家を乗っ取られて辺境に嫁がされることになったら、三食研究付きの溺愛生活が待っていました

ミズメ

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 そうだ、とライラは研究室に向かおうとしていた足を止めた。

「あの、ゲルティ叔父様。最後にひとつだけお話がございます」
「ふん。いいだろう、聞いてやる。今さら婚約を取り消したりはしないからな……!」

 のっしとふんぞり返ったまま、ゲルティは尊大な態度でそれに応えた。
 先ほどライラの表情が曇ったのを見て、溜飲を下げたらしく、満足気にしている。

 どうやら話は聞いてくれるらしいことに安堵したライラは、一拍置いて話し始めた。

「――数ヶ月前、叔父様が私が制作中だった<髪の色を変える魔法薬モービリス>を研究室から持ち出されたと思うのですけれど。その後も数回。直近だと一昨日でしたか」
「は、何を言う。言いがかりも甚だしい。そんなものは盗んでいない!」

 ゲルティは薄ら笑いを浮かべたままその疑惑を否定すると、ライラを睨みつけた。

 魔法薬の瓶が減っていた理由――ライラが目星をつけていたのはまさにこのゲルティだった。
 瓶が減るのは、決まってライラの元に伯爵家からだという差し入れを持ってメイドが現れる日だ。
 その時に限ってライラは訪問者がきていると言われて門番の兵士に呼ばれ、行った先には誰もいない。
 そんなことが何度も続けばいくらライラが鈍くても気がつく。あまりにも雑なので、フォンやリカードも不思議そうにしていた。

(やはり認めませんね)

 当然否定するだろうと思ってはいたため、ライラも特に驚きはしない。本題はそちらではないからだ。

「……そうですか。では叔父様は使っていないのですね。良かったです。一昨日盗まれた瓶に入っていたものは、実は薄毛になる成分を特に濃く抽出したものでして。うっかりいつもの魔法薬と瓶を間違ってしまいました。盗んだ方が飲んでいたら大変なことになる所でしたので、ひと安心です」
「えっ」
「では私はこれで。ああ、本当に良かったです。本日 叔父様にお会いするまで気が気じゃなかったので、ふさふさなご様子を見て安心しました。一応その効果を打ち消すための発毛剤もお持ちしていましたが、不要でしたね」

 ゲルティの緑髪は未だ健在だ。当然副作用は直ぐに出るものではなかったりするが、飲んでいないと言い張るのであれば当然大丈夫だろう。

(もう、帰りましょう)

 そう思ったライラがくるりと踵を返そうとすると、腕を強く掴まれた。

「ちょ、ちょっと待て、ライラ。いつからだ?」
「いつから……とは?」
「あの瓶の中身だ! 青色の液体はどっちなんだ!」

 切羽詰まった様子のゲルティのぶ厚い手にはギリギリと力がこもり、ライラは苦痛に顔を歪める。
 離してください――そう言おうとした所で、一気に身体の負担が軽くなった。
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