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番外編置き場
そうだ、隣国に行こう!【2巻発売記念SS】
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「ミラ、今度の隣国への視察なんだけど、一緒に行かないか?」
爽やかな笑顔でミラを誘うのは、シュテンメル王国の第二王子であるレグルスだ。
この春、二人は学園を無事に卒業した。
学園生活の一年目は始めから終わりまで何かと色んなことがあって盛りだくさんだったが、二年目は平和なものだった。多分。
今はのどかなバートリッジ公爵邸に滞在しており、庭園でのんびりとティータイムを楽しんでいる。
「いいの? 隣国って、あの」
「ああ。滞在するのはリシャール公爵邸の予定だよ。たしか、ヴァイオレット夫人とミラは仲が良かったよね」
ミラがおずおずと尋ねると、レグルスは爽やかに返事をする。
輝かしい銀の髪に透き通る青紫の瞳。
その容貌はますます大人びて、美少年はすっかり美青年へと変貌を遂げていた。
それにしても、隣国。
以前むこうから客人としてリシャール公爵家の方々が訪ねて来たことはあったが、まだ行ったことはなかった。
ヴァイオレット――リシャール公爵夫人はミラにとってもとても縁がある人物であることをその際のお茶会で知った。
彼女はミラの前世の親友で、今世のミラを突き動かす原動力にもなった人だ。
前世での彼女の死がミラに与えた後悔により、ミラは今世の親友であるスピカを守りたいと強く思った。
それが怒涛の乙女ゲーム展開に繋がってゆくとは、ミラ自身も微塵も思わなかったことではある。
「……嫌、だろうか」
考え事をしていると、返事をするのが遅れてしまった。まるで渋っているようなミラの様子に、レグルスの声色は少し落ち込んでいる。
垂れた耳と尻尾が見えるようだ。
「行きたい! お仕事のお邪魔じゃなければ、絶対に行きたいな」
隣国。すーちゃんのいる所。
知らない食材に出会えるチャンス。
行かない訳がない。
「邪魔なはずないだろう。ミラがいれば、俺ももっと頑張れる」
「う……そ、そう? ありがとう」
「ヴァイオレット夫人をダシにしたような誘い方をしてしまったが、本当は俺が一緒に来て欲しかったんだ」
「うん……」
「だから、嬉しい」
「……わ、私も、楽しみ……」
きらきらと嬉しそうにはにかむ王子を前に、ミラは消え入るような声でなんとかそう言った。
レグルスはこうして真っ直ぐに物事を伝えて来るので、いつもミラはたじたじになってしまう。
「じゃあ、その方向で進めておく。実は叔父上にも事前に承諾はもらっているんだ」
「そうなの? 良かった。隣国って、お花が綺麗なんだよね、たしか」
「花の国とも呼ばれているからな。特にリシャール公爵邸の庭園は圧巻だそうだ」
「そうなんだ! 早く行きたいね!」
春の柔らかな風が頬を撫でる。
春といえば、桜。この庭園でも春の花々が賑やかに咲いてはいるけれど、桜はない。
でも、花の国とまで呼ばれる隣国にはあるかもしれない。そうしたら。
「桜餅が作れる」
「サクラモチ……?」
「桜の花と葉を塩漬けにしたものを使った和菓子なんだけど、桜の香りのする淡い桃色の生地に餡子が挟まれててとってもおいしいの」
ミラが慣れ親しんだ桜餅の形状は道明寺粉を用いたつぶつぶしたものだけれど、それに似たものはまだ見つかっていない。
だが、クレープ状のものならば再現は可能だ――桜さえあればの話だけど。
塩漬けが見つかるかもしれない。そんな淡い期待がむくむくと胸中に広がってゆく。
「他にも、ロールケーキとか色々アレンジできるし、色もかわいいんだよ」
「ロールケーキ。それも美味しそうだ」
「ふふ、楽しみだねぇ」
「ああ。時間を作るから、一緒に出かけたりもしよう」
「あ、じゃあ前みたいに、町に行きたいな」
「うん。ミラの望むとおりに」
――隣国の食文化に胸を踊らせるミラの様子を、レグルスは目を細めながら眺める。
彼女はきっとまた、美味しいものをたくさん作ってくれるに違いない。
そしてそれを振る舞ってくれる時の、満面の笑顔がとても好きだ。
そんなミラと共に隣国に行くことが出来るのを、レグルスも今か今かと待ち遠しく思う。
数週間後。
どこからかその話を聞きつけた者たちが、ひっきりなしに公爵邸を訪れる。
「ねえちょっとミラ! 隣国に行くならわたしも行きたい!! 楽しそう!!」
「スピカが行くなら、僕も行こうかなあ。ちょうど息抜きもしたいしね」
「隣国!?!? あの、花冠の舞台!? わたくしも行きたいですわ」
「レグルス! 私は来月は政務が立て込んでいて行けないのだが……! アーク、なぜお前は早々に休暇を出すんだ」
「えーーっ、ミラたちが皆で行くなら私も行きたいわ! バーベナやフェルとも会いたいし」
「……アナベル様。フェルとは一体どなたですか? 随分と親しいのですね?」
隣国へ向かう旅団は、かつてないほど大人数になってしまったとか。
おわり
――――――――
【お知らせ】
全員集合!な番外編でした。
最後の会話、誰が誰だか伝わるでしょうか…!
『モブなのに』書籍2巻&コミックス1巻がでます。(詳細は近況ボードに)
概ね4月1日発売のようですが、もう発売されている店舗もあるようで、うおおと興奮しております。
学園編が完結する2巻まで出せたのもこれもひとえに、読者の皆さまの応援のおかげです……!!
盛りだくさんな学園一年目を詰め込んでおります。
これまでミラたちの物語にお付き合いいただき、本当にありがとうございました!!!!
2022.3.30 ミズメ
爽やかな笑顔でミラを誘うのは、シュテンメル王国の第二王子であるレグルスだ。
この春、二人は学園を無事に卒業した。
学園生活の一年目は始めから終わりまで何かと色んなことがあって盛りだくさんだったが、二年目は平和なものだった。多分。
今はのどかなバートリッジ公爵邸に滞在しており、庭園でのんびりとティータイムを楽しんでいる。
「いいの? 隣国って、あの」
「ああ。滞在するのはリシャール公爵邸の予定だよ。たしか、ヴァイオレット夫人とミラは仲が良かったよね」
ミラがおずおずと尋ねると、レグルスは爽やかに返事をする。
輝かしい銀の髪に透き通る青紫の瞳。
その容貌はますます大人びて、美少年はすっかり美青年へと変貌を遂げていた。
それにしても、隣国。
以前むこうから客人としてリシャール公爵家の方々が訪ねて来たことはあったが、まだ行ったことはなかった。
ヴァイオレット――リシャール公爵夫人はミラにとってもとても縁がある人物であることをその際のお茶会で知った。
彼女はミラの前世の親友で、今世のミラを突き動かす原動力にもなった人だ。
前世での彼女の死がミラに与えた後悔により、ミラは今世の親友であるスピカを守りたいと強く思った。
それが怒涛の乙女ゲーム展開に繋がってゆくとは、ミラ自身も微塵も思わなかったことではある。
「……嫌、だろうか」
考え事をしていると、返事をするのが遅れてしまった。まるで渋っているようなミラの様子に、レグルスの声色は少し落ち込んでいる。
垂れた耳と尻尾が見えるようだ。
「行きたい! お仕事のお邪魔じゃなければ、絶対に行きたいな」
隣国。すーちゃんのいる所。
知らない食材に出会えるチャンス。
行かない訳がない。
「邪魔なはずないだろう。ミラがいれば、俺ももっと頑張れる」
「う……そ、そう? ありがとう」
「ヴァイオレット夫人をダシにしたような誘い方をしてしまったが、本当は俺が一緒に来て欲しかったんだ」
「うん……」
「だから、嬉しい」
「……わ、私も、楽しみ……」
きらきらと嬉しそうにはにかむ王子を前に、ミラは消え入るような声でなんとかそう言った。
レグルスはこうして真っ直ぐに物事を伝えて来るので、いつもミラはたじたじになってしまう。
「じゃあ、その方向で進めておく。実は叔父上にも事前に承諾はもらっているんだ」
「そうなの? 良かった。隣国って、お花が綺麗なんだよね、たしか」
「花の国とも呼ばれているからな。特にリシャール公爵邸の庭園は圧巻だそうだ」
「そうなんだ! 早く行きたいね!」
春の柔らかな風が頬を撫でる。
春といえば、桜。この庭園でも春の花々が賑やかに咲いてはいるけれど、桜はない。
でも、花の国とまで呼ばれる隣国にはあるかもしれない。そうしたら。
「桜餅が作れる」
「サクラモチ……?」
「桜の花と葉を塩漬けにしたものを使った和菓子なんだけど、桜の香りのする淡い桃色の生地に餡子が挟まれててとってもおいしいの」
ミラが慣れ親しんだ桜餅の形状は道明寺粉を用いたつぶつぶしたものだけれど、それに似たものはまだ見つかっていない。
だが、クレープ状のものならば再現は可能だ――桜さえあればの話だけど。
塩漬けが見つかるかもしれない。そんな淡い期待がむくむくと胸中に広がってゆく。
「他にも、ロールケーキとか色々アレンジできるし、色もかわいいんだよ」
「ロールケーキ。それも美味しそうだ」
「ふふ、楽しみだねぇ」
「ああ。時間を作るから、一緒に出かけたりもしよう」
「あ、じゃあ前みたいに、町に行きたいな」
「うん。ミラの望むとおりに」
――隣国の食文化に胸を踊らせるミラの様子を、レグルスは目を細めながら眺める。
彼女はきっとまた、美味しいものをたくさん作ってくれるに違いない。
そしてそれを振る舞ってくれる時の、満面の笑顔がとても好きだ。
そんなミラと共に隣国に行くことが出来るのを、レグルスも今か今かと待ち遠しく思う。
数週間後。
どこからかその話を聞きつけた者たちが、ひっきりなしに公爵邸を訪れる。
「ねえちょっとミラ! 隣国に行くならわたしも行きたい!! 楽しそう!!」
「スピカが行くなら、僕も行こうかなあ。ちょうど息抜きもしたいしね」
「隣国!?!? あの、花冠の舞台!? わたくしも行きたいですわ」
「レグルス! 私は来月は政務が立て込んでいて行けないのだが……! アーク、なぜお前は早々に休暇を出すんだ」
「えーーっ、ミラたちが皆で行くなら私も行きたいわ! バーベナやフェルとも会いたいし」
「……アナベル様。フェルとは一体どなたですか? 随分と親しいのですね?」
隣国へ向かう旅団は、かつてないほど大人数になってしまったとか。
おわり
――――――――
【お知らせ】
全員集合!な番外編でした。
最後の会話、誰が誰だか伝わるでしょうか…!
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概ね4月1日発売のようですが、もう発売されている店舗もあるようで、うおおと興奮しております。
学園編が完結する2巻まで出せたのもこれもひとえに、読者の皆さまの応援のおかげです……!!
盛りだくさんな学園一年目を詰め込んでおります。
これまでミラたちの物語にお付き合いいただき、本当にありがとうございました!!!!
2022.3.30 ミズメ
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