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「はて? これはまた異なことをおっしゃいますこと」
キセンセシルは理解に苦しんだ。寝耳に水も良いところだ。勿論寝てはいないのだが。
ところが、ここが攻めどころとでも思ったか、クースデルセがまたも不敵な笑みを浮かべる。
「知らぬと申すか」
「何の事やらさっぱりですわ」
さっぱりなのはクースデルセがドヤれる理由もだ。
「貴様であろう? 幾度にも亘ってシーリーの持ち物を毀損せしめたのは!」
「とんだ言い掛かりですわ」
キセンセシルは即答しつつ、毀損しているのはあんたの頭の中だと、心の中で付け加えた。
「とぼけるつもりか!」
「とぼけるも何も、見ず知らずの方の持ち物をどうこうする趣味は持ち合わせておりません」
ピンクの髪だなぁくらいにしか思っていなかった相手に何が哀しゅうてそんな暇なことをしなければならないのかと、キセンセシルは内心でぼやく。声に出さなかったのは、あまりに言葉が多ければ言い訳じみて聞こえるからだ。
「趣味などではない」
「だとしたら、何だとおっしゃるのでしょう?」
クースデルセはまだドヤっている。どこにそんな自信を持てるのか。いよいよ以てさっぱりだ。
だからキセンセシルは問い質した。
すると、クースデルセがより一層ドヤる。
「嫉妬だ!」
自信満々に放たれた言葉に、さしものキセンセシルも一瞬だけ目が点になった。しかし次の瞬間には腹の底から笑いが込み上げる。
「おーっほっほっほっほっ! ほんとーにおつむのお弱いこと!」
笑い声は甲高くも、聞く者の耳をつんざくかのように激烈。キセンセシル自身が、どうやって声を出したのか、後々になってもさっぱり判らないような声だ。
クースデルセも、これは堪らないとばかりに両耳を押さえて叫ぶ。
「その耳障りな笑いを止めろ!」
「これはこれは失礼を。あまりに滑稽だったものですから」
今のはさすがにはしたなかったと自己反省するキセンセシルだ。
耳鳴りがするのか、クースデルセが耳をほじりながら問い掛ける。
「滑稽だと?」
「わたくしが殿下に近付く女性に嫉妬する筈がありませんもの」
婚約破棄したくてしょうがなかった相手が恋人を作ったからと言って、嫉妬などしよう筈がない。それを機に婚約破棄ができるのだから尚更だ。今まで婚約破棄をしたくてもできなかったのは、相手が気に入らないと言うだけでは根拠に乏しかったため。ただの我が儘だと世間に見なされたら恰好の陰口の的になってしまう。
「嘘を申すな。持ち物を毀損するに飽きたらず、更に悪辣な行為にも及んでおきながら、動機が嫉妬でない筈がなかろう」
「……参考までに伺いますが、その悪辣な行為とは如何様なものでございましょう?」
キセンセシルはむしろ面白くなっていた。思い込みだけでどんな笑い話をしてくれるのだろうかと。
「知れたこと。貴様がシーリーを階段から突き落としたのだ。幸いにも無事だったものの、事と次第によっては命に関わったのだぞ!」
ふーん、だった。もっと面白いものを期待したのでがっかりのキセンセシルだ。しかし浅知恵とはその程度のことを言うのだうなぁと、妙に納得もする。
「またまたとんだ言い掛かりですこと。因みにわたくしに嫌疑を掛けられた理由をお伺いしても?」
すると、クースデルセがまたドヤる。質問されたらドヤりたい年頃らしい。どんな年頃かは判らないが。
「良かろう。ハーナーシ、説明してやれ」
ドヤっていながら説明を他人に丸投げにして自分ではしないのかと、キセンセシルはむしろ驚きを以て受け止めた。
そんなキセンセシルを余所に、ハーナーシが当然のことのように説明を始める。
「あの日、自分が廊下の階段近くに差し掛かったところでシーリーの悲鳴を聞きました」
キセンセシルは理解に苦しんだ。寝耳に水も良いところだ。勿論寝てはいないのだが。
ところが、ここが攻めどころとでも思ったか、クースデルセがまたも不敵な笑みを浮かべる。
「知らぬと申すか」
「何の事やらさっぱりですわ」
さっぱりなのはクースデルセがドヤれる理由もだ。
「貴様であろう? 幾度にも亘ってシーリーの持ち物を毀損せしめたのは!」
「とんだ言い掛かりですわ」
キセンセシルは即答しつつ、毀損しているのはあんたの頭の中だと、心の中で付け加えた。
「とぼけるつもりか!」
「とぼけるも何も、見ず知らずの方の持ち物をどうこうする趣味は持ち合わせておりません」
ピンクの髪だなぁくらいにしか思っていなかった相手に何が哀しゅうてそんな暇なことをしなければならないのかと、キセンセシルは内心でぼやく。声に出さなかったのは、あまりに言葉が多ければ言い訳じみて聞こえるからだ。
「趣味などではない」
「だとしたら、何だとおっしゃるのでしょう?」
クースデルセはまだドヤっている。どこにそんな自信を持てるのか。いよいよ以てさっぱりだ。
だからキセンセシルは問い質した。
すると、クースデルセがより一層ドヤる。
「嫉妬だ!」
自信満々に放たれた言葉に、さしものキセンセシルも一瞬だけ目が点になった。しかし次の瞬間には腹の底から笑いが込み上げる。
「おーっほっほっほっほっ! ほんとーにおつむのお弱いこと!」
笑い声は甲高くも、聞く者の耳をつんざくかのように激烈。キセンセシル自身が、どうやって声を出したのか、後々になってもさっぱり判らないような声だ。
クースデルセも、これは堪らないとばかりに両耳を押さえて叫ぶ。
「その耳障りな笑いを止めろ!」
「これはこれは失礼を。あまりに滑稽だったものですから」
今のはさすがにはしたなかったと自己反省するキセンセシルだ。
耳鳴りがするのか、クースデルセが耳をほじりながら問い掛ける。
「滑稽だと?」
「わたくしが殿下に近付く女性に嫉妬する筈がありませんもの」
婚約破棄したくてしょうがなかった相手が恋人を作ったからと言って、嫉妬などしよう筈がない。それを機に婚約破棄ができるのだから尚更だ。今まで婚約破棄をしたくてもできなかったのは、相手が気に入らないと言うだけでは根拠に乏しかったため。ただの我が儘だと世間に見なされたら恰好の陰口の的になってしまう。
「嘘を申すな。持ち物を毀損するに飽きたらず、更に悪辣な行為にも及んでおきながら、動機が嫉妬でない筈がなかろう」
「……参考までに伺いますが、その悪辣な行為とは如何様なものでございましょう?」
キセンセシルはむしろ面白くなっていた。思い込みだけでどんな笑い話をしてくれるのだろうかと。
「知れたこと。貴様がシーリーを階段から突き落としたのだ。幸いにも無事だったものの、事と次第によっては命に関わったのだぞ!」
ふーん、だった。もっと面白いものを期待したのでがっかりのキセンセシルだ。しかし浅知恵とはその程度のことを言うのだうなぁと、妙に納得もする。
「またまたとんだ言い掛かりですこと。因みにわたくしに嫌疑を掛けられた理由をお伺いしても?」
すると、クースデルセがまたドヤる。質問されたらドヤりたい年頃らしい。どんな年頃かは判らないが。
「良かろう。ハーナーシ、説明してやれ」
ドヤっていながら説明を他人に丸投げにして自分ではしないのかと、キセンセシルはむしろ驚きを以て受け止めた。
そんなキセンセシルを余所に、ハーナーシが当然のことのように説明を始める。
「あの日、自分が廊下の階段近くに差し掛かったところでシーリーの悲鳴を聞きました」
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