80 / 127
第2章
カルロの思惑 カルロside
しおりを挟む「では私めはこれで失礼します。
皇帝陛下、側室の件良くご検討ください。」
執務室から大臣がそう言って速やかに部屋から出て行く。
最近大臣を含めた貴族達の動きが不快で仕方ない。
そわそわしながら側妃にと自分達の娘の釣書を持ってきたり、紹介しようとしてきたりする。
俺の歳もテリアの歳も幾つだと思ってるんだ。側妃を打診するには通常より数年早い。
だけど、奴等が真に狙っているのは其処ではないだろう。
確かに側妃として娶られるならそれも良いが〝あわよくば皇妃に〟と考えているのだ。
既に皇妃としてテリアが居るのもお構いなしに。
それは皆の認識が以下の通りだからだ。
〝前皇妃様がカルロ殿下を皇帝にしないために用意した力無い妃だから、いつ消えてもおかしくない〟
この認識はテリアが来た当初から王宮内にずっと広まっている。俺が撒いた種のような所もあるが。
このまま放って置けばテリアが危険だ。後盾の無い妃は例え側妃だとしても目障りになればいとも簡単に皇帝と会えぬよう手を回されるか、陰謀に巻き込まれて命を落とす。
皇妃となれば尚更、そこに居るだけで奴ら狸には邪魔でしかない。
テリアは自覚していないが、結婚した時と大きく状況がかわったのだ。
警戒すべき対象が変わった。
俺が皇太子である時は、前皇妃や前皇帝、第2王子、その派閥の者が気を付けるべき敵だった。奴等の目に止まらないよう、王宮の片隅で存在を消し、俺に見向きもされないてないと言う位置が生き残る為に適切な場所だった。
そうする事で、当初俺よりも権力を持ち、幅をきかせていた前皇妃や第2王子の興味からは少なくとも除外出来た。
だが、今は違う。今の気にすべき敵…俺の…と言うより、テリアの敵となりうる者は下にいる貴族達だ。
奴等は力を持つ者にしか従わない。力のない者に上に立たれた時には足を掴み引き摺り下ろし自分達が上に立とうとする。
単純明快にして至極不快な奴等。家畜にも劣る存在だ。
俺にとって必要な時にはクソの役にも立たなかったくせに、情勢が変わると掌を返し自分の手塩にかけた娘を献上しようとしてくる。
狸どもが釣書を持ってくる度に、
〝おまえに似たブッサイクな女の顔を一々俺に見せるな吐きそうだ〟と言って、目の前で真っ二つに破いてやろうかと思うくらいだ。
(反吐が出る。反吐が出る。反吐が出る。反吐が出る。貴様らの娘がテリアにとって変われると思っているのか?)
奴らに手を出させない為に、皇帝となる目処が立ったと同時に対策を考えた結果、俺はテリアの住まう宮を自分の居る本殿に移す事にした。
普通皇妃とて、皇帝の居る本殿には住う事は出来ない。どんなに寵愛を受けても別宮を用意される。
それは、2つの配慮によるものだ。
1.側妃達の元へ渡っている事がすぐ分かり、皇妃が虚しい思いをする。本来同じベッドで隣に居る筈の皇帝が居ない事でかなり皇妃の精神が擦り減るらしい。
2.異世界の聖女が来た時、つまり皇后足り得るものが来た時に公平を期すため皇妃は本殿から出なくてはいけなくなる。かなり気まずいのでそれなら最初から別宮の方が当たり障りない。
この2つの理由によるものだが、どちらも妃を別に設ける前提だ。
はっきり言って、俺には必要の無い気遣いだ。
そしてこの決まりを犯してまで、テリアを本殿に住まわせたら、目に見える事実として皆理解するだろう。
皇帝は皇妃を生涯唯一の伴侶とする事を示していると。
こうすれば、テリアの扱いも変わるし、本殿に居るテリアを下手にどうにかしようと考えられない。おいそれと手を出せない。神殿や周りの奴らは暫く煩いだろうが、じゃあおまえら暗黒龍1人で倒してから言えよって…口にしないまでもそう思いながら無視しとけば良い。
そう、俺なりにあいつを守る為に考え行動しようとしているというのに。
「だと言うのに…おい、スピア答えてくれ、何であいつは未だ本殿に住まいを変えようとしない?」
隣にいる俺の護衛兼世話係に問いかけると、明後日の方向を向いて答えた。
「隅っこに居るのが落ち着くそうです。」
「俺は、この間あいつが変な見合い写真を持ってきた時に色々と説明したんだが?」
「はい、わたしも聞いてましたよ。説明してましたね。」
「あいつは理解出来てたよな?」
「そうですね、陛下が理解出来るまで説明された結果、何とか理解してるようでしたね。」
「それが、〝隅っこに居るのが落ち着く〟とかふざけた理由でまだ本殿へ移らないのかあいつは?」
「まぁ、テリア様ですから……。」
「もうこうなったら強行手段で…」
「これからは大切にするのでは無いのですか?初っ端から意思を無視して今後大丈夫ですかね…」
「…ーあーっ!くそ!あいつは今何してるんだよ?」
「貴族のご令嬢達とお茶会です。テリア様なりに皇妃として己の力で努力したいのでは?」
「いや…。多分違う。あいつは俺と離縁する気満々だからな。そんな皇妃活動に前向きな訳がない。
……何考えているかあいつの考えはいつもサッパリわからん。」
半ばやけくそになりながら、そう言って大臣の置いて行った釣書をゴミ箱に突っ込むカルロを見ながら、スピアは少し皇帝が気の毒になってきた。
「それは、何というか…前途多難ですね。」
20
あなたにおすすめの小説
見た目の良すぎる双子の兄を持った妹は、引きこもっている理由を不細工だからと勘違いされていましたが、身内にも誤解されていたようです
珠宮さくら
恋愛
ルベロン国の第1王女として生まれたシャルレーヌは、引きこもっていた。
その理由は、見目の良い両親と双子の兄に劣るどころか。他の腹違いの弟妹たちより、不細工な顔をしているからだと噂されていたが、実際のところは全然違っていたのだが、そんな片割れを心配して、外に出そうとした兄は自分を頼ると思っていた。
それが、全く頼らないことになるどころか。自分の方が残念になってしまう結末になるとは思っていなかった。
私は既にフラれましたので。
椎茸
恋愛
子爵令嬢ルフェルニア・シラーは、国一番の美貌を持つ幼馴染の公爵令息ユリウス・ミネルウァへの想いを断ち切るため、告白をする。ルフェルニアは、予想どおりフラれると、元来の深く悩まない性格ゆえか、気持ちを切り替えて、仕事と婚活に邁進しようとする。一方、仕事一筋で自身の感情にも恋愛事情にも疎かったユリウスは、ずっと一緒に居てくれたルフェルニアに距離を置かれたことで、感情の蓋が外れてルフェルニアの言動に一喜一憂するように…?
※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
前世の記憶が蘇ったので、身を引いてのんびり過ごすことにします
柚木ゆず
恋愛
※明日(3月6日)より、もうひとつのエピローグと番外編の投稿を始めさせていただきます。
我が儘で強引で性格が非常に悪い、筆頭侯爵家の嫡男アルノー。そんな彼を伯爵令嬢エレーヌは『ブレずに力強く引っ張ってくださる自信に満ちた方』と狂信的に愛し、アルノーが自ら選んだ5人の婚約者候補の1人として、アルノーに選んでもらえるよう3年間必死に自分を磨き続けていました。
けれどある日無理がたたり、倒れて後頭部を打ったことで前世の記憶が覚醒。それによって冷静に物事を見られるようになり、ようやくアルノーは滅茶苦茶な人間だと気付いたのでした。
「オレの婚約者候補になれと言ってきて、それを光栄に思えだとか……。倒れたのに心配をしてくださらないどころか、異常が残っていたら候補者から脱落させると言い出すとか……。そんな方に夢中になっていただなんて、私はなんて愚かなのかしら」
そのためエレーヌは即座に、候補者を辞退。その出来事が切っ掛けとなって、エレーヌの人生は明るいものへと変化してゆくことになるのでした。
私の容姿は中の下だと、婚約者が話していたのを小耳に挟んでしまいました
山田ランチ
恋愛
想い合う二人のすれ違いラブストーリー。
※以前掲載しておりましたものを、加筆の為再投稿致しました。お読み下さっていた方は重複しますので、ご注意下さいませ。
コレット・ロシニョール 侯爵家令嬢。ジャンの双子の姉。
ジャン・ロシニョール 侯爵家嫡男。コレットの双子の弟。
トリスタン・デュボワ 公爵家嫡男。コレットの婚約者。
クレマン・ルゥセーブル・ジハァーウ、王太子。
シモン・グレンツェ 辺境伯家嫡男。コレットの従兄。
ルネ ロシニョール家の侍女でコレット付き。
シルヴィー・ペレス 子爵令嬢。
〈あらすじ〉
コレットは愛しの婚約者が自分の容姿について話しているのを聞いてしまう。このまま大好きな婚約者のそばにいれば疎まれてしまうと思ったコレットは、親類の領地へ向かう事に。そこで新しい商売を始めたコレットは、知らない間に国の重要人物になってしまう。そしてトリスタンにも女性の影が見え隠れして……。
ジレジレ、すれ違いラブストーリー
残念な顔だとバカにされていた私が隣国の王子様に見初められました
月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
公爵令嬢アンジェリカは六歳の誕生日までは天使のように可愛らしい子供だった。ところが突然、ロバのような顔になってしまう。残念な姿に成長した『残念姫』と呼ばれるアンジェリカ。友達は男爵家のウォルターただ一人。そんなある日、隣国から素敵な王子様が留学してきて……
ストーカー婚約者でしたが、転生者だったので経歴を身綺麗にしておく
犬野きらり
恋愛
リディア・ガルドニ(14)、本日誕生日で転生者として気付きました。私がつい先程までやっていた行動…それは、自分の婚約者に対して重い愛ではなく、ストーカー行為。
「絶対駄目ーー」
と前世の私が気づかせてくれ、そもそも何故こんな男にこだわっていたのかと目が覚めました。
何の物語かも乙女ゲームの中の人になったのかもわかりませんが、私の黒歴史は証拠隠滅、慰謝料ガッポリ、新たな出会い新たな人生に進みます。
募集 婿入り希望者
対象外は、嫡男、後継者、王族
目指せハッピーエンド(?)!!
全23話で完結です。
この作品を気に留めて下さりありがとうございます。感謝を込めて、その後(直後)2話追加しました。25話になりました。
【完結】転生したらラスボスの毒継母でした!
白雨 音
恋愛
妹シャルリーヌに裕福な辺境伯から結婚の打診があったと知り、アマンディーヌはシャルリーヌと入れ替わろうと画策する。
辺境伯からは「息子の為の白い結婚、いずれ解消する」と宣言されるが、アマンディーヌにとっても都合が良かった。「辺境伯の財で派手に遊び暮らせるなんて最高!」義理の息子など放置して遊び歩く気満々だったが、義理の息子に会った瞬間、卒倒した。
夢の中、前世で読んだ小説を思い出し、義理の息子は将来世界を破滅させようとするラスボスで、自分はその一因を作った毒継母だと知った。破滅もだが、何より自分の死の回避の為に、義理の息子を真っ当な人間に育てようと誓ったアマンディーヌの奮闘☆
異世界転生、家族愛、恋愛☆ 短めの長編(全二十一話です)
《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、いいね、ありがとうございます☆
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる