【完結】身代わり皇妃は処刑を逃れたい

マロン株式

文字の大きさ
45 / 127
第1章

アレンの過去2 アレンside

しおりを挟む
 わたしが次に目を覚ました時、弟は治療を受けていた。
 この頃数こそ少ないが、子爵領には獣人が奴隷ではなく民として、普通に存在していた。その獣人達と、人の医者が協力して懸命に世話をしてくれていた。

 その中に、あの小さな少女がいた。
 村まで降りてきて、わたしと弟に良いのではと言う薬草を摘んできたりしていた。

 彼女はテリア・ロナンテス。この子爵領の令嬢だと人伝に聞いた。想像していた上流階級の令嬢と違って、彼女は下層階級に混ざって行動をしている。その家族は顔を見せる様子はないが、家族揃って温厚な方々らしい。

 わたしを拾った時は、親戚のパーティーからテリア様が抜け出していたそうで、だからその場にそぐわないドレスを着ていたのだと判明するのはまた後の事。

 だがやはりどんなに無難な服でも、つぎはぎの無く小綺麗な様は、下層階級の中では光っているように見えた。

 その瞳に宿る黄金色の瞳は、真っ直ぐで。

 だけど、弟は皆の手当ての甲斐もなく、数週間後にこときれた。

 墓の前で座るわたしの後ろで、テリア様が泣いていた。

「何で、見ず知らずの他人である貴方が泣くんですか?」

「そんなの。かなしいからっ。…っ!
だって、だってわたしのいもうとが、しんじゃったらてかんがえっ。ウェェェン!!!
アレンがなかないからぁっ!なんでぇぇぇ。」


  大きな声で年相応に泣いているテリア様を見て、わたしの瞳からも涙が溢れてきた。もうこんなに素直に泣かないと思っていたのに。


 心の中には小さな弟が『お腹すいたよ。お兄ちゃん。』『寒いよ。お兄ちゃん』そう言って、小さい身体を必死にくっつけて、わたしにしがみついていた。

 見るからに獣人である弟を持って、煩わしく無かったと言ったらそれは嘘だ。
 人間のフリをしていた方が、ただの奴隷や乞食だとしても何倍も生きやすい。

 だけど、それでもやっぱり、守りたかったのだ。
 守れるだけの力が欲しいと思った。でもこの世は生まれながらに既に運命が決められていた。
 わたしが弟の為に出来る事は跪いて慈悲を乞う事だけだ。

 この先、ずっと。1人でそう言う世の中で生きて行くのかと絶望した。もう守るものもない。

 何も、ない。


 
 それから3日間。行く宛のないわたしは弟の墓の前で座り続けた。

 この領地の者達は優しくて、皆がチラホラと声を掛けてくれた。食事の心配をしてくれた。

 だけど、もう遅いんだ。
 助けて欲しい時に、欲しい言葉が無くて弟は手遅れになったのだから。
 

「アレン、わたしといもうとのしつじにきまったの。」

 ある夕暮れ時の事、墓の前に座るわたしの横に立ってテリア様が言った。

 正直何を言っているかわからない。

 (しつじって言うのは、執事のことか?いや幻聴か。)

「何かの…ごっこあそびなら…他のものに頼んでください。」

「ここにいるひと、わたしのいえにおかねはらってる。
でもアレンはらってない。」

 そう言われるとぐうの音も出ない。

(…テリア様って、もしかしてかなり頭が良いのか?)

「…働けと。…そうですね。もっともです。分かりました。」

 この時既にわたしには、生きる為に働く気力は残っていなかった。そろそろこの地を去ろう。そして迷惑のかからない所でのたれ死のうとさえ思っていた所だ。

 テリアは首を横にフルフル振って、にこりと笑う。

「めいれいなの!
アレンきょうからわたしのしつじなの!」


 「ん?」

 ボンヤリしていると、テリアの後ろから後の同僚となるユラと言う少女がわたしの腕を捻り上げる勢いで掴んで馬車に放り込んだ。


 それからと言うもの、何ら説明もなく、逆らう気力もないわたしは言われるままに教育を数ヶ月に渡り受けた。


 そして、テリア様はわたしを拾った店先へ連れてきた。

「此処で、何をする気ですか?」

「ふくしゅう!アレン、おこっていい。ここのひとアレンたちをけった。だからアレンもけっていい!」

 
「はい?」




 
しおりを挟む
感想 110

あなたにおすすめの小説

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

見た目の良すぎる双子の兄を持った妹は、引きこもっている理由を不細工だからと勘違いされていましたが、身内にも誤解されていたようです

珠宮さくら
恋愛
ルベロン国の第1王女として生まれたシャルレーヌは、引きこもっていた。 その理由は、見目の良い両親と双子の兄に劣るどころか。他の腹違いの弟妹たちより、不細工な顔をしているからだと噂されていたが、実際のところは全然違っていたのだが、そんな片割れを心配して、外に出そうとした兄は自分を頼ると思っていた。 それが、全く頼らないことになるどころか。自分の方が残念になってしまう結末になるとは思っていなかった。

残念な顔だとバカにされていた私が隣国の王子様に見初められました

月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
公爵令嬢アンジェリカは六歳の誕生日までは天使のように可愛らしい子供だった。ところが突然、ロバのような顔になってしまう。残念な姿に成長した『残念姫』と呼ばれるアンジェリカ。友達は男爵家のウォルターただ一人。そんなある日、隣国から素敵な王子様が留学してきて……

前世の記憶が蘇ったので、身を引いてのんびり過ごすことにします

柚木ゆず
恋愛
 ※明日(3月6日)より、もうひとつのエピローグと番外編の投稿を始めさせていただきます。  我が儘で強引で性格が非常に悪い、筆頭侯爵家の嫡男アルノー。そんな彼を伯爵令嬢エレーヌは『ブレずに力強く引っ張ってくださる自信に満ちた方』と狂信的に愛し、アルノーが自ら選んだ5人の婚約者候補の1人として、アルノーに選んでもらえるよう3年間必死に自分を磨き続けていました。  けれどある日無理がたたり、倒れて後頭部を打ったことで前世の記憶が覚醒。それによって冷静に物事を見られるようになり、ようやくアルノーは滅茶苦茶な人間だと気付いたのでした。 「オレの婚約者候補になれと言ってきて、それを光栄に思えだとか……。倒れたのに心配をしてくださらないどころか、異常が残っていたら候補者から脱落させると言い出すとか……。そんな方に夢中になっていただなんて、私はなんて愚かなのかしら」  そのためエレーヌは即座に、候補者を辞退。その出来事が切っ掛けとなって、エレーヌの人生は明るいものへと変化してゆくことになるのでした。

ご褒美人生~転生した私の溺愛な?日常~

紅子
恋愛
魂の修行を終えた私は、ご褒美に神様から丈夫な身体をもらい最後の転生しました。公爵令嬢に生まれ落ち、素敵な仮婚約者もできました。家族や仮婚約者から溺愛されて、幸せです。ですけど、神様。私、お願いしましたよね?寿命をベッドの上で迎えるような普通の目立たない人生を送りたいと。やりすぎですよ💢神様。 毎週火・金曜日00:00に更新します。→完結済みです。毎日更新に変更します。 R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

ストーカー婚約者でしたが、転生者だったので経歴を身綺麗にしておく

犬野きらり
恋愛
リディア・ガルドニ(14)、本日誕生日で転生者として気付きました。私がつい先程までやっていた行動…それは、自分の婚約者に対して重い愛ではなく、ストーカー行為。 「絶対駄目ーー」 と前世の私が気づかせてくれ、そもそも何故こんな男にこだわっていたのかと目が覚めました。 何の物語かも乙女ゲームの中の人になったのかもわかりませんが、私の黒歴史は証拠隠滅、慰謝料ガッポリ、新たな出会い新たな人生に進みます。 募集 婿入り希望者 対象外は、嫡男、後継者、王族 目指せハッピーエンド(?)!! 全23話で完結です。 この作品を気に留めて下さりありがとうございます。感謝を込めて、その後(直後)2話追加しました。25話になりました。

ブサイク令嬢は、眼鏡を外せば国一番の美女でして。

みこと。
恋愛
伯爵家のひとり娘、アルドンサ・リブレは"人の死期"がわかる。 死が近づいた人間の体が、色あせて見えるからだ。 母に気味悪がれた彼女は、「眼鏡をかけていれば見えない」と主張し、大きな眼鏡を外さなくなった。 無骨な眼鏡で"ブサ令嬢"と蔑まれるアルドンサだが、そんな彼女にも憧れの人がいた。 王女の婚約者、公爵家次男のファビアン公子である。彼に助けられて以降、想いを密かに閉じ込めて、ただ姿が見れるだけで満足していたある日、ファビアンの全身が薄く見え? 「ファビアン様に死期が迫ってる!」 王女に新しい恋人が出来たため、ファビアンとの仲が危ぶまれる昨今。まさか王女に断罪される? それとも失恋を嘆いて命を絶つ? 慌てるアルドンサだったが、さらに彼女の目は、とんでもないものをとらえてしまう──。 不思議な力に悩まされてきた令嬢が、初恋相手と結ばれるハッピーエンドな物語。 幸せな結末を、ぜひご確認ください!! (※本編はヒロイン視点、全5話完結) (※番外編は第6話から、他のキャラ視点でお届けします) ※この作品は「小説家になろう」様でも掲載しています。第6~12話は「なろう」様では『浅はかな王女の末路』、第13~15話『「わたくしは身勝手な第一王女なの」〜ざまぁ後王女の見た景色〜』、第16~17話『氷砂糖の王女様』というタイトルです。

私は既にフラれましたので。

椎茸
恋愛
子爵令嬢ルフェルニア・シラーは、国一番の美貌を持つ幼馴染の公爵令息ユリウス・ミネルウァへの想いを断ち切るため、告白をする。ルフェルニアは、予想どおりフラれると、元来の深く悩まない性格ゆえか、気持ちを切り替えて、仕事と婚活に邁進しようとする。一方、仕事一筋で自身の感情にも恋愛事情にも疎かったユリウスは、ずっと一緒に居てくれたルフェルニアに距離を置かれたことで、感情の蓋が外れてルフェルニアの言動に一喜一憂するように…? ※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。

処理中です...