【完結】身代わり皇妃は処刑を逃れたい

マロン株式

文字の大きさ
59 / 127
第1章

アレンは処刑日前に

しおりを挟む
 テリアは先程カルロに聞いたアレン引き抜きの話を、ユラに聞かれないよう、王宮の談話室にアレンを呼び出して問い詰める事にした。 
 
 席に座ると後ろに立つアレンの顔が見れないが、何となく気まずいのでそのままの状態で話す。


「アレン!貴方ねぇ、引き抜きの話あったなら言いなさいよ!」

「引き抜きって、別に異動でしょう。断ったし話す事もないでしょう。」

「全然違うわよ、皇太子付と、皇太子妃付では全っっ然違うけど?」

   妃の実家からただついて来た執事から、後の皇帝陛下が欲しいと言ってるんだから大出世だ。

 しかも将来罪人になるか子爵家に戻る私と、後の皇帝である皇太子ではその後の身の振り方が全く違う。

「言ったところで、さして変わらないでしょう。不都合がある訳でもないですし…」
「そんな事ない。アレン、私やユラに遠慮しないで欲しいのよ。」

  座っていた椅子をくるりと回転させて、後ろにいたアレンに向き直った。
 
「遠慮?」
「…貴方は前世でも忠誠心を示してくれた。私には過ぎたとても優秀な執事だと思っているの。」
「どうしたんですか、急に殊勝な事言って…」
「茶化さないで。
つまりね、私は貴方にもユラにも感謝しているのよ。」
「はぁ…。」
「だから…ー。出世のチャンスを掴んで欲しいの。」

  その場の空気が変わったのが分かった。アレンがテリアの言っている事を理解したからだ。

「正直に言うわ。貴方達の協力は必要としている。だけど、万一に備えて…処刑が回避出来なかった場合に備えていて欲しいの。」

「それは、皇太子側の人間になって探りを入れてテリア様が失敗した時はそのまま皇太子側に居座れと。」
「そうよ。」


  真剣な眼差しで頷いたテリアに、アレンは「はっ」と嘲笑うような声を漏らした。

「いつもそう言った事には疎いのに、急にどうしたと言うのですか?」

「そんな事も言ってられないでしょう。私は貴方達の命も預かっているのだから足りない頭を働かせるわよ。今まで考えて来なかった分。いっぱいね…。」

 前世、私は父と共に、追放され護送されている途中だった。

 妹の公開処刑を護送している兵士達の会話から聞いた。私は夜の闇に紛れて妹の所へ行こうとして、結局連れ戻されそうになった。

 そこにアレンとユラが出てきてアレンが追手を引き受けて、ユラが私を妹のいる王都まで御者から奪った馬を飛ばし、連れて行ってくれた。処刑日に間に合うように。

 アレンは後で追うと言っていた。

 そして 

 私は処刑場で妹の処刑を止めようとして殺された。
 妹は多分私の死後直ぐに処刑された。
 だけど、アレンとユラはどうなったのだろうと、ずっと思っていた。

 時が戻って、私達4人の中でユラと私と妹には前世の記憶があったのに。アレンには無かった。
 てっきりあの処刑場に居なかったせいかとも思ったけれど。何か引っかかっていた。

 結論を言うと、アレンは処刑日前に死んでしまったんじゃないだろうか。

 処刑を待たずに。私が死ぬ前に。
 
 私達一家を主人と定めたばかりに。

 先日祠の光に包まれた時、その事がふと過ぎって、そして確信した。



 アレンは、処刑日前に死んでいたから私達4人の中で1人だけ前世の記憶が無かったのだと。




「今更、何をそんなに怖がっているのか分かりませんが…。」

 椅子の手摺りに両手をついて、アレンは琥珀色の鋭い眼光でテリアを睨む。

「クビにしたいなら、此処で今すぐ死ねと命じれば良いですよ。」

「え…。」

「主人に要らないと言われるくらいなら、仕える身としてはそれしか無いでしょう。」

「いえ、そうじゃなくて、仕える主人を他にも吟味しても良いのではと言っているのよ。
アレンがその辺、器用でないのは知っているけど…。でもね。
貴方も記憶が無いとは言え人生2度目な訳だし、経験を活かした身の振り方をしても良いと思うのよ。
その…保険というか…」

「馬鹿にしてるんですか?」

「……。すみません…」

  項垂れるテリアに、アレンは片手で顔を覆って深いため息をついた。




 



 


しおりを挟む
感想 110

あなたにおすすめの小説

見た目の良すぎる双子の兄を持った妹は、引きこもっている理由を不細工だからと勘違いされていましたが、身内にも誤解されていたようです

珠宮さくら
恋愛
ルベロン国の第1王女として生まれたシャルレーヌは、引きこもっていた。 その理由は、見目の良い両親と双子の兄に劣るどころか。他の腹違いの弟妹たちより、不細工な顔をしているからだと噂されていたが、実際のところは全然違っていたのだが、そんな片割れを心配して、外に出そうとした兄は自分を頼ると思っていた。 それが、全く頼らないことになるどころか。自分の方が残念になってしまう結末になるとは思っていなかった。

私は既にフラれましたので。

椎茸
恋愛
子爵令嬢ルフェルニア・シラーは、国一番の美貌を持つ幼馴染の公爵令息ユリウス・ミネルウァへの想いを断ち切るため、告白をする。ルフェルニアは、予想どおりフラれると、元来の深く悩まない性格ゆえか、気持ちを切り替えて、仕事と婚活に邁進しようとする。一方、仕事一筋で自身の感情にも恋愛事情にも疎かったユリウスは、ずっと一緒に居てくれたルフェルニアに距離を置かれたことで、感情の蓋が外れてルフェルニアの言動に一喜一憂するように…? ※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

前世の記憶が蘇ったので、身を引いてのんびり過ごすことにします

柚木ゆず
恋愛
 ※明日(3月6日)より、もうひとつのエピローグと番外編の投稿を始めさせていただきます。  我が儘で強引で性格が非常に悪い、筆頭侯爵家の嫡男アルノー。そんな彼を伯爵令嬢エレーヌは『ブレずに力強く引っ張ってくださる自信に満ちた方』と狂信的に愛し、アルノーが自ら選んだ5人の婚約者候補の1人として、アルノーに選んでもらえるよう3年間必死に自分を磨き続けていました。  けれどある日無理がたたり、倒れて後頭部を打ったことで前世の記憶が覚醒。それによって冷静に物事を見られるようになり、ようやくアルノーは滅茶苦茶な人間だと気付いたのでした。 「オレの婚約者候補になれと言ってきて、それを光栄に思えだとか……。倒れたのに心配をしてくださらないどころか、異常が残っていたら候補者から脱落させると言い出すとか……。そんな方に夢中になっていただなんて、私はなんて愚かなのかしら」  そのためエレーヌは即座に、候補者を辞退。その出来事が切っ掛けとなって、エレーヌの人生は明るいものへと変化してゆくことになるのでした。

私の容姿は中の下だと、婚約者が話していたのを小耳に挟んでしまいました

山田ランチ
恋愛
想い合う二人のすれ違いラブストーリー。 ※以前掲載しておりましたものを、加筆の為再投稿致しました。お読み下さっていた方は重複しますので、ご注意下さいませ。 コレット・ロシニョール 侯爵家令嬢。ジャンの双子の姉。 ジャン・ロシニョール 侯爵家嫡男。コレットの双子の弟。 トリスタン・デュボワ 公爵家嫡男。コレットの婚約者。 クレマン・ルゥセーブル・ジハァーウ、王太子。 シモン・グレンツェ 辺境伯家嫡男。コレットの従兄。 ルネ ロシニョール家の侍女でコレット付き。 シルヴィー・ペレス 子爵令嬢。 〈あらすじ〉  コレットは愛しの婚約者が自分の容姿について話しているのを聞いてしまう。このまま大好きな婚約者のそばにいれば疎まれてしまうと思ったコレットは、親類の領地へ向かう事に。そこで新しい商売を始めたコレットは、知らない間に国の重要人物になってしまう。そしてトリスタンにも女性の影が見え隠れして……。  ジレジレ、すれ違いラブストーリー

残念な顔だとバカにされていた私が隣国の王子様に見初められました

月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
公爵令嬢アンジェリカは六歳の誕生日までは天使のように可愛らしい子供だった。ところが突然、ロバのような顔になってしまう。残念な姿に成長した『残念姫』と呼ばれるアンジェリカ。友達は男爵家のウォルターただ一人。そんなある日、隣国から素敵な王子様が留学してきて……

ストーカー婚約者でしたが、転生者だったので経歴を身綺麗にしておく

犬野きらり
恋愛
リディア・ガルドニ(14)、本日誕生日で転生者として気付きました。私がつい先程までやっていた行動…それは、自分の婚約者に対して重い愛ではなく、ストーカー行為。 「絶対駄目ーー」 と前世の私が気づかせてくれ、そもそも何故こんな男にこだわっていたのかと目が覚めました。 何の物語かも乙女ゲームの中の人になったのかもわかりませんが、私の黒歴史は証拠隠滅、慰謝料ガッポリ、新たな出会い新たな人生に進みます。 募集 婿入り希望者 対象外は、嫡男、後継者、王族 目指せハッピーエンド(?)!! 全23話で完結です。 この作品を気に留めて下さりありがとうございます。感謝を込めて、その後(直後)2話追加しました。25話になりました。

【完結】転生したらラスボスの毒継母でした!

白雨 音
恋愛
妹シャルリーヌに裕福な辺境伯から結婚の打診があったと知り、アマンディーヌはシャルリーヌと入れ替わろうと画策する。 辺境伯からは「息子の為の白い結婚、いずれ解消する」と宣言されるが、アマンディーヌにとっても都合が良かった。「辺境伯の財で派手に遊び暮らせるなんて最高!」義理の息子など放置して遊び歩く気満々だったが、義理の息子に会った瞬間、卒倒した。 夢の中、前世で読んだ小説を思い出し、義理の息子は将来世界を破滅させようとするラスボスで、自分はその一因を作った毒継母だと知った。破滅もだが、何より自分の死の回避の為に、義理の息子を真っ当な人間に育てようと誓ったアマンディーヌの奮闘☆  異世界転生、家族愛、恋愛☆ 短めの長編(全二十一話です) 《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、いいね、ありがとうございます☆ 

処理中です...