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「へえ~~そうなの」
「そうなんですよ。完全にダメになる前に修理に持ってきた方が安く上がるのでお早めに」
「ちょっと不便なだけだしまだ使えるしと思ってたんだけど…」
「不便な時間が長くなる上に壊れて修繕費用も跳ね上がる、じゃ、ねえ?」
「そうね、ちょっと旦那に相談してみるわ」
「はい!ご入用でしたら是非うちの店にどうぞ!」
家計の財布の紐をがっちり握ってそうな奥様方と別れて、ホルスト君の方へ駆け寄る。
「ホルスト君、簡単な修理なら親方に任せて貰えるようになったって言ってたわよね」
「そうだ。親父が頷いてくれるまで大変だったぞ…」
「多分だけど、数日中に修理の注文来るから頑張ってね」
自慢するように告げると、ホルスト君が呆れたような目を向けて来た。
「イーリィお前、この店をもっとでかくしたいのか?張り切り過ぎだろ」
「いやー…んふふ…」
カイルと別れてから仕事か友達と遊ぶか親方に連れられて同業者の作業場見学に行くか近所の人に保存食の作り方教えて貰うくらいしかすることが無いので、つい仕事の方に熱を入れてしまっている。
無性に顔が見たくなる時もあるけど、距離を取って熟考すればするほどあれなのよね。
カイルに夢中でいることに利益を感じないというか。
相手に迷惑がられている上であたしの方も都合よく扱われてる生活って双方不利益じゃない?とか。
今更変に冷静になってる。
親方が職人気質で商売方面はからっきしだから、奥さんがそっちは取り締まってるのよね。
あたしのこととっても可愛がってくれて仕事もよく教わるんだけど、それのせいでちょっと利益主義に染まっちゃってんのかしら。
「あ、ちょっと、それ返してよ」
「運んでやる。作業室だろ」
「持てるわよそれくらい。ホルスト君親方の手伝いしてたんじゃないの」
「女に重い荷物は持たせない主義なんだ」
「それ他の人にしてあげてー?ここで働いてるあたしにはちょっと要らない主義だわー?年下こき使ってるみたいだし」
「たかだか7歳差で年上ぶるな」
「8歳差でしょ」
「俺は明後日で11だ。サバ読むんじゃない」
「それもサバ読むって言うの…?」
小競り合ってるのが親方にバレると怒鳴られちゃうので、今回はあたしの方が引いた。
次回は絶対あたしが押し勝つまでやるんだから。
妙な対抗意識が湧いたところで、親方がぬっと目の前に現れた。
厳つい顔の眉根に皺が寄ってるので迫力がある。
「イーリィ。お前に客だ」
親方の背から顔を覗かせたそのお客とやらは若い女性で、見覚えが無い。
けどいい服着てるわね。
はちみつ色の髪に光が反射して、手入れが行き届いてるのがわかる。
無下にできる感じじゃない。
親方から許可を貰って、いつも休憩室に使ってる物置にその女性を通した。
その辺に座って、って言うのもまずそうだったんで奥の方から椅子を引っ張り出して来てよく拭いてからお出しした。
「っもうなによここ!埃っぽくて暗くて最悪」
「すみません。落ち着いてお話しできるところがここしかなくて」
顔の前を手で扇ぐ仕草をしながら文句を言う女性。
鍛冶屋に綺麗さ求めるなんて世間知らずね。
とは言え大口のお客さんも増えてきたんだから客間はあった方がいいって勧めてる所だけど。
「それでお話とは?」
いつもの如く床に座ろうと思ったけど、こっちの目線が下になるのはまずそうな気がして空いてる木箱を椅子にする。
女性と目が合うと、嫌そうに顔をしかめられた。
「やだ、あなた顔が黒いけど、何つけてるの?」
「え?ああ、失礼しました」
さっきまで荷物整理をしてたから顔に煤でも付いていただろうか。
作業服のエプロンで拭くと、もっと嫌そうな顔をされた。まるで虫でも見んばかりの様子だ。
どうやらあたしに敵意を持っているみたい。
これは嫌がらせでやってるのか、はたまたいいところのお嬢様だから受け付けないのか、どっちなのか計りかねる。
「汚らしいわね…親からどういう教育を―」
「お茶です!」
お客さんがなんだか碌でもないことを言いかけてる所でホルスト君が勢いよくお茶を持って来てくれた。
木切れを使って簡易的にテーブルまで作って来てくれたみたいで、手早くそれを設置してお茶を置いたら失礼しましたと下がっていった。
何かあればすぐそこに待機してるぞってことね。
ホルスト君ありがとう。厄介そうな人だから助かるわ。
「なによ話の途中で!ここの連中はみんなああなの!?」
一瞬ぽかん、と呆けていたお客さんが瞬間沸騰した。
感情表現豊かな人だわ。
「それで、お話というのは?」
再度尋ねる。
仕事の途中をわざわざ抜け出しているのだからさっさと要件を言って欲しい。
お客さんは乱れた髪を手櫛で整えながらふん、と鼻息を荒くした。
「あなた、カイルと別れなさい」
「そうなんですよ。完全にダメになる前に修理に持ってきた方が安く上がるのでお早めに」
「ちょっと不便なだけだしまだ使えるしと思ってたんだけど…」
「不便な時間が長くなる上に壊れて修繕費用も跳ね上がる、じゃ、ねえ?」
「そうね、ちょっと旦那に相談してみるわ」
「はい!ご入用でしたら是非うちの店にどうぞ!」
家計の財布の紐をがっちり握ってそうな奥様方と別れて、ホルスト君の方へ駆け寄る。
「ホルスト君、簡単な修理なら親方に任せて貰えるようになったって言ってたわよね」
「そうだ。親父が頷いてくれるまで大変だったぞ…」
「多分だけど、数日中に修理の注文来るから頑張ってね」
自慢するように告げると、ホルスト君が呆れたような目を向けて来た。
「イーリィお前、この店をもっとでかくしたいのか?張り切り過ぎだろ」
「いやー…んふふ…」
カイルと別れてから仕事か友達と遊ぶか親方に連れられて同業者の作業場見学に行くか近所の人に保存食の作り方教えて貰うくらいしかすることが無いので、つい仕事の方に熱を入れてしまっている。
無性に顔が見たくなる時もあるけど、距離を取って熟考すればするほどあれなのよね。
カイルに夢中でいることに利益を感じないというか。
相手に迷惑がられている上であたしの方も都合よく扱われてる生活って双方不利益じゃない?とか。
今更変に冷静になってる。
親方が職人気質で商売方面はからっきしだから、奥さんがそっちは取り締まってるのよね。
あたしのこととっても可愛がってくれて仕事もよく教わるんだけど、それのせいでちょっと利益主義に染まっちゃってんのかしら。
「あ、ちょっと、それ返してよ」
「運んでやる。作業室だろ」
「持てるわよそれくらい。ホルスト君親方の手伝いしてたんじゃないの」
「女に重い荷物は持たせない主義なんだ」
「それ他の人にしてあげてー?ここで働いてるあたしにはちょっと要らない主義だわー?年下こき使ってるみたいだし」
「たかだか7歳差で年上ぶるな」
「8歳差でしょ」
「俺は明後日で11だ。サバ読むんじゃない」
「それもサバ読むって言うの…?」
小競り合ってるのが親方にバレると怒鳴られちゃうので、今回はあたしの方が引いた。
次回は絶対あたしが押し勝つまでやるんだから。
妙な対抗意識が湧いたところで、親方がぬっと目の前に現れた。
厳つい顔の眉根に皺が寄ってるので迫力がある。
「イーリィ。お前に客だ」
親方の背から顔を覗かせたそのお客とやらは若い女性で、見覚えが無い。
けどいい服着てるわね。
はちみつ色の髪に光が反射して、手入れが行き届いてるのがわかる。
無下にできる感じじゃない。
親方から許可を貰って、いつも休憩室に使ってる物置にその女性を通した。
その辺に座って、って言うのもまずそうだったんで奥の方から椅子を引っ張り出して来てよく拭いてからお出しした。
「っもうなによここ!埃っぽくて暗くて最悪」
「すみません。落ち着いてお話しできるところがここしかなくて」
顔の前を手で扇ぐ仕草をしながら文句を言う女性。
鍛冶屋に綺麗さ求めるなんて世間知らずね。
とは言え大口のお客さんも増えてきたんだから客間はあった方がいいって勧めてる所だけど。
「それでお話とは?」
いつもの如く床に座ろうと思ったけど、こっちの目線が下になるのはまずそうな気がして空いてる木箱を椅子にする。
女性と目が合うと、嫌そうに顔をしかめられた。
「やだ、あなた顔が黒いけど、何つけてるの?」
「え?ああ、失礼しました」
さっきまで荷物整理をしてたから顔に煤でも付いていただろうか。
作業服のエプロンで拭くと、もっと嫌そうな顔をされた。まるで虫でも見んばかりの様子だ。
どうやらあたしに敵意を持っているみたい。
これは嫌がらせでやってるのか、はたまたいいところのお嬢様だから受け付けないのか、どっちなのか計りかねる。
「汚らしいわね…親からどういう教育を―」
「お茶です!」
お客さんがなんだか碌でもないことを言いかけてる所でホルスト君が勢いよくお茶を持って来てくれた。
木切れを使って簡易的にテーブルまで作って来てくれたみたいで、手早くそれを設置してお茶を置いたら失礼しましたと下がっていった。
何かあればすぐそこに待機してるぞってことね。
ホルスト君ありがとう。厄介そうな人だから助かるわ。
「なによ話の途中で!ここの連中はみんなああなの!?」
一瞬ぽかん、と呆けていたお客さんが瞬間沸騰した。
感情表現豊かな人だわ。
「それで、お話というのは?」
再度尋ねる。
仕事の途中をわざわざ抜け出しているのだからさっさと要件を言って欲しい。
お客さんは乱れた髪を手櫛で整えながらふん、と鼻息を荒くした。
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