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反撃の狼煙は上がらない
しおりを挟む先日突然魔王の配下と名乗り現れたこのダークと言う男。魔王の配下と言うことは要するに彼は魔物のはずだ。
魔物がどうやって結界をすり抜けて王都に入れたんだ?
極秘事項とされているが、王都には魔物が入って来れない様、周囲に強力な結界が張られている。
結界が破れたと言う話は聞いていないし、そんな事態があったなら王宮から収集がかかる。
もし、誰にも気付かれないで、魔物達が結界を壊さず入れる術を身につけたとしたなら恐ろしい話だ。
もしも、自分が王都に居ない間、魔物達が王都に攻め入ってこれたならーー…
ーー勇者の脳裏に過ったのは、魔物に荒らされた故郷の光景。
そしてチラリと、横にいるユウフェを見る。
ダメだ、そんな事はさせない。
此処では人通りも多く戦えば甚大な被害が出てしまうかもしれない。だから戦闘を避けたかったが、この男を此処で捕まえて何故結界をすり抜けやってこれたのか理由を吐かせなければ。
でないと後でその数倍の被害を王都にもたらす事になるかもしれない。
勇者が腰につけていた剣の柄に手をかけたその時
小さな声が聞こえてきた。
「ーやはり、このまま 捨て置けませんね」
「ん?」
一触即発かに思われたその場において、1番に動いたのは予想外にも守られるように控えていた少女であった。
場違いな声色で発言し、気合いを入れるように拳を握ったユウフェは、勇者が止める間も無くトコトコとダークの前に進み出て、すっと右手を差し出した。
「初めまして。私は勇者様と婚約させていただいております、ユウフェ・ヴィクレシアと申します。
ダーク様 貴方も勇者様の仲間になりませんか?」
握手を求めているユウフェに先程から浮かべていたダークの黒い笑みは、思いもよらない小娘からの反応に困っているのか、内心フリーズしているようにも見える。まぁそうだろう。先程の状況から勇者の敵である事は明らかで、しかも悪いやつと言うのは伝わっていると思う。
この場で1番最弱と思われていた者からの握手の求めに今、ダークの中では得体の知れない何かに見えて警戒が高まっているのが見て取れる。
勇者は思い出すー…王宮でヴィクレシア公爵が言っていた事を。
『あの子が突拍子もない事をする時は、いつも何か意味を持つのです』
『ですからレイヴン殿、娘が突拍子もない事をした時は信じて見守ってやってください』
ーー成る程…、ヴィクレシア公爵。
やっと貴方の言いたかった事がわかった。
だとしてもーーマジか。
これに口を挟まず見守っているのは正解なのか?ー
現在自分はユウフェの後ろに位置している。しかもこの距離感ではダークがユウフェに何かした時に庇えない。
勇者の脳裏には公爵の嘆き声も脳内で再生された。
『色々、ほんとーに色々!ありましたが…』
何時ぞや、王宮でユウフェの父であるヴィクレシア公爵にかけられた言葉の数々が今、身に沁みてきた勇者であった。
ダークは冷ややかな視線をユウフェに向けて見下ろしている。
この男は厄介な事に人間並の高い知能があり、弱者をいたぶるのが好きな残虐な魔物だ。
そして、今まで出会ったどんな敵よりも強い。
ユウフェは前世でこの世界を知っていると言っていた。ならこの男が何者であるかを知っていても不自然ではない。
だが、それ故の行動だとしても危険すぎる。
やはりいくら見守ったほうが良いと言われていても、今回ばかりは…ー。
勇者が足を踏み出すまえに、ユウフェは尚もダークに語りかける。
「ダーク様。貴方の目的は勇者様と共にいれば必ず達成出来ます。
現時点で既に、魔王の手下でいる必要はないんです。」
ユウフェの言葉の中に含まれたものに、その場の空気は急激に変わりダークの瞳には紛う事なき殺気が宿る。
「…、君。見た目の割に如何も不思議な事を言うね。
何者なんだい?
一体何処まで、何を、知っているのかな?」
ー・ヒュッ──────ギィンッ
ユウフェの首筋目掛けて下された瘴気の剣を、すれすれで勇者の剣により阻み刃が交わる音が辺りに響いた。
両者の力が拮抗しギリギリと振動している。剣を互いに下げる様子もない中、ユウフェは真っ直ぐにダークを見据えて尚も言い募った。
「私を此処で殺しておきたいのでしたら、それも良いでしょう」
ユウフェの言葉に勇者は物言いたげな視線をやるが、今は目の前にある刃を防ぐ事に集中しようと柄を握る手に力を込めた。
「ー・ですがその場合。ダーク様の望みは永遠に叶わないものと思ってください」
「へぇ、それはまた…
一体如何してかな?」
「実は私。こう見えてもこの世界で重要な役割を任されておりまして。
勿論貴方の目的達成に一役かうことになってるんです」
ついっと胸を張りニコリと笑うユウフェを見て
ふと、ダークからの力が緩み、瘴気の剣はそのままゆっくりとユウフェの首から遠ざかっていく。その隙に勇者はユウフェの前に立ちダークに向けて勇者の剣を構えた。
「刃を交え戦いたいと言うのなら俺と戦え、ダーク」
「やだなぁ、俺は本当に今日は勇者と戦う気は無いんだよ。
ただあまりに呑気にデートしてるもんだから揶揄いたくなっただけさ♪」
「巫山戯るな。たった今剣を抜いたのはおまえだろう」
「それはさぁ、、うーん、まぁいーや。
何だか周りも騒がしくなってきたし。
今日は本当に何もする気は無かったんだ。だから取り敢えず、退散する事にするよ」
ヒラリと窓から外へ飛び降りようと、窓辺に足をかけたダークは少しだけ振り向いて、横目でユウフェを視界に入れた。
ーーじゃあまたね、不思議なお嬢さん。
ダークがその場からヒラリと飛び降りて行き、追跡出来る隙もなく姿を完全に消すと、ユウフェはふぅっと深いため息をついて項垂れた。
「やはりすぐには無理でした…。ダーク様と私が実際お会い出来るなど夢にも思わ無かったものですから。
急な事で、準備不足でした」
「ユウフェ…」
「ですがご安心ください勇者様。
次にもし、この様な機会がありました時の為に
必ずや有無を言わせないような勧誘テクニックを身につけておきますから!」
(ますます不安だとはとても言えない雰囲気だな。)
それにしても、分かっているのだろうか?
今しがたユウフェは首を刎ねられるかもしれなかった事を。
ダークの剣を抜いた初手は、ユウフェの首の筋に剣を添える為のものだった。けれど、返答次第では2手目に首を刎ねる為の動作だ。
つまりとても危険な状況だったと言うのに、いたっていつも通りのユウフェを見ていると先程のやりとりが目の錯覚に見えてきた。
だが、錯覚…ではない。
前世の知識とやらがある事で己の中にある断固たる決意の為にひた走り、意気込みを見せるユウフェ。
当初から突拍子もなく、何だか一生懸命なこの姿は見ていて面白くて、可愛いとも思えているのだけれど…。
わかっていた、ユウフェはいつだって本気で全力だ。
ユウフェにとって大切な人々の為に。
きっと彼女が見ている先に、彼女ならば救えるかもしれない誰かの命を見ているのだろう。公爵が言っていた自領の領民の為に行動していた時と同じように。
確かに、何がこの先起こるのか知っていれば俺も同じ事をするのかも知れない。だから今回の行動はきっと意味のあるものなんだろう。
だけど同時に、この時勇者は強く思った。
このままではいつか、ユウフェに取り返しのつかない事が起きるのではないか--と。
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