前世の記憶しかない元侯爵令嬢は、訳あり大公殿下のお気に入り。(注:期間限定)

miy

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第9章

133 変化4

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「そうか、レティシアと上手くくっついたか!呪いが解けた上に、恋まで成就したとは…目出度い!よかったなぁ~」

「呪いのために、叔父上には長い間ご心配とご迷惑をお掛けいたしました。今までご助力いただいたご恩は、生涯忘れません」

「何を言う。私はレイが後を引き継いでくれたお陰で、可愛い息子ラファエルを側に置くことができた。素晴らしい出会いに、私もクロエも感謝している」


ユティス公爵は、公爵家の執務室を訪ねて来たアシュリーと談笑していた。


「明日は、ヴィヴィアン殿の茶会だったな。いい報告ができそうじゃないか。今夜は泊まるんだろう?」

「そうですね。レティシアの身支度を公爵家にお願いしておりまして、ドレスも昨日届いているはずです。こちらからそのまま向かおうと思っています」

「一応部屋は用意してあるが…レティシアと過ごすのか?」

「…そのつもりです…」

「うむ、まぁ…知らなかったことにしておく。明日は朝食を一緒にしよう…おっと、うちの邸で初夜は迎えるなよ?」

「…御冗談を。叔父上、実はレティシアを私の邸に住まわせたいと考えておりまして…」

「大公邸に?」


ユティス公爵も君主時代使用していた宮殿近くの大公邸は、現在“女人禁制”とされている。



    ♢



レティシアをラスティア国へ連れて帰ると決まった当初、どこへ住むのかが問題になった。

大公邸には女性の使用人がおらず、男だらけの邸内へ無警戒な彼女を放り込むことなどできない。宮殿勤めの者が使用可能な宿舎は、目が届かない上に施設の設備も最低限、選択肢に入れるまでもなく除外される。
悩んだ末、アシュリーは個人秘書官室へ改装する予定だった部屋に追加で私室を作るようカリムに指示を出した。魔法で出入口のセキュリティを万全にして護衛を付ければ、急場凌ぎにはなる。

そこへ、クロエ夫人から『レティシアを受け入れたい』という有り難い申し出が飛び込んできたため、公爵家へ預けられた。



    ♢



「それは、今住んでいる従者たちと同じ立場として…ではないよな?」

「違います」

「公認の恋人か?」


“公認の恋人”とは、王族が見初めた女性のこと。その多くは刻印を受け、蜜月というお試し期間を経た後に婚約者となる。


「…はい…」

「将来を視野に入れているんだな…レティシアには諸々話したのか?」

「まだ何も…先のことはゆっくり決めたいと…」


触れ合いが先行していた期間限定の関係に終止符を打ち、ようやく気持ちが追いついたばかり。これから二人で育む未来へ向かって、今スタート地点に立ったところだった。


「ほぅ…全く脈ナシでもなさそうだ」

「周りからは、すでに公認の恋人だと思われていたようでした」

「今まで女性を寄せつけなかった難攻不落の大公が、急にレティシアを側に置いたからか」

「…そう見えたんだと思います…」

「用意周到なレイのことだ…迎え入れる準備はしておきたいだろうが、大公邸で急な動きがあれば間違いなくザワつくぞ?水面下で進めるのは相当難しかろうな。婚約に漕ぎ着けるまでは少し堪えて、前のように毎日こっそり通えばいいんじゃないか?魔法陣を使えば一瞬だ。初夜を迎えるとなったら…ぅん…いい別荘を貸そう」

「叔父上は、ご自分が私の立場でしたらどうなさいますか?」

「………一緒に住む…」


ユティス公爵の目が『お前は正しい』と語っている。同じ血を持つ者同士が頷き合い、心が一つになった。


「よし…先ずは、大公邸に女性使用人を雇うところからだ。雇用した半分は住み込みがいいだろう…おかしな者が紛れ込んでも排除できるよう、こちらから各階級の使用人を数人選別して大公邸で臨時雇用する手配をしておこう」

「はい」

「うちの使用人のほとんどは、大公邸での実務経験があるから心配ない。中堅のメイドで仕切れる人材を最低でも二人、いや…三人か、ロザリーと関係性のいい者をクロエに決めさせておく。おそらく、あの子はレティシアにくっついて行くだろうからな」

「ありがとうございます」

「外部から雇う者は、早めに募集をかけておけよ。厨房の担当も増やすといい。住み込み使用人向けの施設は…まだ残してあったか?手直しや準備はクロエに話を聞いて、抜かりなく改修しておくんだ。女性使用人の士気が下がらぬよう配慮は怠るなよ、意外と大事なことだぞ」

「なるほど」

「あの邸は無駄に広い…レイは、まだ女性に立入らせたくない場所があるだろう。禁止区域を明確にして、契約書に記載しておけばより安心だと思うがな。今いる従者以外の使用人には、説明と上下関係、連絡系統をしっかり把握させておく必要があるが…何なら再教育でもしておくか?…近い将来、大公妃を迎えることになるかもしれん」

「…はい…」 


立て板に水の如く、一気に話し出すユティス公爵に圧倒され、アシュリーは相槌を打つのが精一杯。
昔から『身の丈に合う生き方をするだけだ』と言いながら、人一倍周りの者たちを気遣い、面倒見がよく、何を頼んでも手を抜かない人物だった。


「大変…頼もしいです、叔父上」

「ハハハッ…そうかそうか。魔力のないレティシアの部屋はクロエと同じ設えが必要になる、時間が掛かるなぁ…これは忙しくなるぞ~~」


ユティス公爵は、忙しいのを最早喜びに感じている。この人のよさそうな笑顔に、アシュリーは何度も心を救われて来た。




──────────




公爵家が用意してくれた部屋で湯浴みを済ませ、レティシアの部屋へと向かったアシュリーは、扉の前にいたルークから『入浴中』だと聞かされる。


「…あぁ、剣術稽古の後か…」

「はい、中でお待ちになられてはどうでしょうか?」


ルークからは、剣術指導を受けるようになったレティシアの入浴時間が長い…と聞いていた。アシュリーは大人しく室内で待つことにする。

ほどなくして、身体からまだ湯気がホカホカ出ている状態で、バスローブを羽織ったレティシアが姿を現す。介添えをしていたニ人の侍女が、頭を下げて素早く部屋を出て行った。


「殿下、大変お待たせいたしました」

「…いや、急かしてすまない…」

「いいえ、丁度上がるところでしたよ」


上気して赤くなった頰や首元には、しっとり濡れていつもより濃くなったミルクティー色の髪が束になって張りついている。
クリーム色をしたバスローブの胸元から、隠しきれない柔らかそうな胸の谷間と黒い布地が見え…アシュリーは正直目のやり場に困った。


「レティシア、髪を乾かそうか?」

「いいんですか?殿下に乾かして貰うのは久しぶりですね…ふふっ」


今夜のレティシアは、いつものモコモコしたパジャマではなく大人びた雰囲気のピンク色のナイトドレスを着ている。

首筋から胸までのデコルテラインが大胆に見え、襟刳りには小ぶりなフリルがあしらわれていた。レティシアが着ると、形のいい胸の膨らみに光沢のある生地が綺麗に沿って艶めかしく、背中から細くくびれた腰、丸みのある臀部へと流れていくラインが美しい。

アシュリーも部屋に用意された白のナイトガウンに着替えていたが、よく見ると同じ生地が使われている。これはペアのナイトウェアだ。


「…そのドレスと、このガウン…ロザリーか…」

「正解」


室内のトルソーに飾られた…アシュリーの色を纏うデイドレスを見たロザリーは、二人の関係に変化があったと気付いた。


「優秀な侍女だな」

「えぇ…でも、私が風邪をひく心配をして欲しいの」


風通しの良過ぎる首元を、レティシアが手で擦る。アシュリーはいつものように笑いながら、レティシアの髪を秒で乾かした。










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