【完結】身代わり皇妃は処刑を逃れたい

マロン株式

文字の大きさ
54 / 127
第1章

己の足 アリスティナside

しおりを挟む

 いつの間にか私は意識を手放していたようだった。
 気付けば目蓋を閉じていた事で視界は暗闇。
 せっかくワクワクしていたのに、勿体ない。まだまだ冒険の序盤だったと思う。
 今私は何をしているのだろう。そのアレン様が抱えてくれてる?
 いや、この土と草の匂い。地面にうつ伏せに横たわってるみたい。

 あの後みんなに何かあったのかな?
 テリア様は無事に祠を脱出できたのかな?
 
 耳を澄ませるとみんなの呼吸音が聞こえてくるので、胸を撫で下ろした。
 (良かった。皆近くにいる。)

 体勢がうつ伏せなのは苦しいので、目を開けると体勢を整えようとしたその瞬間、身体の違和感に気が付いた。
 腕にいつもより全然力が入る。普段なら腕で身体を起こすまでは出来ない。仰向けになる位だ。
 だけど、いま、私はうつ伏せの状態から腕の力によりその身を起こした。

 そして何より、失っていた筈の足の感覚があるのを感じた。

(いやまさか…そんな。だって。聖水でもそんな…)

 まさかと思うのに、私は試したかった。
 恐る恐る、感覚を動かしてみると先ずは膝が地面について、目を見開いた。
 
「…ー…」

 胸が高鳴るとはこういう事だろう。私は今。こんなにも期待して胸が高鳴るのを抑えられない。

 期待したらダメ、そんな話聞いた事がない。

 聖水を毎日飲んで延命出来るかどうかなのにその上

 だけどもし、奇跡があったなら。


 ドキン…ドキン…

「……っ。」


 先ずは、右足からー…


 ジャリ…

 足で地面を踏む音に、視線を下に向けた。
 理屈ではあり得ないと思っていた。だけど胸の高鳴りはさらに膨らむ。だって地面を踏む感触もするのだ。

 私の右足は今、私の意思で、私が思ったから。今地面を踏んでいる。

 深呼吸する間もなく、焦る心は左足も動かして、私の視界は私の身長分高くなり、その瞬間。

 一陣の風が私の髪とスカートを揺らした。

 ただ唖然とする。
 人が居なくては移動もままならない日々が脳裏をよぎる。出来るだけ身動きせずに。迷惑をかけるから。これ以上嫌われたくないから。

 私は、 私はー…

 
「ご無事でしたか!アリスティ…ナ姫様…」

  横から声をかけてきたユラ様と、後ろにいるアレン様は驚いた顔をして私を見ている。

 
 
「アリスティナ…姫?」


 そして私の後ろから私にいつも奇跡をもたらしてくれた彼女の声がした。

 足を動かして、身体ごと後ろへと振り向いた先には、目を覚まし身を起こしたばかりの体勢で私を見上げて同じく唖然としているテリア様がいる。

「…アリスティナ姫が…自力で立っている?」

  フワフワとした様子で佇むその姿に、テリアはやっと目が覚めて来るようだった。
 

 アリスティナ姫の瞳から、歓喜する感情が抑えられないかの如く、その美しくも愛らしい赤い瞳からすぅっと一筋の涙が伝う。

 それを見た瞬間、テリアの胸にも込み上げるものが抑えきれずに、瞳いっぱいにたまったもので視界が滲む。


 ずっと車椅子に乗っているか、誰かに抱えられてないと姿勢保持も難しいほど足の動かなかったアリスティナ姫が今。
 確かに自らの足で立っていた。
 

 
しおりを挟む
感想 110

あなたにおすすめの小説

見た目の良すぎる双子の兄を持った妹は、引きこもっている理由を不細工だからと勘違いされていましたが、身内にも誤解されていたようです

珠宮さくら
恋愛
ルベロン国の第1王女として生まれたシャルレーヌは、引きこもっていた。 その理由は、見目の良い両親と双子の兄に劣るどころか。他の腹違いの弟妹たちより、不細工な顔をしているからだと噂されていたが、実際のところは全然違っていたのだが、そんな片割れを心配して、外に出そうとした兄は自分を頼ると思っていた。 それが、全く頼らないことになるどころか。自分の方が残念になってしまう結末になるとは思っていなかった。

私は既にフラれましたので。

椎茸
恋愛
子爵令嬢ルフェルニア・シラーは、国一番の美貌を持つ幼馴染の公爵令息ユリウス・ミネルウァへの想いを断ち切るため、告白をする。ルフェルニアは、予想どおりフラれると、元来の深く悩まない性格ゆえか、気持ちを切り替えて、仕事と婚活に邁進しようとする。一方、仕事一筋で自身の感情にも恋愛事情にも疎かったユリウスは、ずっと一緒に居てくれたルフェルニアに距離を置かれたことで、感情の蓋が外れてルフェルニアの言動に一喜一憂するように…? ※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

前世の記憶が蘇ったので、身を引いてのんびり過ごすことにします

柚木ゆず
恋愛
 ※明日(3月6日)より、もうひとつのエピローグと番外編の投稿を始めさせていただきます。  我が儘で強引で性格が非常に悪い、筆頭侯爵家の嫡男アルノー。そんな彼を伯爵令嬢エレーヌは『ブレずに力強く引っ張ってくださる自信に満ちた方』と狂信的に愛し、アルノーが自ら選んだ5人の婚約者候補の1人として、アルノーに選んでもらえるよう3年間必死に自分を磨き続けていました。  けれどある日無理がたたり、倒れて後頭部を打ったことで前世の記憶が覚醒。それによって冷静に物事を見られるようになり、ようやくアルノーは滅茶苦茶な人間だと気付いたのでした。 「オレの婚約者候補になれと言ってきて、それを光栄に思えだとか……。倒れたのに心配をしてくださらないどころか、異常が残っていたら候補者から脱落させると言い出すとか……。そんな方に夢中になっていただなんて、私はなんて愚かなのかしら」  そのためエレーヌは即座に、候補者を辞退。その出来事が切っ掛けとなって、エレーヌの人生は明るいものへと変化してゆくことになるのでした。

私の容姿は中の下だと、婚約者が話していたのを小耳に挟んでしまいました

山田ランチ
恋愛
想い合う二人のすれ違いラブストーリー。 ※以前掲載しておりましたものを、加筆の為再投稿致しました。お読み下さっていた方は重複しますので、ご注意下さいませ。 コレット・ロシニョール 侯爵家令嬢。ジャンの双子の姉。 ジャン・ロシニョール 侯爵家嫡男。コレットの双子の弟。 トリスタン・デュボワ 公爵家嫡男。コレットの婚約者。 クレマン・ルゥセーブル・ジハァーウ、王太子。 シモン・グレンツェ 辺境伯家嫡男。コレットの従兄。 ルネ ロシニョール家の侍女でコレット付き。 シルヴィー・ペレス 子爵令嬢。 〈あらすじ〉  コレットは愛しの婚約者が自分の容姿について話しているのを聞いてしまう。このまま大好きな婚約者のそばにいれば疎まれてしまうと思ったコレットは、親類の領地へ向かう事に。そこで新しい商売を始めたコレットは、知らない間に国の重要人物になってしまう。そしてトリスタンにも女性の影が見え隠れして……。  ジレジレ、すれ違いラブストーリー

残念な顔だとバカにされていた私が隣国の王子様に見初められました

月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
公爵令嬢アンジェリカは六歳の誕生日までは天使のように可愛らしい子供だった。ところが突然、ロバのような顔になってしまう。残念な姿に成長した『残念姫』と呼ばれるアンジェリカ。友達は男爵家のウォルターただ一人。そんなある日、隣国から素敵な王子様が留学してきて……

ストーカー婚約者でしたが、転生者だったので経歴を身綺麗にしておく

犬野きらり
恋愛
リディア・ガルドニ(14)、本日誕生日で転生者として気付きました。私がつい先程までやっていた行動…それは、自分の婚約者に対して重い愛ではなく、ストーカー行為。 「絶対駄目ーー」 と前世の私が気づかせてくれ、そもそも何故こんな男にこだわっていたのかと目が覚めました。 何の物語かも乙女ゲームの中の人になったのかもわかりませんが、私の黒歴史は証拠隠滅、慰謝料ガッポリ、新たな出会い新たな人生に進みます。 募集 婿入り希望者 対象外は、嫡男、後継者、王族 目指せハッピーエンド(?)!! 全23話で完結です。 この作品を気に留めて下さりありがとうございます。感謝を込めて、その後(直後)2話追加しました。25話になりました。

【完結】転生したらラスボスの毒継母でした!

白雨 音
恋愛
妹シャルリーヌに裕福な辺境伯から結婚の打診があったと知り、アマンディーヌはシャルリーヌと入れ替わろうと画策する。 辺境伯からは「息子の為の白い結婚、いずれ解消する」と宣言されるが、アマンディーヌにとっても都合が良かった。「辺境伯の財で派手に遊び暮らせるなんて最高!」義理の息子など放置して遊び歩く気満々だったが、義理の息子に会った瞬間、卒倒した。 夢の中、前世で読んだ小説を思い出し、義理の息子は将来世界を破滅させようとするラスボスで、自分はその一因を作った毒継母だと知った。破滅もだが、何より自分の死の回避の為に、義理の息子を真っ当な人間に育てようと誓ったアマンディーヌの奮闘☆  異世界転生、家族愛、恋愛☆ 短めの長編(全二十一話です) 《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、いいね、ありがとうございます☆ 

処理中です...