勇者になった幼馴染は聖女様を選んだ〈完結〉

ヘルベ

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聖女様

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 王都はとても遠く、途中いくつか村や街に寄り、馬車を替えて、二週間ほど掛かった。
 その間見張りのためか兵士さんもずっと一緒に行動していたので、あまりジグと会話する機会は無い。

 王都に着くと、今まで見たこと無いくらいの沢山の人で賑わっていて気後れしてしまった。
 建物も土地の広さもあたしの村となんて比べるべくもない。
 そんな綺麗で大きい建物が立ち並ぶ中央に、更に大きく仰々しく構えたお城が建っていた。

 門からして馬車が簡単に通れるほど大きく立派で、広大な庭を抜けて馬車から降りてからも圧倒されてばかり。
 お城の中に入れば何もかもが大きく広くてぴかぴかに輝いていて開いた口が塞がらない。
 天井なんて空と同じくらい高いんじゃないの。呆気に取られて天井を見つめていると、ジグに咎められるように肘でつつかれた。

 兵士さんたちにくれぐれも失礼のないようにと忠告され、案内され横に長いふかふかの椅子にテーブルが挟まれて置かれている部屋に入ると、壁一面がガラス張りになっている窓の所に綺麗な少女が立っていた。
 夜の闇のように黒い髪と瞳に、雪のように解けてしまいそうな白い肌。
 まるでおとぎ話に出て来るような不思議な容姿の少女に、あたしはほうっと息を吐く。

 でもそうやって見惚れると同時に不安もやってくる。あたしなんて日焼けで肌が浅黒いし、あの子に比べたら手も髪もぼろぼろ。
 見比べれば見比べるほど惨めになりそうな女としての差に、そんな場合じゃないのにジグがどういう感想を持ったのか気になってしまう。

「初めまして、私はマリン。いきなり連れてきてしまってごめんなさい」
「マリン様おやめください!」

 マリンと名乗った聖女様がなんのためらいなくあたし達に頭を下げた。
 傍に居た侍女さんが狼狽している。
 頭を下げるなんてすっごく偉い人相手にしかしない事だと思ってたあたしは固まってしまったけど、ジグがさっと頭を下げ返していたのを見てあたしもそれに倣った。
 
「ジグさんと…あと一緒に来てくれたあなたは…?」
「は、はい。ジグと同じ村に住んでるアンヌと言います」
「そう、アンヌさんね。遠くから来てくれてありがとう。悪いけど、二人以外は部屋から出てくれる?」

 退出するように言われた兵士さんと侍女さんたちは少しの間マリン様を説得してたけど、最後には困ったように部屋から出て行った。
 廊下で待機しているので何かあれば、とマリン様に念押ししていた。
 あたしたちが会ったばかりのマリン様に何かする訳無いじゃない。失礼しちゃうわ。

「はあーぁ!もういちいち面倒なんだから!」

 大きな溜息を吐いたマリン様がどさっと勢いよくソファに座った。
 しかも聖女様だと言うのに足をぶらぶらさせて…なんだか家にいる時のあたしみたいだ。
 今日は驚くことばかりで心臓が縮まっちゃいそうよ。

「二人とも立ってないで、そこ座って」

 促されてジグとあたしはおそるおそる聖女様の向かいのソファに座る。

「あの…失礼ですが、なんで俺を選んだんですか」

 座ってすぐ、切羽詰まった表情でジグが尋ねる。 

「本当にごめんね、巻き込んじゃって。って言っても私だってこの世界の人たちに巻き込まれたんだけどさ。勇者ってこっちの世界の神様が私を通して選んじゃうから、直感でこの人!ってなるのよ」

 砕けた口調でわっと喋る聖女様。もっと神父様みたいに厳かで気難しそうな人を想像していたけど、全然違った。
 こういう人、あたし好きなのよね。こんなこと考えるのも聖女様に対して失礼になっちゃうのかしら。

「そうですか…あの、俺の家父親がいなくて、だから俺がいなくなると男手が足りなくなるんです。精霊碑に力を注ぐ旅っていうのはどのくらい掛かるもんなんでしょうか」
「んー…歴代の聖女と勇者は大体三年くらいかけて旅をしてたらしいけど」
「三年…」
「あ、心配しないで!お城の人に言えば手伝いの人を送ってくれるから!それにこの仕事を終わらせたら王様がお礼くれるって言うし」
「お礼!?いや、そんなもの貰う訳には…!俺は家のことさえなんとかなればそれで…!」
「何言ってるの、そのくらい当たり前よ。世界の運命が掛かった問題を一方的に任されちゃうんだもん、無償でなんてやってらんないわ」

 聖女様が不敵に微笑む。
 どうやらジグの心配はなんとかなりそうなことにあたしも安堵する。
 
「で、アンヌちゃんだけど」
「は、はい!」
「ジグ君の兄妹…ってわけじゃないよね。ジグ君が心配で付いて来た村の女の子ってことで合ってる?」
「……はい」

 身を縮ませながら返事をする。
 我ながらなんとも場違いな所に無鉄砲な理由で付いて来てしまったと、今頃肩身が狭い思いが襲ってきた。
 怖くて聖女様の顔が見れない。

「え、違う違う、別に責めてるんじゃないから!もう、二人とも固いなあ…」

 聖女様は呆れたようにソファに深く座り直した。

「聖女として選定した訳じゃないアンヌちゃんにお礼が出ないかもって考えたら、王様とどう交渉しようかと」
「ひえ!?そんな、交渉なんていいです!あたし勝手に付いて来ちゃっただけなのに、聖女様にそんな迷惑掛ける訳にはいきません!」
「こっちだって無償奉仕なんてさせる訳にはいきません。精霊碑を巡る旅って安全じゃ無いし、長旅になっちゃうんだから」
「いや、でも…!!」
「ほとんど誘拐したようなもんだもん。そりゃ心配になって付いて来ちゃうよねえ」

 自分のペースを崩さない聖女様。
 あたしは本当に王様に交渉されたらどうしようなんて混乱した。
 ただ心配で付いて来ただけの、なんの取り柄もない田舎娘に礼をよこせだなんて要求するなんてどれだけ傲慢なことか。
 もしかして斬首とか縛り首にされちゃったり…!

 半泣きになりながら助けを求めて隣のジグの方を向いた。
 その時のことを今でも後悔してる。ジグの顔なんか見なきゃ良かったって。
 聖女様を見つめながら、頬を赤くしてるジグの顔なんて――。
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