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3.元婚約者
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「しぃっ、大きな声を出したらダメだよ。」
静かにシャノンの病室のドアを開けてクロードが姿を現した。
私は驚き、声は出さないようにしながら目を見開く。
「クロード…。」
「シャノン、婚約破棄なんて僕は耐えられないよ。
君が大好きなのに。」
クロードは目を潤ませながら、私に抱きついて悲しそうに呟く。
「クロード…。」
「どうして、君がこんな目に遭うんだ。
僕はシャノンと結婚できるとずっと信じていたのに。
どんなことがあっても君と結婚したいって言っても、両親は君との婚約を破棄したんだ。
僕は君以外を好きにならない。」
涙を浮かべたクロードは、上品な顔を歪めて抱きついたまま、シャノンを離さない。
「ごめんなさい、クロード。
私はこの先どんなに頑張っても、もう普通に歩くことができないの。
夜会でクロードにエスコートされても、多分ゆっくりとしか歩けないし、ダンスなんて絶対に無理なの。
だから、私はもうクロードに相応しくない。」
「そんな、そんな…。」
クロードはとうとう声を上げて、泣き出した。
私は彼に対して本当に申し訳ないと心が痛む。
クロードは何故か幼い頃から私のことが好きで、私を見つけるとパッと笑顔を向ける。
そんな人だった。
私は日々向けられるクロードの好意を嬉しいと思っていたし、また、その思いに応えたいとも思っていた。
でも、こんな形になってしまった。
「ごめんね。
でも、クロード、私のところに来るのは、今日で最後にして。
クロードは、もうリオノーラと婚約したんだから。」
「酷いよ。
もし、シャノンと結婚できないとしても、僕にもう来るなって言わないで。
僕の気持ちは永遠に変わらないよ。」
「わかるけど、いつまでも気持ちを残してはいけないわ。
クロードは、リオノーラと結婚することになるのだから。」
「…。
僕があの時、シャノンに来てもらわないで、迎えに行っていれば、こんなことにならなかった。
そもそも、僕の邸に一緒に住んでいれば…。」
「クロード、落ち着いて。
今更言っても仕方ないわ。」
「僕は…。
僕は…。」
その時、リオノーラが病室に入って来た。
「クロード様、こちらに向かったと伺いましたわ。」
治療院には相応しくない華やかなドレスと強い香水の香りを纏いながら、リオノーラは私達を見下ろした。
「お姉様、今回は大変でしたわね。
命があっただけでも良かったと思わないと。」
「まあ、リオノーラ、お見舞い来てくれたの?」
「ええ、そうですわね。
クロード様、こんなところにいてはダメよ。
辛気臭くて嫌になっちゃうわ。
早く帰りましょ。」
リオノーラはシャノンに抱きついているクロードを強引に引き剥がして、無理矢理連れ帰ろうとする。
「やめろよ。
シャノン、僕は必ず来るからね。」
クロードはリオノーラに腕を引っ張られながらも、私に顔を向けて、必死に訴える。
そして、二人は病室を後にした。
「クロードは大丈夫かしら。
昔から繊細な子なのよ。
心配だわ。」
「シャノン様、すみません、僕のせいで。
クロード卿まで悲しませてしまった…。」
クロードが来てから控えていたテッドが話し始める。
「しょうがないのよ、事故なんだから。
もう、謝るのはおしまい。
二人で運動を頑張りましょう。」
「はい。
それにしても、シャノン様はまるでお姉さんのようですね。」
「クロードは一つ年下だから、どうしても心配してしまうの。
虫が嫌いな大人しい子だったから、みんなの輪に入れなくて、私が虫を払ってあげたりしていたの。
私達早くから婚約していたから」
「そうなんですか。
シャノン様が虫を払うなんて、想像もつきませんが。」
「今は大人だから、そんなことできないわ。
でも、子供の頃は、大丈夫なフリをしてお姉さんを演じていた時があったの。」
「なるほど。」
「だから、今は虫が出たら、テッドの仕事よ。」
「承知しました。」
治療院の前に、高貴な馬車が到着して、まるで王子様のような美しい顔の男性が降りて来て、シャノンの病室に入って行ったと噂になっていた。
その後に、もう一台の馬車が来て、馬車を止める場所が足りないと大騒ぎだった。
二台も馬車が停まる光景など、治療院では滅多に起きないことだった。
カミーユもちらりと噂の男性を見かけたが、助手達が騒ぐのも頷けるほどの繊細な顔立ちの美しい男性だった。
シャノンの知り合いだろうか?
僕は何故か心の中でモヤモヤした気持ちを抱えていた。
その後、シャノンの病室を訪れて、気になったことを聞いてみる。
「先ほど、男性がいらしていたようだが。」
「はい、お騒がせしてすみません。
あの方は私の婚約者だったクロード卿です。」
「だった…。」
「婚約破棄されたんです。
私、もう傷物になってしまったので、彼と結婚はできないんです。」
シャノンは悲しそうに微笑んだ。
「すまない。
傷ついている君に、余計なことを聞いてしまった。」
「いいんですよ。
事実ですし、もう彼はここに来ることもないと思います。」
「そうか…。」
シャノンが優しく話しやすいからと、僕は気になったことを、よく考えもせずについ聞いてしまった自分を恥じた。
僕は医師なのに、シャノンのこととなると、どうしても気になって、踏み込んでしまう。
僕は一体何をしているのだろう。
「ですので、もし今でも彼が婚約者だと間違った噂がここで流れたら、否定していただけると助かります。
先ほどの方は、今は妹の婚約者となったので。」
「…そうですか、わかりました。」
僕は初めてシャノンを診察した時から、彼女がいずれこうした状況に置かれることを予感していたはずなのに、彼女がいつも明るく振る舞っていたから失念していた。
彼女は今、令嬢として、深い苦しみの中を生きている。
僕は改めて、傷ついた彼女を支えると決心するのだった。
静かにシャノンの病室のドアを開けてクロードが姿を現した。
私は驚き、声は出さないようにしながら目を見開く。
「クロード…。」
「シャノン、婚約破棄なんて僕は耐えられないよ。
君が大好きなのに。」
クロードは目を潤ませながら、私に抱きついて悲しそうに呟く。
「クロード…。」
「どうして、君がこんな目に遭うんだ。
僕はシャノンと結婚できるとずっと信じていたのに。
どんなことがあっても君と結婚したいって言っても、両親は君との婚約を破棄したんだ。
僕は君以外を好きにならない。」
涙を浮かべたクロードは、上品な顔を歪めて抱きついたまま、シャノンを離さない。
「ごめんなさい、クロード。
私はこの先どんなに頑張っても、もう普通に歩くことができないの。
夜会でクロードにエスコートされても、多分ゆっくりとしか歩けないし、ダンスなんて絶対に無理なの。
だから、私はもうクロードに相応しくない。」
「そんな、そんな…。」
クロードはとうとう声を上げて、泣き出した。
私は彼に対して本当に申し訳ないと心が痛む。
クロードは何故か幼い頃から私のことが好きで、私を見つけるとパッと笑顔を向ける。
そんな人だった。
私は日々向けられるクロードの好意を嬉しいと思っていたし、また、その思いに応えたいとも思っていた。
でも、こんな形になってしまった。
「ごめんね。
でも、クロード、私のところに来るのは、今日で最後にして。
クロードは、もうリオノーラと婚約したんだから。」
「酷いよ。
もし、シャノンと結婚できないとしても、僕にもう来るなって言わないで。
僕の気持ちは永遠に変わらないよ。」
「わかるけど、いつまでも気持ちを残してはいけないわ。
クロードは、リオノーラと結婚することになるのだから。」
「…。
僕があの時、シャノンに来てもらわないで、迎えに行っていれば、こんなことにならなかった。
そもそも、僕の邸に一緒に住んでいれば…。」
「クロード、落ち着いて。
今更言っても仕方ないわ。」
「僕は…。
僕は…。」
その時、リオノーラが病室に入って来た。
「クロード様、こちらに向かったと伺いましたわ。」
治療院には相応しくない華やかなドレスと強い香水の香りを纏いながら、リオノーラは私達を見下ろした。
「お姉様、今回は大変でしたわね。
命があっただけでも良かったと思わないと。」
「まあ、リオノーラ、お見舞い来てくれたの?」
「ええ、そうですわね。
クロード様、こんなところにいてはダメよ。
辛気臭くて嫌になっちゃうわ。
早く帰りましょ。」
リオノーラはシャノンに抱きついているクロードを強引に引き剥がして、無理矢理連れ帰ろうとする。
「やめろよ。
シャノン、僕は必ず来るからね。」
クロードはリオノーラに腕を引っ張られながらも、私に顔を向けて、必死に訴える。
そして、二人は病室を後にした。
「クロードは大丈夫かしら。
昔から繊細な子なのよ。
心配だわ。」
「シャノン様、すみません、僕のせいで。
クロード卿まで悲しませてしまった…。」
クロードが来てから控えていたテッドが話し始める。
「しょうがないのよ、事故なんだから。
もう、謝るのはおしまい。
二人で運動を頑張りましょう。」
「はい。
それにしても、シャノン様はまるでお姉さんのようですね。」
「クロードは一つ年下だから、どうしても心配してしまうの。
虫が嫌いな大人しい子だったから、みんなの輪に入れなくて、私が虫を払ってあげたりしていたの。
私達早くから婚約していたから」
「そうなんですか。
シャノン様が虫を払うなんて、想像もつきませんが。」
「今は大人だから、そんなことできないわ。
でも、子供の頃は、大丈夫なフリをしてお姉さんを演じていた時があったの。」
「なるほど。」
「だから、今は虫が出たら、テッドの仕事よ。」
「承知しました。」
治療院の前に、高貴な馬車が到着して、まるで王子様のような美しい顔の男性が降りて来て、シャノンの病室に入って行ったと噂になっていた。
その後に、もう一台の馬車が来て、馬車を止める場所が足りないと大騒ぎだった。
二台も馬車が停まる光景など、治療院では滅多に起きないことだった。
カミーユもちらりと噂の男性を見かけたが、助手達が騒ぐのも頷けるほどの繊細な顔立ちの美しい男性だった。
シャノンの知り合いだろうか?
僕は何故か心の中でモヤモヤした気持ちを抱えていた。
その後、シャノンの病室を訪れて、気になったことを聞いてみる。
「先ほど、男性がいらしていたようだが。」
「はい、お騒がせしてすみません。
あの方は私の婚約者だったクロード卿です。」
「だった…。」
「婚約破棄されたんです。
私、もう傷物になってしまったので、彼と結婚はできないんです。」
シャノンは悲しそうに微笑んだ。
「すまない。
傷ついている君に、余計なことを聞いてしまった。」
「いいんですよ。
事実ですし、もう彼はここに来ることもないと思います。」
「そうか…。」
シャノンが優しく話しやすいからと、僕は気になったことを、よく考えもせずについ聞いてしまった自分を恥じた。
僕は医師なのに、シャノンのこととなると、どうしても気になって、踏み込んでしまう。
僕は一体何をしているのだろう。
「ですので、もし今でも彼が婚約者だと間違った噂がここで流れたら、否定していただけると助かります。
先ほどの方は、今は妹の婚約者となったので。」
「…そうですか、わかりました。」
僕は初めてシャノンを診察した時から、彼女がいずれこうした状況に置かれることを予感していたはずなのに、彼女がいつも明るく振る舞っていたから失念していた。
彼女は今、令嬢として、深い苦しみの中を生きている。
僕は改めて、傷ついた彼女を支えると決心するのだった。
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