前世の記憶しかない元侯爵令嬢は、訳あり大公殿下のお気に入り。(注:期間限定)

miy

文字の大きさ
134 / 215
第9章

134 変化5

しおりを挟む


「乾かすのが前より早くなりましたね」


レティシアがあっという間に乾いた髪を撫でて感心していると、アシュリーが徐ろにガウンの腰に巻かれた紐を解き出す。


「…え?」


(…待って…この光景は見た経験がある…)


人前で服を脱ぐことに抵抗のない彼が、ガウンの前合わせを剥いで見せるその筋肉美は…理想の体を描いた芸術作品のよう…しかし、見惚れている場合ではなかった。


「ストップ!殿下、何をしようとしているの?」

「……君が風邪をひくといけない」

「まさか、私にそのガウンを着せようと…」


アシュリーは、レティシアを布で包む変な癖があるのかもしれない。


「も、もう…それを脱がずに、私をあたためる方法があるでしょう…?」


おずおずと両腕を広げるレティシアの姿に、アシュリーの顔がパアッと明るくなる。



    ♢



両想いになってまだ数日。
魔法石の採掘と加工を請け負う遠方施設への視察を半月かけて無事に終えたアシュリーは、時間に余裕ができた。そこで、お茶休憩ティータイムなるものを特別に作ってレティシアの私室に閉じ籠もり、一緒に30分休息を取るようにしている。これにより、昼食ランチタイムが別々でも彼は非常に機嫌がいい。

上司が休憩を取れば、部下も休める。パトリックはゴードンやルークたちと雑談をして過ごしているらしく、いいリフレッシュタイムになっていた。

30分の間、アシュリーはとにかくレティシアに甘い。クッキーや焼き菓子を口に運ぶのは当たり前で、ずっと側に寄り添いながら熱い眼差しを注ぎ続ける。唇や髪に口付けをしては…うれしそうに頬を染めて微笑む乙女感満載な姿に、レティシアは数日で慣れ始めた。



    ♢



「どうかな?」

「…あったかい…」


アシュリーはレティシアを膝の間に座らせて、後ろからすっぽりと包み込んだ。魔法で周りの空気を温め、二人で頬を寄せ合う。鼻先が近付くと、アシュリーの長い黒髪がレティシアの首を擽る。


「ふ…ふふっ」

「…レティシア…」


身体を揺らした途端、レティシアの細い肩からずり落ちそうになったドレスに気付いて、アシュリーがそっと引き上げた。


「…あ…このナイトドレスと殿下のガウン、ロザリーがわざわざ街へ買いに出掛けて選んでくれたらしいんです」

「街へ行ったのか?まぁ、ロザリーらしいな…私たちのことを応援してくれているようだから」

「えぇ…でも、どんな顔をして買ったのかしら?私、これ以上露出度が高くなるといよいよ着るのが無理かも?」

「……全く…同感だ…こっちの気も知らないで…」

「困りましたね…殿下が誘惑に負けない内に、今夜は早く休みましょう」


レティシアは、片手で顔を覆って項垂れるアシュリーの腕の中からスルリと抜け出す。ベッドへと誘われたアシュリーは、手を引くレティシアを抱え上げる。


「わっ!」


あまりの勢いに、高級スリッパが脱げてポトリと床へ落下した。


「…誘惑になら…もう負けている…」




──────────




レティシアに薄い毛布を掛けたアシュリーがパチッ!と数回指を鳴らせば、徐々に室内の灯りが暗くなっていく。


「ちょっとだけ…イチャイチャ…します?」

「ん?…イチャイチャ?」

「…こうやって…くっついて…」


レティシアが身を寄せると、上掛けを引っ張り上げていたアシュリーが薄暗闇の中で黄金色の瞳を向けて来る。その瞳が細くなったかと思うと、何か言おうとして声を詰まらせたのか…グゥッと…獣の唸声のような音が喉の奥から漏れ聞こえた。


「…ちょっと…は、難しい…な…」

「じゃあ、あたためてはくれる?」


アシュリーは、答える代わりに毛布の中のレティシアを抱き締める。
逞しくて硬い筋肉が、柔らかな肌と重なってゆっくりと馴染み…体温を移しながら侵食していく。徐々に強まる拘束に胸を押し潰されて、レティシアはハッと切なく喘いだ。

抱き合うのが、これ程までに鋭く快楽を刺激する行為であるとは知らなかった。淫らな熱で火照った身体が疼いて小さく呻く。


「…ごめん…苦しかった…?」


不意に締めつけが解けて髪を撫でられ、耳元に少し乱れた熱い吐息がかかる。アシュリーは真っ白な首筋へ頬擦りをした後、そのままじっと動かなくなった。


(今『ごめん』って言ったの?)


余裕がないのか、密着してレティシアの反応を逃さず汲み取ろうとする緊張感が伝わって来る。未だに夜会での出来事を気に病んでいるのだろうか?彼に安心して欲しくて、黒髪を優しく撫でた。


「…苦しくないわ…熱くて…気持ちいい…」


アシュリーは顔を上げ、何も言わずにこちらを見ている。暗闇ではレティシアが微笑んでいるのが分からないのかもしれない。そんな気持ちから…アシュリーの頰にそっと触れた。



    ♢



アシュリーはレティシアの指先が頬に触れても、欲望や感情を暴走させずにしっかりと押し留める。

女性に触れた経験がなく、正式な閨指導も受けていないアシュリーは、自慢気な友人の体験談と自ら教育本を読んだイメージ不足の知識しか持っていなかった。
それなのに、レティシアの愛らしい唇に吸いつきたくなり、華奢で白磁のような滑らかな肌を側に抱き寄せたくなる。

妄想だけでは飽き足らず、本能のままに触れ…時に貪り、未熟な姿を何度も露呈してしまっているが、彼女はいつも寛容だった。全てを包み込んで許して癒しを与えてくれる大きな存在は…もう手放せない。



─ チュッ ─



不意に甘い香りがしたかと思うと、レティシアの柔らかな唇が自分のそれに重なる。アシュリーは目を見開いた。



    ♢



「…ん…っ…」


角度を変え…何度も繰り返される止まない口付けは、唇や頬、鼻先へ少しだけ触れては離れていく。レティシアはアシュリーの唇の感触や熱がもっと欲しいのに、物足りなくて…焦れったい。


「…逃げないで…」


心の声が口から漏れ出る。
その言葉を合図に、互いにきつく唇を重ね…吸い合う。下唇を甘噛みされ表面を舌でなぞられたレティシアは、湧き上がる淫猥な欲に思う存分溺れてみたいと思った。

荒々しい息遣いとは真逆で、咥内を丁寧に舌先で愛撫してくる彼を愛しいと感じながら、舌を絡める深い口付けに夢中になっていくレティシアの意識は…濃く漂う魔力香の中で鈍り始める。


「…ふっ……でん…か……ぅン…」


レティシアが塞がれた口の端から掠れた声を出すと、唾液で濡れたアシュリーの唇はあやすように首筋へチュッチュッと吸いつき、そのまま熱い舌が鎖骨を這う。


「…は……甘い…」


そう囁いて…少し汗ばんだ胸の谷間に顔を埋めたアシュリーが、大胆に白肌を食む心地よさに悶え、レティシアは漆黒の長い髪を乱すように撫でて抱え込む。



この夜、アシュリーはレティシアの胸のプルプルを…初めて堪能した。










────────── next 135 翌朝









    
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ストーカー婚約者でしたが、転生者だったので経歴を身綺麗にしておく

犬野きらり
恋愛
リディア・ガルドニ(14)、本日誕生日で転生者として気付きました。私がつい先程までやっていた行動…それは、自分の婚約者に対して重い愛ではなく、ストーカー行為。 「絶対駄目ーー」 と前世の私が気づかせてくれ、そもそも何故こんな男にこだわっていたのかと目が覚めました。 何の物語かも乙女ゲームの中の人になったのかもわかりませんが、私の黒歴史は証拠隠滅、慰謝料ガッポリ、新たな出会い新たな人生に進みます。 募集 婿入り希望者 対象外は、嫡男、後継者、王族 目指せハッピーエンド(?)!! 全23話で完結です。 この作品を気に留めて下さりありがとうございます。感謝を込めて、その後(直後)2話追加しました。25話になりました。

【完結】あなたが私を『番』にでっち上げた理由

冬馬亮
恋愛
ランバルディア王国では、王族から約100年ごとに『裁定者』なる者が誕生する。 国王の補佐を務め、時には王族さえも裁く至高の権威を持ち、裏の最高権力者とも称される裁定者。その今代は、先国王の末弟ユスターシュ。 そんな雲の上の存在であるユスターシュから、何故か彼の番だと名指しされたヘレナだったが。 え? どうして? 獣人でもないのに番とか聞いたことないんですけど。 ヒーローが、想像力豊かなヒロインを自分の番にでっち上げて溺愛するお話です。 ※ 同時に掲載した小説がシリアスだった反動で、こちらは非常にはっちゃけたお話になってます。 時々シリアスが入る予定ですが、基本コメディです。

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

自業自得じゃないですか?~前世の記憶持ち少女、キレる~

浅海 景
恋愛
前世の記憶があるジーナ。特に目立つこともなく平民として普通の生活を送るものの、本がない生活に不満を抱く。本を買うため前世知識を利用したことから、とある貴族の目に留まり貴族学園に通うことに。 本に釣られて入学したものの王子や侯爵令息に興味を持たれ、婚約者の座を狙う令嬢たちを敵に回す。本以外に興味のないジーナは、平穏な読書タイムを確保するために距離を取るが、とある事件をきっかけに最も大切なものを奪われることになり、キレたジーナは報復することを決めた。 ※2024.8.5 番外編を2話追加しました!

異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜

恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。 右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。 そんな乙女ゲームのようなお話。

【完結】ここって天国?いいえBLの世界に転生しました

三園 七詩
恋愛
麻衣子はBL大好きの腐りかけのオタク、ある日道路を渡っていた綺麗な猫が車に引かれそうになっているのを助けるために命を落とした。 助けたその猫はなんと神様で麻衣子を望む異世界へと転生してくれると言う…チートでも溺愛でも悪役令嬢でも望むままに…しかし麻衣子にはどれもピンと来ない…どうせならBLの世界でじっくりと生でそれを拝みたい… 神様はそんな麻衣子の願いを叶えてBLの世界へと転生させてくれた! しかもその世界は生前、麻衣子が買ったばかりのゲームの世界にそっくりだった! 攻略対象の兄と弟を持ち、王子の婚約者のマリーとして生まれ変わった。 ゲームの世界なら王子と兄、弟やヒロイン(男)がイチャイチャするはずなのになんかおかしい… 知らず知らずのうちに攻略対象達を虜にしていくマリーだがこの世界はBLと疑わないマリーはそんな思いは露知らず… 注)BLとありますが、BL展開はほぼありません。

悪役令嬢の心変わり

ナナスケ
恋愛
不慮の事故によって20代で命を落としてしまった雨月 夕は乙女ゲーム[聖女の涙]の悪役令嬢に転生してしまっていた。 7歳の誕生日10日前に前世の記憶を取り戻した夕は悪役令嬢、ダリア・クロウリーとして最悪の結末 処刑エンドを回避すべく手始めに婚約者の第2王子との婚約を破棄。 そして、処刑エンドに繋がりそうなルートを回避すべく奮闘する勘違いラブロマンス! カッコイイ系主人公が男社会と自分に仇なす者たちを斬るっ!

異世界転移したと思ったら、実は乙女ゲームの住人でした

冬野月子
恋愛
自分によく似た攻略対象がいるからと、親友に勧められて始めた乙女ゲームの世界に転移してしまった雫。 けれど実は、自分はそのゲームの世界の住人で攻略対象の妹「ロゼ」だったことを思い出した。 その世界でロゼは他の攻略対象、そしてヒロインと出会うが、そのヒロインは……。 ※小説家になろうにも投稿しています

処理中です...