勇者になった幼馴染は聖女様を選んだ〈完結〉

ヘルベ

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幼馴染だった

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 あたしと勇者とは幼馴染だった。
 同じ村出身で、幼馴染とはいっても幼いころから付き合いがあるってだけ。なんなら狭い村だから住んでる人達みんな幼馴染みたいなもん。
 ただ勇者と私は家が隣同士でお互いの両親がけっこう仲が良かったから、家の行き来があったりはした。

「こんにちはー。おばさんいる?」
「畑の方で井戸端会議中。なんか用」
「これ、作り過ぎたからお裾分け。ここ置いとくね」
「お、ミートパイじゃん!お前の母ちゃんのパイ美味いんだよな」
「残念!これはあたしの練習作です」
「げえ~。お前ふざけんなよ、食えるもんなんだろうな」
「せめて食べてみてから文句言いなさいよ!すぐケチつける男は嫌われるからね!」

 このくらいの会話はしょっちゅうしてて、喧嘩腰じゃない会話の方が少なかったかも。
 本当に田舎だったから、顔が整ってて、てきぱき仕事のできる勇者は村の女の子からちょっと人気があった。
 …嘘。一番人気があって、いつも女の子に言い寄られてたし、積極的に家の手伝いもしてたから大人からも感心されてた。

「やっぱり結婚するならジグよねー」

 女の子同士で会話してるとよく勇者の名前が出て来る。
 そう、彼はジグって名前だったよ。長い間呼んでなかった気がして、うっかり忘れてた。

「ジグって喋ってて楽しいし、仕事には真面目だし、なにより顔がいい!」
「ねー。他の男共と違って乱暴じゃないのが素敵よ」
「でも村長の息子のブルクシも良くない?ちょっと自慢がうるさいけど、この村で一番お金も発言力もあるわ」
「やだあ、完全に玉の輿狙いじゃ無いのアンタ。ちょっとは隠しなさいよ!」

 村で一番羊を持ってる家の息子はどうだの、乱暴者のガキ大将は願い下げだの、染料になる花を摘みながら皆楽しそうに笑う。

「アンヌは?」

 適当に相槌を打っていたところに突然名前を呼ばれ、びっくりして詰んだ花を落としてしまった。
 さっきまで自分が自分がとお喋りの主導権を争っていた皆が、静かになってあたしを見ている。
 
「アンヌは誰がかっこいいと思う?」

 再び尋ねられ、うーんとちょっと考え込むふりをしてからジグかな、と答えた。

「怠け者は嫌だし粗野なのも嫌だもん。その点ジグは真面目だし紳士だし、なにより…」

 一呼吸置きながら皆の顔を見渡し、にやりと笑う。

「「「「顔がいい!」」」」

 あたしの合図がわかったように皆で口を揃えた。
 綺麗に揃った事がおかしくて、言い終えてから一斉に笑い出した。
 村で同年代の、それでいてかっこいい男はどうしても競争率が激しいから、友達同士でこうやって何気ない会話の中で情報収集しているのだ。
 ジグはそんな中で誰が好きだと言ってもおかしくない好条件の男で、勝手ながら色恋話を振られる度によく名前を使わせてもらっていた。
 人気者のジグなら名前を出してもわかるわかる、そうよね素敵よね、で終わるから。

 夏に入る前くらい、新緑が芽吹く頃。
 この国の王様の誕生日の二カ月前。
 生誕祭目的で都に行く途中の商人たちと大道芸人が、この村を中継地点に大移動してくる。
 娯楽の少ないこの村ではそれが一大イベントで、お小遣い稼ぎとばかりに商品や芸を披露してくれる旅人たちに村の住人は大いに沸き立つ。
 家族は勿論、恋人になった者同士がデートするのにも持って来いのイベントだ。

「はいこれ。重いから背負いカゴで持って行きな」
「えーいやよう!せっかくのお祭りなのにカゴを背負ってたら、友達に笑われちゃう!皆絶対おしゃれしてるのに!」
「手伝いが終わったら遊びに行ってもいいわよ。そしたらおめかしして行きなさい」
「そんな、それじゃいつになるかわからないじゃない!」

 商人に交換して貰うための織物と農作物を目の前にどんどんと詰まれ、絶望的な声を上げた。
 お祭りは二日間しか無いのに、そのうち一日を手伝いで潰せだなんて酷すぎる。

「お邪魔しますおばさん。この荷物を運べばいいんですか?」

 親のあまりの横暴に地団駄を踏んで泣き叫ぼうとした所に、ジグがさらっと入ってきた。
 危なかった。もう少しで女として最大の醜態を、よりにもよってこいつに見られるところだった。
 色々な感情が混ざって固まってしまっているあたしのその様子をどう捉えたのか、お母さんはふふんと鼻で笑いながらあたしの両手に荷物を乗せた。

「悪いねジグ。この子にも手伝わせるから、こき使ってやっておくれ。あとこっちは趣味で作った物だから、売れたらお小遣いにしていいよ」
「いいんですか?ありがとうございます。ほら、時間がもったいないから早く行くぞ」
「わ、わかったわよ。行ってきます」

 さっさと行ってしまったジグを慌てて追いかけるあたしの背中に、母さんのがんばんな!って声が掛かった。
 一体何を頑張るのよ。
 外に出れば村の中心に人が集まっていて、すでに旅芸人の人たちが芸を始めている。
 いつもは田舎丸出しの萎びた村が、綺麗に染めた布や摘んできた花で家々を飾っているといつもと違って華々しく鮮やかに見えた。

「あれー、ジグ!とアンヌったら一緒に遊ぼうって誘いたかったのに、今日も手伝いしてるの?」

 さっそく女の子の集団から声を掛けられる。
 なんだかあたしの事はついでのような扱いっぽいのは気にしないことにする。

「ああ、まあね。一応稼ぎ時だから」
「なんでよーせっかくなのにぃ。今日くらい休んで一緒に遊びましょうよ。アンヌも、ほらあ」
「ううん…そうしたいのは山々なんだけど…」
「仕事が終わって時間があったら合流させてくれ。まぁ、こうやって話しかけられるとその分遅れるけど」
「あ、やだやだ!早く終わらせちゃってよ!待ってるからね!」

 騒々しく見送られながら、やっぱり皆おしゃれに着飾っているのを見て非常に落ち込んでいた。
 対してあたしは普段着兼作業着に仕事しやすいひっつめ髪。拗ねるなと言う方が無理だ。
 ――せっかくのお祭りなのに。ジグと一緒に歩いてるのに。

「おい」

 短く呼びかけられ、不貞腐れて俯けていた顔を上げる。

「袖、掴んでいいぞ。人、多いから」
「なにが?」

 何を言われたのか一瞬わからなくて反射的に返事した。
 人が多いって、たしかに村のほとんど全員が外に出てるし、商人も旅芸人も混じってるからいつもよりは多いけど、袖を掴んでないとはぐれるほど密集なんてしてない。

「……別に嫌ならいい。バカ」

 言い捨てて歩く速度を早くしたジグの耳が真っ赤で、あたしもほっぺが赤くなる。

「待って!はぐれるの嫌だから、掴ませて」

 慌ててあたしも早歩きして、隣に並んで袖を掴む。
 これ、どういう意味なのって聞きたいけど、聞いたら袖掴ませて貰えなくなりそうで。
 あたしはニヤける顔を内頬を噛んで必死に耐えながら歩くしか無かった。
 仕事を押し付けて来たお母さんに、まさか感謝することになるなんて。
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