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9.長い間
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馬車で着いた先は、ノアナが驚くほど立派な邸だった。
花が咲き誇る庭園の奥に、真っ白なお城のようなお邸がある。
「ここは?」
「僕の邸だよ。」
「えっ、すごいね。」
「まぁ来て。」
オリオンは美しい邸の中を、ノアナをエスコートしながらどんどん進む。
すると、オリオンの帰りを待ち構えていた執事らしき人もついてくる。
オリオンは一つの部屋に入るとシアナを中に引き入れて、人払いしてドアを閉める。
「ここはノアナの部屋だよ。
って言っても、あの当時作った部屋だから、今の君とは趣味が合わないだろうけれど。
ここに人を入れるのは、初めてなんだ。」
その部屋は、パステルカラーで統一されたかわいい少女の部屋だった。
一つ一つの小物類まで、少し前の私の好みそのものだった。
養護院にいた頃の私だったら、泣いて喜んだだろう。
壁には私の少女時代の肖像画が何枚も飾ってある。
養護院にいた頃絵を描いてもらったことはないから、私の絵が何故あるのか不思議だった。
さらに部屋の一角には、山積みになった未開封のギフトボックスがある。
「これはね。
どこかに行って、ふとノアナが好きそうなものを見つけると、思わず買ってしまっていたんだ。
それが、だんだん増えてしまったってわけ。
僕は君を見つけるのに、当初はこんなにかかるとは思ってなかったんだ。
だから次に会ったら渡そうと思って、君へのプレゼントでこの部屋はいっぱいになってしまったんだ。
この部屋は、君と共にいたいと願う僕の思いそのものなんだ。
だけど、どんなに探してもノアナに会うことができないし、生きているのさえわからない状態は続いた。
だから、この部屋をもう何度も無くしてしまおうかと思うことがあったんだ。
それでも部屋を空けたとしても、僕には他にほしいものも、人も思い浮かばなかった。
だからノアナと二度と会えなくても、この部屋は一生このままでいいって思ったんだ。
この部屋にいると、君を思い出せて、癒される自分に気づいたから。」
私のことを思い、寂しそうにこの部屋にいる少年の頃のオリオンが目に浮かんだ。
オリオン、迎えに来ると言う言葉を信じて戻らなくてごめんなさい。
オリオンの思いに胸が苦しくなる。
部屋を見ながら泣き出す私を、オリオンは抱きしめた。
そして、二人はしばらく抱き合ったまま、静かに部屋を眺める。
「驚いたわ。
私をまだ本当に思っていてくれたのね。
この部屋は、時をかけたオリオンの思いが溢れているわ。
私以外の女性がこの部屋を見たら、オリオンに対する好意をあっと言う間に失ってしまうわね。」
そう指摘すると、オリオンはくすりと笑う。
「そうだね。
重症なのは理解しているよ。」
「私もオリオンに伝えたいことがあるの。
ご飯を作ってもいい?」
「ああ、いいけど。
お腹が空いているのなら、料理人に作らせるよ。」
「違うの。
その方とお話していい?
調理場を少しお借りしたいの。
オリオンはここで待っていて。」
「わかった。
執事に案内させるよ。」
オリオンは部屋のドアを開けて、執事を呼んだ。
執事は料理人に会わせるために、ノアナを調理場へ案内する。
オリオンが少しの間ノアナの部屋で待っていると、ノアナが執事と共に部屋に戻って来る。
「ありがとうございます。
そこに置いてください。」
ノアナの指示通りに執事が、テーブルに料理を並べて、二人を残して部屋から出て行く。
ノアナが指示したテーブルの上に並んでいるのは、ただ焼いただけの肉と芋が乗った皿だ。
オリオンにはこれがどうしたのかわからなかったけれど、ノアナに促されて席に着く。
「さあ、温かいうちに食べましょう。」
そう言ってノアナは、バックから瓶を取り出しテーブルに置く。
そして、いつものように、
「今日もみんなでご飯が食べられることを、神に感謝します。」
と言ってから、瓶の中のソースを肉と芋にかけた。
「どうぞ。
食べてみて。
本当はこれをお試し用にして、王都で食堂と契約できないか、お店をまわるつもりだったの。
私とカリーヌは、このソースを売る商売をしているのよ。」
オリオンは、ソースがかかった肉を一口食べてみる。
するとそれは自分が昔、食べたくて養護院で作っていたソースの味だった。
懐かしさに眼が潤む。
「どうしてこれを?」
「ほしいお菓子があったから、以前バザーでやったようにソースを売って、お金を作ろうと考えたの。
マーシャの畑で取れるものを元にして、作ったのがこのソースだったの。
それからずっとこのソースを売り続けているわ。
さっき私は、今でもオリオンが中心にいるって話したでしょ。
こう言うことなの。」
オリオンは久しぶりの美味しいソースの味に、どんどん心が温まっていくのを感じた。
「僕はこの味が大好きなんだ。
ノアナ、君が今でも僕を忘れずに思ってくれているなんて、とても嬉しいよ。
僕はノアナを愛している。
今までもこれからもずっと。
だからノアナ、結婚してほしい。
僕はどんなに時が流れたとしても、この思いはなくならないとわかっているんだ。
離れている間に痛いほど思い知ったよ。
僕は君以外を好きにならないし、君のこと以外には興味も湧かない。
君だけが僕の気持ちを奮い立たせるし、癒やしをくれる。」
「ええ、私も同じ気持ちよ。
離れていると、オリオンのことを思い出して切ないの。
一緒にいたらこんなに心が満たされるのね。
私もオリオンが好きなの。
どれほど長い間会えなくても。」
二人はお互いの思いを知ると、嬉しくてどちらからともなく再び抱きしめ合った。
ノアナはオリオンのことをずっと好きだったから、他に好きな人もできず、長い間ずっと一人きりだった。
オリオンと再び出会ってからも、オリオンの立場を思いやって遠慮してしまい、なかなか思いを打ち明けれなかった。
なのに隠れていた二人の愛の重さは、信じられないぐらいに重くて、温かい。
それを、この部屋もソースも表している。
身分差があっても、この変わらぬ思いがある二人なら乗り越えられる。
そう思った。
花が咲き誇る庭園の奥に、真っ白なお城のようなお邸がある。
「ここは?」
「僕の邸だよ。」
「えっ、すごいね。」
「まぁ来て。」
オリオンは美しい邸の中を、ノアナをエスコートしながらどんどん進む。
すると、オリオンの帰りを待ち構えていた執事らしき人もついてくる。
オリオンは一つの部屋に入るとシアナを中に引き入れて、人払いしてドアを閉める。
「ここはノアナの部屋だよ。
って言っても、あの当時作った部屋だから、今の君とは趣味が合わないだろうけれど。
ここに人を入れるのは、初めてなんだ。」
その部屋は、パステルカラーで統一されたかわいい少女の部屋だった。
一つ一つの小物類まで、少し前の私の好みそのものだった。
養護院にいた頃の私だったら、泣いて喜んだだろう。
壁には私の少女時代の肖像画が何枚も飾ってある。
養護院にいた頃絵を描いてもらったことはないから、私の絵が何故あるのか不思議だった。
さらに部屋の一角には、山積みになった未開封のギフトボックスがある。
「これはね。
どこかに行って、ふとノアナが好きそうなものを見つけると、思わず買ってしまっていたんだ。
それが、だんだん増えてしまったってわけ。
僕は君を見つけるのに、当初はこんなにかかるとは思ってなかったんだ。
だから次に会ったら渡そうと思って、君へのプレゼントでこの部屋はいっぱいになってしまったんだ。
この部屋は、君と共にいたいと願う僕の思いそのものなんだ。
だけど、どんなに探してもノアナに会うことができないし、生きているのさえわからない状態は続いた。
だから、この部屋をもう何度も無くしてしまおうかと思うことがあったんだ。
それでも部屋を空けたとしても、僕には他にほしいものも、人も思い浮かばなかった。
だからノアナと二度と会えなくても、この部屋は一生このままでいいって思ったんだ。
この部屋にいると、君を思い出せて、癒される自分に気づいたから。」
私のことを思い、寂しそうにこの部屋にいる少年の頃のオリオンが目に浮かんだ。
オリオン、迎えに来ると言う言葉を信じて戻らなくてごめんなさい。
オリオンの思いに胸が苦しくなる。
部屋を見ながら泣き出す私を、オリオンは抱きしめた。
そして、二人はしばらく抱き合ったまま、静かに部屋を眺める。
「驚いたわ。
私をまだ本当に思っていてくれたのね。
この部屋は、時をかけたオリオンの思いが溢れているわ。
私以外の女性がこの部屋を見たら、オリオンに対する好意をあっと言う間に失ってしまうわね。」
そう指摘すると、オリオンはくすりと笑う。
「そうだね。
重症なのは理解しているよ。」
「私もオリオンに伝えたいことがあるの。
ご飯を作ってもいい?」
「ああ、いいけど。
お腹が空いているのなら、料理人に作らせるよ。」
「違うの。
その方とお話していい?
調理場を少しお借りしたいの。
オリオンはここで待っていて。」
「わかった。
執事に案内させるよ。」
オリオンは部屋のドアを開けて、執事を呼んだ。
執事は料理人に会わせるために、ノアナを調理場へ案内する。
オリオンが少しの間ノアナの部屋で待っていると、ノアナが執事と共に部屋に戻って来る。
「ありがとうございます。
そこに置いてください。」
ノアナの指示通りに執事が、テーブルに料理を並べて、二人を残して部屋から出て行く。
ノアナが指示したテーブルの上に並んでいるのは、ただ焼いただけの肉と芋が乗った皿だ。
オリオンにはこれがどうしたのかわからなかったけれど、ノアナに促されて席に着く。
「さあ、温かいうちに食べましょう。」
そう言ってノアナは、バックから瓶を取り出しテーブルに置く。
そして、いつものように、
「今日もみんなでご飯が食べられることを、神に感謝します。」
と言ってから、瓶の中のソースを肉と芋にかけた。
「どうぞ。
食べてみて。
本当はこれをお試し用にして、王都で食堂と契約できないか、お店をまわるつもりだったの。
私とカリーヌは、このソースを売る商売をしているのよ。」
オリオンは、ソースがかかった肉を一口食べてみる。
するとそれは自分が昔、食べたくて養護院で作っていたソースの味だった。
懐かしさに眼が潤む。
「どうしてこれを?」
「ほしいお菓子があったから、以前バザーでやったようにソースを売って、お金を作ろうと考えたの。
マーシャの畑で取れるものを元にして、作ったのがこのソースだったの。
それからずっとこのソースを売り続けているわ。
さっき私は、今でもオリオンが中心にいるって話したでしょ。
こう言うことなの。」
オリオンは久しぶりの美味しいソースの味に、どんどん心が温まっていくのを感じた。
「僕はこの味が大好きなんだ。
ノアナ、君が今でも僕を忘れずに思ってくれているなんて、とても嬉しいよ。
僕はノアナを愛している。
今までもこれからもずっと。
だからノアナ、結婚してほしい。
僕はどんなに時が流れたとしても、この思いはなくならないとわかっているんだ。
離れている間に痛いほど思い知ったよ。
僕は君以外を好きにならないし、君のこと以外には興味も湧かない。
君だけが僕の気持ちを奮い立たせるし、癒やしをくれる。」
「ええ、私も同じ気持ちよ。
離れていると、オリオンのことを思い出して切ないの。
一緒にいたらこんなに心が満たされるのね。
私もオリオンが好きなの。
どれほど長い間会えなくても。」
二人はお互いの思いを知ると、嬉しくてどちらからともなく再び抱きしめ合った。
ノアナはオリオンのことをずっと好きだったから、他に好きな人もできず、長い間ずっと一人きりだった。
オリオンと再び出会ってからも、オリオンの立場を思いやって遠慮してしまい、なかなか思いを打ち明けれなかった。
なのに隠れていた二人の愛の重さは、信じられないぐらいに重くて、温かい。
それを、この部屋もソースも表している。
身分差があっても、この変わらぬ思いがある二人なら乗り越えられる。
そう思った。
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