【完結】身代わり皇妃は処刑を逃れたい

マロン株式

文字の大きさ
70 / 127
第1章

帰り道に義弟に会いました

しおりを挟む

 アリスティナと話し終えたあと、瑠璃宮から寄り道せずに、自分の宮へと戻ろうとしたテリアだったが、目の前に現れた存在に足を止めた。

 アレンとユラが間に入る。


「やぁ、義姉様。」


 ユラは目の前の幼子が浮かべる笑顔に、悪寒がした。

 それは、アリスティナの話を聞いてしまったからなのか、この間のことが思い出されるせいか、それとも得体のしれなさを元々感じていたせいか。

 目の前の存在はユラにちぐはぐさを感じて、それが何処か恐ろしいと初めから感じていた。

 返事をしないで、真っ直ぐセリウムを見ているテリアに、セリウムは笑顔のまま言った。

「もしかして、ボクの事が怖いの?」


  可愛らしくコテンっと動かした仕草1つ1つが、ユラにはどうにもゾッとしてしまう。


「はははっ。言葉を発せないくらいに怖いんだね。そうでなくちゃボクもつまらないよ。本当、こんな幼子相手に滑稽に動く人達を見たてたら面白いよね。」


 セリウムは、まるでありの巣を壊して遊んでいる子供のような無邪気さで言った。けれど、先程から黙って聞いていたテリアはポツリと呟く。


「…可哀想な人ですね。セリウム王子は。」

「?」

「赤子が皆に愛でられる容姿で生まれるのは、自分が1番弱い存在である事を知っているからです。
力も心も身体も。皆もそれを分かっていて赤子を面倒見ているのです。

けれど、貴方は頭が良すぎて。恐らく赤子の時から大人顔負けのレベルで何でも見通せてきたのでしょう?」


「……。まぁね。なんだ。馬鹿なだけかと思ったけどわかってたんだ。」


「心も身体も発達しないまま、頭だけは良くて、そんな貴方にこの王宮の環境は悪すぎたのでしょうね。
 
誰かを信用する強い心を持つ前にリスクを理解した。
裏切られる前に裏切り、貶められる前に貶める。その方が、簡単ですもんね。
合理的だと思っているのですよね。
 
自分が可哀想な存在になってしまった事にも気付いていないのでしょう?」

「……。」


  普段ここで黙る事をしないセリウムが…口をつぐんだ事で、周りのメイド達は内心ハラハラしていた。


「聞きましたよね。カルロ皇太子が暗黒龍を討伐するという事を。」

「馬鹿だよね、出来っこないのに。」

「でも貴方は、恐れていたでしょう。

王族の中で唯一、カルロ皇太子が始皇帝と同じ大剣を使えると言う点を。
だから、貴方は貴方の持てる武器でカルロ皇太子を潰そうとした。」

「ー…。へぇ。君、何者なの?」

「ただの元子爵令嬢です。
今の私は頭フル回転してますからね。
貴方は私の逆鱗に触れる行いをしました。絶対赦せません。」


「…何の事か知らないけど、昨日の事? 
結果何もなかったじゃん?」

「人に濡れ衣を着せて…無い罪を償わせる。
この行為についての代償は高くつきますよ。」

「義姉様がボクに何が出来るかな?」

「私じゃありません。
この決着は、皇太子が自らつけるのでしょう。私はそれを。ただ見ています。
だから貴方は皇帝になれません。」



  そう言い残して、テリアはセリウムを避けて自分の宮へと足を進めた。

その後ろ姿を見て、セリウムは小さい手で拳を握り目を細めて呟く。

「暗黒龍を1人で討伐出来ると思ってんのかな…やっぱり馬鹿。」
しおりを挟む
感想 110

あなたにおすすめの小説

見た目の良すぎる双子の兄を持った妹は、引きこもっている理由を不細工だからと勘違いされていましたが、身内にも誤解されていたようです

珠宮さくら
恋愛
ルベロン国の第1王女として生まれたシャルレーヌは、引きこもっていた。 その理由は、見目の良い両親と双子の兄に劣るどころか。他の腹違いの弟妹たちより、不細工な顔をしているからだと噂されていたが、実際のところは全然違っていたのだが、そんな片割れを心配して、外に出そうとした兄は自分を頼ると思っていた。 それが、全く頼らないことになるどころか。自分の方が残念になってしまう結末になるとは思っていなかった。

私は既にフラれましたので。

椎茸
恋愛
子爵令嬢ルフェルニア・シラーは、国一番の美貌を持つ幼馴染の公爵令息ユリウス・ミネルウァへの想いを断ち切るため、告白をする。ルフェルニアは、予想どおりフラれると、元来の深く悩まない性格ゆえか、気持ちを切り替えて、仕事と婚活に邁進しようとする。一方、仕事一筋で自身の感情にも恋愛事情にも疎かったユリウスは、ずっと一緒に居てくれたルフェルニアに距離を置かれたことで、感情の蓋が外れてルフェルニアの言動に一喜一憂するように…? ※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

前世の記憶が蘇ったので、身を引いてのんびり過ごすことにします

柚木ゆず
恋愛
 ※明日(3月6日)より、もうひとつのエピローグと番外編の投稿を始めさせていただきます。  我が儘で強引で性格が非常に悪い、筆頭侯爵家の嫡男アルノー。そんな彼を伯爵令嬢エレーヌは『ブレずに力強く引っ張ってくださる自信に満ちた方』と狂信的に愛し、アルノーが自ら選んだ5人の婚約者候補の1人として、アルノーに選んでもらえるよう3年間必死に自分を磨き続けていました。  けれどある日無理がたたり、倒れて後頭部を打ったことで前世の記憶が覚醒。それによって冷静に物事を見られるようになり、ようやくアルノーは滅茶苦茶な人間だと気付いたのでした。 「オレの婚約者候補になれと言ってきて、それを光栄に思えだとか……。倒れたのに心配をしてくださらないどころか、異常が残っていたら候補者から脱落させると言い出すとか……。そんな方に夢中になっていただなんて、私はなんて愚かなのかしら」  そのためエレーヌは即座に、候補者を辞退。その出来事が切っ掛けとなって、エレーヌの人生は明るいものへと変化してゆくことになるのでした。

私の容姿は中の下だと、婚約者が話していたのを小耳に挟んでしまいました

山田ランチ
恋愛
想い合う二人のすれ違いラブストーリー。 ※以前掲載しておりましたものを、加筆の為再投稿致しました。お読み下さっていた方は重複しますので、ご注意下さいませ。 コレット・ロシニョール 侯爵家令嬢。ジャンの双子の姉。 ジャン・ロシニョール 侯爵家嫡男。コレットの双子の弟。 トリスタン・デュボワ 公爵家嫡男。コレットの婚約者。 クレマン・ルゥセーブル・ジハァーウ、王太子。 シモン・グレンツェ 辺境伯家嫡男。コレットの従兄。 ルネ ロシニョール家の侍女でコレット付き。 シルヴィー・ペレス 子爵令嬢。 〈あらすじ〉  コレットは愛しの婚約者が自分の容姿について話しているのを聞いてしまう。このまま大好きな婚約者のそばにいれば疎まれてしまうと思ったコレットは、親類の領地へ向かう事に。そこで新しい商売を始めたコレットは、知らない間に国の重要人物になってしまう。そしてトリスタンにも女性の影が見え隠れして……。  ジレジレ、すれ違いラブストーリー

残念な顔だとバカにされていた私が隣国の王子様に見初められました

月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
公爵令嬢アンジェリカは六歳の誕生日までは天使のように可愛らしい子供だった。ところが突然、ロバのような顔になってしまう。残念な姿に成長した『残念姫』と呼ばれるアンジェリカ。友達は男爵家のウォルターただ一人。そんなある日、隣国から素敵な王子様が留学してきて……

ストーカー婚約者でしたが、転生者だったので経歴を身綺麗にしておく

犬野きらり
恋愛
リディア・ガルドニ(14)、本日誕生日で転生者として気付きました。私がつい先程までやっていた行動…それは、自分の婚約者に対して重い愛ではなく、ストーカー行為。 「絶対駄目ーー」 と前世の私が気づかせてくれ、そもそも何故こんな男にこだわっていたのかと目が覚めました。 何の物語かも乙女ゲームの中の人になったのかもわかりませんが、私の黒歴史は証拠隠滅、慰謝料ガッポリ、新たな出会い新たな人生に進みます。 募集 婿入り希望者 対象外は、嫡男、後継者、王族 目指せハッピーエンド(?)!! 全23話で完結です。 この作品を気に留めて下さりありがとうございます。感謝を込めて、その後(直後)2話追加しました。25話になりました。

【完結】転生したらラスボスの毒継母でした!

白雨 音
恋愛
妹シャルリーヌに裕福な辺境伯から結婚の打診があったと知り、アマンディーヌはシャルリーヌと入れ替わろうと画策する。 辺境伯からは「息子の為の白い結婚、いずれ解消する」と宣言されるが、アマンディーヌにとっても都合が良かった。「辺境伯の財で派手に遊び暮らせるなんて最高!」義理の息子など放置して遊び歩く気満々だったが、義理の息子に会った瞬間、卒倒した。 夢の中、前世で読んだ小説を思い出し、義理の息子は将来世界を破滅させようとするラスボスで、自分はその一因を作った毒継母だと知った。破滅もだが、何より自分の死の回避の為に、義理の息子を真っ当な人間に育てようと誓ったアマンディーヌの奮闘☆  異世界転生、家族愛、恋愛☆ 短めの長編(全二十一話です) 《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、いいね、ありがとうございます☆ 

処理中です...