【完結】異世界で出会った戦友が、ゼロ距離まで迫ってくる! ~異世界の堅物皇子は、不具合転移者を手放せない~

墨尽(ぼくじん)

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薬屋キュウ屋

第19話 金貨三枚

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 ウィリアムとの関係は、切っても切れないものとなってしまった。光太朗は今、半ば強制的に彼の『手伝い』をしているのだ。


 そして遡ること数日前、そのウィリアムは光太朗へこう言った。

『あ、そうだコータロー。君の店の近くに、新しい騎士団の兵舎が建つよ。死んだはずのフェンデなんて、誰も覚えてないと思うけど……バレたら色々面倒だからさぁ。キュウ屋に来ることはそうそう無いだろうけど、当時の関係者にだけは気をつけなよ?』


(……嘘つきウィリアムめ。めちゃくちゃ来るじゃねぇか、こいつら……)

 しかし幸いな事に、店を訪れる騎士に見覚えは無い。

 魔導騎士団は優秀な者達で結成されたと聞く。第10騎士団の生き残りは居ないとは思うが、正直こんなに来店されると焦る。


 3人目の処方箋を書き終えて、光太朗は店内を見回した。狭苦しい店内に、体躯のいい男がずらりと並んでいる。
 まだまだ増えそうな雰囲気に、密かに再度溜息をつく。

 ふと光太朗が目線を上げると、目の前のカーターが気まずそうに目を伏せた。訝し気に光太朗が眉を顰めると、カーターがガリガリと自身の赤毛頭を掻き回す。

「キュウヤ。あんたさ、その前髪なんとかなんないか?」
「うん? なんで?」
「……いや、何でもない」

 慌てて席を立つカーターに続き、後に並んでいた男がカウンターへと座る。
 新たな客は新顔で、光太朗はまた眉を顰めた。目にかかる前髪がかさりと動くのを感じる。

(あ、カーターが言ってたのはこの事か)

 光太朗の前髪は、目を覆い隠すほど長い。前髪を伸ばしている理由は、光太朗の目つきが悪いからだ。

 元の世界にいた時から、光太朗には無意識に目を眇める癖があった。そのせいで良く怖がられたため、この世界に来てからも前髪を伸ばすようにしている。

(前髪を切れって事か? 大きなお世話だろ)

 光太朗は心中で毒づきながら、カーターが出て行った扉に目を向ける。すると、また新たな客が来店して来るところだった。

 これ以上人が入ると、店が物理的に潰れる。

 そう思った光太朗が立ち上がると、店内にいた騎士たちが一斉に跪いた。

「?」

 騎士たちは新たに入ってきた男に対して跪いている。
 咄嗟の判断で、光太朗もカウンターから出て跪いた。身分が高い騎士が跪いているという事は、きっと男は王族だ。

 光太朗はこの世界に来てから、嫌というほど思い知った。王家に遭遇したら跪く。跪かないと場合によっては殺される。

 しばらくの沈黙のあと、店の入り口に立っている男は、騎士たちへ向かって一喝した。

「跪くのは無駄だと、何度言ったら解る? 直れ!」
「はい! 団長!!」

 騎士たちが一斉に立ち上がり、店がぎしぎしと揺れる。光太朗も慌てて立ち上がり、棚に置かれていた薬瓶たちを手で押さえた。
 光太朗が慌てている間も、男の叱咤は続く。

「跪いて、そしてまた立ち上がる動作にかかる時間を考えろ。10秒は無駄にしている! そして私がお前たちに『直れ』と言う時間も無駄だ。その時間を鍛練に当てろ!」
「はいっっ!!!」

 薬瓶が落ちなかったことにほっと息を吐いて、光太朗は入り口に立つ団長を見た。

(初めて見た。あれが名高い魔導騎士団の団長か………王族……なんだろうな、多分)

 上背は他の団員と変わらないほど高いが、筋骨隆々という訳でもない。無駄な筋肉が付いていない、すらっとした体躯だ。
 顔は逆光で見えないが、王族は美男揃いだと聞く。

 光太朗がいつものように眉を顰めていると、帰ったと思っていたロブが、光太朗の腕を小突いた。
 「キュウヤ。睨まないで」とロブの小さな声が聞こえ、光太朗は慌てて団長から目を逸らす。


(やっば……。あ、俺は跪いたままが良いのかも……)

 慌てて棚から手を離し、光太朗はその場に跪いた。しばらくの沈黙の後、穏やかな声が響く。

「店主よ、うちの騎士たちが失礼した。……お前たち、こんなに大勢で押しかけては商売の邪魔だ。もう少し考えろ」
「はい。団長!」

 光太朗が視線を下げていると、騎士たちがばたばたと外に出て行く気配がした。扉が閉まる音を合図に顔を上げると、もうそこには誰もいない。

 安堵の吐息を吐いて、光太朗は立ち上がった。膝をパタパタ叩きながら、首を傾げる。

(う~ん、王族なのに妙に偉ぶらないな……。魔導騎士団の団長って言ったら、それだけでビッグな人物のはずなのに……)

 王族と言えば、末席にいる人物でさえ横柄に振る舞うものだ。
 王の血が一ミリでも流れているのなら、親戚のそのまた親戚でも、この国では何もかもが許されてしまう。


 ちらりとカウンターに目を遣ると、カルトンに金貨が載せてあった。光太朗は舌打ちを零しながら、枚数を確認する。三枚だ。

 金貨三枚は、この店の薬を全部買うことが出来るほどの額だ。きっとあの団長が置いて行ったのだろう。

 慌てて店を出たが、団長どころか騎士すら見当たらない。
 光太朗は舌打ちし、新しい兵舎の方向を睨み付けた。

(いらん施しだ。……あの団長、一体どういうつもりなんだ?)
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