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ラスティア国2

133 変化4

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「そうか、レティシアと上手くくっついたか!呪いが解けた上に、恋まで成就したとは…目出度い!よかったなぁ~」

「呪いのために、叔父上には長い間ご心配とご迷惑をおかけいたしました。今までご助力いただいたご恩は、生涯忘れません」

「いいや…こちらも、いい息子ラファエルを側に置くことができたよ。素晴らしい出会いに、私もクロエも感謝している」


ユティス公爵は、公爵家の執務室を訪ねて来たアシュリーと談笑していた。


「明日は、ヴィヴィアン殿の茶会だったな。これはいい報告になる。今夜はレティシアのところへ泊まるんだろう?久しぶりか?」

「そうですね。レティシアの身支度を公爵家にお願いしてあるので、こちらからそのまま向かおうと思っています」

「うむ、明日は朝食を一緒にしよう…おっと、うちの邸で初夜・・は迎えるなよ?」

「コホン…迎えません。叔父上…実は、レティシアを…私の邸に住まわせたいと考えているのですが…」


アシュリーの邸とは、ユティス公爵も大公時代に使用していた宮殿近くの…現在“女人禁制”とされている大公邸のこと。



    ♢



ラスティア国へレティシアを連れて帰ると決まった当初、当然ながらアシュリーの邸には女性の使用人が一人もいなかった。
つまり、ロザリーのようにレティシアの身の回りの世話をできる者が存在しない。
レティシアが『別に構わない』と言っても、男だらけの邸で無警戒な彼女が寝間着で廊下を歩く姿が誰の目に留まるかも分からない…そんなことは想像すらしたくなかったアシュリー。

宮殿勤めの者が使用できる宿舎もあるが、目が届かない上に施設の設備も最低限、選択肢としては最下位。
そこで、個人秘書官室&私室をカリムに作るよう指示をした。魔法で出入口のセキュリティも完備、心配がない。

あの私室は、本当に宮殿一人暮らしワンルームマンション仕様だったのだ。

そこへ、クロエ夫人から『レティシアを受け入れたい』という有り難い申し出が飛び込んできたため…アシュリーはレティシアを公爵家へ預けている。



    ♢



「それは、最初に言っていた…従者秘書官として…ではないよな?」

「…はい…」

「公認の恋人?」


『公認の恋人』とは、王族が見初めた女性のこと。
その多くは“刻印”を受け、蜜月というお試し期間を経た後に婚約者となる…別名、シンデレラコース。


「…はい…」

「レティシアには、諸々話したのか?」

「まだです。彼女は、やっと私の想いに応えてくれたところで…健全な付き合いというか、正しく進めていきたいようでした」


特殊な『期間限定』の関係では、今しかないと…触れ合いが先行し過ぎていた。アシュリーも、駆け足気味だった自覚はある。

芽生えたばかりの恋心を大切に育みたいというレティシアと、恋心が育ち過ぎているアシュリーとの付き合いは、先に惚れたアシュリーが譲歩するべき。


「健全で正しくか…ならば、先ずは公認としておくのに異存はなさそうだな」

「えぇ。周りからは、すでに“公認の恋人”だと思われていたようなので」

「ほぅ…今まで女性を寄せつけなかった難攻不落の大公が、急にレティシアを側に置いたから…か」

「そう見えたんだと思います」

「用意周到なレイのことだ…迎え入れる準備はしておきたいだろうが、ちょっと大掛かりになる。水面下では難しかろう。大公邸で急な動きがあれば、周りがザワつくぞ?
婚約に漕ぎ着けるまで、前のように毎日通えばいいんじゃないか?我が邸でも、魔法陣を使えば一瞬だ」

「公爵邸で『は迎えるな』と…仰いませんでしたか?」

「その辺りは…自分で考えろ。いい別荘を貸そうか?」

「叔父上、ご自分が私の立場でしたら…どうされますか?」

「…………一緒に住む」


ユティス公爵の目が『お前は正しい』と語っているのを、アシュリーは視認する。

同じ血を持つ者同士、心が一つになった。


「先ずは、大公邸に女性使用人を雇うところからだ。
雇用した半分は住み込みがいいだろう…おかしな者が紛れ込んでも排除できるよう、こちらから数人を選別して手配しておこう。
うちの使用人のほとんどは、大公邸での実務経験があるから心配ない。中堅のメイドで仕切れる人材を最低でも二人、ロザリーと関係性のいい者をクロエに決めさせておく。おそらく、あの子はレティシアにくっついて行くだろうからな」

「ありがとうございます」

「外部から雇う者は、早めに募集をかけておけよ。厨房の担当も増やすといい。住み込み使用人向けの施設は…まだ残してあったか?手直しや準備はクロエに話を聞いて、抜かりなく改修しておくんだ。女性使用人の士気が下がらぬよう…配慮は怠るなよ、意外と大事なことだぞ。
あの邸は無駄に広い…レイは、まだ女性に立入らせたくない場所があるだろう。禁止区域を明確にして、契約書に記載しておけばより安心だと思うがな。
今いる従者以外の使用人には、説明と上下関係、連絡系統をしっかり把握させておく必要があるが…何なら再教育でもしておくか?…近い将来、大公妃を迎えることになるかもしれん」

「は…はい」 


立て板に水の如く、一気に話し出すユティス公爵に…アシュリーは圧倒される。

昔から『身の丈に合う生き方をするだけだ』と言いながら、人一倍周りの者たちを気遣い、面倒見がよく、何を頼んでも手を抜かない人物。


「…大変…頼もしいです、叔父上」

「魔力のないレティシアの部屋は…そうだな、クロエと同じにしよう。これは忙しくなるぞ~~」


忙しいのを最早喜びに感じている…アシュリーは感服するばかり。その人のよさそうな笑顔に、何度も心を救われてきた。


「私にここまでやらせておいて、上手くいかなかったら…承知せんぞ?」

「レティシアを手放しはしません…が、異世界では『恋愛と結婚は別物だ』と話していたので…一筋縄ではいかないかと」

「別物?…まぁ…28歳だからな…」

「…叔父上からその言葉セリフを聞くとは…」

「…ぅん?」




──────────




公爵家の執務室を出た後、レティシアの部屋へと向かったアシュリーは、扉の前にいたルークから『入浴中』だと聞かされる。


「あぁ、剣術稽古の後か」


ルークからの報告で、剣術指導を受けるようになったレティシアの入浴時間が長くなっている…と知っていたアシュリーは、大人しく室内で待つ。




「…急かしてすまない…」


身体からまだ湯気がホカホカ出ている状態で、バスローブを羽織っただけというレティシアの姿に、アシュリーは思わずそう言葉を発していた。

しっとり濡れていつもより濃くなったミルクティー色の髪が、上気して赤くなった頰から首元にかけ…束になって張りついている。


「いいえ、丁度上がるところでしたよ?」


クリーム色をしたバスローブの胸元から、隠しきれない柔らかそうな胸の谷間と黒い布地が見え…アシュリーは目のやり場に困ってしまう。


「…叔父上と話をしてから来たんだが、少し早く来過ぎたみたいだ…」


介添えをしていたニ人の侍女にレティシアが会釈をすると、頭を下げて気配を消したまま部屋を出て行く。



    ♢



「レティシア、髪を乾かそう」

「殿下に乾かして貰うのは、久しぶりですね」


レティシアはいつものモコモコパジャマではなく、大人びた雰囲気のナイトドレスを着ていた。


首筋から胸までのデコルテラインが大胆に見え、肩に辛うじて引っかかっている襟刳りには、小ぶりなフリルがあしらわれている。
簡単に脱げてしまいそうで…イケナイ男の妄想を掻き立てる煽情的なドレスは、ピンク色。

レティシアが着ると、形のいい胸の膨らみに光沢のある生地が綺麗に沿って艶めかしく、背中から細くくびれた腰、丸みのある臀部へと流れていくラインが美しい。


アシュリーも用意された白のナイトガウンに着替えていたが、よく見ると同じ生地が使われている。


「………ロザリーか…」

「正解」


室内のトルソーに飾られた…アシュリーの色を纏うデイドレスを見たロザリーは、二人の関係に変化があったことに気付いた。


「優秀だな」

「私が風邪ひく心配をして?」


風通しの良過ぎる首元を、レティシアが手で擦る。


「ハハッ!」


笑いながら…アシュリーはレティシアの髪を秒で乾かす。










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