生活魔法は万能です

浜柔

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435 天ぷら

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 ダンジョンの外に戻ると決めた途端、ルキアスは忙しくなった。駆け込みの『捏ね』依頼だ。
 少女の姿が目に入ったのはその仕事の合間に昼食を摂ろうとした時だった。拠点の中心に在る広場のベンチに腰掛け、顔を顰めながら何かを食べている。少女の穿くひらひらのミニスカートがあまりに場違いに見えた。にも拘らず、通り掛かる人がその少女を気に留める様子が無いのも不思議な光景だ。

「ヨーコ、もし美味しくないものを無理に食べてるならぼくのサンドイッチと交換する?」

 するとヨーコは口に咥えた食べかけを咀嚼、吸い込みながら不思議そうにルキアスを見た。開いた鋏のような形の三角形の朱い何かがその口の中に消えて行く。
 それを飲み込んでから漸くヨーコは口を開いた。

「どうしてそう思うのじゃ?」
「だって顰めっ面で美味しくなさそうにしてたから」
「そうであったか。しかしそれはむしろ逆じゃ。この天ぷらは飽きる程に食うておるのに変わらず美味なのが癪なのじゃ」
「天ぷら……って、何?」
「知らぬのか? それなら一箱分けてやろう。ほれ」

 ヨーコはどこからか黒く四角い箱を取り出して差し出した。

「ありがとう……」

 ルキアスは箱を受け取ってからヨーコと箱を見比べ、ヨーコが顎でベンチに座るのを促すのを見てから漸くベンチに座り、箱の蓋を開けた。
 箱の内側は赤く、仲には見慣れない料理が入っている。いや、見慣れないのは食材か。ヨーコが食べていた朱いものも在る。どうやらそれは何かの尻尾らしい。
 ヨーコが更に顎をしゃくるのに押されるように、『収納』から箸を取り出して朱いのを口に運ぶ。

「美味っ!」

 リザード大将の肉を超えていると感じた。

「美味いか? 悔しいかな、あの天ぷら女神の天ぷらは絶品じゃからのう」
「天ぷら女神?」
「うむ。この天ぷらを陣中見舞いだと申して一〇〇〇食寄越した女神じゃ」
「一〇〇〇食!? そんなの食べる前に腐っちゃうよ」
「腐る心配は無い。我のアイテムボックスは時間が止まっておるのじゃ」
「『時空庫』ってこと?」
「そう思っても構わぬ」
「ほー」

 ルキアスは感心した。しかしヨーコが自称通りに神なら不思議ではないと思い直す。

「しかし不思議な……と言うか、他にも神様が居たんだ?」
「……まあ、おぬしがこの階層まで来た褒美に話してやろう」
「ここまで来たのは自力じゃないけど……」
「細かいことは良い。今ここにこうして平気で居るのならばいつかは到達したことじゃろう」

 ヨーコは楽観的に言いつつ、自力かどうかをこれ以上議論するつもりは無いとばかりに頷いた。

「神は我も含めて三柱じゃ。その中の一柱が我に面倒事を押し付けておいて自分は天ぷらばかり揚げてる女神じゃ。いい気なもんよ。……その天ぷらを食うだけのぐうたら女神に比べれば幾らかはましじゃがな」
「面倒事って?」
「ほお? それを尋ねるか?」
「聞いちゃだめだった?」
「構わぬ。じゃが聞けば後戻りはできぬのじゃ」
「ちょ! あっ、と。仕事があるからまた今度ね!」

 ルキアスは面倒事が自分に降り掛かる予感に逐電を試みた。だが気持ちは逃げても身体が動いてくれない。気付けばヨーコの手が肩に掛かっている。何の力も入れてないようにしか見えないのに振り払うこともできない。

「ここで逃がす筈もなかろう?」

 ヨーコは笑っているのに奇妙に怖ろしかった。
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