主催のパーティーで決意した。婚約破棄することを。侯爵家でもないがしろにされ婚約者からも冷たい仕打ちしか受けない。もう我慢できない。今でもカリロンとライザは誰はばかることなくいっしょにいる。そのせいで自分は周りに格好の話題を提供して、今日の陰の主役になってしまったというのに。  そう思っていると、昔からの幼馴染であるこの国の次期国王となるジョイナス王子が、ナリスのもとにやってきた。どうやらダンスを一緒に踊ってくれるようだ。この好奇の視線から助けてくれるらしい。彼には隣国に婚約者がいる。昔は彼と婚約するものだと思っていたのに。

婚約者に「ブス」と言われた私の黒歴史は新しい幸せで塗り替えました

四折 柊
恋愛
 私は十歳の時に天使のように可愛い婚約者に「ブス」と言われ己の価値を知りました。その瞬間の悲しみはまさに黒歴史! 思い出すと叫んで走り出したくなる。でも幸せを手に入れてそれを塗り替えることが出来ました。全四話。

「愛することはない」と言った冷徹公爵様、やり直しの人生は溺愛が重すぎます!~王宮が滅びるのは記憶を隠した旦那様と幸運な息子のせい?~

ソラ
恋愛
王宮の陰湿な包囲網、そして夫であるアリステア公爵の無関心。心身を削り取られたセラフィナは、孤独と絶望の中でその短い一生を終えた。 だが、彼女は知らなかった。 彼女の死を知ったアリステアが、復讐の鬼と化して王宮へ反乱を起こし、彼女を虐げた者たちを血の海に沈めたことを。そして彼もまた、非業の死を遂げたことを。 「……セラフィナ。二度と、君を離さない。この命、何度繰り返してでも」 気がつくと、そこは五年前――結婚三日目の朝。 セラフィナが「今度は期待せずに生きよう」と決意した矢先、飛び込んできたアリステアは泣きながら彼女を抱きしめた。 前世の冷淡さが嘘のように、甘く、重すぎるほどの愛を注いでくるアリステア。 さらに、前世には存在しなかった息子・ノエルまで現れ、セラフィナを苦しめるはずだった敵は、彼女が知らないうちに裏で次々と社会的に抹殺されていく。 アリステアは記憶がないふりをして、狂気的な執着を「優しさ」という仮面で隠し、今度こそ彼女を檻のような幸福の中に閉じ込めようと画策していた。 知っているのは、読者(あなた)だけ。 嘘から始まる、究極のやり直し溺愛ファンタジー! (本作品はAIを活用して構成・執筆しています)

侯爵令嬢とその婚約者のありきたりな日常

四折 柊
恋愛
 素敵な婚約者に相応しくありたいと一生懸命な侯爵令嬢アンネリーゼと、アンネリーゼを溺愛する眉目秀麗な公爵子息ジークハルトのお話です。アンネリーゼが彼に思いを寄せる令嬢を無自覚に撃退?したりしなかったり……の予定です。視点が頻繁に変わります。ちょっとシリアス入りますがハッピーエンドです。全18話。(誤字脱字が多くて申し訳ございません)

二人が一緒にいる理由

四折 柊
恋愛
 キャサリンはヴィクターが好き。だけど私たちは恋人ではない。いわゆる腐れ縁で一緒に過ごしてきた。でもそれも終わる。学園を卒業すればお互いに婚約者を探すことになるから。そうなれば今と同じ気安い関係ではいられなくなるだろう。「それは嫌」キャサリンは勇気を出して想いを告げようと決心した。全4話。

あの、初夜の延期はできますか?

木嶋うめ香
恋愛
「申し訳ないが、延期をお願いできないだろうか。その、いつまでとは今はいえないのだが」 私シュテフイーナ・バウワーは今日ギュスターヴ・エリンケスと結婚し、シュテフイーナ・エリンケスになった。 結婚祝の宴を終え、侍女とメイド達に準備された私は、ベッドの端に座り緊張しつつ夫のギュスターヴが来るのを待っていた。 けれど、夜も更け体が冷え切っても夫は寝室には姿を見せず、明け方朝告げ鶏が鳴く頃に漸く現れたと思ったら、私の前に跪き、彼は泣きそうな顔でそう言ったのだ。 「私と夫婦になるつもりが無いから永久に延期するということですか? それとも何か理由があり延期するだけでしょうか?」  なぜこの人私に求婚したのだろう。  困惑と悲しみを隠し尋ねる。  婚約期間は三ヶ月と短かったが、それでも頻繁に会っていたし、会えない時は手紙や花束が送られてきた。  関係は良好だと感じていたのは、私だけだったのだろうか。 ボツネタ供養の短編です。 十話程度で終わります。

あなたの瞳に私を映してほしい ~この願いは我儘ですか?~

四折 柊
恋愛
 シャルロッテは縁あって好意を寄せていた人と婚約することが出来た。彼に好かれたくて距離を縮めようとするが、彼には好きな人がいるようで思うようにいかない。一緒に出席する夜会で彼はいつもその令嬢を目で追っていることに気付く。「私を見て」その思いが叶わずシャルロッテはとうとう婚約の白紙を望んだ。その後、幼馴染と再会して……。(前半はシリアスですが後半は甘めを目指しています)

処理中です...