【完結】身代わり皇妃は処刑を逃れたい

マロン株式

文字の大きさ
53 / 127
第1章

限られた灯の先に2

しおりを挟む
…ヒタ…ヒタ…ヒタヒタ。

 ゆっくり、でも確実にその足音は近付いている。
 どうにかして板に書いた暗号文を一刻も早く解かなければと古代聖書文字で綴られたそれを、睨みつけら勢いで暗号が書かれた板を眺める。後ろのヒタ…ヒタ…の音が凄く気になるけど、それはうちの執事と侍女に任せた。
 
(ていうか、私が見たところでやっぱ何書いてるかわからない。)

「アリスティナひ…め。」

 アリスティナ姫に解読を手伝ってもらおうと後ろを振り向くと、アレンに抱えられていた筈のアリスティナの身体が宙に浮いて、目を閉じている。
 
「え…と。どういう状況?」

 テリアの声に応えるように、アリスティナの薄く開いた口からアリスティナとは違う声が話しかけてきた。


[古代聖書の文字は古代に生きていた者のための物。
それを犯して此処に入る者は其方達で500年ぶりか。]

 女の声でも、男の声でもない。言えば天から聞こえてくる声のように語りかけてくる。
 
「あ…アリスティナ姫じゃ、無いですよね?貴方は誰ですか?」

 [我の名は太陽神アルテミス。天地を繋ぐ神獣ケミストロフィアに呼ばれて此処へ来た。]


 (知らない名前が2つ出てきた…覚えられるかな…覚えなくちゃだよね多分。)

「ケミストロ?と言うのはどなたでしょうか?」

[其方達を此処まで導いたものだ。ほら、そこに。]


 先程からヒタヒタと足音がしていた暗闇から、蝋燭の灯った場所まで来て、その姿をようやく現した。
 
「にゃお。」

「ね…こ?猫がケミストロフィア?」

 王宮に来た初期から殆ど一緒にいた猫がそうだと言わんばかりに鳴いた。そうか、この猫、名前付けようとしても何時も首を横に振るから付けるの諦めてたけど、本当の名前があったんだね。…ケミストロ…フィア?
 何か呼びにくいから今後も猫で良いか。

[天地の神獣は我の友。友は人間を見つけては何故か此処へ連れてきて願いを叶えさせようとする。500年前も然り、そして今日も。

この娘の命を延命したい…と聞いたが。まことか?]

「そ、そうなんです。その為に聖水を作れるようになりたいのです。」
[…それは何故だ?]
「何故って…私がアリスティナ姫に生きていて欲しいからです。」
[成る程、やはりまた浅慮な人間を連れてきたか。]

 …おかしい。神だと言うのに何かこの太陽神、アレンくらい腹立つかもしれない。でも何とか聖水貰わなきゃだし我慢をしよう。

「そうなんです。もし、試練をクリアできれば聖水が作れると聞いたので…ー。」
「聖水は水神の分野だな。そんなもの我には無関係だ。」
「……。じゃあ、その…貴方様は何用でここに?」
[これだから愚かな人間と話すと疲れるのだ。わざわざ我を呼びつけるのでどんな人間を見つけたかと思えば。察しの悪さは歴代1だな。]

 分からないのは私だけでは無い筈だ。そう反論したいが、堪えているところにアレンが答えた。

「聖なる力を使える聖女候補はこの場でテリア様のみ。神獣がわざわざ神様に引き合わせたと言う事は聖女になれる見込みが充分にある。
しかしテリア様の適性が水神様ではなく、太陽神様なのですね。」
[そうだ。おまえは幾らかマシだな。全く。聖女は知性や品格も必要と人間の世界では言われてるのだろう?大丈夫なのか?]
「本当に…同感です。」

 何か同類同士のアレンと太陽神様で意気投合し始めてる予感がする…。
 王宮帰ったらもう今まで以上に勉強してやる。いつかこいつらに私の底力見せつけてギャフンと言わせてやる。

「わ、私は別に聖女になりたい訳じゃないんです。聖水に関係ない神様の力で聖女になっても全く嬉しくないです!」
[ぁあん?貴様我の力がよりにもよって水神以下と申しておるのか?]

 何か…段々ガラ悪い感じになってる…。アリスティナ姫の姿でそんな言葉遣いしないで頂きたい…。神様相手に言えないけど。

「そういう訳じゃ無くてですね。私の目的はアリスティナ姫の延命に必要な…毎日飲める聖水を作れるようになる事なんです!」
[はん!要するに、この娘を常人のように天寿を全うさせたいという事だろう?]
「そうです!太陽神様は攻撃力特化型と聖女教育で習いましたので…今回の私の願いには答えられないかと。」
[これだから知性のない聖女は嫌なのだ。神の序列は天に近い程上であるとは習わなかったのか?]
「習いました。」
[ならばわかるだろう!我は神の頂点に立つ神の中の神だ!]

   言ってる事が知らない人が聞くとまるで14才前後の子供みたいだ。

 話せば話すほど神様っぽさが抜けていくのに。確かに太陽神様はまさかの神様の頂点なんですよね。本当に世の中何があるか分からないです。

「故に、水神に出来る事が我に出来ぬ筈がないのだ!!」
「でも、聖水は無理じゃないですか。」
[やかましい。結果が勝れば良いだろう。我に力を欲するのならば膝まずけ。]

 この人は本当に神様なのだろうか。独裁政治をしている王みたいな態度だ。
 だけど、確かに神々の序列一位の太陽神様に不可能な事は無い気がしてきた。
 
 テリアは土下座の姿勢をとって、地面に頭を擦り付けた。

「力を貸してください!太陽神様!何でも試練を超えてみせますから、だから…」
[そんな面倒な事はせん。おまえの聖なる力は企画外な事くらい一眼見たらわかる。数千の年月を経てやっと我の力を御せる聖女を見つけたるはケミストロフィアの功績としておこうではないか。]
「え?」



[テリア・ロナンテス 汝、太陽神アルテミスの名に置いて此処に聖女の称号を与える。我は癒し、照らし、浄化せし天地の力をかの者に授けよう。]

 初めて見た神様は、かなりマイペースなお方で、訳も分かっていない最中、アリスティナを中心に皆が目を開けられない程の強い光が放たれ、その光によって視界は白一色になったのに、テリアは目を閉じる事なくただ光の先を見て右手を無意識に伸ばした。

 すると、手の甲に光が吸い込まれて、光の文字が刻まれてゆく。

わが力の偉大さにせいぜい、崇め奉れよ。愚かな人間テリアよ。]
 

 耳元で声がしたかと思うと、まるで自分はやる事やったから天に帰ると言わんばかりに、何かが天に帰っていく気配がした。


 
しおりを挟む
感想 110

あなたにおすすめの小説

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

見た目の良すぎる双子の兄を持った妹は、引きこもっている理由を不細工だからと勘違いされていましたが、身内にも誤解されていたようです

珠宮さくら
恋愛
ルベロン国の第1王女として生まれたシャルレーヌは、引きこもっていた。 その理由は、見目の良い両親と双子の兄に劣るどころか。他の腹違いの弟妹たちより、不細工な顔をしているからだと噂されていたが、実際のところは全然違っていたのだが、そんな片割れを心配して、外に出そうとした兄は自分を頼ると思っていた。 それが、全く頼らないことになるどころか。自分の方が残念になってしまう結末になるとは思っていなかった。

残念な顔だとバカにされていた私が隣国の王子様に見初められました

月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
公爵令嬢アンジェリカは六歳の誕生日までは天使のように可愛らしい子供だった。ところが突然、ロバのような顔になってしまう。残念な姿に成長した『残念姫』と呼ばれるアンジェリカ。友達は男爵家のウォルターただ一人。そんなある日、隣国から素敵な王子様が留学してきて……

前世の記憶が蘇ったので、身を引いてのんびり過ごすことにします

柚木ゆず
恋愛
 ※明日(3月6日)より、もうひとつのエピローグと番外編の投稿を始めさせていただきます。  我が儘で強引で性格が非常に悪い、筆頭侯爵家の嫡男アルノー。そんな彼を伯爵令嬢エレーヌは『ブレずに力強く引っ張ってくださる自信に満ちた方』と狂信的に愛し、アルノーが自ら選んだ5人の婚約者候補の1人として、アルノーに選んでもらえるよう3年間必死に自分を磨き続けていました。  けれどある日無理がたたり、倒れて後頭部を打ったことで前世の記憶が覚醒。それによって冷静に物事を見られるようになり、ようやくアルノーは滅茶苦茶な人間だと気付いたのでした。 「オレの婚約者候補になれと言ってきて、それを光栄に思えだとか……。倒れたのに心配をしてくださらないどころか、異常が残っていたら候補者から脱落させると言い出すとか……。そんな方に夢中になっていただなんて、私はなんて愚かなのかしら」  そのためエレーヌは即座に、候補者を辞退。その出来事が切っ掛けとなって、エレーヌの人生は明るいものへと変化してゆくことになるのでした。

ご褒美人生~転生した私の溺愛な?日常~

紅子
恋愛
魂の修行を終えた私は、ご褒美に神様から丈夫な身体をもらい最後の転生しました。公爵令嬢に生まれ落ち、素敵な仮婚約者もできました。家族や仮婚約者から溺愛されて、幸せです。ですけど、神様。私、お願いしましたよね?寿命をベッドの上で迎えるような普通の目立たない人生を送りたいと。やりすぎですよ💢神様。 毎週火・金曜日00:00に更新します。→完結済みです。毎日更新に変更します。 R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

ストーカー婚約者でしたが、転生者だったので経歴を身綺麗にしておく

犬野きらり
恋愛
リディア・ガルドニ(14)、本日誕生日で転生者として気付きました。私がつい先程までやっていた行動…それは、自分の婚約者に対して重い愛ではなく、ストーカー行為。 「絶対駄目ーー」 と前世の私が気づかせてくれ、そもそも何故こんな男にこだわっていたのかと目が覚めました。 何の物語かも乙女ゲームの中の人になったのかもわかりませんが、私の黒歴史は証拠隠滅、慰謝料ガッポリ、新たな出会い新たな人生に進みます。 募集 婿入り希望者 対象外は、嫡男、後継者、王族 目指せハッピーエンド(?)!! 全23話で完結です。 この作品を気に留めて下さりありがとうございます。感謝を込めて、その後(直後)2話追加しました。25話になりました。

ブサイク令嬢は、眼鏡を外せば国一番の美女でして。

みこと。
恋愛
伯爵家のひとり娘、アルドンサ・リブレは"人の死期"がわかる。 死が近づいた人間の体が、色あせて見えるからだ。 母に気味悪がれた彼女は、「眼鏡をかけていれば見えない」と主張し、大きな眼鏡を外さなくなった。 無骨な眼鏡で"ブサ令嬢"と蔑まれるアルドンサだが、そんな彼女にも憧れの人がいた。 王女の婚約者、公爵家次男のファビアン公子である。彼に助けられて以降、想いを密かに閉じ込めて、ただ姿が見れるだけで満足していたある日、ファビアンの全身が薄く見え? 「ファビアン様に死期が迫ってる!」 王女に新しい恋人が出来たため、ファビアンとの仲が危ぶまれる昨今。まさか王女に断罪される? それとも失恋を嘆いて命を絶つ? 慌てるアルドンサだったが、さらに彼女の目は、とんでもないものをとらえてしまう──。 不思議な力に悩まされてきた令嬢が、初恋相手と結ばれるハッピーエンドな物語。 幸せな結末を、ぜひご確認ください!! (※本編はヒロイン視点、全5話完結) (※番外編は第6話から、他のキャラ視点でお届けします) ※この作品は「小説家になろう」様でも掲載しています。第6~12話は「なろう」様では『浅はかな王女の末路』、第13~15話『「わたくしは身勝手な第一王女なの」〜ざまぁ後王女の見た景色〜』、第16~17話『氷砂糖の王女様』というタイトルです。

私は既にフラれましたので。

椎茸
恋愛
子爵令嬢ルフェルニア・シラーは、国一番の美貌を持つ幼馴染の公爵令息ユリウス・ミネルウァへの想いを断ち切るため、告白をする。ルフェルニアは、予想どおりフラれると、元来の深く悩まない性格ゆえか、気持ちを切り替えて、仕事と婚活に邁進しようとする。一方、仕事一筋で自身の感情にも恋愛事情にも疎かったユリウスは、ずっと一緒に居てくれたルフェルニアに距離を置かれたことで、感情の蓋が外れてルフェルニアの言動に一喜一憂するように…? ※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。

処理中です...