4 / 6
4
しおりを挟む
あー、この方もピンクの髪の彼女を愛称で呼ぶのですねと、キセンセシルは話の内容を余所に、妙に感心した。
「急ぎ駆け付けたところ、シーリーが階段の下で倒れていました。慌てて助け起こすと、シーリーは震えながら階段の上を指差します。誰かに突き落とされたのかと尋ねてもシーリーは震えるばかりでしたが、その怯え様から、突き落とされたのは間違いありません。自分はシーリーをひとまず落ち着かせてから、階段の上に駆け上がりました。そこに落ちていたのがこの金髪縦ロールのかつらです」
ハーナーシが金髪縦ロールのかつらを取り出して掲げる。なるほど金髪縦ロールだ。
「間違いありません。このかつらの持ち主がシーリーを突き落とした犯人です」
ハーナーシはそう締め括った。
これをクースデルセが引き継ぐ。そしてキセンセシルをビシッと指差して、渾身の決めポーズを決めた。つもりらしい。
「解ったであろう。金髪縦ロール。つまりはキセンセシル・コンヤハーキ、貴様だ!」
「はぁ!?」
これまたキセンセシル自身がどうやって声を出したか判らない素っ頓狂な声。淑女にあるまじき失態だ。まあ、これを失態と考えるのは彼女自身くらいのものかも知れないが。
固唾を呑んで成り行きを見守っていた周囲の大半の人々の表情もキセンセシルと似たようなものらしく、クースデルセの超理論にびっくりしている。そうでない人々の多くは首を傾げている。それでも少なくない人々がクースデルセの言葉を鵜呑みにしてキセンセシルに穢らわしげな視線を投げ付ける。
上げた声が失態だったと考えて周囲の様子を横目で覗っていたキセンセシルは、それら視線の主をできる限り記憶する努力をした。
「反論できないようだな?」
「いえ、そうではなく、お二人のあまりのおつむのお弱さに驚かされたのですわ」
驚いたのと、周りの様子が気になったせいで、すっかり反論が疎かになっていたキセンセシルである。
ところがクースデルセが不思議とまたドヤる。どうしてそんなにドヤるのか。ドヤりたい年頃でももう少し節制が必要だ。
「何っ! いやまてよ? 反論できぬから、そのような悪口を叩くのだな?」
キセンセシルは軽く頭痛を感じた。悪口と言われればそれまでだが、全ては目の前の人物を素直に表現しただけなのだ。
無駄だと思いつつも、一応だけ理を説く。
「まったく……、憐れになるほどおつむのお弱いこと。ほんとーに犯人が存在するなら、普通に考えれば金髪縦ロールの女性に罪を着せようとした犯人が落としたものでございましょう?」
「余も侮られたものだ。貴様が今申したことなど百も承知。そして貴様がその裏をかいて、敢えてかつらを残したこともお見通しよ」
とんだフシアナ・アイだ。いや、見えてはいけないものが見えるのだからマボロシ・アイか何かか。
ともあれ、「犯人が裏をかいたのを見抜いた余、かっこいい」と言いたい訳だ。勘違いが酷くてとても格好悪いのだが。
「おやまあ、奇妙なところに知恵が回りますこと」
「恐れ入ったか」
揶揄も判らず、「知恵が回る」と言われて喜んだらしい。
キセンセシルは噴き出すのを堪えるのに苦労した。それでも表向きには澄まし顔のままだ。ただ、口の端がピクピク動いているから、誰かに見抜かれてしまうかも知れない。そうなったら残念だ。
しかしそんな可能性を気にしても始まらない。笑みを堪えたツンと顎を突き上げる。
「いえ、まったく」
「なに?」
クースデルセはあり得ないものを見たかのように、目も口も開けて固まった。自らの考察が一蹴されるとは考えもしなかったらしい。
キセンセシルは些かばかり、同情を禁じ得ない。このおつむの弱さで国の将来を背負うなんてできるのかと。
しかしここで「はい、そうですね」などと言ってやる義理も無い。
「その程度の考察など、わたくしにもできましてよ?」
「急ぎ駆け付けたところ、シーリーが階段の下で倒れていました。慌てて助け起こすと、シーリーは震えながら階段の上を指差します。誰かに突き落とされたのかと尋ねてもシーリーは震えるばかりでしたが、その怯え様から、突き落とされたのは間違いありません。自分はシーリーをひとまず落ち着かせてから、階段の上に駆け上がりました。そこに落ちていたのがこの金髪縦ロールのかつらです」
ハーナーシが金髪縦ロールのかつらを取り出して掲げる。なるほど金髪縦ロールだ。
「間違いありません。このかつらの持ち主がシーリーを突き落とした犯人です」
ハーナーシはそう締め括った。
これをクースデルセが引き継ぐ。そしてキセンセシルをビシッと指差して、渾身の決めポーズを決めた。つもりらしい。
「解ったであろう。金髪縦ロール。つまりはキセンセシル・コンヤハーキ、貴様だ!」
「はぁ!?」
これまたキセンセシル自身がどうやって声を出したか判らない素っ頓狂な声。淑女にあるまじき失態だ。まあ、これを失態と考えるのは彼女自身くらいのものかも知れないが。
固唾を呑んで成り行きを見守っていた周囲の大半の人々の表情もキセンセシルと似たようなものらしく、クースデルセの超理論にびっくりしている。そうでない人々の多くは首を傾げている。それでも少なくない人々がクースデルセの言葉を鵜呑みにしてキセンセシルに穢らわしげな視線を投げ付ける。
上げた声が失態だったと考えて周囲の様子を横目で覗っていたキセンセシルは、それら視線の主をできる限り記憶する努力をした。
「反論できないようだな?」
「いえ、そうではなく、お二人のあまりのおつむのお弱さに驚かされたのですわ」
驚いたのと、周りの様子が気になったせいで、すっかり反論が疎かになっていたキセンセシルである。
ところがクースデルセが不思議とまたドヤる。どうしてそんなにドヤるのか。ドヤりたい年頃でももう少し節制が必要だ。
「何っ! いやまてよ? 反論できぬから、そのような悪口を叩くのだな?」
キセンセシルは軽く頭痛を感じた。悪口と言われればそれまでだが、全ては目の前の人物を素直に表現しただけなのだ。
無駄だと思いつつも、一応だけ理を説く。
「まったく……、憐れになるほどおつむのお弱いこと。ほんとーに犯人が存在するなら、普通に考えれば金髪縦ロールの女性に罪を着せようとした犯人が落としたものでございましょう?」
「余も侮られたものだ。貴様が今申したことなど百も承知。そして貴様がその裏をかいて、敢えてかつらを残したこともお見通しよ」
とんだフシアナ・アイだ。いや、見えてはいけないものが見えるのだからマボロシ・アイか何かか。
ともあれ、「犯人が裏をかいたのを見抜いた余、かっこいい」と言いたい訳だ。勘違いが酷くてとても格好悪いのだが。
「おやまあ、奇妙なところに知恵が回りますこと」
「恐れ入ったか」
揶揄も判らず、「知恵が回る」と言われて喜んだらしい。
キセンセシルは噴き出すのを堪えるのに苦労した。それでも表向きには澄まし顔のままだ。ただ、口の端がピクピク動いているから、誰かに見抜かれてしまうかも知れない。そうなったら残念だ。
しかしそんな可能性を気にしても始まらない。笑みを堪えたツンと顎を突き上げる。
「いえ、まったく」
「なに?」
クースデルセはあり得ないものを見たかのように、目も口も開けて固まった。自らの考察が一蹴されるとは考えもしなかったらしい。
キセンセシルは些かばかり、同情を禁じ得ない。このおつむの弱さで国の将来を背負うなんてできるのかと。
しかしここで「はい、そうですね」などと言ってやる義理も無い。
「その程度の考察など、わたくしにもできましてよ?」
241
あなたにおすすめの小説
お飾りの婚約者で結構です! 殿下のことは興味ありませんので、お構いなく!
にのまえ
恋愛
すでに寵愛する人がいる、殿下の婚約候補決めの舞踏会を開くと、王家の勅命がドーリング公爵家に届くも、姉のミミリアは嫌がった。
公爵家から一人娘という言葉に、舞踏会に参加することになった、ドーリング公爵家の次女・ミーシャ。
家族の中で“役立たず”と蔑まれ、姉の身代わりとして差し出された彼女の唯一の望みは――「舞踏会で、美味しい料理を食べること」。
だが、そんな慎ましい願いとは裏腹に、
舞踏会の夜、思いもよらぬ出来事が起こりミーシャは前世、読んでいた小説の世界だと気付く。
それが全てです 〜口は災の元〜
一 千之助
恋愛
主人公のモールドレにはヘンドリクセンという美貌の婚約者がいた。
男女の機微に疎く、誰かれ構わず優しくしてしまう彼に懸想する女性は数しれず。そしてその反動で、モールドレは敵対視する女性らから陰湿なイジメを受けていた。
ヘンドリクセンに相談するも虚しく、彼はモールドレの誤解だと軽く受け流し、彼女の言葉を取り合ってくれない。
……もう、お前みたいな婚約者、要らんわぁぁーっ!
ブチ切れしたモールドと大慌てするヘンドリクセンが別れ、その後、反省するお話。
☆自業自得はありますが、ざまあは皆無です。
☆計算出来ない男と、計算高い女の後日談つき。
☆最終的に茶番です。ちょいとツンデレ風味あります。
上記をふまえた上で、良いよと言う方は御笑覧ください♪
婚約破棄ならもうしましたよ?
春先 あみ
恋愛
リリア・ラテフィール伯爵令嬢の元にお約束の婚約破棄を突き付けてきたビーツ侯爵家嫡男とピピ男爵令嬢
しかし、彼等の断罪イベントは国家転覆を目論む巧妙な罠!?…だったらよかったなぁ!!
リリアの親友、フィーナが主観でお送りします
「なんで今日の今なのよ!!婚約破棄ならとっくにしたじゃない!!」
………
初投稿作品です
恋愛コメディは初めて書きます
楽しんで頂ければ幸いです
感想等いただけるととても嬉しいです!
2019年3月25日、完結致しました!
ありがとうございます!
婚約破棄と言いますが、好意が無いことを横においても、婚約できるような関係ではないのですが?
迷い人
恋愛
婚約破棄を宣言した次期公爵スタンリー・グルーバーは、恥をかいて引きこもり、当主候補から抹消された。
私、悪くありませんよね?
婚約破棄で見限られたもの
志位斗 茂家波
恋愛
‥‥‥ミアス・フォン・レーラ侯爵令嬢は、パスタリアン王国の王子から婚約破棄を言い渡され、ありもしない冤罪を言われ、彼女は国外へ追放されてしまう。
すでにその国を見限っていた彼女は、これ幸いとばかりに別の国でやりたかったことを始めるのだが‥‥‥
よくある婚約破棄ざまぁもの?思い付きと勢いだけでなぜか出来上がってしまった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる