迎えに行ったら、すでに君は行方知れずになっていた

月山 歩

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8.話し合い

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 オリオンが影から聞いた宿に着くと、ちょうどノアナが一人で出て来るところだった。

「ノアナ、何度も申し訳ない。
 もう少し話をしてもらえないだろうか?」

 オリオンは、どうしてもノアナと話をしたくて、真剣な表情で頼み込む。

「…いいわよ。」

 ノアナは少し悩むが、ノアナもオリオンと二人で話したいと思い頷く。

「お子さんは?」

「ああ、先に帰ったわ。
 迎えが来て。

 私はもう少し王都を見てから、帰ろうと思って。」

「そうか。
 どこか行きたいところがあるかい?」

「だったら、養護院に行きたいわ。
 あなたがやっているなら、昔よりずっといいのでしょ?」

「うん、昔よりは良くなったと思う。
 ぜひ見てほしい。」

 二人はヒリス家の馬車に乗り、養護院についた。

 養護院は建物は同じだが、明るい雰囲気に修繕されている。

「まぁ素敵。
 お花がたくさん咲いているわ。
 それに施設もとっても綺麗だわ。」

「僕のものになった後、すぐに変えたからね。

 ここを良くしたら、いつかノアナが来てくれると思っていたよ。」

「ごめんなさい。
 あの後、王都には一切戻って来なかったの。」

「いや、責めている訳じゃないんだ。
 ただ、僕の思いを知ってほしかっただけだよ。

 ごめん、うまく言えない。」

「ううん、いいの。

 ここに戻ったら売られてしまうと思って、時が経っても一切近づこうとしなかったから。

 私はここを離れてから、何度もオリオンに教えてもらったことを使って、生きて来たの。

 オリオンは、私の人生の中心みたいなものなのよ。

 オリオンはこう言っていたとか。
 オリオンならこうするとか。

 だから、オリオンと出会えたことに、とても感謝しているの。」

 ノアナは今でも好きだと言えなくても、オリオンに感謝していることだけは、伝えたいと思っていた。

「僕はこうしたらノアナが喜んでくれるとか、ここの雰囲気はノアナは好きそうとかかな。」

「本当?
 ふふ、私達は離れている間、お互いを思いあうことがあったのね。」

 ノアナは、オリオンも自分を思い出してくれていたことを知って嬉しかった。

 久しぶりに会ったばかりの昨日は、オリオンは高貴な貴族の男性で、もう遠い存在になってしまったと思っていた。

 それでも二人で話してみるとやっぱりオリオンで、自然とリラックスして話せるようになり、ノアナは笑顔になる。

「ああ、いつでも君が僕の中心って言葉がしっくりくる。

 良かったら、またこうして会ってもらえないだろうか?

 それ以上は何も求めないと約束する。

 僕は君と話しているだけで、心が満たされるんだ。」

 オリオンは、ノアナと話せて久しぶりに生きている実感が溢れて来て、もう二度と会えないなんて絶対に嫌だと思い、ノアナを説得しようとする。

 大人になったノアナの笑顔に、切なさが込み上げてくる。

 たとえノアナに愛する夫がいようとも、束の間だけでも僕と会ってほしい。

 そしたら僕は、それを生き甲斐に生きることができる。

「でも、オリオンは貴族だから、私と会ってはいけないと思うのだけど?」

 確かにオリオンとまた会いたい気持ちはあるけれど、今の彼の生活を思えば、また会うことがいいことなのかわからない。

「僕は、たった今から好きなように生きる。

 もうあの時迎えに来てくれた叔父にも、恩返しできたと思うんだ。」

「だったら私はかまわないけれど、オリオンは大丈夫なの?

 幼馴染とは言えこれ以上二人きりで会うのは良くないわ。
 私と会うせいで、あなたの奥様を傷つけたくないの。

 あなたは私と会うことより、守るべきものがあるのではないの?」

「僕は奥様なんていない。
 結婚していないし、婚約者もいない。」

「そうなの?
 それならいいのだけれど。」

「君こそ僕と会ってもかまわないって。
 旦那さんはそのてのことに寛容な人なのかい?

 それとも、実は旦那さんはいなくて、母一人子一人ってことかい?」

 オリオンは自分の気持ちだけで、再び会うように同意させようとしたが、ノアナにとっては負担なのかもしれないと、急に不安になる。

 いくら僕はノアナ好きだとしても、彼女の家族を不幸にしたくはないんだ。

「えっ、何か勘違いしているわ。
 私は結婚していないし、子供もいないわ。」

「じゃあ、昨日の女の子は?」

「ああ、あの子はカリーヌの子よ。
 ピエラって言うのかわいいでしょ。
 私にも懐いてくれるのよ。」

 ノアナは、ピエラの可愛らしさを思い出して微笑む。

「えっ。」

「えっ、何?」

「じゃあ、君は本当に一人なの?」

「まぁ、結婚とかそう言うのはないわ。

 一緒に暮らしているおばあさんはいるけど。
 その人が私達を育ててくれたの。」

「じゃあ、僕にも可能性があるってこと?
 だったら、今すぐに恋人になってほしい。」

「さっきも言ったように、あなたは貴族で、私とは釣り合わないわ。」

 今は久しぶりに会えた懐かしさでそう言っているけれど、一緒になったとしても私とは住む世界が違うから、オリオンはきっと後悔してしまうわ。

 私には貴族の暮らしなど、全くわからないのだから。

 一緒にいるだけで、オリオンが陰口を叩かれてしまう。

 今は気づいていないだけ。

「こっちだってさっきも言ったけれど、この先は僕は自由に生きるよ。

 君が僕の心を疑うのなら、ぜひ君に見せたいものがあるから、一緒に来て。」

「…うん。」

 ノアナが今誰とも結婚していないなら、僕にもチャンスがある。

 だったら僕の思いをわかってもらおう。
もう遠慮なんてしない。

 やっと見つけた君を、僕が逃すと思っているなら、僕の思いを見せてあげる。

 僕はあの頃のように、間違ったりしない。

 二人は再び馬車に乗り、養護院を後にした。








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