家を乗っ取られて辺境に嫁がされることになったら、三食研究付きの溺愛生活が待っていました

ミズメ

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「こんにちは、ライラ。今度は何の研究をしているの?」

 薬草を刻んで他の薬品と調合していると、ライラにそんな声がかかった。
 ぐるぐるとかき混ぜている内に、青色の薬草と赤色の液体がとろりと混ざり、融合して紫色へと変わってゆく。

 ライラはかき混ぜる手を一旦止めて、顔を上げた。

「こんにちは。今日はフォンも研究できるんですね」
「しばらく来れなかった分も今からがんばるよ」

 ライラに質問した冴えない白衣の男――フォンが研究室にくるのは一週間ぶりだ。

(あ、そうです。質問に答えなくては)

 彼に挨拶を済ませたライラは、先程の質問に答えることにした。

「えっと……以前 私が発明した<髪の色を変える魔法薬モービリス>がありますよね? その薬品に含まれる""薄毛""の副作用を、どうやって抑えようかと考えているのです」

 紺色の髪は緩やかなひとつ結びの三つ編みに結い、大きな丸硝子の眼鏡は彼女の黄色の瞳を覆い隠している。
 貴族令嬢ではあるものの、飾り立てもせずに謎の研究に没頭する変わり者だ。
 そう揶揄されていることは、ライラ本人も知っていた。

「う、薄毛……?」

 フォンはライラの予想外の回答に非常にたじろいだ。
 もっさりとした鳶色の前髪に隠れた眼鏡も、少しズレたように思える。

(フォンったらどうしたのでしょう。でもそうですね、薄毛の副作用があるだなんて、由々しき事態ですもの)

 ライラは心の中でそう頷いた。

 ――剣と魔法の国エルサトレド王国。ここは、その王宮の広大な敷地内にある離宮に設けられた薬学研究室だ。

 以前の居住者にそういった趣味があったのか知らないが、ライラが初めてこの場所に足を踏み入れた時、離宮の周囲は自然の薬草園と化していた。

 興味のないものにはただの雑草や雑木が生い茂った寂れた宮に見えただろうが、ライラにとってはまるで楽園かと思えた。

 ライラ・ハルフォードは薬学をこよなく愛している。

 限られた者しか扱えない治癒魔法とは違い、薬学の可能性は無限大だ。亡き母の影響で薬学を始めたライラはめきめきと実力を伸ばし、治療薬を作ることもあれば、楽しい効果のある魔法薬を作ることもある。

 とはいえ、その地位は魔導士や治癒士と比べれば目立たないものだ。

 眼鏡とおさげがトレードマークの地味な伯爵令嬢が、寂れたとはいえ王宮の一角のこのような場所に研究室を構えているのは、ひとえに友人のリカードのおかげである。

 公爵家の次男であるリカードとは学園で出会った。
 貴族子息といえばキラキラギラギラしていそうなものだが、彼はそれらとはどこか一線を画していた。

『君さあ、面白い研究してるんだって? 俺も混ぜてよ』

 研究のために毎日のようにライラが行っていた化学室に突如として現れたリカードは、ライラと同じく薬学を志す者だった。
 お互い貴族としては異端ではあるが、楽しいので仕方がない。

 ライラの怪しい実験にも付き合ってくれて、リカードの鮮やかな赤髪の先がグレーになった事もあった。

 そんなリカードとは良き友人となり、研究し放題の学園生活を満喫した後は彼と共に王宮に薬師として就職した。
 そして、ライラには及びもつかない家の力(多分公爵家の権力)とコネを駆使し、ここに独立した研究室を構えてくれたのだ。

 ここで作業をするのは、ライラとリカード。それからリカードの友人だというフォン。
 たったの三人ではあるが。この研究室から生み出される魔法薬は、治癒魔法が行き届かない民にとってはなくてはならないものとなっている。
 
 リカードからフォンを紹介された時は多少よそよそしい空気にはなったものの、数日共に過ごせば分かった。
 もっさり眼鏡のフォンも、ライラたちと同じく薬学オタクだったのだ。

 そうなれば話は早い。その出会いから一年程経つが、ライラとリカードとフォンは毎日楽しく研究と実験を繰り返している。

    フォンの仕事はとても丁寧で、正確に計算された魔法薬は効き目もいい。彼が作った回復薬ポーションはリカードの古傷をたちまち治してしまうほどの効能があった。
 素晴らしい功績があるにも関わらず、決して驕らず、常に冷静で穏やかなフォンとの時間をライラはとても気に入っていた。

 ライラの発明する突飛な魔法薬にも冷静に助言をくれるため、研究がとても捗るのだ。(リカードとやると大体がお互いに暴走してとんでもないものが完成する)

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