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5.退院
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更に一年が経った頃には、シャノンは右足を引きづるようにして、杖をついてゆっくりと歩けるようになっていた。
なので、治療院を退院して、邸に戻って来ている。
今日は往診と言う名の二人だけのお茶会にカミーユ先生が訪れ、庭園で二人はお茶を飲んでいる。
「その後、いかがですか?」
「はい、おかげ様で順調です。」
「それは良かった。
シャノンがいなくなってから、あなたとテッドに憧れていた者達が寂しがっていますよ。
僕もその一人です。」
「まあ、カミーユ先生はお上手ですね。」
「僕だけは、本気です。
また、伺ってもいいですか?」
「ええ、カミーユ先生のような立派な方にそう言ってもらえると嬉しいですわ。」
カミーユ先生は、今までそのようなそぶりは一切見せなかった。
本当にそう思ってくれているのかしら?
私はどこまでも、傷物令嬢なのだけれど。
それを一番わかっているのは、カミーユ先生だ。
ならば、それでも構わないと言うことかしら?
私の少し曲がった右足を見ても、嫌悪感を抱かないと言ってくれているのよね。
その思いが嬉しくてたまらない。
どんなに良いといってくれる人が現れても、実際にこの足をみたら、男性から避けられると思っていた。
カミーユ先生ならば、私の足をすでに知っているから、ガッカリされて、「やっぱり君とは無理だ。」と言われないで済む。
いつか結婚相手と引き合わされた時に、その日のうちに足を見せようかと本気で悩んでいた。
だって、散々好意を抱いてから、足が原因で破局したら、胸が痛むから。
結婚前に男性に足を差し出すなんて、はしたないし、恥ずかしいから私もしたくない。
それでも、私には必要と腹をくくるしかないと思っていた。
カミーユ先生となら、私が最大に恐れていたそれをしなくていいなんて。
私にとってカミーユ先生は、最高のお相手だわ。
「では、また伺います。
例えば、観劇にご一緒するのはどうですか?」
「ええ、私は嬉しいのですけれど、お父様が何と言うか。
もし、本当にお誘いいただけるのなら、お父様に相談していただけますか?
こちらでお茶を飲むだけなら、構わないと思いますが…。」
「わかりました。
お父君に相談してみます。」
「はい。
よろしくお願いします。」
「ところで、テッドを見かけませんね?」
いつもシャノンのそばにいるはずのテッドがいないので、カミーユ先生は不思議そうに辺りを見渡した。
「テッドは今、剣術の稽古に出かけていますの。
最近では、私はテッドに支えてもらわなくてもなんとか動けますでしょ。
それで、テッドは父から私の護衛を務めるように言われまして。
私は、誰よりも何かあった時に、逃げるのが遅いので、どこにいても狙われやすいと父に指摘されましてね。
だから、テッドは筋力の次は、武術で、申し訳ないと思うのですけれど、学んでもらっているのです。
また、テッドに負担をかけてしまうと心配していたのですが、思いかけず、テッドは再び生き生きと励んでいるのです。
私の運動を手伝っていた頃以来なんですよ。」
「なるほど。
テッドにとっては、シャノンの役に立てることが生きがいなのでしょう。
どこまでも、テッドらしいですね。」
「はい。
テッドにはずっと支えてもらって、感謝してもしきれません。
今の私は、杖が無くても、ゆっくりならば歩けるので、実は私の杖の中に剣が仕込まれています。
万が一の時は、それを使って、テッドが戦ってくれることになっています。」
「なるほど、オーティス伯爵はあなたを大切に思っているのですね。」
「ええ、ありがたいことに。」
「シャノン、この男性は?」
その時、庭園の向こうから険しい顔をしたクロードが近づいて来た。
「クロード、この方は、私を担当してくださったカミーユ医師よ。」
「そうか、先生か。
誤解して悪かった。」
クロードは安堵の表情を浮かべる。
「クロード、何度も言っているでしょ?
あなたは、私とはもう関わってはいけないのよ。」
「二人きりでないのだからいいでしょ?
僕は挨拶に来ただけだよ。」
クロードは私に抱きつこうとしたが、私は身をよじってその手を振り払った。
「もう、触ってもダメよ。」
「わかっているよ。」
クロードはそう言うと嬉しそうに笑う。
もうクロードったら、全然反省していないのね。
困った人だわ。
そろそろ、リオノーラの方へ気持ちを向けてほしいのに。
「カミーユ先生、まだシャノンに診察は必要ですか?」
「一応定期観察と言うところです。」
「そうですか…。」
「クロード、カミーユ先生に失礼よ。
あなたにはもう、私のことに口出す権利はないのよ。
カミーユ先生、すみません。」
「いえ、お気になさらず。」
私はクロードを睨む。
クロードには困ったものだわ。
もう一年以上経つのに、リオノーラとうまくいってないのかしら?
「ほら、クロードもう行って。」
「わかったよ。」
クロードはそう言うと、渋々去って行った。
「クロード卿はまだあなたのところを訪れるのですね。」
「ええ、そうなんです。」
私はカミーユ先生に申し訳ないと思いながら、微笑んだ。
治療院を後にし、邸に戻った元の令嬢姿のシャノンは、一層輝いていて美しい。
歩く時は、杖を使っているが、引きずっている足はドレスに隠れて、ほとんど目立たない。
医師と言う立場を使って、シャノンを訪れた僕に、クロード卿はきっと警戒しているのだろう。
シャノンを思う者同士、その気持ちは溢れていて、互いに敵対心を抱くものなのだろう。
帰りにシャノンとデートの許可をもらいに、オーティス伯爵を訪ねる。
「失礼します。
今、シャノンのことでお時間いただけますか?」
執務室で仕事をしていたオーティス伯爵は、机から顔を上げた。
「これは、これは、カミーユ先生。
シャノンがお世話になっております。
今日はどういったご用件でしょうか?」
「実は運動の方はほぼ終わりなんです。
それで、これからは僕は、シャノンと結婚を前提としたデートに誘いたいと思っております。」
「それは、先生がシャノンを女性として、お好きだと言うことですか?」
「はい、その通りです。」
「ご存知の通りシャノンは傷を負っています。
ですので、高位の貴族であることは求めませんが、できれば貴族同士の方をと考えております。
先生の身の上は少し聞いておりますが、その覚悟をお持ちだと言うことですか?」
「はい、そのようにしたら、僕を受け入れてくれますか?」
「はい、もちろんです。」
「わかりました。
では、話をして来ます。」
「よろしくお願いします。」
僕はずっと否定していたけれど、シャノンのために父に頭を下げる覚悟をした。
なので、治療院を退院して、邸に戻って来ている。
今日は往診と言う名の二人だけのお茶会にカミーユ先生が訪れ、庭園で二人はお茶を飲んでいる。
「その後、いかがですか?」
「はい、おかげ様で順調です。」
「それは良かった。
シャノンがいなくなってから、あなたとテッドに憧れていた者達が寂しがっていますよ。
僕もその一人です。」
「まあ、カミーユ先生はお上手ですね。」
「僕だけは、本気です。
また、伺ってもいいですか?」
「ええ、カミーユ先生のような立派な方にそう言ってもらえると嬉しいですわ。」
カミーユ先生は、今までそのようなそぶりは一切見せなかった。
本当にそう思ってくれているのかしら?
私はどこまでも、傷物令嬢なのだけれど。
それを一番わかっているのは、カミーユ先生だ。
ならば、それでも構わないと言うことかしら?
私の少し曲がった右足を見ても、嫌悪感を抱かないと言ってくれているのよね。
その思いが嬉しくてたまらない。
どんなに良いといってくれる人が現れても、実際にこの足をみたら、男性から避けられると思っていた。
カミーユ先生ならば、私の足をすでに知っているから、ガッカリされて、「やっぱり君とは無理だ。」と言われないで済む。
いつか結婚相手と引き合わされた時に、その日のうちに足を見せようかと本気で悩んでいた。
だって、散々好意を抱いてから、足が原因で破局したら、胸が痛むから。
結婚前に男性に足を差し出すなんて、はしたないし、恥ずかしいから私もしたくない。
それでも、私には必要と腹をくくるしかないと思っていた。
カミーユ先生となら、私が最大に恐れていたそれをしなくていいなんて。
私にとってカミーユ先生は、最高のお相手だわ。
「では、また伺います。
例えば、観劇にご一緒するのはどうですか?」
「ええ、私は嬉しいのですけれど、お父様が何と言うか。
もし、本当にお誘いいただけるのなら、お父様に相談していただけますか?
こちらでお茶を飲むだけなら、構わないと思いますが…。」
「わかりました。
お父君に相談してみます。」
「はい。
よろしくお願いします。」
「ところで、テッドを見かけませんね?」
いつもシャノンのそばにいるはずのテッドがいないので、カミーユ先生は不思議そうに辺りを見渡した。
「テッドは今、剣術の稽古に出かけていますの。
最近では、私はテッドに支えてもらわなくてもなんとか動けますでしょ。
それで、テッドは父から私の護衛を務めるように言われまして。
私は、誰よりも何かあった時に、逃げるのが遅いので、どこにいても狙われやすいと父に指摘されましてね。
だから、テッドは筋力の次は、武術で、申し訳ないと思うのですけれど、学んでもらっているのです。
また、テッドに負担をかけてしまうと心配していたのですが、思いかけず、テッドは再び生き生きと励んでいるのです。
私の運動を手伝っていた頃以来なんですよ。」
「なるほど。
テッドにとっては、シャノンの役に立てることが生きがいなのでしょう。
どこまでも、テッドらしいですね。」
「はい。
テッドにはずっと支えてもらって、感謝してもしきれません。
今の私は、杖が無くても、ゆっくりならば歩けるので、実は私の杖の中に剣が仕込まれています。
万が一の時は、それを使って、テッドが戦ってくれることになっています。」
「なるほど、オーティス伯爵はあなたを大切に思っているのですね。」
「ええ、ありがたいことに。」
「シャノン、この男性は?」
その時、庭園の向こうから険しい顔をしたクロードが近づいて来た。
「クロード、この方は、私を担当してくださったカミーユ医師よ。」
「そうか、先生か。
誤解して悪かった。」
クロードは安堵の表情を浮かべる。
「クロード、何度も言っているでしょ?
あなたは、私とはもう関わってはいけないのよ。」
「二人きりでないのだからいいでしょ?
僕は挨拶に来ただけだよ。」
クロードは私に抱きつこうとしたが、私は身をよじってその手を振り払った。
「もう、触ってもダメよ。」
「わかっているよ。」
クロードはそう言うと嬉しそうに笑う。
もうクロードったら、全然反省していないのね。
困った人だわ。
そろそろ、リオノーラの方へ気持ちを向けてほしいのに。
「カミーユ先生、まだシャノンに診察は必要ですか?」
「一応定期観察と言うところです。」
「そうですか…。」
「クロード、カミーユ先生に失礼よ。
あなたにはもう、私のことに口出す権利はないのよ。
カミーユ先生、すみません。」
「いえ、お気になさらず。」
私はクロードを睨む。
クロードには困ったものだわ。
もう一年以上経つのに、リオノーラとうまくいってないのかしら?
「ほら、クロードもう行って。」
「わかったよ。」
クロードはそう言うと、渋々去って行った。
「クロード卿はまだあなたのところを訪れるのですね。」
「ええ、そうなんです。」
私はカミーユ先生に申し訳ないと思いながら、微笑んだ。
治療院を後にし、邸に戻った元の令嬢姿のシャノンは、一層輝いていて美しい。
歩く時は、杖を使っているが、引きずっている足はドレスに隠れて、ほとんど目立たない。
医師と言う立場を使って、シャノンを訪れた僕に、クロード卿はきっと警戒しているのだろう。
シャノンを思う者同士、その気持ちは溢れていて、互いに敵対心を抱くものなのだろう。
帰りにシャノンとデートの許可をもらいに、オーティス伯爵を訪ねる。
「失礼します。
今、シャノンのことでお時間いただけますか?」
執務室で仕事をしていたオーティス伯爵は、机から顔を上げた。
「これは、これは、カミーユ先生。
シャノンがお世話になっております。
今日はどういったご用件でしょうか?」
「実は運動の方はほぼ終わりなんです。
それで、これからは僕は、シャノンと結婚を前提としたデートに誘いたいと思っております。」
「それは、先生がシャノンを女性として、お好きだと言うことですか?」
「はい、その通りです。」
「ご存知の通りシャノンは傷を負っています。
ですので、高位の貴族であることは求めませんが、できれば貴族同士の方をと考えております。
先生の身の上は少し聞いておりますが、その覚悟をお持ちだと言うことですか?」
「はい、そのようにしたら、僕を受け入れてくれますか?」
「はい、もちろんです。」
「わかりました。
では、話をして来ます。」
「よろしくお願いします。」
僕はずっと否定していたけれど、シャノンのために父に頭を下げる覚悟をした。
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