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第一話 追憶-5
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決定的、そして運命となった日は六月の末。ゲームヒロインが不埒にも一糸も纏わず、誰もが通り掛かるロビーで情事に耽っているところにエカテリーナは通り掛かった。情事の相手はエカテリーナの一学年下に在籍していた王太子だ。
この時、エカテリーナはその光景に奇妙な既視感を覚えた。更にはそこに有る違和感を当然のことのように受け取っている自分にも気付いてしまった。
違和感とは情事に耽る二人の周囲にゲームヒロインのものらしき衣服が無いことだ。これは、誰かが持ち去っていない限り、そのままの姿で彼女は何処からかここに来た。
エカテリーナはその理由を知っていた。学園に設けられている王族用控え室に出向いたゲームヒロインが肌を露わに王太子を誘惑した際、相手になる条件、王妃候補として迎え入れる条件として王太子が出したのだ。そのままの姿でロビーで待つ王太子の元まで行くこと。それを彼女が実行したのである。このことをその場に居合わせていないにも拘わらず、知っていた。
しかし何故知っていたのか。
この疑問が記憶の蘇る切っ掛けだった。時間を遡るようにゲームヒロインの振る舞いに重なる記憶が蘇り、前世にまで繋がる。ゲームで遊んでいる前世の自分だ。
そして、目の当たりにしている光景がゲームのクライマックスだと言うことも。ここに至っては、ゲームヒロインが王太子と結ばれることは決まっており、ゲームもエンディングを残すばかりなのである。
エカテリーナはゲームのエンディングで命を落とす。そうならないのはゲームヒロインが王太子を意図的に避けて二人が出会わないままのエンディングを向かえる場合だけだったのだが、その道も既に塞がっていることを目の前の光景は示している。
記憶が蘇ったことで判るのは、王立学園がもっと早い時期からゲームヒロインの掌中に有ったことだ。淫売が自らの肉体を使い、学園の学生だけでなく主だった教師らをも籠絡していた。破廉恥な振る舞いが黙認されていた所以でもある。
貴族の矜恃として常に冷静たらんとしたエカテリーナは思わず叫びそうになるのを堪えるのに精一杯であった。
ゲーム本編と重なる部分はここで終わるが、ゲームより生々しいエカテリーナの現実はまだ終わらない。
ゲームヒロインと王太子が関係を持って以降、学園内での彼女の行為が益々エスカレートする傍ら、王太子の粗暴さも目立ち始めた。これまでは猫を被っていたものが、ゲームヒロインを通じて学園をほぼ掌握したことで箍が外れたと見られる。
本性を現した王太子には高級貴族の一族を人前では殺さない程度の理性しか残っていない。学園内では本来禁止されている帯剣をし、下級貴族程度なら何か気に入らないことがあれば人前でも平気で剣で斬りつける。高級貴族に対しても安易に暗殺を試みるほどだ。幾人かの命がそれで奪われた。
それがまかり通るのも、学園を掌握していることに加え、暗愚を画に描いたような国王が全て揉み消すためである。
ファンディスクの形でリリースされたゲームの後日譚において、国王となった王太子は王都市民の多くを串刺しで殺して屍体の森を築いた狂王としても描かれていて、その片鱗が見え隠れしていた。
一方、エカテリーナは命を落とす運命から逃れるため、国の将来のためにゲームヒロインや王太子を避けつつ、ゲームヒロインに籠絡された者達へと彼女の危険さを説こうとした。王太子については貴族である限りは関わらないことができないため、ただ堪えるのみなのである。
そしてどうにか約束を取り付け、説得のために待ち合わせた場所へと赴くのだが、そこにはいつもゲームヒロインも待ち構えていた。あまつさえ待ち合わせた相手と情事に耽りつつだ。
エカテリーナは憤る。自らの貴族の矜恃も手伝って咎め立てせずにはいられない。
だが、途中で邪魔されたとして情事の相手から罵られるに至り、甚だしく精神を消耗するばかりであった。
これは人目に付く場所で情事に耽るゲームヒロインを咎めた場合も同様で、繰り返す内、傍観を貫いていた者までエカテリーナを冷ややかな目で見るようになっていった。
この時のエカテリーナは相手の思惑に乗せられていてその真っ只中に自ら飛び込んでいたのだが、自身で悟ったのはもっと後になってのことである。
この頃はまだ学園の中でもエカテリーナとその周辺だけはゲームヒロインの影響が薄い。学園を完全掌握しようとするゲームヒロインや王太子の前にエカテリーナが最後の障害として立ち塞がっている形だ。二人はエカテリーナの排除を必要とし、そのための工作も始めていた。
直接的な加害は、国内ではメストロアル家と双璧を為す有力貴族のハイデルフト家との武力衝突にまで発展する可能性が有るため、王太子とて時期尚早と避けていた。そこでエカテリーナの思惑を潰すとともに精神的ダメージを与えるべく、以前からエカテリーナが憤る姿を見せていた行為を目の前で行う嫌がらせを繰り返したのだ。
エカテリーナがゲームヒロインらがそうすると推し量るべきだったと気付いた時には既に遅く、後悔も後の祭りである。結果的に後手に回ってしまっていた。
また、いつしかエカテリーナの周りから人が減った。ゲームヒロインとの対立が原因である。対立を深めるにつれ、巻き込まれては堪らないとする者が離れたのだ。それでも多くの友人が残っていたが、その中の一人がエカテリーナの庇護が及ばずにゲームヒロインの取り巻きによって陵辱される至り、一気に消えた。
学園の夏期休暇間近のことである。
その後は特段の変化は無く、エカテリーナは無事に夏期休暇を向かえる。そこに如何ばかりかの安堵を感じずにいられないエカテリーナであった。
この時、エカテリーナはその光景に奇妙な既視感を覚えた。更にはそこに有る違和感を当然のことのように受け取っている自分にも気付いてしまった。
違和感とは情事に耽る二人の周囲にゲームヒロインのものらしき衣服が無いことだ。これは、誰かが持ち去っていない限り、そのままの姿で彼女は何処からかここに来た。
エカテリーナはその理由を知っていた。学園に設けられている王族用控え室に出向いたゲームヒロインが肌を露わに王太子を誘惑した際、相手になる条件、王妃候補として迎え入れる条件として王太子が出したのだ。そのままの姿でロビーで待つ王太子の元まで行くこと。それを彼女が実行したのである。このことをその場に居合わせていないにも拘わらず、知っていた。
しかし何故知っていたのか。
この疑問が記憶の蘇る切っ掛けだった。時間を遡るようにゲームヒロインの振る舞いに重なる記憶が蘇り、前世にまで繋がる。ゲームで遊んでいる前世の自分だ。
そして、目の当たりにしている光景がゲームのクライマックスだと言うことも。ここに至っては、ゲームヒロインが王太子と結ばれることは決まっており、ゲームもエンディングを残すばかりなのである。
エカテリーナはゲームのエンディングで命を落とす。そうならないのはゲームヒロインが王太子を意図的に避けて二人が出会わないままのエンディングを向かえる場合だけだったのだが、その道も既に塞がっていることを目の前の光景は示している。
記憶が蘇ったことで判るのは、王立学園がもっと早い時期からゲームヒロインの掌中に有ったことだ。淫売が自らの肉体を使い、学園の学生だけでなく主だった教師らをも籠絡していた。破廉恥な振る舞いが黙認されていた所以でもある。
貴族の矜恃として常に冷静たらんとしたエカテリーナは思わず叫びそうになるのを堪えるのに精一杯であった。
ゲーム本編と重なる部分はここで終わるが、ゲームより生々しいエカテリーナの現実はまだ終わらない。
ゲームヒロインと王太子が関係を持って以降、学園内での彼女の行為が益々エスカレートする傍ら、王太子の粗暴さも目立ち始めた。これまでは猫を被っていたものが、ゲームヒロインを通じて学園をほぼ掌握したことで箍が外れたと見られる。
本性を現した王太子には高級貴族の一族を人前では殺さない程度の理性しか残っていない。学園内では本来禁止されている帯剣をし、下級貴族程度なら何か気に入らないことがあれば人前でも平気で剣で斬りつける。高級貴族に対しても安易に暗殺を試みるほどだ。幾人かの命がそれで奪われた。
それがまかり通るのも、学園を掌握していることに加え、暗愚を画に描いたような国王が全て揉み消すためである。
ファンディスクの形でリリースされたゲームの後日譚において、国王となった王太子は王都市民の多くを串刺しで殺して屍体の森を築いた狂王としても描かれていて、その片鱗が見え隠れしていた。
一方、エカテリーナは命を落とす運命から逃れるため、国の将来のためにゲームヒロインや王太子を避けつつ、ゲームヒロインに籠絡された者達へと彼女の危険さを説こうとした。王太子については貴族である限りは関わらないことができないため、ただ堪えるのみなのである。
そしてどうにか約束を取り付け、説得のために待ち合わせた場所へと赴くのだが、そこにはいつもゲームヒロインも待ち構えていた。あまつさえ待ち合わせた相手と情事に耽りつつだ。
エカテリーナは憤る。自らの貴族の矜恃も手伝って咎め立てせずにはいられない。
だが、途中で邪魔されたとして情事の相手から罵られるに至り、甚だしく精神を消耗するばかりであった。
これは人目に付く場所で情事に耽るゲームヒロインを咎めた場合も同様で、繰り返す内、傍観を貫いていた者までエカテリーナを冷ややかな目で見るようになっていった。
この時のエカテリーナは相手の思惑に乗せられていてその真っ只中に自ら飛び込んでいたのだが、自身で悟ったのはもっと後になってのことである。
この頃はまだ学園の中でもエカテリーナとその周辺だけはゲームヒロインの影響が薄い。学園を完全掌握しようとするゲームヒロインや王太子の前にエカテリーナが最後の障害として立ち塞がっている形だ。二人はエカテリーナの排除を必要とし、そのための工作も始めていた。
直接的な加害は、国内ではメストロアル家と双璧を為す有力貴族のハイデルフト家との武力衝突にまで発展する可能性が有るため、王太子とて時期尚早と避けていた。そこでエカテリーナの思惑を潰すとともに精神的ダメージを与えるべく、以前からエカテリーナが憤る姿を見せていた行為を目の前で行う嫌がらせを繰り返したのだ。
エカテリーナがゲームヒロインらがそうすると推し量るべきだったと気付いた時には既に遅く、後悔も後の祭りである。結果的に後手に回ってしまっていた。
また、いつしかエカテリーナの周りから人が減った。ゲームヒロインとの対立が原因である。対立を深めるにつれ、巻き込まれては堪らないとする者が離れたのだ。それでも多くの友人が残っていたが、その中の一人がエカテリーナの庇護が及ばずにゲームヒロインの取り巻きによって陵辱される至り、一気に消えた。
学園の夏期休暇間近のことである。
その後は特段の変化は無く、エカテリーナは無事に夏期休暇を向かえる。そこに如何ばかりかの安堵を感じずにいられないエカテリーナであった。
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