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第一四話 慟哭-3
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宿無しは、裏を返せば身軽だ。取り分け、生きるか死ぬかの間で王都に流入した者は命の危険に敏感で、王都から逃げ出すことにも躊躇いが無い。そのせいもあり、人柱が立てられ始めてからは彼らの流出が加速度的に増えている。
そこまで敏感ではなく、腰の重い者達は国王へと敵愾心を燃やす。具体的な行動としては、スラム街にて宿無し仲間を捕らえようとする兵士らの妨害だ。力を合わせて逃がし、逃げるのだ。こう言った面では妙に団結力をも見せる彼らであった。
一方、この妨害によって必要とする数の人柱が確保できなかったことに国王は憤る。即座にスラム街の掃討に乗り出した。
可能な限りの兵士を動員してスラム街を包囲し、攻撃を仕掛ける。包囲した内側は全て掃討対象である。
堪らないのは巻き込まれる元々の住民。大火に見舞われ、余所からの宿無しによって周囲にスラム街を作られ、今度は見分けが付かないことを理由に、宿無しと一緒くたに殺される。これでは黙ってなどいられない。
包囲の隙を突いて命からがら逃れた住民らは、親類、縁者と糾合して蜂起した。帰る場所を奪われたのだから突き進むのみである。
ところが、彼らが手にするのは棒の先に包丁を括り付けた即製の槍であったり、何も手を加えていない箒であったりでしかない。そんなものでは一〇人掛かりでも本職の兵士一人にだって勝てやしない。徒に犠牲ばかりが増える。
かくして蜂起は容易に鎮圧された。
だが、傷跡は残る。蜂起して討たれた者にも家族、親類、友人らが居り、それらの人々の中に怨嗟が生まれた。一部の兵士が蜂起とは無関係の住民までも手当たり次第に殺害していたことで、より一層の怨嗟も生んでいた。そして、この時点では表出こそしていないが、一部の兵士の離反も招いていた。
掃討と、それに続いた鎮圧の結果で生まれた骸の埋葬は許されない。数日を掛けて全て人柱にされた。
人柱の数は四桁半ばに達し、腐臭は王都に充満している。蠅も大量に発生し、疫病がいつ発生してもおかしくない状況だ。
これを為したのが国王だと知れ渡ると、人々の怨嗟は国王に集中した。
そしてまた人々は蜂起する。このままでは殺されるか、疫病が発生して死ぬかになってしまうと声を合わせる。彼らに同調する一部の兵士が指揮を執ることで叛乱の口火が切られた。
レミアはその叛乱をただ傍観する。城館へと行進する群衆を離れた場所から眺めるだけだ。
それと言うのも、旗振り役の男を酒場で目にしたことが有り、ハイデルフト家を悪し様に罵っていたのを知っている。そんな連中に手を貸そうなどとは全く思わないのだ。
数千人の群衆が城館に詰め掛ける。
意外にも、彼らはあっさりと城館への侵入を果たす。警備が日頃より薄いくらいで、抵抗らしいものを受けなかったのだ。そしてその勢いのままに城館内を蹂躙していった。
男が一人、書類に埋もれたような部屋で一人の老人と対面する。男が断りも無くドアを開けただけのことだが、机に向かっていた老人が顔を上げて無言のまま男を見据えた。老人の頬は痩け、目は凹んでいて病人のようでもあるが、その眼光は強い意志を感じさせるほどに強い。
男は黙って扉を閉めた。
「この部屋には何にも無いぞ!」
「おう!」
男が声を上げ、それに誰かが答えた。気後れしたか、脅威にはならないと判断したかは定かでない。確からしいのは老人が居なかったかのような振る舞いをしたことだ。
見逃された形になったのは、この部屋の主たる老人の宰相テネスノイトにとって意外な成り行きだった。
怨霊への対抗策を模索したものの、その全てが徒労に終わり、何の手立ても打てないままに城館への侵入を許してしまった。尤も、許す許さないの問題ではなく、防ぎようが無かっただけであるが。
だから覚悟を決めていた。先代国王の時代から宰相を務め、エカテリーナ・ハイデルフトの処刑で口上を述べもした。彼女から恨みに思われるのに十分過ぎるだろうと考えてのことだ。
ところがエカテリーナは国王、王妃の許に現れながら、テネスノイトの許には現れない。拍子抜けだ。しかし逆に、いつ襲って来るのか気の休まらない状態が続くことでもある。殺すなら早く殺せと言う心持ちになった。
そこに起きたのが民衆の叛乱だ。叛乱の理由らしい人柱の件には関わっていない。国王自ら行っていたことであり、政務でそれどころではなかったこともあって詳しい状況も知らないままだった。そして叛乱が起きたのも知らない間にだ。
だがこれも運命なのだと考えた。エカテリーナがこうなるようにし向けたのかも知れないのだ。
そしていよいよ断罪の時が来たかと思ったところで見逃されてしまった。これではどうにも気が抜ける。
政務を続けても意味が無さそうな状況の今、久々の休暇と洒落込むことにする。
不思議と誰にも見咎められることのないままに城館を出て、不思議と空腹も感じたので食堂でも開いていないかと探して歩く。
妙な清々しさを覚えた。
◆
「貴様はこれで満足なのか?」
自らの居室で椅子に座したまま、国王は目の前で嗤う女に問う。女はおかしそうに首を傾げるだけで答えない。
「できることなら、貴様を縊り殺してやりたい。ハイデルフト!」
怒声を叩き付けられた女、エカテリーナ・ハイデルフトは肩を竦めてまた嗤って、部屋から出て行った。国王の歯軋りだけが部屋に響いた。
◆
『あーっはっはっは! 何て愚かな民衆!』
エカテリーナは声を上げて嗤う。民衆の叛乱までは意図していない。意図したのは、彼女が処刑される様を見て喝采を上げた民衆を、喝采の対象たる国王に殺させることだ。これこそが皮肉を籠めた意趣返し。
ところが民衆に辛抱など無い。その時々の情動に駆られて秩序を破壊する。後のことなど考えもしていない。
何と愚かなことか。最も憎むべきは彼ら民衆ではないのか。
だから彼らが城館に攻め込んでいる今この時、その退路を断つように、最後の仕上げとばかりに火を放つ。
少しばかり火が燃え広がろうとも、城館に入り込んだ民衆はそれに気付かず、未だ熱狂の中に居る。
火は燃えるに任せ、国王の居室へと戻る。幾人かの民衆を返り討ちにしているものの、国王も既に致命傷を負っていた。
国王がまだ息のある内に民衆の手で串刺しにされる。その断末魔の悲鳴を聞いて、民衆が益々熱狂する。
――何と愚劣なことでしょう。
エカテリーナは民衆を嘲笑った。
その目の前で国王の息の根が止まる。死んだ者同士での殺し合いになるのかとエカテリーナは考えた。
ところが国王の魂はあっさりと運命を受け入れて冥府へと旅立ってしまう。生前に見せた、国王と言う立場への執着心は何だったのかと呆気に取られてしまうほどだ。
釈然としないものを感じつつ、それを見送り終わると、王妃の許へと足を運ぶ。そこにももう火の手が迫っていた。
ここはもう見ているだけだ。
暫くして王妃が火に捲かれる。自身の状況さえ判らなくなっているのか、逃げる素振りも見られない。そして彼女もあっさり冥府へと旅立ってしまう。
肩透かしにあったような気分と苦々しい思いを綯い交ぜにしつつ、それを見送る。憤りはまだ燻っている。
そのやり場を求め、エカテリーナは燃え盛る火の中を塔の上へと登る。せめてもの気晴らしに、民衆の苦しむ姿を高みの見物と洒落込むのだ。
その途中でふと考える。
『国王と王妃の名前は何だったかしら?』
暫し記憶を呼び起こそうとしたが、片隅にも残っていない。
『どうでもいいことですわね』
あっさりと思い出すのを諦めた。
そうする内に、塔の見晴らしの良い場所に着く。
下からは火に捲かれて逃げまどう民衆の悲鳴が聞こえる。それに対する慈悲など欠片も湧かない。
――今になって叛旗を翻す者など死んでしまえ。
エカテリーナは塔の上から下を見渡した。今度こそ自らの手で殺し尽くす前の王都を目に焼き付けるのも良いと考えたのだ。
果たして、そこに立ち並ぶのは人柱である。
『あはははははははははははははははは!!』
エカテリーナは哄笑した。愚か者達の狂宴のなんと滑稽なことか。
しかし嫌悪も感じる。彼らの愚かしさが形になったものなど、目に焼き付けるようなものでもない。早々に顔を背ける。
ところがそこで一つの光景が頭に浮かんだ。
それは、前世で遊んだ乙女ゲームの後日談の一枚画。その後日談で狂王となった国王が住民を殺してどうしていたかを示すものだ。その画は正に今眼下に広がる人柱が立ち並ぶものにそっくりではなかっただろうか。
改めて人柱を見る。
見れば見るほど目の前の光景とその一枚画が重なる。
背筋が凍るような感覚に囚われた。
悲惨な運命から逃れようとした筈が、後日談まで含めてゲーム通りに振る舞っていたと言うのか。
今までの行いを振り返る。そしてまた気付く。自らの行いによって国王を狂王と成し、この光景を生んでしまっていたことを。
『嫌ああああああああああああああああああ!!』
エカテリーナの叫びは王都中の人々の耳に届いた。
――滑稽だったのは私。
――愚かだったのも私。
――抗うはずが、運命に流されていた。
――だけどもし、もっとはっきり前世を憶えていたら?
――だけどもし、前世の私がこうなることを知っていたら?
――あり得ない仮定。
――だけどもし……。
――伝えられるものなら前世の私にこのことを伝えたい。
――だけど前世ではっきり憶えているのはゲームに現を抜かしていたことくらい。
――だから仮に伝えられるとしても、ゲームくらいしか前世の私の興味を引けないだろう。
――もしも、ゲームに認めることができるとしたら……。
――タイトルはそう、「慟哭の螺旋」。
エカテリーナの叫びに呼ばれたかのようにしとしとと雨が降る。
次第に雨脚を強めた雨が豪雨となり、雨音が全ての音を、エカテリーナの叫び声をも呑み込む。
夜半まで降り続いた雨が上がった時、エカテリーナの声も消えていた。
そこまで敏感ではなく、腰の重い者達は国王へと敵愾心を燃やす。具体的な行動としては、スラム街にて宿無し仲間を捕らえようとする兵士らの妨害だ。力を合わせて逃がし、逃げるのだ。こう言った面では妙に団結力をも見せる彼らであった。
一方、この妨害によって必要とする数の人柱が確保できなかったことに国王は憤る。即座にスラム街の掃討に乗り出した。
可能な限りの兵士を動員してスラム街を包囲し、攻撃を仕掛ける。包囲した内側は全て掃討対象である。
堪らないのは巻き込まれる元々の住民。大火に見舞われ、余所からの宿無しによって周囲にスラム街を作られ、今度は見分けが付かないことを理由に、宿無しと一緒くたに殺される。これでは黙ってなどいられない。
包囲の隙を突いて命からがら逃れた住民らは、親類、縁者と糾合して蜂起した。帰る場所を奪われたのだから突き進むのみである。
ところが、彼らが手にするのは棒の先に包丁を括り付けた即製の槍であったり、何も手を加えていない箒であったりでしかない。そんなものでは一〇人掛かりでも本職の兵士一人にだって勝てやしない。徒に犠牲ばかりが増える。
かくして蜂起は容易に鎮圧された。
だが、傷跡は残る。蜂起して討たれた者にも家族、親類、友人らが居り、それらの人々の中に怨嗟が生まれた。一部の兵士が蜂起とは無関係の住民までも手当たり次第に殺害していたことで、より一層の怨嗟も生んでいた。そして、この時点では表出こそしていないが、一部の兵士の離反も招いていた。
掃討と、それに続いた鎮圧の結果で生まれた骸の埋葬は許されない。数日を掛けて全て人柱にされた。
人柱の数は四桁半ばに達し、腐臭は王都に充満している。蠅も大量に発生し、疫病がいつ発生してもおかしくない状況だ。
これを為したのが国王だと知れ渡ると、人々の怨嗟は国王に集中した。
そしてまた人々は蜂起する。このままでは殺されるか、疫病が発生して死ぬかになってしまうと声を合わせる。彼らに同調する一部の兵士が指揮を執ることで叛乱の口火が切られた。
レミアはその叛乱をただ傍観する。城館へと行進する群衆を離れた場所から眺めるだけだ。
それと言うのも、旗振り役の男を酒場で目にしたことが有り、ハイデルフト家を悪し様に罵っていたのを知っている。そんな連中に手を貸そうなどとは全く思わないのだ。
数千人の群衆が城館に詰め掛ける。
意外にも、彼らはあっさりと城館への侵入を果たす。警備が日頃より薄いくらいで、抵抗らしいものを受けなかったのだ。そしてその勢いのままに城館内を蹂躙していった。
男が一人、書類に埋もれたような部屋で一人の老人と対面する。男が断りも無くドアを開けただけのことだが、机に向かっていた老人が顔を上げて無言のまま男を見据えた。老人の頬は痩け、目は凹んでいて病人のようでもあるが、その眼光は強い意志を感じさせるほどに強い。
男は黙って扉を閉めた。
「この部屋には何にも無いぞ!」
「おう!」
男が声を上げ、それに誰かが答えた。気後れしたか、脅威にはならないと判断したかは定かでない。確からしいのは老人が居なかったかのような振る舞いをしたことだ。
見逃された形になったのは、この部屋の主たる老人の宰相テネスノイトにとって意外な成り行きだった。
怨霊への対抗策を模索したものの、その全てが徒労に終わり、何の手立ても打てないままに城館への侵入を許してしまった。尤も、許す許さないの問題ではなく、防ぎようが無かっただけであるが。
だから覚悟を決めていた。先代国王の時代から宰相を務め、エカテリーナ・ハイデルフトの処刑で口上を述べもした。彼女から恨みに思われるのに十分過ぎるだろうと考えてのことだ。
ところがエカテリーナは国王、王妃の許に現れながら、テネスノイトの許には現れない。拍子抜けだ。しかし逆に、いつ襲って来るのか気の休まらない状態が続くことでもある。殺すなら早く殺せと言う心持ちになった。
そこに起きたのが民衆の叛乱だ。叛乱の理由らしい人柱の件には関わっていない。国王自ら行っていたことであり、政務でそれどころではなかったこともあって詳しい状況も知らないままだった。そして叛乱が起きたのも知らない間にだ。
だがこれも運命なのだと考えた。エカテリーナがこうなるようにし向けたのかも知れないのだ。
そしていよいよ断罪の時が来たかと思ったところで見逃されてしまった。これではどうにも気が抜ける。
政務を続けても意味が無さそうな状況の今、久々の休暇と洒落込むことにする。
不思議と誰にも見咎められることのないままに城館を出て、不思議と空腹も感じたので食堂でも開いていないかと探して歩く。
妙な清々しさを覚えた。
◆
「貴様はこれで満足なのか?」
自らの居室で椅子に座したまま、国王は目の前で嗤う女に問う。女はおかしそうに首を傾げるだけで答えない。
「できることなら、貴様を縊り殺してやりたい。ハイデルフト!」
怒声を叩き付けられた女、エカテリーナ・ハイデルフトは肩を竦めてまた嗤って、部屋から出て行った。国王の歯軋りだけが部屋に響いた。
◆
『あーっはっはっは! 何て愚かな民衆!』
エカテリーナは声を上げて嗤う。民衆の叛乱までは意図していない。意図したのは、彼女が処刑される様を見て喝采を上げた民衆を、喝采の対象たる国王に殺させることだ。これこそが皮肉を籠めた意趣返し。
ところが民衆に辛抱など無い。その時々の情動に駆られて秩序を破壊する。後のことなど考えもしていない。
何と愚かなことか。最も憎むべきは彼ら民衆ではないのか。
だから彼らが城館に攻め込んでいる今この時、その退路を断つように、最後の仕上げとばかりに火を放つ。
少しばかり火が燃え広がろうとも、城館に入り込んだ民衆はそれに気付かず、未だ熱狂の中に居る。
火は燃えるに任せ、国王の居室へと戻る。幾人かの民衆を返り討ちにしているものの、国王も既に致命傷を負っていた。
国王がまだ息のある内に民衆の手で串刺しにされる。その断末魔の悲鳴を聞いて、民衆が益々熱狂する。
――何と愚劣なことでしょう。
エカテリーナは民衆を嘲笑った。
その目の前で国王の息の根が止まる。死んだ者同士での殺し合いになるのかとエカテリーナは考えた。
ところが国王の魂はあっさりと運命を受け入れて冥府へと旅立ってしまう。生前に見せた、国王と言う立場への執着心は何だったのかと呆気に取られてしまうほどだ。
釈然としないものを感じつつ、それを見送り終わると、王妃の許へと足を運ぶ。そこにももう火の手が迫っていた。
ここはもう見ているだけだ。
暫くして王妃が火に捲かれる。自身の状況さえ判らなくなっているのか、逃げる素振りも見られない。そして彼女もあっさり冥府へと旅立ってしまう。
肩透かしにあったような気分と苦々しい思いを綯い交ぜにしつつ、それを見送る。憤りはまだ燻っている。
そのやり場を求め、エカテリーナは燃え盛る火の中を塔の上へと登る。せめてもの気晴らしに、民衆の苦しむ姿を高みの見物と洒落込むのだ。
その途中でふと考える。
『国王と王妃の名前は何だったかしら?』
暫し記憶を呼び起こそうとしたが、片隅にも残っていない。
『どうでもいいことですわね』
あっさりと思い出すのを諦めた。
そうする内に、塔の見晴らしの良い場所に着く。
下からは火に捲かれて逃げまどう民衆の悲鳴が聞こえる。それに対する慈悲など欠片も湧かない。
――今になって叛旗を翻す者など死んでしまえ。
エカテリーナは塔の上から下を見渡した。今度こそ自らの手で殺し尽くす前の王都を目に焼き付けるのも良いと考えたのだ。
果たして、そこに立ち並ぶのは人柱である。
『あはははははははははははははははは!!』
エカテリーナは哄笑した。愚か者達の狂宴のなんと滑稽なことか。
しかし嫌悪も感じる。彼らの愚かしさが形になったものなど、目に焼き付けるようなものでもない。早々に顔を背ける。
ところがそこで一つの光景が頭に浮かんだ。
それは、前世で遊んだ乙女ゲームの後日談の一枚画。その後日談で狂王となった国王が住民を殺してどうしていたかを示すものだ。その画は正に今眼下に広がる人柱が立ち並ぶものにそっくりではなかっただろうか。
改めて人柱を見る。
見れば見るほど目の前の光景とその一枚画が重なる。
背筋が凍るような感覚に囚われた。
悲惨な運命から逃れようとした筈が、後日談まで含めてゲーム通りに振る舞っていたと言うのか。
今までの行いを振り返る。そしてまた気付く。自らの行いによって国王を狂王と成し、この光景を生んでしまっていたことを。
『嫌ああああああああああああああああああ!!』
エカテリーナの叫びは王都中の人々の耳に届いた。
――滑稽だったのは私。
――愚かだったのも私。
――抗うはずが、運命に流されていた。
――だけどもし、もっとはっきり前世を憶えていたら?
――だけどもし、前世の私がこうなることを知っていたら?
――あり得ない仮定。
――だけどもし……。
――伝えられるものなら前世の私にこのことを伝えたい。
――だけど前世ではっきり憶えているのはゲームに現を抜かしていたことくらい。
――だから仮に伝えられるとしても、ゲームくらいしか前世の私の興味を引けないだろう。
――もしも、ゲームに認めることができるとしたら……。
――タイトルはそう、「慟哭の螺旋」。
エカテリーナの叫びに呼ばれたかのようにしとしとと雨が降る。
次第に雨脚を強めた雨が豪雨となり、雨音が全ての音を、エカテリーナの叫び声をも呑み込む。
夜半まで降り続いた雨が上がった時、エカテリーナの声も消えていた。
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