【完結】身代わり皇妃は処刑を逃れたい

マロン株式

文字の大きさ
60 / 127
第1章

ユラはあの日見ていた ユラside

しおりを挟む
 私は、あの日あの時、ただ見ていた。


「テリア様がそんな事を。」

  私の名前はユラ。現在テリア様付きの専属侍女をやっている。
 そして、今の言葉は同僚の執事アレンに投げた言葉だ。

 どうやら先日、アレンは万一の為皇太子様付きになれと言われたらしい。

 いつも、シレッとした顔している同僚が表情を変えずにへこんでいるくらいは分かった。

「あの人が怖気ずくとは…
前世を活かしてって言われてもわたしは全く覚えていないし、妹君のフェリミア様は俺について特段何も言ってなかったですし。」

「ぁあ…フェリミア様は、そうでしょうね。」

  前世…そう、私には前世の記憶がある。
 この執事と、護送されるテリア様達子爵家を乗せた護送車をひたすら追いかけた。

 私達は最初、子爵家で彼等の帰りを待っていた。けれど憲兵に連れて行かれて牢獄に入れられてからは情報は入って来ず。

 やっと入って来た情報は、子爵家の一家は爵位を剥奪されて罪人を罰する地へ追放との事だった。

 それを聞いてすぐに、護送者を追った。アレンの嗅覚と聴力。そして、私の視力と空間把握で。

 見つけた時は夜だった。泣きながら裸足で走っているテリア様に銃を撃ち込み、追いかける輩に私もアレンも容赦はしなかった。

 けれども、予想外に次から次へと兵士達はやってきた。執拗にテリア様を追いかけてくる。
 中には腕の立つ者や、足の速い者もいて厄介だと思った。

 逃げる最中に、フェリミア様の処刑が決まった事をテリア様から聞いた。だから、早く助けに行かなくてはと。

 それを聞いたアレンは、その場に残って足止めをすると、言っていた。


 その前世を、この同僚に言う気は無かったけれど、別の主人にしておけと言われて落ち込んでいるのも気の毒に思えた。

 私とて言われたらへこむだろう。


「…アレンは、テリア様が護送車から逃げた時、追手を1人で片付けると言ってその場に残ったのよ。」

「それだけですよね?何で急に主人変えろって話になるんだか…」

「…ー考えられる事は一つね。」

「?」

「貴方だけ、私達4人の中で記憶がない。何でだと思う?」
「さぁ?神の御加護を信じていないからじゃないですか?」
「私はね、生きていたのよ。あの日。」
「え?」



「フェリミア様の処刑の日。

主人2人が殺されたと言うのに最後まで。生きていたのよ。」



 「ー…。」

 
 処刑日当日に辿り着いてしまった。  フェリミア様は間に合わないと直ぐにわかった。けれど、どうにか出来ないかと考えを巡らせている最中、群衆へ突っ走り始めたテリア様を止められなかった。

 あっという間に群衆に呑まれてゆき、追いかけても人の波に邪魔されて遠ざかり、フェリミア様の処刑を告げる鐘が鳴り、やっと追いつきそうだと手を必死に伸ばした先に、複数人の兵士に首を刺され、胴体を刺され、胸を刺されたテリア様。

 そして、歓声が湧き上がり、呆然と見上げた先には処刑が執行され首を跳ねられたフェリミア様が見えた。


 確かに私はこの目で見た。

 だけど、気を失ったと思って次に目を覚ました時、日付が遡っていた。



「アレン、4人の中で貴方に記憶がないのは、貴方は処刑日前に死んでいたからではないかしら。
だから、それを知ったテリア様が貴方が死ぬこともある事を急に実感して巻き込む事を恐れた。」


「ー…っはぁ。」

    頭をかき上げている同僚を横目に、仕事を進めた。
 
 そうよ、貴方は確かに前世で死ぬと言うしくじりをして、主人の信用を欠いてしまいへこんでいるだろうけど、私よりもマシでしょう?

 私はあの時

 あの2人をただ見ている事しか出来なかった無能だったのだから。
 

 
しおりを挟む
感想 110

あなたにおすすめの小説

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

見た目の良すぎる双子の兄を持った妹は、引きこもっている理由を不細工だからと勘違いされていましたが、身内にも誤解されていたようです

珠宮さくら
恋愛
ルベロン国の第1王女として生まれたシャルレーヌは、引きこもっていた。 その理由は、見目の良い両親と双子の兄に劣るどころか。他の腹違いの弟妹たちより、不細工な顔をしているからだと噂されていたが、実際のところは全然違っていたのだが、そんな片割れを心配して、外に出そうとした兄は自分を頼ると思っていた。 それが、全く頼らないことになるどころか。自分の方が残念になってしまう結末になるとは思っていなかった。

残念な顔だとバカにされていた私が隣国の王子様に見初められました

月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
公爵令嬢アンジェリカは六歳の誕生日までは天使のように可愛らしい子供だった。ところが突然、ロバのような顔になってしまう。残念な姿に成長した『残念姫』と呼ばれるアンジェリカ。友達は男爵家のウォルターただ一人。そんなある日、隣国から素敵な王子様が留学してきて……

前世の記憶が蘇ったので、身を引いてのんびり過ごすことにします

柚木ゆず
恋愛
 ※明日(3月6日)より、もうひとつのエピローグと番外編の投稿を始めさせていただきます。  我が儘で強引で性格が非常に悪い、筆頭侯爵家の嫡男アルノー。そんな彼を伯爵令嬢エレーヌは『ブレずに力強く引っ張ってくださる自信に満ちた方』と狂信的に愛し、アルノーが自ら選んだ5人の婚約者候補の1人として、アルノーに選んでもらえるよう3年間必死に自分を磨き続けていました。  けれどある日無理がたたり、倒れて後頭部を打ったことで前世の記憶が覚醒。それによって冷静に物事を見られるようになり、ようやくアルノーは滅茶苦茶な人間だと気付いたのでした。 「オレの婚約者候補になれと言ってきて、それを光栄に思えだとか……。倒れたのに心配をしてくださらないどころか、異常が残っていたら候補者から脱落させると言い出すとか……。そんな方に夢中になっていただなんて、私はなんて愚かなのかしら」  そのためエレーヌは即座に、候補者を辞退。その出来事が切っ掛けとなって、エレーヌの人生は明るいものへと変化してゆくことになるのでした。

ご褒美人生~転生した私の溺愛な?日常~

紅子
恋愛
魂の修行を終えた私は、ご褒美に神様から丈夫な身体をもらい最後の転生しました。公爵令嬢に生まれ落ち、素敵な仮婚約者もできました。家族や仮婚約者から溺愛されて、幸せです。ですけど、神様。私、お願いしましたよね?寿命をベッドの上で迎えるような普通の目立たない人生を送りたいと。やりすぎですよ💢神様。 毎週火・金曜日00:00に更新します。→完結済みです。毎日更新に変更します。 R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

ストーカー婚約者でしたが、転生者だったので経歴を身綺麗にしておく

犬野きらり
恋愛
リディア・ガルドニ(14)、本日誕生日で転生者として気付きました。私がつい先程までやっていた行動…それは、自分の婚約者に対して重い愛ではなく、ストーカー行為。 「絶対駄目ーー」 と前世の私が気づかせてくれ、そもそも何故こんな男にこだわっていたのかと目が覚めました。 何の物語かも乙女ゲームの中の人になったのかもわかりませんが、私の黒歴史は証拠隠滅、慰謝料ガッポリ、新たな出会い新たな人生に進みます。 募集 婿入り希望者 対象外は、嫡男、後継者、王族 目指せハッピーエンド(?)!! 全23話で完結です。 この作品を気に留めて下さりありがとうございます。感謝を込めて、その後(直後)2話追加しました。25話になりました。

ブサイク令嬢は、眼鏡を外せば国一番の美女でして。

みこと。
恋愛
伯爵家のひとり娘、アルドンサ・リブレは"人の死期"がわかる。 死が近づいた人間の体が、色あせて見えるからだ。 母に気味悪がれた彼女は、「眼鏡をかけていれば見えない」と主張し、大きな眼鏡を外さなくなった。 無骨な眼鏡で"ブサ令嬢"と蔑まれるアルドンサだが、そんな彼女にも憧れの人がいた。 王女の婚約者、公爵家次男のファビアン公子である。彼に助けられて以降、想いを密かに閉じ込めて、ただ姿が見れるだけで満足していたある日、ファビアンの全身が薄く見え? 「ファビアン様に死期が迫ってる!」 王女に新しい恋人が出来たため、ファビアンとの仲が危ぶまれる昨今。まさか王女に断罪される? それとも失恋を嘆いて命を絶つ? 慌てるアルドンサだったが、さらに彼女の目は、とんでもないものをとらえてしまう──。 不思議な力に悩まされてきた令嬢が、初恋相手と結ばれるハッピーエンドな物語。 幸せな結末を、ぜひご確認ください!! (※本編はヒロイン視点、全5話完結) (※番外編は第6話から、他のキャラ視点でお届けします) ※この作品は「小説家になろう」様でも掲載しています。第6~12話は「なろう」様では『浅はかな王女の末路』、第13~15話『「わたくしは身勝手な第一王女なの」〜ざまぁ後王女の見た景色〜』、第16~17話『氷砂糖の王女様』というタイトルです。

私は既にフラれましたので。

椎茸
恋愛
子爵令嬢ルフェルニア・シラーは、国一番の美貌を持つ幼馴染の公爵令息ユリウス・ミネルウァへの想いを断ち切るため、告白をする。ルフェルニアは、予想どおりフラれると、元来の深く悩まない性格ゆえか、気持ちを切り替えて、仕事と婚活に邁進しようとする。一方、仕事一筋で自身の感情にも恋愛事情にも疎かったユリウスは、ずっと一緒に居てくれたルフェルニアに距離を置かれたことで、感情の蓋が外れてルフェルニアの言動に一喜一憂するように…? ※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。

処理中です...