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第一話 追憶-2
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エカテリーナの別世界で生きいていた前世の記憶は、殆どが断片的か、曖昧なものであった。ところが鮮明に憶えているものが有る。それは夢中になった乙女ゲームの一本。タイトルこそ「慟哭の」までしか思い出せないほどに覚束なくなっているものの、その内容は克明に思い出せた。
なぜならそのゲーム内の世界と、今のエカテリーナが居る世界がそっくりであるためだ。一つを思い出してしまえば、更に思い出す要素に事欠かない。
ゲームはヒロインの少女が複数の攻略対象から一人を選んで結ばれるまでを描いたもので、一見ではありふれたものであった。
物語の舞台となるのは王立学園。エカテリーナが先日まで在籍した学舎がそれだ。そこに平民出身で男爵家の養女となったヒロインが入学したところから始まり、王太子を始めとした上位貴族の子息を攻略するまでを描いている。
ところが、ヒロインがヒロインとは考えられない悪女であった。愚鈍で、身勝手で、嘘吐きで、尻軽。ネット上でも話題に上るほどの破戒的なヒロインである。
ただ、ヒロインが尻軽なだけでは話題にならなかったに違いない。類似のゲームが数多有り、それらのヒロイン達も見方次第では多かれ少なかれ尻軽だからだ。そんな中で注目されたのは成年指定が無いにも拘わらず、ヒロインが貞操観念の無い淫売な点にある。傾国の痴女と揶揄されるほどの奔放さで、時も場所も選ばず、誰彼構わず情事に耽る。
それは取りも直さずゲームの流れがそうであるためだ。ヒロインが自らの肉体を用いて男を籠絡し、今度はその男を利用して攻略の障害を取り除く。障害となるのが女であれば、籠絡した男を使って陵辱したり、罠に嵌めたりなどをして排除、あるいは手駒とする。そしてそれらを繰り返して最終的に攻略対象を籠絡する。
ヒロイン自身は愚鈍なため、考えるのも実行するのも籠絡した男となる。どの順番で誰を籠絡するか、誰を排除するかで成否が分かれることになる。ただ、ヒロイン自らが攻略対象との関係を強引に結ぶことで進むルートも存在した。
それらの描写は婉曲表現ながら極めて生々しい。ただ、直接的な描写がされていないために成人指定されていなかったのだ。
そんなゲームに前世のエカテリーナは夢中になった。ヒロインの淫売さに気持ち悪くなりつつも止められなかった理由は、どのルートを辿ってもヒロインの障害になる令嬢の存在。眉目秀麗なその令嬢は異常な状況においても我を見失うことなく凜として気高い。そこに感情移入してしまったのだ。
ところが、ヒロインの障害になるというだけで悪役とされ、更にはヒロインが誰かと結ばれるエンディングを迎えると必ず命を落としてしまう。感情移入していた前世のエカテリーナはその薄幸な運命を避けるルートを探したが、結果は儚く、令嬢の命が助かる可能性は一つの例外を除いて見つけられなかった。
原因はゲームオーバーに当たる通常のエンディングにある。ヒロインが何もしなくても彼女に利用価値を見出した王太子が妃に向かえるのだ。王太子を攻略した場合とは異なる隷属させられる関係性だが、結ばれる意味では変わらない。
そして幾つも有るエンディング中でその令嬢は命を落とすのだ。原因の殆どは王太子であった。
そんな薄幸な運命にある令嬢の名はエカテリーナ・ハイデルフト。そう、前世で感情移入した令嬢こそ彼女自身だったのである。
――幸せで居られたのはいつまでだったでしょう。
ゲームの中の物語がエカテリーナの現実になった時、そのことを当時の彼女は知らなかった。全てを思い出した後だからこそ判るのだ。その境界を探して過ぎ去りし日々に思いを馳せる。
その脳裏に浮かび上がったのは、何でもない別れの一幕であった。
なぜならそのゲーム内の世界と、今のエカテリーナが居る世界がそっくりであるためだ。一つを思い出してしまえば、更に思い出す要素に事欠かない。
ゲームはヒロインの少女が複数の攻略対象から一人を選んで結ばれるまでを描いたもので、一見ではありふれたものであった。
物語の舞台となるのは王立学園。エカテリーナが先日まで在籍した学舎がそれだ。そこに平民出身で男爵家の養女となったヒロインが入学したところから始まり、王太子を始めとした上位貴族の子息を攻略するまでを描いている。
ところが、ヒロインがヒロインとは考えられない悪女であった。愚鈍で、身勝手で、嘘吐きで、尻軽。ネット上でも話題に上るほどの破戒的なヒロインである。
ただ、ヒロインが尻軽なだけでは話題にならなかったに違いない。類似のゲームが数多有り、それらのヒロイン達も見方次第では多かれ少なかれ尻軽だからだ。そんな中で注目されたのは成年指定が無いにも拘わらず、ヒロインが貞操観念の無い淫売な点にある。傾国の痴女と揶揄されるほどの奔放さで、時も場所も選ばず、誰彼構わず情事に耽る。
それは取りも直さずゲームの流れがそうであるためだ。ヒロインが自らの肉体を用いて男を籠絡し、今度はその男を利用して攻略の障害を取り除く。障害となるのが女であれば、籠絡した男を使って陵辱したり、罠に嵌めたりなどをして排除、あるいは手駒とする。そしてそれらを繰り返して最終的に攻略対象を籠絡する。
ヒロイン自身は愚鈍なため、考えるのも実行するのも籠絡した男となる。どの順番で誰を籠絡するか、誰を排除するかで成否が分かれることになる。ただ、ヒロイン自らが攻略対象との関係を強引に結ぶことで進むルートも存在した。
それらの描写は婉曲表現ながら極めて生々しい。ただ、直接的な描写がされていないために成人指定されていなかったのだ。
そんなゲームに前世のエカテリーナは夢中になった。ヒロインの淫売さに気持ち悪くなりつつも止められなかった理由は、どのルートを辿ってもヒロインの障害になる令嬢の存在。眉目秀麗なその令嬢は異常な状況においても我を見失うことなく凜として気高い。そこに感情移入してしまったのだ。
ところが、ヒロインの障害になるというだけで悪役とされ、更にはヒロインが誰かと結ばれるエンディングを迎えると必ず命を落としてしまう。感情移入していた前世のエカテリーナはその薄幸な運命を避けるルートを探したが、結果は儚く、令嬢の命が助かる可能性は一つの例外を除いて見つけられなかった。
原因はゲームオーバーに当たる通常のエンディングにある。ヒロインが何もしなくても彼女に利用価値を見出した王太子が妃に向かえるのだ。王太子を攻略した場合とは異なる隷属させられる関係性だが、結ばれる意味では変わらない。
そして幾つも有るエンディング中でその令嬢は命を落とすのだ。原因の殆どは王太子であった。
そんな薄幸な運命にある令嬢の名はエカテリーナ・ハイデルフト。そう、前世で感情移入した令嬢こそ彼女自身だったのである。
――幸せで居られたのはいつまでだったでしょう。
ゲームの中の物語がエカテリーナの現実になった時、そのことを当時の彼女は知らなかった。全てを思い出した後だからこそ判るのだ。その境界を探して過ぎ去りし日々に思いを馳せる。
その脳裏に浮かび上がったのは、何でもない別れの一幕であった。
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