【完結】で、あなたが彼に嫌がらせをする理由をお話しいただいても?

Debby

文字の大きさ
19 / 27

19 恋は勝ち取りにいくものなのです

しおりを挟む
 スカーレットには幸せになって欲しいというのが王家とそこに仕える者の総意だ。

 実はスカーレットのこの留学。グレイの「スカーレットが自身の婚約者候補ではないか」という考えは半分当たっていた。

 グレイが幼いころに国王や王妃、貴族の重鎮も婚約者候補を幾人か見繕いお茶会など催すことはしたが、実はグレイに婚約者がいないのは周辺国と比べ引けを取らない国力であるうえに国民からの王族の人気も高く、グレイの後ろ楯も強固であるため、政略結婚の必要性を感じなかったからだ。
 平民と言うわけにもいかないが、王太子には好いた令嬢と結ばれて欲しいと、幼いころからの婚約を無理強いしなかったというのが真相なのだ。

 一方スカーレットには兄王子が二人おり、それぞれ妃を迎え王子も誕生している。同じくその国力から政略結婚を必要としないため、妹姫のスカーレットには好いた相手と幸せになって欲しいと皆が願っていたのだ。
 そしていつまでも想う人が出来ない様子のスカーレットに「国のことは考えなくて自由にしていいのだ」と伝えることに至ったのだ。

 そこでスカーレットが望んだのがバーミリオン王国への留学である。
 常に民に寄り添い民のために生きてきたスカーレットが他国に行くことを望んだ。
 そしてその行き先であるバーミリオン王国には未だ婚約者がいないうえに幼いころに顔を合わせたことがあるグレイがいる。
 言葉を交わしたりはしていないはずなので定かではないが、もし好意を持っているのであれば友好国の王子と王女。なんの問題もないどころかこれ以上はないといっていい程の良縁だ。
 グレイもスカーレットもそろそろ婚約者を決めずにいることで生じる不利益の方が多くなる年齢となってきた。
 スカーレットのこの留学は、婚約者探しにいつまで経っても積極的にならない二人にしびれを切らした両国の国王や王妃たちが「無理強いはせず、お互い惹かれるようなことがあれば・・・」と考えた、一国の王太子と王女の婚約話とは思えないほど軽い感じの顔合わせ見合いでもあったのだ。

 結果スカーレットは留学生であったシアンを侍らせグレイには見向きもしない。
 スカーレットが初恋をこじらせ暴走しているだけとは気付くはずもない両国国王夫妻は、シアンが婚約者を溺愛していることも情報として知っており、どうしたものかと頭を悩ませていた。
 そんなことを知るはずもないこの国の重鎮たちが先走り──といった具合で現在に至るのだ。





 キャナリィはこれまでに出会った、恋する令息令嬢を思い出していた。
 恋に振り回され間違いを犯した者もいたが、その多くはどちらかが相手に自身の思いを告げ、告げられた相手がそれに応えたり断ったりしていた。
 前提として王侯貴族の婚約は国のためであり家のためというのは重々承知してはいるが、それを覆した例が身近にいる。

 ──ジェードとシアンだ。

「私は幼い頃からシアン様をお慕いしていましたが、貴族として当主が決めたことを受け入れる。そのような生き方しかできず、一度はシアン様を諦めたのです。
 ──そんな私をシアン様は努力し、手に入れてくれました」

 キャナリィの言葉に、スカーレットは留学中のシアンの様子を思い出した。
 彼は確かにキャナリィを手に入れるために全力で努力をしていた。

「お二方の婚約になんの問題もなくとも、王太子殿下に国を統べるものとして婚約は国のためにするべきものであるという考えがおありなら、ご自身から動くことはないのではと推察いたしますわ。
 既に友好関係にある両国の関係が婚姻でより強固なものになることは、国のためになることがあっても悪いものでは決してありません。

 ──ここは王女殿下が王太子殿下を手に入れるために動くべきなのではないでしょうか」



(そう、なのだろうか?)



 一同スカーレットの幸せを望んではいるものの、壁と同化する侍女や護衛たちはキャナリィの持論に一抹の不安を覚えた。
 そこにはやはり、グレイの気持ちが加味されていない。

 しかし端が見ればかなり無責任な言葉もキャナリィからしてみれば経験談だ。

「そして感情に流されず、冷静でいることが何よりも大切です」

 これは忘れてはいけない。

 キャナリィにはその気持ちを理解することが出来ないが、淑女教育を施されていても感情を理性で殺すことは難しいらしく、つい先ほどまでのスカーレットがそうであったように恋により周りが見えなくなり、思いもよらない行動に出る者は平民貴族関係なく存在する。
 そのこともキャナリィは経験から知っていた。

 グレイの気持ちは誰にも分からないため、感情に任せて自身の気持ちを押し付けてはならない。

 ゆっくりと、冷静に──。

 気持ちすら伝えていないためその相手クラレットは未だ気付いていないようだが、そうして成功したジェードをキャナリィは知っている。

「わかったわ。私が彼を手に入れるために動けばいいのね」

 その言葉に大きく頷くキャナリィは、今まさに自身の恋を守るためにスカーレットを唆しているのだということに気付かない──。

「そうです。恋とは、どちらかが勝ち取りにいくものなのです」

 信じられない言葉を耳にし、目を見開く侍女と護衛が見守る中、スカーレットは立ち上がり、グレイの元に行くため前室のドアを開け放った。

「あ・・・」

 キャナリィの予想通り、そこには若干顔を赤く染めたグレイと、何故か黒い笑みを浮かべるシアンの姿があった。
しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。

黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」 豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。 しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。

腹違いの妹にすべてを奪われた薄幸の令嬢が、義理の母に殴られた瞬間、前世のインテリヤクザなおっさんがぶちギレた場合。

灯乃
ファンタジー
十二歳のときに母が病で亡くなった途端、父は後妻と一歳年下の妹を新たな『家族』として迎え入れた。 彼らの築く『家族』の輪から弾き出されたアニエスは、ある日義母の私室に呼び出され――。 タイトル通りのおっさんコメディーです。

幼馴染みの婚約者が「学生時代は愛する恋人と過ごさせてくれ」と言ってきたので、秒で婚約解消を宣言した令嬢の前世が、社畜のおっさんだった件。

灯乃
ファンタジー
子爵家の総領娘である令嬢の前に、巨乳美少女と腕を組んだ婚約者がやってきた。 曰く、「学生時代くらいは、心から愛する恋人と自由に過ごしたい。それくらい、黙って許容しろ」と。 婚約者を甘やかし過ぎていたことに気付いた彼女は、その場で婚約解消を宣言する。 前半はたぶん普通の令嬢もの、後半はおっさんコメディーです。

なぜ、私に関係あるのかしら?

シエル
ファンタジー
「初めまして、アシュフォード公爵家一女、セシリア・アシュフォードと申します」 彼女は、つい先日までこの国の王太子殿下の婚約者だった。 そして今日、このトレヴァント辺境伯家へと嫁いできた。 「…レオンハルト・トレヴァントだ」 非道にも自らの実妹を長年にわたり虐げ、婚約者以外の男との不適切な関係を理由に、王太子妃に不適格とされ、貴族学院の卒業式で婚約破棄を宣告された。 そして、新たな婚約者として、その妹が王太子本人から指名されたのだった。 「私は君と夫婦になるつもりはないし、辺境伯夫人として扱うこともない」 この判断によって、どうなるかなども考えずに… ※ 中世ヨーロッパ風の世界観です。 ※ ご都合主義ですので、ご了承下さい、 ※ 画像はAIにて作成しております

学園の華たちが婚約者を奪いに来る

nanahi
恋愛
「私の方がルアージュ様に相応しいわ」 また始まった。毎日のように王立学園の華たちが私のクラスにやってきては、婚約者のルアージュ様をよこせと言う。 「どんな手段を使って王太子殿下との婚約を取り付けたのかしら?どうせ汚い手でしょ?」 はぁ。私から婚約したいと申し出たことなんて一度もないのに。見目麗しく、優雅で優しいルアージュ様は令嬢達にとても人気がある。それなのにどうして元平民の私に婚約の話が舞い込んだのか不思議で仕方がない。 「シャロン。メガネは人前では外さないように。絶対にだ」 入学式の日、ルアージュ様が私に言った。きっと、ひどい近視で丸メガネの地味な私が恥ずかしいんだ。だからそんなことを言うのだろう。勝手に私はそう思いこんでいたけど、どうやら違ったみたいで……?

王子、おひとり様で残りの人生をお楽しみください!

ちゃっぴー
恋愛
「ラーニャ、貴様との婚約を破棄する!」 卒業パーティーの真っ最中、ナルシストな第一王子ウィルフレッドに身に覚えのない罪で断罪された公爵令嬢ラーニャ。しかし、彼女はショックを受けるどころか、優雅に微笑んで拍手を送った。 なぜなら、ラーニャはとっくに王子の無能さに愛想を尽かし、この日のために完璧な「撤退準備」を進めていたからだ。

役立たずの女に用はないと言われて追放されましたが、その後王国は大変なことになっているようです

睡蓮
恋愛
王子であるローレントは、聖女の血を引く存在であるアリエスに聖女の能力を期待し、婚約関係を強引に結んだ。しかしローレントはその力を引き出すことができなかったため、アリエスの事を偽りの聖女だと罵ったのちに婚約破棄を告げ、そのまま追放してしまう。…しかしその後、アリエスはあるきっかけから聖女の力を開花させることとなり、その代償としてローレントは大きく後悔させられることとなるのだった。

白い仮面の結婚を捨てた私が、裁かれない場所を作るまで

ふわふわ
恋愛
誰もが羨む、名門貴族との理想の結婚。 そう囁かれていたジェシカの結婚は、完璧な仮面で塗り固められた**「白い誓約」**だった。 愛のない夫。 見ないふりをする一族。 そして、妻として“正しく在ること”だけを求められる日々。 裏切りを知ったとき、ジェシカは泣き叫ぶことも、復讐を誓うこともしなかった。 彼女が選んだのは――沈黙と、準備。 名を問われず、理由も裁きもない。 ただ「何者でもなくいられる時間」が流れる、不思議な場所。 そこに人が集まり始めたとき、 秩序は静かに軋み、 制度は“裁けないもの”を前に立ち尽くす。 これは、声高な革命の物語ではない。 ざまぁを叫ぶ復讐譚でもない。 白い仮面を外したひとりの女性が、 名を持たずに立ち続けた結果、世界のほうが変わってしまった―― そんな、静かで確かな再生の物語。

処理中です...