家を乗っ取られて辺境に嫁がされることになったら、三食研究付きの溺愛生活が待っていました

ミズメ

文字の大きさ
4 / 10

04

しおりを挟む

 突然の事態に、会場はにわかにざわついた。

 その異変はライラ達の近くにいた者たちから徐々に伝わり、誰もがこちら側を見ている。
 心配そうな顔をする者、無関心を決め込む者、見世物が始まったと好奇の目を向ける者とその反応は様々だ。

 ギディングス公は、辺境伯の名だ。
 確か齢六十程で、彼とライラとは孫と言ってもいいほど歳が離れている。

 実際に娘もいたはずで、そうすると、ライラは後妻という立ち位置になる。

「お義姉さま、おめでとうございますっ!」

「分かったわね、ライラ。あなたを娶ってくださるギディングス公のためにもはやく荷物をまとめなさい」

 叔父家族がニタニタと笑みを浮かべる様子からすると、もはやこの決定は覆せず、王家の了承も得ているのだろう。


(これが終わったら、モフマールを撫でに行きましょう。そうしましょう。辺境の地に連れて行っても大丈夫でしょうか)

 居心地のいい研究室。気の合う仲間。どうやらそれももうお別れだ。

 辺境の地は寒冷だと聞く。
 体毛の多いモフネズミならば問題はない。せめてもの思い出に、モフマールだけでも。

「――わかりました」

 ライラは前を向いた。

 考えてみれば、確かに家を出るためには必要な婚姻かもしれない。

 高齢のギディングス公がどういった意図でライラを所望したのかは分からないが、わざわざ""変わり者令嬢""を選んだくらいだ。理由があるはず。

(そうです。もしかしたら、治療薬をお望みなのかもしれません。それに、国境を守る辺境の地ですから、怪我も絶えないのでは)

 いつかはこうして政略結婚の駒になる可能性だってあった。それが、薬学の知識を求められての事だとしたら、ありがたいことだ。

 ……そうとは限らないかもしれない。でも、そう考えて自らを鼓舞することにした。


「わかりました。では早速、荷物をまとめますね。いつからですか? 明日? 早い方がいいですよね」
「えっ」

 悲しみに暮れるはずの娘が、なぜだかやる気に満ちていることを察した一同は目を丸くした。

 おかしい。辺境の地に追いやられることも、後妻にあてがわれることも、普通の令嬢であれば絶望的な案件だというのに。
 叔父家族は、そんな気持ちが隠しきれない。

(荷物といっても、家には特にありませんね。研究室に寄って、そちらから運びましょう。それから、リカードやフォンにもお別れを……)

 そう考えた時、ライラの胸は鈍く痛んだ。彼らとの別れが、何よりも辛いらしい。

 出来ることならば、もっと一緒にいたかった。でもきっと、あの二人なら新天地へ向かうライラを応援してくれるはずだ。

(辺境の地にも、研究室のようなものを置かせていただけると嬉しいな……)
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

聖女追放された私ですが、追放先で開いたパン屋が大繁盛し、気づけば辺境伯様と宰相様と竜王が常連です

さら
恋愛
 聖女として仕えていた少女セラは、陰謀により「力を失った」と断じられ、王都を追放される。行き着いた辺境の小さな村で、彼女は唯一の特技である「パン作り」を生かして小さな店を始める。祈りと癒しの力がわずかに宿ったパンは、人々の疲れを和らげ、心を温める不思議な力を持っていた。  やがて、村を治める厳格な辺境伯が常連となり、兵士たちの士気をも支える存在となる。続いて王都の切れ者宰相が訪れ、理屈を超える癒しの力に驚愕し、政治的な価値すら見出してしまう。そしてついには、黒曜石の鱗を持つ竜王がセラのパンを食べ、その力を認めて庇護を約束する。  追放されたはずの彼女の小さなパン屋は、辺境伯・宰相・竜王が並んで通う奇跡の店へと変わり、村は国中に名を知られるほどに繁栄していく。しかし同時に、王都の教会や貴族たちはその存在を脅威とみなし、刺客を放って村を襲撃する。だが辺境伯の剣と宰相の知略、竜王の咆哮によって、セラと村は守られるのだった。  人と竜を魅了したパン屋の娘――セラは、三人の大国の要人たちに次々と想いを寄せられながらも、ただ一つの答えを胸に抱く。 「私はただ、パンを焼き続けたい」  追放された聖女の新たな人生は、香ばしい香りとともに世界を変えていく。

「不吉な子」と罵られたので娘を連れて家を出ましたが、どうやら「幸運を呼ぶ子」だったようです。

荒瀬ヤヒロ
恋愛
マリッサの額にはうっすらと痣がある。 その痣のせいで姑に嫌われ、生まれた娘にも同じ痣があったことで「気味が悪い!不吉な子に違いない」と言われてしまう。 自分のことは我慢できるが娘を傷つけるのは許せない。そう思ったマリッサは離婚して家を出て、新たな出会いを得て幸せになるが……

醜さを理由に毒を盛られたけど、何だか綺麗になってない?

京月
恋愛
エリーナは生まれつき体に無数の痣があった。 顔にまで広がった痣のせいで周囲から醜いと蔑まれる日々。 貴族令嬢のため婚約をしたが、婚約者から笑顔を向けられたことなど一度もなかった。 「君はあまりにも醜い。僕の幸せのために死んでくれ」 毒を盛られ、体中に走る激痛。 痛みが引いた後起きてみると…。 「あれ?私綺麗になってない?」 ※前編、中編、後編の3話完結  作成済み。

婚約を解消したら、何故か元婚約者の家で養われることになった

下菊みこと
恋愛
気付いたら好きな人に捕まっていたお話。 小説家になろう様でも投稿しています。

女避けの為の婚約なので卒業したら穏やかに婚約破棄される予定です

くじら
恋愛
「俺の…婚約者のフリをしてくれないか」 身分や肩書きだけで何人もの男性に声を掛ける留学生から逃れる為、彼は私に恋人のふりをしてほしいと言う。 期間は卒業まで。 彼のことが気になっていたので快諾したものの、別れの時は近づいて…。

王太子殿下の想い人が騎士団長だと知った私は、張り切って王太子殿下と婚約することにしました!

奏音 美都
恋愛
 ソリティア男爵令嬢である私、イリアは舞踏会場を離れてバルコニーで涼んでいると、そこに王太子殿下の逢引き現場を目撃してしまいました。  そのお相手は……ロワール騎士団長様でした。  あぁ、なんてことでしょう……  こんな、こんなのって……尊すぎますわ!!

初恋に見切りをつけたら「氷の騎士」が手ぐすね引いて待っていた~それは非常に重い愛でした~

ひとみん
恋愛
メイリフローラは初恋の相手ユアンが大好きだ。振り向いてほしくて会う度求婚するも、困った様にほほ笑まれ受け入れてもらえない。 それが十年続いた。 だから成人した事を機に勝負に出たが惨敗。そして彼女は初恋を捨てた。今までたった 一人しか見ていなかった視野を広げようと。 そう思っていたのに、巷で「氷の騎士」と言われているレイモンドと出会う。 好きな人を追いかけるだけだった令嬢が、両手いっぱいに重い愛を抱えた令息にあっという間に捕まってしまう、そんなお話です。 ツッコミどころ満載の5話完結です。

頭頂部に薔薇の棘が刺さりまして

犬野きらり
恋愛
第二王子のお茶会に参加して、どうにかアピールをしようと、王子の近くの場所を確保しようとして、転倒。 王家の薔薇に突っ込んで転んでしまった。髪の毛に引っ掛かる薔薇の枝に棘。 失態の恥ずかしさと熱と痛みで、私が寝込めば、初めましての小さき者の姿が見えるようになり… この薔薇を育てた人は!?

処理中です...