家を乗っ取られて辺境に嫁がされることになったら、三食研究付きの溺愛生活が待っていました

ミズメ

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 突然の事態に、会場はにわかにざわついた。

 その異変はライラ達の近くにいた者たちから徐々に伝わり、誰もがこちら側を見ている。
 心配そうな顔をする者、無関心を決め込む者、見世物が始まったと好奇の目を向ける者とその反応は様々だ。

 ギディングス公は、辺境伯の名だ。
 確か齢六十程で、彼とライラとは孫と言ってもいいほど歳が離れている。

 実際に娘もいたはずで、そうすると、ライラは後妻という立ち位置になる。

「お義姉さま、おめでとうございますっ!」

「分かったわね、ライラ。あなたを娶ってくださるギディングス公のためにもはやく荷物をまとめなさい」

 叔父家族がニタニタと笑みを浮かべる様子からすると、もはやこの決定は覆せず、王家の了承も得ているのだろう。


(これが終わったら、モフマールを撫でに行きましょう。そうしましょう。辺境の地に連れて行っても大丈夫でしょうか)

 居心地のいい研究室。気の合う仲間。どうやらそれももうお別れだ。

 辺境の地は寒冷だと聞く。
 体毛の多いモフネズミならば問題はない。せめてもの思い出に、モフマールだけでも。

「――わかりました」

 ライラは前を向いた。

 考えてみれば、確かに家を出るためには必要な婚姻かもしれない。

 高齢のギディングス公がどういった意図でライラを所望したのかは分からないが、わざわざ""変わり者令嬢""を選んだくらいだ。理由があるはず。

(そうです。もしかしたら、治療薬をお望みなのかもしれません。それに、国境を守る辺境の地ですから、怪我も絶えないのでは)

 いつかはこうして政略結婚の駒になる可能性だってあった。それが、薬学の知識を求められての事だとしたら、ありがたいことだ。

 ……そうとは限らないかもしれない。でも、そう考えて自らを鼓舞することにした。


「わかりました。では早速、荷物をまとめますね。いつからですか? 明日? 早い方がいいですよね」
「えっ」

 悲しみに暮れるはずの娘が、なぜだかやる気に満ちていることを察した一同は目を丸くした。

 おかしい。辺境の地に追いやられることも、後妻にあてがわれることも、普通の令嬢であれば絶望的な案件だというのに。
 叔父家族は、そんな気持ちが隠しきれない。

(荷物といっても、家には特にありませんね。研究室に寄って、そちらから運びましょう。それから、リカードやフォンにもお別れを……)

 そう考えた時、ライラの胸は鈍く痛んだ。彼らとの別れが、何よりも辛いらしい。

 出来ることならば、もっと一緒にいたかった。でもきっと、あの二人なら新天地へ向かうライラを応援してくれるはずだ。

(辺境の地にも、研究室のようなものを置かせていただけると嬉しいな……)
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