30 / 38
話し合いで解決しましょう
しおりを挟むまさか、もっと後にお会いするはずだった〝北の魔王〟に遭遇するなんて…
ユウフェが後ずさろうとすると、北の魔王はふっと笑う。
「大丈夫、君がこれからやろうとしてることを邪魔するつもりはないよ。
僕は暇でね、あまりに月が綺麗で長眺めたいから偶然、〝止めていた〟にすぎない」
「偶然…」
(……この方が、北の魔王。
だから衛兵が見当たらないはずです)
「そう。だから君の存在には驚いたけどーーもう帰るところなんだ、君も行く?」
ユウフェが首を横に強く振ると、「だよね」と言って、歪んだ時空へ入るとそのまま姿は消えていった。
「……ふぅ」
北の魔王が姿を消して、ほっとしたのも束の間、元の目的を思い出して先へと進んだ。
(目的を達成する前に緊張が解けてしまいました…)
等間隔で備え置かれた蝋を頼りに、長い螺旋階段を駆け降りてゆく。やっと地下の一番奥深くまで足を踏み入れることが出来た。
重厚な扉は開かれたままで、部屋の中に灯りが見える。
(やっぱり、もういらっしゃるのね)
扉付近に置かれていた杖が見えてきた。
父から貰った護符を杖に向けて「えい」っとばかりに投げつけると、棒はそのままユウフェと勇者が住んでいる邸宅へと転移してゆく。
(やりました!これで何も心配いりませんわ)
今転移させたのは、ダークの〝破壊の杖〟。
紫水晶の周辺には結界がある。
破壊の杖を持って中へ入ろうとすると、結界が杖を拒み、扉の内側で必ず落とされてしまうのだ。
だからダークは、あそこで杖を一度置くしかない。
そして──今も例外ではなかった。
にらんでいた通り、〝破壊の杖〟は扉付近に置かれていた。
それに加えて、ダークは武器として師から継いだ“破壊の杖”しか持たないから、これで死相も回避できる。
それは彼の流儀であり、彼の戦い方でもある──他の武器は、絶対に持たない男だ。
ダークは話を最後まで聞く前に衝動的に杖を使う可能性が高い。
(今なら……私の話を最後まで聞くしかありません)
復讐のためなら手段を選ばない男だ。
だが今は武器がない。
だからこそ今だけは、私の言葉を最後まで聞くしかない──。
(あとは。
話すときにはわかりやすく!
初めから結論を言う必要がーー)
部屋に入る前に、もう一度練習しようとしていたけれど、〝破壊の杖〟が消えたことに気付いたダークが興奮気味に声を上げた。
「誰だ!」
びくっと肩を揺らしながら、ユウフェは勢いよく中へと入る。何度も練習した冒頭のフレーズを述べると共に。
「東の魔王は、勇者様が倒して帰ってくるので無駄ですよ!」
仁王立ちする勢いで言い放つ。
ダークが紫水晶を既に手にしている姿が目に入った。
「!だ、だから。あなたのやろうとしている事は、悪戯に人々を傷付けるだけの結果になりますから…とにかく、それを元の位置に置いてください」
剥き出しになっている紫水晶に気を取られ動揺したせいか、予定通りの台詞とは言い難いが、言いたかったことを最後まで述べる。
「ーー君、この間のヨークシティで会った女か」
手に持っている紫水晶を気配は微塵もない。
先日会った時の剽軽な姿はなりを顰め、姿勢を正してこちらを見ていた。
「俺の杖はーーどこにある?」
「転移…しました」
そろり、そろりと紫水晶を回収するチャンスを伺いながら、ユウフェは近寄る。
「転移させた?どこに」
「紫水晶を、元に戻…いえーーこちらに回収させていただければお伝えします」
そう言った瞬間ーーダークの手元から紫水晶が転がり落ちる。
集中して紫水晶を見ていたユウフェは、〝あぁっ!〟と声をあげて駆け寄ろうとした。
ーーしかし。
紫水晶に触れる寸前で首根っこを掴まれて、勢いよく壁に叩きつけられる。
「っ……!!」
背中の痛みに顔を歪めたのも束の間、顔の左横に勢いよく手をつかれて、ダークの右手で顎を掴まれた。
「何処かって聞いてるんだよ」
「教えません!あれを使って水晶を破壊するつもりでしょう?」
「どうしてわかったかわからないが、邪魔をするなら、綺麗な顔に傷がつくぞ?」
ダークの右腕を両手で掴んで引き離そうとするも、びくりともせず、無駄な抵抗におわる。
「…っさっきも言いましたが!
勇者様が東の魔王を倒して帰ってきます!!
だから、東の魔王から信用を貰いたくてやろうとしている、あなたのやっている事は無意味です!」
ユウフェの渾身の叫び声を聞いた瞬間、目を見開いた。
そして、今度は直情的なものでなく、冷静さを宿した眼差しでダークは目を細めた。
「本当に…どうこまでおまえは知ってるんだ?
ーー勇者が魔王を倒す?近代で東の魔王を倒せた勇者はいない。
おまえの信仰を俺に押し付けて、邪魔をするというのなら。
ーー殺す」
ダークは頭に血が昇っているのか、ユウフェの首に手をそえて、締めつけ始めた。
(破壊の杖や、他に武器が無ければ多少怪我しても大丈夫と思っていたけど……ダメ。力が強過ぎます。
多分、私を殺す気はないのでしょうがーー)
力加減を知らないのだ。
ダークに殺す気はない。
だが、長きにわたり、魔物に混じり生活してきた故に、人間の身体の脆さを見誤っている。
それに気付いたユウフェは青ざめてゆき、必死に抵抗をはじめた。
身体が締め上げられて、足が身体が宙にうく。
視界の端が白くなる。
(ーー勇者様ーー)
白い背景に、魔王討伐の朝見送った勇者の姿が脳裏に浮かんだ。
涙が滲んだ、その瞬間。
「っ……!っっ!!」
「いえ!俺の武器をどこへやーーー」
ザシュッ
一瞬何が起きたかわからなかった。
ダークが最後まで言葉を紡ぐ前に、ユウフェの首を絞めていた右腕が切断された。
やっと、軌道を塞いでいた圧迫感から解放されて、ユウフェは膝に力が入りそうもない。
崩れ落ちそうになるのを、支えながらしゃがみこみ、片膝をついたのはーー東の魔王討伐へ向かった勇者だった。
41
あなたにおすすめの小説
『やりたくないからやらないだけ 〜自分のために働かない選択をした元貴族令嬢の静かな失踪〜』
鷹 綾
恋愛
「やりたくないから、やらないだけですわ」
婚約破棄をきっかけに、
貴族としての役割も、評価も、期待も、すべてが“面倒”になった令嬢ファーファ・ノクティス。
彼女が選んだのは、復讐でも、成り上がりでもなく――
働かないという選択。
爵位と領地、屋敷を手放し、
領民の未来だけは守る形で名領主と契約を結んだのち、
彼女はひっそりと姿を消す。
山の奥で始まるのは、
誰にも評価されず、誰にも感謝せず、
それでも不自由のない、静かな日々。
陰謀も、追手も、劇的な再会もない。
あるのは、契約に基づいて淡々と届く物資と、
「何者にもならなくていい」という確かな安心だけ。
働かない。
争わない。
名を残さない。
それでも――
自分の人生を、自分のために選び切る。
これは、
頑張らないことを肯定する物語。
静かに失踪した元貴族令嬢が、
誰にも縛られず生きるまでを描いた、
“何もしない”ことを貫いた、静かな完結譚。
【完結】別れさせ屋の私が、絶対に離婚しない弁護士と「恋愛禁止」の契約結婚をするワケ
チャビューヘ
恋愛
佐倉ミレイは、百戦錬磨の「別れさせ屋」として、実家の借金返済のため、離婚裁判で無敗を誇る敏腕弁護士、高塔慧(たかとうけい)をスキャンダルに巻き込む依頼を遂行していた。ミレイは高級バーで「彼氏に振られた傷心の女」を演じるが、慧はわずか三十分で彼女の完璧な演技を見破る。慧は、ミレイが纏う「成功した女性が好む」シャネルの香水N°5、意図的な指先の震え、そして獲物を見定める冷たい視線から、ミレイが嘘つきであることを見抜いていた。
絶体絶命のミレイに、慧は警察への通報の代わりに「取引」を持ちかける。慧が日本有数の財閥トップである鳳凰時康の顧問弁護士に就任するためには、「家庭を持たない男は信用できない」という古い価値観による条件をクリアし、戸籍上の「妻」が必要だった。
報酬八百万円、期間半年、同居を条件とした「契約結婚」をミレイは受諾する。しかし、契約書には「互いに恋愛感情を抱くことを禁ずる。違反した場合は即時契約解除、かつ違約金として三百万円を支払う」という厳しい禁止事項が盛り込まれていた。
推しの悪役令嬢を幸せにします!
みかん桜
恋愛
ある日前世を思い出したエレナは、自分が大好きだった漫画の世界に転生していることに気付いた。
推しキャラは悪役令嬢!
近くで拝みたい!せっかくなら仲良くなりたい!
そう思ったエレナは行動を開始する。
それに悪役令嬢の婚約者はお兄様。
主人公より絶対推しと義姉妹になりたい!
自分の幸せより推しの幸せが大事。
そんなエレナだったはずが、気付けば兄に溺愛され、推しに溺愛され……知らない間にお兄様の親友と婚約していた。
【完結】婚約を解消されたら、自由と笑い声と隣国王子がついてきました
ふじの
恋愛
「君を傷つけたくはない。だから、これは“円満な婚約解消”とする。」
公爵家に居場所のないリシェルはどうにか婚約者の王太子レオナルトとの関係を築こうと心を砕いてきた。しかし義母や義妹によって、その婚約者の立場さえを奪われたリシェル。居場所をなくしたはずの彼女に手を差し伸べたのは、隣国の第二王子アレクだった。
留学先のアレクの国で自分らしさを取り戻したリシェルは、アレクへの想いを自覚し、二人の距離が縮まってきた。しかしその矢先、ユリウスやレティシアというライバルの登場や政治的思惑に振り回されてすれ違ってしまう。結ばれる未来のために、リシェルとアレクは奔走する。
※ヒロインが危機的状況に陥りますが、ハッピーエンドです。
【完結】
役立たずと捨てられた薬草聖女、隣国の冷酷王太子に拾われて離してもらえません!〜元婚約者が「戻ってこい」と泣きついてきても、もう遅いです〜
きみつね
恋愛
「リリアーナ・ベルモンド。地味で陰気な貴様との婚約を破棄する!」
薬草研究以外に取り柄がないと罵られ、妹に婚約者を奪われた公爵令嬢リリアーナ。 彼女は冬の雪山に捨てられ、凍死寸前のところを隣国の氷の王太子アレクシスに拾われる。
「見つけたぞ。俺の聖女」
彼に連れ帰られたリリアーナが、その手でポーションを作ると――なんとそれは、枯れた聖樹を一瞬で蘇らせる伝説級の代物だった!?
「君の才能は素晴らしい。……どうか、俺の国で存分に力を発揮してほしい」
冷酷無比と恐れられていたはずのアレクシスは、実はリリアーナに対して過保護で甘々な溺愛モード全開!
エルフの執事、魔導師団長、獣人将軍……次々と彼女の才能に惚れ込む変わり者たちに囲まれ、地味だったはずのリリアーナは、いつの間にか隣国で一番の至宝として崇められていく。
一方、リリアーナを追放した祖国では、奇病が蔓延し、ポーション不足で国家存亡の危機に陥っていた。
元婚約者たちは必死にリリアーナを探すが――。
これは役立たずと蔑まれた薬草オタクの聖女が、最高の理解者(と変人たち)に囲まれて幸せになるストーリー。
書き溜めがなくなるまで高頻度更新!♡
【完】瓶底メガネの聖女様
らんか
恋愛
伯爵家の娘なのに、実母亡き後、後妻とその娘がやってきてから虐げられて育ったオリビア。
傷つけられ、生死の淵に立ったその時に、前世の記憶が蘇り、それと同時に魔力が発現した。
実家から事実上追い出された形で、家を出たオリビアは、偶然出会った人達の助けを借りて、今まで奪われ続けた、自分の大切なもの取り戻そうと奮闘する。
そんな自分にいつも寄り添ってくれるのは……。
婚約者を妹に奪われた私は、呪われた忌子王子様の元へ
秋月乃衣
恋愛
幼くして母を亡くしたティアリーゼの元に、父公爵が新しい家族を連れて来た。
自分とは二つしか歳の変わらない異母妹、マリータの存在を知り父には別の家庭があったのだと悟る。
忙しい公爵の代わりに屋敷を任された継母ミランダに疎まれ、ティアリーゼは日々疎外感を感じるようになっていった。
ある日ティアリーゼの婚約者である王子と、マリータが思い合っているのではと言った噂が広まってしまう。そして国から王子の婚約者を妹に変更すると告げられ……。
※他サイト様でも掲載しております。
目覚めたら魔法の国で、令嬢の中の人でした
エス
恋愛
転生JK×イケメン公爵様の異世界スローラブ
女子高生・高野みつきは、ある日突然、異世界のお嬢様シャルロットになっていた。
過保護すぎる伯爵パパに泣かれ、無愛想なイケメン公爵レオンといきなりお見合いさせられ……あれよあれよとレオンの婚約者に。
公爵家のクセ強ファミリーに囲まれて、能天気王太子リオに振り回されながらも、みつきは少しずつ異世界での居場所を見つけていく。
けれど心の奥では、「本当にシャルロットとして生きていいのか」と悩む日々。そんな彼女の夢に現れた“本物のシャルロット”が、みつきに大切なメッセージを託す──。
これは、異世界でシャルロットとして生きることを託された1人の少女の、葛藤と成長の物語。
イケメン公爵様とのラブも……気づけばちゃんと育ってます(たぶん)
※他サイトに投稿していたものを、改稿しています。
※他サイトにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる