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第1章
アレンの過去3 アレンside
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テリア様が入った時に、その男はテリア様の容姿を覚えていたのか、わたしに気付くことなく再び慌てふためいて膝跨いだ。
「その節は、本当に、本当にお見苦しい所を見せて、またあろう事か御身を…誠に、誠に申し訳ございませんでした!まさかお貴族様があの場にいらっしゃるとは…っ」
「ちがう。」
「へ?」
「アレンなの。アレンにあやまって。」
男はわたしの姿に目を瞬かせる。そりゃあ分からないだろう。あのガリガリの見窄らしい子供が、衣食住保証された場所で貴族に仕える為の教育を受けた。
身嗜みも整っている。
男はわたしをジッと見上げて、そして瞳の色を見て思い出したのか、震える声で呟いた。
「まさか、あの時の…。」
「ぇえ。」
「な、なんで…、え?」
それはわたしにも、分からない。貴族の執事や侍女は育ちの良い家から見繕う。だけど男から見た私はただの孤児、物乞いとしか思っていなかっただろう。
上流階級の専属執事は普通身元のしっかりした中流階級から選出されるはずなのに。
つまり男が散々蹴飛ばした相手が上の立場になって現れてしまった。
「す、すみませんでした!
申し訳ありませんでした!!どうか、子供と妻が居るんです!どうか許してください!」
…立場が変わっただけで、こうも変わるのか。
反吐が出る。険しい表情になった私を見て、テリア様が言った。
「アレンもこのひとける! おもいっきり!いっぱい!それでおあいこ!」
ニコニコと無邪気な顔しているけど、わたしにはテリア様が考えている事が全く分からない。物凄くキラキラした目を向けてくるが、返って蹴り辛い。
因みに混血種と人のクオーターのわたしは、並の獣人よりも身体能力が高い。思いっきり蹴ったらこの男は良くて骨折。悪くて死ぬだろう。
まぁ、テリア様には弟とどう言う関係かも言ってないし、聞いてこないから知らないのかもだけど。
「…いえ、もう気が治りました。こんな汚い店にテリアお嬢様が長居する必要はありません。行きましょう。」
「えー。」
(…めちゃくちゃ残念そう。)
名残惜しそうにしているテリアの背中を押して店を出る。
「…なんで、こんな事を?」
「?なんで?」
「こんな…わたしを執事にして…ていうか今のはなんですか?」
「だって、あのときアレン〝たすけて〟って言ってないてた。」
「わたしが?」
「うん、くやしい、やりかえしたい。たすけてって。」
「……。」
「スッキリした?」
「いえ、あんまり…いやまぁ、はい少しは」
そう答えると、テリア様は悪戯をしてやったかのように、ニッと満面の笑みを浮かべた。まるで〝私も〟と言ってるみたいだった。テリア様も、弟の死に憤り、あたり処を探していたのかもしれない。何故かそう思った。
それが正しいとかそうでないとか、どうでも良かった。
でも、『助けて』と言ったわたしの心に気付いて助けてくれる人が居るとは思わなかったから。心から弟の死を悼んでくれる人が自分の他に居ると思っていなかったから。
その時不覚にも泣き出してしまった。テリアお嬢様は急な事で慌てふためいていたっけ。
彼女は今まで会ってきた人間の中で、変わった人で、この先も彼女ほど変わった人は見ないだろう。
それから、わたしはパーティーに連れて行かれるたびに引き抜きをしたいと言う話を幾つかいただいたが、お嬢様のいる子爵家の執事をやめる事は無かった。
いつか、お嬢様が〝助けて〟と言ったとき。
どんな事でも助けようと誓いを立てて居るのは、此処だけの話。
「その節は、本当に、本当にお見苦しい所を見せて、またあろう事か御身を…誠に、誠に申し訳ございませんでした!まさかお貴族様があの場にいらっしゃるとは…っ」
「ちがう。」
「へ?」
「アレンなの。アレンにあやまって。」
男はわたしの姿に目を瞬かせる。そりゃあ分からないだろう。あのガリガリの見窄らしい子供が、衣食住保証された場所で貴族に仕える為の教育を受けた。
身嗜みも整っている。
男はわたしをジッと見上げて、そして瞳の色を見て思い出したのか、震える声で呟いた。
「まさか、あの時の…。」
「ぇえ。」
「な、なんで…、え?」
それはわたしにも、分からない。貴族の執事や侍女は育ちの良い家から見繕う。だけど男から見た私はただの孤児、物乞いとしか思っていなかっただろう。
上流階級の専属執事は普通身元のしっかりした中流階級から選出されるはずなのに。
つまり男が散々蹴飛ばした相手が上の立場になって現れてしまった。
「す、すみませんでした!
申し訳ありませんでした!!どうか、子供と妻が居るんです!どうか許してください!」
…立場が変わっただけで、こうも変わるのか。
反吐が出る。険しい表情になった私を見て、テリア様が言った。
「アレンもこのひとける! おもいっきり!いっぱい!それでおあいこ!」
ニコニコと無邪気な顔しているけど、わたしにはテリア様が考えている事が全く分からない。物凄くキラキラした目を向けてくるが、返って蹴り辛い。
因みに混血種と人のクオーターのわたしは、並の獣人よりも身体能力が高い。思いっきり蹴ったらこの男は良くて骨折。悪くて死ぬだろう。
まぁ、テリア様には弟とどう言う関係かも言ってないし、聞いてこないから知らないのかもだけど。
「…いえ、もう気が治りました。こんな汚い店にテリアお嬢様が長居する必要はありません。行きましょう。」
「えー。」
(…めちゃくちゃ残念そう。)
名残惜しそうにしているテリアの背中を押して店を出る。
「…なんで、こんな事を?」
「?なんで?」
「こんな…わたしを執事にして…ていうか今のはなんですか?」
「だって、あのときアレン〝たすけて〟って言ってないてた。」
「わたしが?」
「うん、くやしい、やりかえしたい。たすけてって。」
「……。」
「スッキリした?」
「いえ、あんまり…いやまぁ、はい少しは」
そう答えると、テリア様は悪戯をしてやったかのように、ニッと満面の笑みを浮かべた。まるで〝私も〟と言ってるみたいだった。テリア様も、弟の死に憤り、あたり処を探していたのかもしれない。何故かそう思った。
それが正しいとかそうでないとか、どうでも良かった。
でも、『助けて』と言ったわたしの心に気付いて助けてくれる人が居るとは思わなかったから。心から弟の死を悼んでくれる人が自分の他に居ると思っていなかったから。
その時不覚にも泣き出してしまった。テリアお嬢様は急な事で慌てふためいていたっけ。
彼女は今まで会ってきた人間の中で、変わった人で、この先も彼女ほど変わった人は見ないだろう。
それから、わたしはパーティーに連れて行かれるたびに引き抜きをしたいと言う話を幾つかいただいたが、お嬢様のいる子爵家の執事をやめる事は無かった。
いつか、お嬢様が〝助けて〟と言ったとき。
どんな事でも助けようと誓いを立てて居るのは、此処だけの話。
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