91 / 110
第6章
72話
しおりを挟む「ランチェスター侯爵令息夫人イシス様、私がご案内をさせていただきます。どうぞ、こちらでございます」
ナターリエ様のお部屋を出てすぐ、公爵家の家令から丁寧に声をかけられる。
「はい」
──────────
公爵家ともなれば、邸内に牢獄や地下牢のひとつやふたつ…普通にあるもので、私はその地下牢に案内された。
「フェル!」
「来たか、イシス。こちらは問題なく…言われた通りにしてあるぞ。そっちは?」
「ナターリエ様はもう大丈夫よ。何とか無毒化できたわ」
フェルナンド様は何も言わず、ただ私をキュッと軽く抱き締めた。
ふふっ、よくやったと言われているみたい。
もし失敗していたら…とんでもなかったわよね?巻き込んでごめんね。
「彼女は?」
「ダリア・ポートリエ男爵令嬢。公爵家でご令嬢の側付き侍女として、16の時から…もう5年仕えている」
牢屋の中には、先ほどまでナターリエ様に付き添っていた侍女のダリアがいた。
冷たい石床の上に…黙ったまま座り込んでいる。
そう、このダリアこそ、ナターリエ様に毒を盛った犯人。
「5年も側にいたあなたは、ナターリエ様に信頼されていたはず。それなのに…なぜ“毒”を?」
私が問いかけても、ダリアは黙って身動きひとつしない。
「その手には、毒の残留物がわずかに残っていたわ。
そして…ナターリエ様の側にあったコップにも。中の水には毒が入っていたのでは?」
ダリアの肩がガタガタと震え出す。
私がナターリエ様の部屋を視た時、そのことにすぐ気が付いた。
だから…毒入りの水をさり気なく持ち出すであろうダリアを拘束し、ダリアの手とコップの中身を調べるようにフェルナンド様にお願いしておいたの。
毒見された飲食物がナターリエ様の前に運ばれたとしても、ダリアが最後に毒を一振りすればそれで終わりよね。
ナターリエ様の記憶の中で、ダリアはいつも側にいたわ。
「お前の手からも、コップの水からも毒物反応が出た。同じ毒物だ…言い逃れはできないと思え」
ダリアは牢屋の鉄格子にしがみついた。
「わ…私は、…私は…」
「理由があるなら話して。ナターリエ様はご無事だけれど…公爵令嬢の暗殺は未遂でも大罪。
あなたのご家族全員が罪に問われることになるわ」
「…大罪?……私の家族が……」
ダリアは真っ青な顔になって…泣き出した。
「…っ…アンデヴァイセン…伯爵にっ…命令されました」
「…何っ?!…」
“アンデヴァイセン”
…まさか、ここでその名を聞くことになるなんて…
「なぜ、伯爵からそんな命令を?」
「…っ…それはっ…それは…言えません…」
フェルナンド様が詰問するが、ダリアは酷く動揺して頭を左右に激しく振り…答えない。
ユーリス殿下を支持するアンデヴァイセン伯爵家は、エリック殿下派の公爵家とは敵対関係にある。
使用人を雇う際には、当然その辺りの身辺調査をしっかりとしたはず。
ダリアは、いつ…どうして伯爵と繋がったの?
5年も側仕えをしていたナターリエ様を毒殺する命令に…なぜ従ったの?
ダリアの本意でないとするならば、そうせざるを得なかった大きな理由があるはず。
何か弱味を握られていた…とか…?
「ダリア」
私はその名を敢えて呼び捨てた。ダリアはビクリと震えて、無意識に私を見る。
その一瞬の隙を逃さず…ダリアの暗い瞳を捉えた。
「……ぅ…っ…!…」
私が視た彼女の記憶は…真っ黒く塗り潰され…断片的にしか読み取れない。それは、とても苦しく…私にとって酷く不快なものだった。
「イシス!…大丈夫か?!」
あまりの気持ち悪さに座り込んでしまった私を、フェルナンド様が慌てて抱え上げる。
「…フェル…」
「イシス?…涙が…っ…一度ここから出よう!」
「いいえ、いいえ…駄目よ…。…ダリアさん…」
私はフェルナンド様に支えられながら、ヨロヨロと牢屋の前まで行く。
ダリアは怯えた表情で私たちを見ている。
私は鉄格子の間から手を入れ、ダリアに触れようとした。
「…ダリアさん…」
「なっ…何?!…触らないでっ!…」
私の手は拒絶され、あっさりとはたき落とされる。
「…イシス…!!」
…手首に痛みを感じたところで、意識が途絶えた…
…ダリア…
あなたは…
バジルによって尊厳を踏みにじられ…
辱めを受け…傷付いた人…
とても…真っ黒い記憶…
15
あなたにおすすめの小説
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
公爵様のバッドエンドを回避したいだけだったのに、なぜか溺愛されています
六花心碧
恋愛
お気に入り小説の世界で名前すら出てこないモブキャラに転生してしまった!
『推しのバッドエンドを阻止したい』
そう思っただけなのに、悪女からは脅されるし、小説の展開はどんどん変わっていっちゃうし……。
推しキャラである公爵様の反逆を防いで、見事バッドエンドを回避できるのか……?!
ゆるくて、甘くて、ふわっとした溺愛ストーリーです➴⡱
◇2025.3 日間・週間1位いただきました!HOTランキングは最高3位いただきました!
皆様のおかげです、本当にありがとうございました(ˊᗜˋ*)
(外部URLで登録していたものを改めて登録しました! ◇他サイト様でも公開中です)
【完結】元お飾り聖女はなぜか腹黒宰相様に溺愛されています!?
雨宮羽那
恋愛
元社畜聖女×笑顔の腹黒宰相のラブストーリー。
◇◇◇◇
名も無きお飾り聖女だった私は、過労で倒れたその日、思い出した。
自分が前世、疲れきった新卒社会人・花菱桔梗(はなびし ききょう)という日本人女性だったことに。
運良く婚約者の王子から婚約破棄を告げられたので、前世の教訓を活かし私は逃げることに決めました!
なのに、宰相閣下から求婚されて!? 何故か甘やかされているんですけど、何か裏があったりしますか!?
◇◇◇◇
お気に入り登録、エールありがとうございます♡
※ざまぁはゆっくりじわじわと進行します。
※「小説家になろう」「エブリスタ」様にも掲載しております(アルファポリス先行)。
※この作品はフィクションです。特定の政治思想を肯定または否定するものではありません(_ _*))
二度目の子育て~我が子を可愛がったら溺愛されました
三園 七詩
恋愛
私は一人娘の優里亜の母親だった。
優里亜は幼い頃から体が弱く病院でほとんどの時間を過ごしていた。
優里亜は本が好きでよく私にも本の話をしてくれた。
そんな優里亜の病状が悪化して幼くして亡くなってしまう。
絶望に打ちひしがれている時事件に巻き込まれ私も命を落とした。
そして気がつくと娘の優里亜が大好きだった本の世界に入り込んでいた。
お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~
みつまめ つぼみ
ファンタジー
17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。
記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。
そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。
「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」
恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!
侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました
下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。
ご都合主義のSS。
お父様、キャラチェンジが激しくないですか。
小説家になろう様でも投稿しています。
突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!
転生したので推し活をしていたら、推しに溺愛されました。
ラム猫
恋愛
異世界に転生した|天音《あまね》ことアメリーは、ある日、この世界が前世で熱狂的に遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気が付く。
『煌めく騎士と甘い夜』の攻略対象の一人、騎士団長シオン・アルカス。アメリーは、彼の大ファンだった。彼女は喜びで飛び上がり、推し活と称してこっそりと彼に贈り物をするようになる。
しかしその行為は推しの目につき、彼に興味と執着を抱かれるようになったのだった。正体がばれてからは、あろうことか美しい彼の側でお世話係のような役割を担うことになる。
彼女は推しのためならばと奮闘するが、なぜか彼は彼女に甘い言葉を囁いてくるようになり……。
※この作品は、『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。
召喚とか聖女とか、どうでもいいけど人の都合考えたことある?
浅海 景
恋愛
水谷 瑛莉桂(みずたに えりか)の目標は堅実な人生を送ること。その一歩となる社会人生活を踏み出した途端に異世界に召喚されてしまう。召喚成功に湧く周囲をよそに瑛莉桂は思った。
「聖女とか絶対ブラックだろう!断固拒否させてもらうから!」
ナルシストな王太子や欲深い神官長、腹黒騎士などを相手に主人公が幸せを勝ち取るため奮闘する物語です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる