モブなのに巻き込まれています ~王子の胃袋を掴んだらしい~

ミズメ

文字の大きさ
51 / 53
番外編置き場

寒い日には【コミックス2巻発売記念SS】

しおりを挟む
前回感極まったあとがきでしめましたが、また番外編を追加します!

ミラレオの距離感は学園編開始前あたり、とても寒い冬の日です(今日さむいですね)


□□□□□□□□



「ミラ……これはなんだ?」

 ある冬の日。いつもどおりに食堂を訪ねてきたレオは、その物体を指さしながら不思議そうな顔をした。

 そんな彼の頬や鼻の頭もほのかに赤く色付いていて、外気の冷たさが伝わってくる。

 今日は朝からシンシンと冷え込んでいて、さらには風もとても強い。
 今夜は雪でも降るのではないかという話を、ちょうどリタさんともしていたところだ。

「あっ、それはねえ~、ふふ、後で持っていくからお楽しみに!」

 私はほくほくとした顔で彼らにそう答えた。
 レオの後ろにはセイさんがいて、彼もまた、怪訝な顔をしていたからだ。

 二人が通ってきた食堂の裏口には、大きな木箱がふたつ鎮座している。
 そしてその箱に刻まれているのは、「ダムマイアー商会」の文字と、見知らぬ異国の言語だ。

「この言語は……東国のもののような気がする。複雑な言語で、解読が……」
「うーん。さすがレオ様ですね。私は初めて目にします」

 見るからに怪しい箱に、レオとセイさんの視線は奪われている。

「ほら、セイ! さっさとレオ様を上に連れて行って。レオ様も、せっかくのお忍びが騒ぎになっちゃいますよ~? 特別な品、食べられなくてもいいんですかぁ~?」

 調理場から二人に間延びした声を飛ばすのはイザルさんだ。もうすっかり焼き場が板についていて、話しながらもひょいひょいとお好み焼きをひっくり返している。

「む。それもそうだな。ではミラ、先に行って待っている」
「うん! 頑張って作るから待ってて」
「っ、ああ」
「……レオ様は、いつまでもピュアですね。かわいらしいです」
「セイ、聞こえているぞ」
「おや。すいません、つい」

 なにやら不穏な空気になりながら話している主従コンビは、そのまま二階の部屋へと向かってゆく。

 あの仲良しな二人が、スピカが言うところの乙女ゲームのシナリオでは全く雰囲気が違うというのだから、未だに信じられない。

(よし、まずは……)

 私は例の木箱からガサガサととある物を取り出した。
 割れないように厳重に包まれた紙から出てきたのは、ふっくらとした温かみのある土造りの厚めの鍋。それに、揃いの蓋が付いている。

 まさしく土鍋である。それも、ひとり用の小さな小鍋。

 この前訪ねた公爵領の朝市で見つけたこの土鍋に一目惚れしてしまい、戻ってくるなりイザルさんやメラクくんに相談した。
 すると、商会長のオットーさんまで巻き込んでの商談がすぐに行われ、シュテンメル王国のずっと東にある国の特産品である土鍋がこうして手に入ったのだ。

(ふふ、この土鍋を初めて見た時から、何を作るかは決めてたんだよね)

 ――びっくりしてくれるかな?

 私はレオたちが喜ぶ姿を想像しながら、ほこほこと湯気が上がる土鍋に、そっと蓋をした。

◇◇◇

「お客様、お待たせしました~~!」

 レオとセイさんが待つ部屋に、陽気に飛び込んで行ったのはイザルさんだ。
 熱々の土鍋を運ぼうとしていたら、手伝いを申し出てくれた。土鍋は重いので、とても助かる。
「じゃー俺もセイの横! ほらほら詰めて詰めて~。ミラちゃんの分はここに置いておくね」
「ありがとうございます」

 流れるように鍋を置き終えたイザルさんは、自然な流れでセイさんの隣へと座る。
 私もいつものように、レオの横に腰かけた。

「これは……?」

 目の前に置かれた土鍋に、レオは目を瞬かせる。

「これがあの木箱に入っていたものなの。土鍋っていうんだけど」
「ドナベ……」
「今は熱々だから、素手で触ったら危ないから気を付けてね。えっと、この鍋つかみで――」

 私はレオの前にある土鍋の蓋に手をかける。
 そのまま持ち上げると、溜まっていた湯気がおいしい香りと一緒に溢れ出た。

「わ……、すごい湯気ですね」
「熱そーー! うまそーー!」

 驚いているセイさんとイザルさんの顔が湯気の向こう側だ。もし私が眼鏡をかけていたら、視界不良になっていたことだろう。

「ミラ……これは、うどん……?」
「そう。鍋焼きうどんっていうの。この土鍋を見た時から、どうしても作りたくて!」
「ナベヤキ。とても美味しそうだ」
「ええ、これはまた、魅力的な見た目です」

 レオとセイさんが鍋を覗き込むように観察して、ぱちぱちと瞬きを繰り返している。
 お出汁の香りと、ふくふくのうどん麺。天ぷらは半分はつゆを吸ってぷわぷわで、そこに香草の緑が映える。
 キノコや彩りの人参も載せて、仕上げに真ん中に落とした卵は、白く色づいてちょうど半熟の頃合いだ。

(うん、とっても美味しそう。よかった~)

 我ながら会心の出来栄えだ。昨日何度か試作した甲斐があったと嬉しくなる。

 ……となると、気になるのは味の感想だ。

 私は三人の反応をじっと待つ。

 中央の卵を割って黄身を蕩けさせたり、海老天から頬張ったり、先にスープを飲んだりとその食べ方は様々だ。

 固唾を飲んで見守る私を尻目に、三人は無言のまま二口三口と食べ進める。

 一様にうどんをちゅるりと啜ったあと、

「ミラ、とても美味しい!」
「ミラ様、すごく美味しいです」
「ミラちゃん天才じゃん!?」

 三人は揃えたように笑顔を見せた。

「良かったです。最近寒いので、温まるものをと思って」
 
 レオたちの笑顔に、私はほっと胸を撫で下ろす。
 そして、自分でも鍋焼きうどんを啜ってみて、美味しく出来ている事に安堵した。

 味見や試作をしていても、人に食べてもらうとなると、毎回ドキドキしてしまう。それでも、美味しいものを食べて綻んだ顔を見るのがたまらなく好きだ。

 それから、はふはふとみんなで仲良く鍋焼きうどんを食べ、最後には昨日仕込んでいた土鍋プリンもデザートに出したら瞬殺だった。






「ミラ、いつもありがとう。とても美味しかったし、温まった。まだぽかぽかしている」

「そう言ってもらえて嬉しいなあ。ふふ、相変わらずあの二人はレオにも手厳しいんだね」

 帰り際、レオからそう声をかけられて、わたしもつられて笑顔になる。

 三人で争うように土鍋プリンを食べていた姿を思い返して、私はまた笑ってしまう。レオは王子様だというのに、あの二人は全く遠慮がない。

(そういえば、食べ物が絡む点に関してはスピカも同じだなぁ。ふふ、みんな食いしん坊なんだから)

「ミラも春からは学園に通うのだろう?」
「うん、そのつもりだよ。そうしたら、一緒だね。楽しみだなぁ~」
「あ、ああ……! 楽しみだな」

 年が明けて春が来たら、私もスピカやレオたちと同じ学園に通う予定だ。

(まあ、私はみんなとは違って普通クラスなんだけど)

 私はほぼ貴族で構成されるクラスには行かず、通常のクラスを選択した。のんびりまったりしようと思ってのことだ。

 ――この時にその事をちゃんと説明しなかったことで、後々レオを大いにがっかりさせてしまうことになるだなんて、勿論私が知るはずもない。(スピカにも怒られる羽目になった)

「じゃあ……ミラ、また会おう」
「レオ、お仕事頑張りすぎて風邪ひかないようにね!」
「うん、ありがとう」


 寒風が吹き荒れる中でも、心と体はぽかぽかに満たされた私たちは、また会うことを約束して手を振ったのだった。



□□□□□□□□
お読みいただきありがとうございます。

学園編に入るすこーし手前のお話です!

本日『モブ巻き』コミックス2巻が発売されました!2巻も最高に美味しそうでかわいいのでぜひぜひ見てくださいね♥
いつも応援ありがとうございます。いただいた感想を定期的に読み返し、染みています…!!!

寒い日が続きますが、皆様お元気でお過ごしください。私は元気です!

あっ、来月上旬に書籍2巻が文庫化されます。
書き下ろし番外編もつきでお値段も半額、とってもお得ですのでぜひ(宣伝)

2022.12.23   ミズメ



しおりを挟む
感想 863

あなたにおすすめの小説

【完結】お花畑ヒロインの義母でした〜連座はご勘弁!可愛い息子を連れて逃亡します〜+おまけSS

himahima
恋愛
夫が少女を連れ帰ってきた日、ここは前世で読んだweb小説の世界で、私はざまぁされるお花畑ヒロインの義母に転生したと気付く。 えっ?!遅くない!!せめてくそ旦那と結婚する10年前に思い出したかった…。 ざまぁされて取り潰される男爵家の泥舟に一緒に乗る気はありませんわ! アルファポリス恋愛ランキング入りしました! 読んでくれた皆様ありがとうございます。 *他サイトでも公開中 なろう日間総合ランキング2位に入りました!

【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~

降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

【完結】僻地の修道院に入りたいので、断罪の場にしれーっと混ざってみました。

櫻野くるみ
恋愛
王太子による独裁で、貴族が息を潜めながら生きているある日。 夜会で王太子が勝手な言いがかりだけで3人の令嬢達に断罪を始めた。 ひっそりと空気になっていたテレサだったが、ふと気付く。 あれ?これって修道院に入れるチャンスなんじゃ? 子爵令嬢のテレサは、神父をしている初恋の相手の元へ行ける絶好の機会だととっさに考え、しれーっと断罪の列に加わり叫んだ。 「わたくしが代表して修道院へ参ります!」 野次馬から急に現れたテレサに、その場の全員が思った。 この娘、誰!? 王太子による恐怖政治の中、地味に生きてきた子爵令嬢のテレサが、初恋の元伯爵令息に会いたい一心で断罪劇に飛び込むお話。 主人公は猫を被っているだけでお転婆です。 完結しました。 小説家になろう様にも投稿しています。

料理スキルで完璧な料理が作れるようになったから、異世界を満喫します

黒木 楓
恋愛
 隣の部屋の住人というだけで、女子高生2人が行った異世界転移の儀式に私、アカネは巻き込まれてしまう。  どうやら儀式は成功したみたいで、女子高生2人は聖女や賢者といったスキルを手に入れたらしい。  巻き込まれた私のスキルは「料理」スキルだけど、それは手順を省略して完璧な料理が作れる凄いスキルだった。  転生者で1人だけ立場が悪かった私は、こき使われることを恐れてスキルの力を隠しながら過ごしていた。  そうしていたら「お前は不要だ」と言われて城から追い出されたけど――こうなったらもう、異世界を満喫するしかないでしょう。

【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件

三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。 ※アルファポリスのみの公開です。

国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします。

樋口紗夕
恋愛
公爵令嬢ヘレーネは王立魔法学園の卒業パーティーで第三王子ジークベルトから婚約破棄を宣言される。 ジークベルトの真実の愛の相手、男爵令嬢ルーシアへの嫌がらせが原因だ。 国外追放を言い渡したジークベルトに、ヘレーネは眉一つ動かさずに答えた。 「国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします」

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。