【完結】異世界で出会った戦友が、ゼロ距離まで迫ってくる! ~異世界の堅物皇子は、不具合転移者を手放せない~

墨尽(ぼくじん)

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渦中に落ちる

第77話 意外と大食い

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 レモンソースがたっぷりとかかった鶏肉を、光太朗は口へ運ぶ。口いっぱいに頬張っていると、鶏肉を切り分けていたカザンが男らしい眉を吊り上げた。

「申し訳ない、コウ殿。もう少し小さめに切ったほうが良いか?」
「んん? んーん」

 カザンの問いに首を横に振って、光太朗は口の中のものを飲み込んだ。そしてパンに手を伸ばし、目を細めてカザンをじっと見る。

 水が入ったポットを持つカザンの二の腕は、光太朗の太腿ほどの大きさだ。執事服で包まれてはいるが、カザンが筋骨隆々なのは一目瞭然である。
 盛り上がった胸筋を見ながら、光太朗は唸った。

「いいなぁ、カザンさん。俺もムキムキになりたいなぁ」
「……コウ殿は、筋肉うんぬんよりも栄養不足です。しかし……意外にも大食いですな、コウ殿は」
「そう? あれば食うよ。無い時は食わない。野生のワンちゃんと一緒」

 「ワン」と言いながら、光太朗はパンを口に放り込む。するとベッドメイクをしていた使用人たちが、堪らずクスクスと笑い始めた。
 女性の笑い声は、どの世界でも心地がいい。光太朗が笑顔を向けると、彼女たちは慌てて目を伏せた。近くでカザンのため息が聞こえる。

「……コウ殿。使用人へ愛想を振りまくのは、良くありませんぞ。彼女らの仕事が捗らなくなります」
「ん? 愛想なんて振りまいてないけど?」
「……ところでコウ殿は……女性を好まれるのか?」
「好む? それは……恋愛対象がって事?」

 カザンは頷くと、空いた皿を下げ始めた。
 話しながらも手際よく片づけていく様は、さすが執事長といったところだ。光太朗は感心しながら、パンを飲み込む。

「俺、恋愛には疎かったからなぁ。特定の相手は作ったことない」
「……恋人を作ったことが無いと?」
「そう。でも前の仕事でハニトラ的な任務もあったから、そっちの経験はたくさんある」
「は、はにとら?」

 カザンが戸惑ったように言うので、光太朗は妖艶に口端を吊り上げた。テーブルにあったカザンの手に自身の手を重ね、下からねだるように見上げる。

「ねぇ、お兄さん。俺と良いことしない?」
「……! な、なん……!」

 狼狽えるカザンを見て、光太朗は吹き出した。痛みに引きつる腹を押さえながら、肩を揺らして笑う。

「っはは! カザンさん慌てすぎだろ……! ハニトラは色仕掛けだよ。女性を引っ掛ける方が多かったけど……」
「……っ! あ、鮮やかなお手前で……」
「……ふふ、しかも褒められた。……あぁ、いてぇ」

 顔を歪めながらベッドを見ると、ベッドメイクは終わっていた。シーツは新しいものに変えられ、布団も昨日とは色が違う。

(……正に至れり尽くせりだ。こえぇな。俺、どうやったらこの恩を返せるだろう……)

 身体の治療費、滞在費。諸々込みでいくらになるか。考えるだけでも恐ろしい。
 魔導騎士団の元で、数年間無償で働かなければきっと返済できない。まぁそれも良いか、と光太朗は思う。

 孤児院の事も心配いらないと言われ、ウィリアムとの繋がりも一旦は絶たれたらしい。光太朗にとっての懸念点が、殆ど消え去った。
 しかしあれでウィリアムが諦めたとしたら、驚くしかない。数年ウィリアムと関わって来た光太朗は、彼の歪んだ生態を良く知っている。

(これで諦めてくれたら嬉しいが……無理だろうな。……そういえば、あいつ変なこと言ってたなぁ……。俺が、フェブールだとか何とか……なわけねぇだろ、そんなもん)

 ため息を吐きながら考え込んでいると、突然身体が宙に浮いた。

 光太朗は慌てて振り返り、自分を抱えているリーリュイを見る。いつもながら、気配にまったく気が付かなかった。 
 まるで子どものように抱きかかえられた光太朗は、彼に責めるような目を向ける。

「……ったく、急に抱きかかえないでくれよ。びっくりして手が出そうになるだろ」
「出しても問題ない。受け止められる」
「なにぃ? 言ったな、リュウ。今度覚えてろよ」
「光太朗、暴れない。寝台へ下ろす」

 丁重に寝台へ下ろされ、光太朗はもう一度不服そうな表情を浮かべる。子どもや女性のような扱いには、未だに慣れない。
 それに側にはカザンもいるのだ。照れくささからか、憎まれ口もついて出る。

「リュウ。俺が元気になったら、手合わせしろよな。ぜっったい、一発入れてやる」
「君が元気になったらな。……それにしても、もう座って食事が出来るのか? 無理していないか?」
「無理してないし。なんなら逆立ちだって出来るぞ? だから抱き上げて運搬なんて止めていただきたいんですよねぇ、戦友殿」
「……検討する」

 やんわりと微笑まれ、光太朗はぐぅと唸った。リーリュイに顔面の良さは把握していたつもりだったが、この顔を見ると何もかも許せそうだ。
 やっぱり一発入れるのは止めよう。そう思っていると、微笑んでいたリーリュイが真顔へと戻った。

「光太朗、私は今から都へ戻る。夜には帰るから心配はいらない」
「へ? 都? 日帰りで?」

 光太朗が呆けていると、リーリュイはまた微笑んだ。そして息を吸い込むと、一気に捲し立てる。

「ランパルには、都へと続く公式のポータルがある。重要な行事の時にしか使われないもので、通行するには申請も必要だ。そもそもポータルを使うには、大量の晄露が必要となる。そのため決して私的に使ってはならないし、設置した時点で罰せられる。特に権力を持つ者が、そのような……」
「ま、まてまて、ポータルの話は一旦置こう。なぁ、リュウ……もしかして、ウィルに会うのか?」
「……ウィル……?」
「ああ。ウィリアムの事だ」

 光太朗の言葉に、リーリュイが目を見開いている。目を細めると睫毛の根元まで見えそうだ。 
 光太朗がまじまじと観察していると、リーリュイが寝台へと腰を下ろした。

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