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薬屋キュウ屋
第18話 薬屋キュウ屋
しおりを挟む_____3年後
国境の街ランパル
そのランパルの町外れに、小さな薬屋が建っている。そこを営んでいる店主は、目の前の光景を睨みつけた。
店主の営んでいる薬屋は、決して大きくない。しかも廃墟になっていた2階建て家屋を、自力で補修した店だ。誰が見てもボロ屋で、床板もぎしぎしと音を立てる。
その床板が悲鳴を上げているのは、この店に屈強な8人の男たちが入店しているからである。
「キュウヤ、強壮剤をくれ」
「キュウヤ、回復薬をあるだけくれ」
「……媚薬とかある? なぁキュウヤ?」
薬屋『キュウ屋』の店主である光太朗は、男たちに鋭い目を向けて言い放った。
「ロブ、強壮剤は一昨日売ったばかりだろ。使いすぎは良くねぇぞ。……クレイズ、回復薬の転売はやめろ。カーター……媚薬はねぇって何回言えば分かる?」
光太朗が侮蔑を含んだ目を向けても、男たちはけろっとしている。それどころか「おお、なるほど」といった顔をして、うんうんと頷く。
光太朗は深く嘆息すると、カウンターの下から紙を取り出した。
「いいか! この店は確かに国とは繋がってねぇ。お前らがどんな薬を買ったとしても、国や上司に報告は行くまいよ。……だが、処方箋はちゃんと書くのが俺の主義だ。黙って並びやがれ!」
光太朗の言葉に、男たちは素直に従った。カウンターの前に4人が並び、あとの4人は店内のソファへと座る。その姿に、光太朗はまた溜息をついた。
(悪態でもついてくれたほうが、まだやりやすいな……)
彼らは国直属の魔導騎士団だ。騎士団の中でも最も位が高く、屈強な部隊らしい。
らしい、という不鮮明な言い方をするのは、魔導騎士団が新たに結成された騎士団だからだ。
光太朗が奴隷兵士だった頃と今では、様々なことがごろっと変わってしまった。
一番顕著に変わったのは、フェンデに対する偏見だ。以前はまるで虫けらのような扱いだったが、今は違う。
相変わらず蔑まれた存在ではあるが、暴力や不当な扱いは格段に減った。
どうやらこの国の皇子が、フェンデの人権を保護する活動をしてくれたらしい。顔も知らない皇子だが、感謝すべきなのだろうと光太朗は思う。
こうして自分の店を持てたのも、その活動があったお陰だ。
光太朗が処方箋に書き込んでいると、騎士が口を開く。
「なぁ、キュウヤはフェンデなんだろ? 何でそんなにこの国の薬に詳しいんだ?」
「……そうだな。……どの国の薬も、さして変わらないからだ」
光太朗はそう言うと、更にペンを走らせた。慣れなかったこの国の文字も、今はさらさらと書くことが出来る。
書きながら、多数の目線が刺さるのを感じる。男たちから向けられる好奇の目を受けて、光太朗は目の下をぽりぽり掻いた。
「……なぁ、そんなにフェンデが珍しいか? この国の王妃は転移者であるフェブールなんだろ?」
「ああ、そうだ。天からの恩恵であるフェブールは、我々の光だ」
「そうそう、フェブールと違って不具合で来ちまったのが、俺たちフェンデだ」
光太朗が鼻で笑うと、ロブが気まずそうに眉根を寄せる。
数年暮らして分かったが、この世界で転移者はそう珍しくない。特に「外れ」であるフェンデは、数年に一度現れるらしい。
しかし本命であるフェブールは、数十年前から途絶えていると聞く。
「キュウヤは本当に、何のギフトも受けてないのか?」
「ああ、何も無い。だから俺はフェンデに違いない」
3年前、光太朗は死んだことになっている。しかし特殊な事情により、こうして生かされ薬屋を営んでいる。
当時の頃は、もう殆ど忘れてしまった。この薬屋を開くまでに、更に地獄のような日々が待っていたからだ。
そう、ウィリアムという男のお陰で。
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