【完結】異世界で出会った戦友が、ゼロ距離まで迫ってくる! ~異世界の堅物皇子は、不具合転移者を手放せない~

墨尽(ぼくじん)

文字の大きさ
80 / 248
渦中に落ちる

第78話 君の気持ちが解らない


「きっ、君は……、あの人を愛称で呼んでいたのか?」
「そう。ウィリアムって、言いにくいから」


 当然のように言い放つ光太朗からは、少しの怯えも感じない。

 恩を無理やり作られ、自分の命を削りながら、光太朗はウィリアムと過ごしていた筈だ。
 そこには確かな上下があると、リーリュイは思っていた。まるで主人と奴隷のような関係であったのではないか、そう推測していたのだ。

 しかし寝台の上の光太朗は、不自然なほど落ち着いている。

 虐げられた日々を送っていたのであれば、ウィリアムという名前を聞くだけでも拒否反応が出るのではないか。
 そう危惧していたリーリュイは、戴冠式にウィリアムが出席する事実も隠そうとも思っていたのだ。
 しかし光太朗は、しっかりとした眼差しで言い放つ。

「リュウ……本当に大丈夫なのか? あいつは自分の持ち物に、ものすごい執着を示すタイプだぞ。俺がこの屋敷にいることは、伏せておいた方が良い。……いや、やっぱり俺は出て行った方が……」
「そんなことする訳がない! ……加えて君はッ……彼の持ち物では決してない!!」


 リーリュイは、自身が声を荒げた事に驚く余裕もなかった。心臓が嫌な音を立てて暴れまわる。

 光太朗とウィリアムは、愛称で呼び合うほど対等な関係を築いていたのか。まるで自分たちのように。
 そう思うだけで怒りが身を焦がしていく。

 目の前の光太朗が、驚いた顔を浮かべてこちらを見ている。そんな表情をさせているのは自分だ。分かってはいるが、感情を抑えられない。


 リーリュイは立ち上がると踵を返した。光太朗の呼び止める声を背後に聞きながら、部屋を出る。
 廊下を進んでいる間も、怒りは一向に治まらない。それどころか普段は思いもしないような凶悪な考えも湧いてくる。

(いっそ薬師としてでなく、正室として取り込んでしまえばいい! そうすれば誰も手を出すことは出来ない。誰も来ないところへ閉じ込めて、彼を……)

 その考えに至ってしまった自分に嫌気が差すのと同時に、『それも実行可能だ』と後押しする自分も確かにいる。
 しかしこの汚れた考えを、光太朗に知られるのが一番怖い。

(何て身勝手な考えだ。しかもまた私は、あんな去り方をして……なんて学習能力のない……!)

 リーリュイは外套を手に取ると、苛立ち気に身に着ける。そしてそのまま屋敷を出た。


________

 激しい音で扉が閉まった音と同時に、光太朗は項垂れた。またやってしまった、と大きくため息をつく。

「……俺、また何か……怒らせた……」

 ぽつりと呟くと、側にいたカザンが光太朗の背にそっと手を添えた。寝台に座ったままだった光太朗の身体を横にさせて、カザンはそっと口を開く。

「殿下は、幼いころから感情の起伏が薄い方でな。それ故、自分の感情を上手く言葉にすることが、きっと苦手なのです」
「……そっか……でも……」
「怒ってはいましたが、恐らくコウ殿に対しては怒ってはおりませぬ。ご安心を」

 カザンはそう言いながら、ブランケットを引き上げる。続いて布団も引き上げながら、彼は柔和な笑みを浮かべた。

「本日行われる戴冠式は、形式的なもの。直ぐにこちらへ帰れます。夜には殿下の機嫌も直っておるでしょう」
「カザンさん……ウィリアムって、どれぐらい偉いんだ?」
「立場的には殿下が上です。しかしウィリアム様は、一部の組織から崇拝されております。彼の力は唯一無二で、畏怖されるものでもありますので……」
「……まじで大丈夫かな……」

 目の上に腕を載せ、光太朗はため息を吐きながらそう零す。心底心配そうな様子に、カザンも小さく嘆息した。
感想 125

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢の兄でしたが、追放後は参謀として騎士たちに囲まれています。- 第1巻 - 婚約破棄と一族追放

大の字だい
BL
王国にその名を轟かせる名門・ブラックウッド公爵家。 嫡男レイモンドは比類なき才知と冷徹な眼差しを持つ若き天才であった。 だが妹リディアナが王太子の許嫁でありながら、王太子が心奪われたのは庶民の少女リーシャ・グレイヴェル。 嫉妬と憎悪が社交界を揺るがす愚行へと繋がり、王宮での婚約破棄、王の御前での一族追放へと至る。 混乱の只中、妹を庇おうとするレイモンドの前に立ちはだかったのは、王国騎士団副団長にしてリーシャの異母兄、ヴィンセント・グレイヴェル。 琥珀の瞳に嗜虐を宿した彼は言う―― 「この才を捨てるは惜しい。ゆえに、我が手で飼い馴らそう」 知略と支配欲を秘めた騎士と、没落した宰相家の天才青年。 耽美と背徳の物語が、冷たい鎖と熱い口づけの中で幕を開ける。

ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました

あと
BL
「お兄ちゃん!一肌脱ぎます!」 完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け 可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…? 攻め:ヴィクター・ローレンツ 受け:リアム・グレイソン 弟:リチャード・グレイソン  pixivにも投稿しています。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。

批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。

俺、転生したら社畜メンタルのまま超絶イケメンになってた件~転生したのに、恋愛難易度はなぜかハードモード

中岡 始
BL
ブラック企業の激務で過労死した40歳の社畜・藤堂悠真。 目を覚ますと、高校2年生の自分に転生していた。 しかも、鏡に映ったのは芸能人レベルの超絶イケメン。 転入初日から女子たちに囲まれ、学園中の話題の的に。 だが、社畜思考が抜けず**「これはマーケティング施策か?」**と疑うばかり。 そして、モテすぎて業務過多状態に陥る。 弁当争奪戦、放課後のデート攻勢…悠真の平穏は完全に崩壊。 そんな中、唯一冷静な男・藤崎颯斗の存在に救われる。 颯斗はやたらと落ち着いていて、悠真をさりげなくフォローする。 「お前といると、楽だ」 次第に悠真の中で、彼の存在が大きくなっていき――。 「お前、俺から逃げるな」 颯斗の言葉に、悠真の心は大きく揺れ動く。 転生×学園ラブコメ×じわじわ迫る恋。 これは、悠真が「本当に選ぶべきもの」を見つける物語。 続編『元社畜の俺、大学生になってまたモテすぎてるけど、今度は恋人がいるので無理です』 かつてブラック企業で心を擦り減らし、過労死した元社畜の男・藤堂悠真は、 転生した高校時代を経て、無事に大学生になった―― 恋人である藤崎颯斗と共に。 だが、大学という“自由すぎる”世界は、ふたりの関係を少しずつ揺らがせていく。 「付き合ってるけど、誰にも言っていない」 その選択が、予想以上のすれ違いを生んでいった。 モテ地獄の再来、空気を読み続ける日々、 そして自分で自分を苦しめていた“頑張る癖”。 甘えたくても甘えられない―― そんな悠真の隣で、颯斗はずっと静かに手を差し伸べ続ける。 過去に縛られていた悠真が、未来を見つめ直すまでの じれ甘・再構築・すれ違いと回復のキャンパス・ラブストーリー。 今度こそ、言葉にする。 「好きだよ」って、ちゃんと。

転生天使は平穏に眠りたい〜社畜を辞めたら美形王子の腕の中でとろとろに甘やかされる日々が始まりました〜

メープル
BL
毎日深夜まで残業、食事はコンビニの冷たいパン。そんな社畜としての人生を使い果たし、過労死した俺が転生したのは――なんと、四枚の美しい羽を持つ本物の天使だった。 ​「今世こそは、働かずに一生寝て過ごしたい!」 ​平穏な隠居生活を夢見るシオンは、正体を隠して王国の第一王子・アリスターの元に居候することに。ところが、この王子、爽やかな笑顔の裏で俺への重すぎる執着を隠し持っていた!?

竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜

レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」 魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。 彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。

(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。

キノア9g
BL
気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。 木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。 色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。 ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。 捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。 彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。 少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──? 騎士×妖精 ※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。

その首輪は、弟の牙でしか外せない。

ゆずまめ鯉
BL
養子ゆえに、王位継承権を持たないオメガで長男のレイン(24)は、国家騎士団として秘密裏に働き、ただ義弟たちを守るためだけに生きてきた。 第一継承権を持つアルファで次男のリオール(19)は、そんな兄に「ごく潰し」と陰口を叩く連中を許せなかった。自分を犠牲にしてまで守る価値はないと思っていた。なにかと怪我の多い国家騎士団を辞めさせたかった。 初めて訪れた発情期のとき。約束をすっぽかされたリオールが不審に思い、兄の部屋へ行くと、国家騎士団の同僚──グウェンソード(28)に押し倒されるところを目撃して激高する。 「今すぐ部屋から出ろ!」 独占欲をあらわにしたリオールは、グウェンソードを部屋から追い出し、兄であるレインを欲望のままに抱いた。 翌朝、差し出されたのは特注の首輪──外せるのはリオールのみ。 「俺以外に触らせるな」 そう囁かれたレインは、何年も首輪と弟の執着に縛られ続けてきた。 弟には婚約者がいるのに、こんな関係を続けてもいいのか。 本当にこのままでもいいのか。 ひたすら執着して独占したがる弟と、罪悪感に苛まれる兄。 その首輪は、いつか弟の牙で血に染まるのか──。 どうにかしてレインを落としたいリオールと、弟との関係に悩むレインのオメガバースです。 リオール・グランケット(19)×レイン・グランケット(24) ※この作品は2015年頃に本文を書き、2017年頃にオメガバースに改稿、さらに2026年に手直しした作品になります。読みにくいかもしれません。ご了承ください。 三人称ですが攻めだったり受けだったり視点がよくかわります。攻め視点多めです。

身代わり花婿の従者だった俺を、公爵閣下が主ごと奪っていきました

なつめ
BL
嫁ぐはずだった主人が式直前に姿を消し、従者のルキアンは主家を守るため、主人の身代わりとして花婿役を演じることになる。 だが、冷酷無比と噂される公爵ヴァレシュは、最初の対面から“花婿”ではなく、その横で嘘をついている従者のほうを見抜いていた。 主のために忠誠を差し出し続ける受けと、その忠誠ごと奪い、自分のものにしたい攻め。 身分差、主従、政略、執着、略奪の熱を濃く煮詰めた、じわじわ囲い込まれる主従逆転BL。