【完結】異世界で出会った戦友が、ゼロ距離まで迫ってくる! ~異世界の堅物皇子は、不具合転移者を手放せない~

墨尽(ぼくじん)

文字の大きさ
24 / 248
薬屋キュウ屋

第23話 甘党の追跡者

しおりを挟む

 親指をへし折られ呻いている男の顎を、男は蹴り上げる。その一連の動作は一瞬で、光太朗はひゅうと唇を鳴らした。
 笑みを浮かべながら、光太朗は通りの先を指さす。

「あと1人は、脇道に逃げた! 魚屋の角から出てくるから、挟み撃ちしよう」
「……!! 君は……!」

 追ってきた男は、鼻から下を布で隠していた。外套のフードも深くかぶっていて、その顔は良く見えない。
 唯一見えている瞳は、綺麗な緑色だった。悪人と言う雰囲気ではないようだ。

 光太朗は歩きながら、男に言葉を放る。

「あんたは、脇道を追ってくれ。俺は魚屋で待ち受ける!」
「まっ……っ!」

 男の返事を聞かないまま、光太朗は魚屋に向かって駆けた。

 心臓がぎゅっと締め付けられ、気分が沸いていくのを感じる。3年前、死と隣り合わせの毎日は碌でもないものだったが、今ではこの緊張感が懐かしい。

 魚屋の角に潜み、光太朗はポケットに手を突っ込んだ。そこから小さな薬瓶を取り出す。護身用に持ち歩いているものが、役に立ちそうだ。


 走ってくる足音が二つ。
 先に走っている足音はばたついていて、かなり焦っているのが分かる。
 足音が角に差し掛かろうとする少し前に、光太朗は道の真ん中に火のついた藥瓶を投げつけた。

 小さな薬瓶が割れ、小規模ながら火が立ち昇る。
 ぎょっとした男が足を緩めたところに、後ろから追ってきた男の蹴りが飛ぶ。鮮やかな跳び蹴りだ。

 追われていた男が抱えていた荷物が宙を舞う。
 そして光太朗の足元へ、どさりと重い音を立てながら落ちた。きっとこの荷物がこの騒動の種だろう。

 光太朗が荷物を拾い上げた頃には、追われていた男はもう拘束されていた。鮮やかな手際に、光太朗はまたひゅうと唇を鳴らす。

「すごいな! あれだけの距離をここまで詰めるなんて。俺の助けなんて、要らなかったかもな」

 光太朗は笑いながら荷物を男へ差し出す。すると男が、光太朗へもの凄い勢いで駆け寄ってきた。

「……君はっ……!」
「!? な、何だよ……!」

 近寄ってきた男に腕を掴まれ、光太朗は身を捩った。咄嗟に手に持っていた荷物を落としてしまい、バッグから中身が転がり落ちる。

 その中身は、殆どが甘いものだった。果実のシロップ漬け、焼き菓子の袋、ありとあらゆる甘味が、ごろごろと転がり出る。

 光太朗を掴んでいる男の目元が、みるみる赤くなっていく。揺れる緑色の瞳を見て、光太朗は堪らず吹き出した。

「っ! あんた! ふ、はは……! あんなに必死で追ってたから、何かと思えば……! ぷ、くくく……!」
「……」 

 緩んだ男の手から抜け出し、光太朗は荷物の中身をかき集めた。それを改めて男に渡し、にっこりと微笑む。

「久しぶりに楽しかったよ。じゃあな、甘党!」
「……! まっ……!」

 騒ぎを聞きつけて、人が集まり始めた。光太朗はもう一度吹き出すと、人込みに紛れて家路を急ぐ。

(ああ、楽しかった。今日はゆっくり眠れそうだ)

 人が集まったお陰で、街中がたいまつで明るくなる。いつもの家路もはっきり見えて、光太朗は鼻歌を歌うほど気分が良かった。


 しかしそんな気分も、キュウ屋から漏れている明かりを見て吹っ飛んだ。灯りをつけたまま外出するなんて、光太朗は絶対にしない。

 光太朗は大げさにため息をつくと、怠そうにキュウ屋の鍵を開ける。そして室内にいた男の姿に、もう一度大きくため息をついた。
しおりを挟む
感想 123

あなたにおすすめの小説

【8話完結】いじめられっ子だった俺が、覚醒したら騎士団長に求愛されました

キノア9g
BL
いじめられ続けた僕は、ある日突然、異世界に転移した。 けれど、勇者として歓迎されたのは、僕を苦しめてきた“あいつ”の方。僕は無能と決めつけられ、誰からも相手にされなかった。 そんな僕に手を差し伸べてくれたのは、冷酷と恐れられる騎士団長・ジグルドだった。 なのに、あいつの命令で、僕は彼に嘘の告白をしてしまう――「ジグルドさんのことが、好きなんです」 それが、すべての始まりだった。 あの日から彼は、僕だけをまっすぐ見つめてくる。 僕を守る手は、やさしく、強くて、どこまでも真剣だった。 だけど僕には、まだ知られていない“力”がある。 過去の傷も、偽りの言葉も超えて、彼の隣にいてもいいのだろうか。 これは、いじめられっ子の僕が“愛されること”を知っていく、嘘と覚醒の物語。 全8話。

転生令息は冒険者を目指す!?

葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。  救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。  再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。  異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!  とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A

過労死転生した公務員、魔力がないだけで辺境に追放されたので、忠犬騎士と知識チートでざまぁしながら領地経営はじめます

水凪しおん
BL
過労死した元公務員の俺が転生したのは、魔法と剣が存在する異世界の、どうしようもない貧乏貴族の三男だった。 家族からは能無しと蔑まれ、与えられたのは「ゴミ捨て場」と揶揄される荒れ果てた辺境の領地。これは、事実上の追放だ。 絶望的な状況の中、俺に付き従ったのは、無口で無骨だが、その瞳に確かな忠誠を宿す一人の護衛騎士だけだった。 「大丈夫だ。俺がいる」 彼の言葉を胸に、俺は決意する。公務員として培った知識と経験、そして持ち前のしぶとさで、この最悪な領地を最高の楽園に変えてみせると。 これは、不遇な貴族と忠実な騎士が織りなす、絶望の淵から始まる領地改革ファンタジー。そして、固い絆で結ばれた二人が、やがて王国を揺るがす運命に立ち向かう物語。 無能と罵った家族に、見て見ぬふりをした者たちに、最高の「ざまぁ」をお見舞いしてやろうじゃないか!

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

転生したら嫌われ者No.01のザコキャラだった 〜引き篭もりニートは落ちぶれ王族に転生しました〜

隍沸喰(隍沸かゆ)
BL
引き篭もりニートの俺は大人にも子供にも人気の話題のゲーム『WoRLD oF SHiSUTo』の次回作を遂に手に入れたが、その直後に死亡してしまった。 目覚めたらその世界で最も嫌われ、前世でも嫌われ続けていたあの落ちぶれた元王族《ヴァントリア・オルテイル》になっていた。 同じ檻に入っていた子供を看病したのに殺されかけ、王である兄には冷たくされ…………それでもめげずに頑張ります! 俺を襲ったことで連れて行かれた子供を助けるために、まずは脱獄からだ! 重複投稿:小説家になろう(ムーンライトノベルズ) 注意: 残酷な描写あり 表紙は力不足な自作イラスト 誤字脱字が多いです! お気に入り・感想ありがとうございます。 皆さんありがとうございました! BLランキング1位(2021/8/1 20:02) HOTランキング15位(2021/8/1 20:02) 他サイト日間BLランキング2位(2019/2/21 20:00) ツンデレ、執着キャラ、おバカ主人公、魔法、主人公嫌われ→愛されです。 いらないと思いますが感想・ファンアート?などのSNSタグは #嫌01 です。私も宣伝や時々描くイラストに使っています。利用していただいて構いません!

【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。 BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑) 本編完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 きーちゃんと皆の動画をつくりました! もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら! 本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

この世界は僕に甘すぎる 〜ちんまい僕(もふもふぬいぐるみ付き)が溺愛される物語〜

COCO
BL
「ミミルがいないの……?」 涙目でそうつぶやいた僕を見て、 騎士団も、魔法団も、王宮も──全員が本気を出した。 前世は政治家の家に生まれたけど、 愛されるどころか、身体目当ての大人ばかり。 最後はストーカーの担任に殺された。 でも今世では…… 「ルカは、僕らの宝物だよ」 目を覚ました僕は、 最強の父と美しい母に全力で愛されていた。 全員190cm超えの“男しかいない世界”で、 小柄で可愛い僕(とウサギのぬいぐるみ)は、今日も溺愛されてます。 魔法全属性持ち? 知識チート? でも一番すごいのは── 「ルカ様、可愛すぎて息ができません……!!」 これは、世界一ちんまい天使が、世界一愛されるお話。

今世はメシウマ召喚獣

片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。 最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。 ※女の子もゴリゴリ出てきます。 ※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。 ※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。 ※なるべくさくさく更新したい。

処理中です...