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受け入れられない
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お父さんとお母さんから言い聞かされていたので、聖女の話は知っていた。
百年に一度、聖地が力を使い果たす頃。異世界から聖女を呼び出し、その聖女が勇者を一人選んで世界に点在する聖地に力を注ぎこむ旅をするのだ。
どんな僻地の田舎者でも知ってるくらい有名な話で、もし聖女様が立ち寄ることがあれば村でも国でも総出で協力、歓待するよう偉い人からお達しも出てる。
――その勇者にジグが選ばれた。
聖女様はなんでよりによって彼を選んでしまったの?別にジグじゃなくたって、もっと強くて物知りな人が世の中に居るはずでしょう?
威圧感のある兵士たちに囲まれ、拒否権もなく連れて行かれるジグ。
ジグがどんな表情をしているのか見たくても兵士の人たちが邪魔で見られない。
「いや、ジグ…待って……」
このままもう二度と会うことができないんじゃないか。
そんな気がしてあたしはジグに手を伸ばしたけど、一番目立った鎧を着てる厳ついおじさんがそれを阻む。
「いやです、ジグ連れて行かないで!こんなのいきなり酷い!」
「何も酷いことなどない、必要な事なのだ。君の我が儘でどうにかなる問題ではない」
「我が儘…!?」
ジグはこの村の人間なのよ?突然来て勝手に連れて去ろうとする貴方たちの方がおかしいのに!
怒鳴ってやりたいのに声にならない。
味方してくれる人が欲しくて周りを見回したけど、友達も近所の人も難しい顔をして黙っているばかり。
ジグのお母さんは泣きながらジグの弟妹を抱きしめるばかりで、ジグを引き留めようとはしない。
皆運命なのだと受け入れてしまっているのだ。
「あ、あたしも連れて行って下さい!お願いします!」
「アンヌ!何を言っているの!?」
お母さんに咎められながら厳ついおじさんに縋りつき、必死でお願いした。
このままジグと引き離されるのは嫌だ。
「ジグ殿は遊びに行く訳ではない。君のようなか弱い少女が付いて来ても足手まといになるだけだ」
「お願いします!荷物持ちでも料理番でも、なんでもやりますから…あたし体力には自信あるんです!だから…!!」
「駄目だ。離しなさい」
「お願いします!絶対邪魔にならないようにしますから!」
ほとんど悲鳴のような声を上げているあたしを止めるように、お父さんがあたしの肩を引いたけど、それを跳ねのけた。
次はお母さんが傍に来て「もうやめなさい」と説得しようとするから、あたしは泣きながら首を左右に振る。
なんで皆いきなりやって来た兵隊たちの言う事を素直に聞いてしまうの?ジグが、ジグが連れて行かれちゃうのに。
「団長、ちょっとこの子面白いですよ。同行させたら聖女様の負担が減らせるかもしれません」
「なに?」
団長と呼ばれた人よりも背が低くて眼鏡の、鎧を着ていない男の人があたしをまじまじ見つめてきた。
ちょっとの間観察してから、眼鏡の人は何人かに耳打ちした。
「…わかった。君も一緒に来なさい」
「!?あ、ありがとうございます!!」
眼鏡の人が何をしてくれたのかはわからないけど、あの人が口を挟んでくれた途端に同行への了承が下りたので、それについて何度もお礼を言うと苦いものでも噛んだような表情で制された。
「君は素直な子だね、いやまいった。僕にお礼なんてしなくていいよ。お礼されるような事はしてないんだ」
なんだか変なことを言っていたけど、意味が分からないから深く考えなかった。
お父さんとお母さんはあたしの名前を何度も呼びながら、なんで、どうしてアンヌまで!?と騒いでいる所を兵士に止められていた。
「お父さん、お母さん、行ってきます」
「待ちなさいアンヌ!」
二人に止められたって、あたしはジグに付いて行くのを諦める気は無かった。
また気が変わってあたしの事を置いていくことになったら困るので、さっさと案内された馬車に乗り込む。
「え、お前……なんでお前まで!?」
先に乗っていたジグがあたしを見て凄く驚いていた。
あたしはジグの前の席に座る。
「兵士さんにお願いしたの。あたしも一緒に連れてってくださいって。あんただけじゃ聖女様にどんな粗相するか分かったもんじゃないもの」
「ばかお前、これはそういう話じゃ…!今すぐ馬車から降りろ!」
「嫌よ、なによ偉そうに!勇者に選ばれたからって調子に乗り過ぎよ!」
「調子になんか乗ってねえ!俺はお前が危ない目に遭ったらって…!!」
言い争っているうちに兵士さんの一人が乗り込んで来て、扉を閉めたと同時に馬車が出発したからぐらっと揺れた。
さっきの勢いはどこへやら、ジグは中腰になっていたのを座り直しそっぽを向いてしまった。
外を見ているから話しかけるなという雰囲気で、あたしも気まずいまま自分の手元にやり場のない視線をやった。
「……本当は不安だった。アンヌが来てくれて、ちょっとほっとしてる」
しばらく馬車が走った所で、誰にも聞かせる気がないみたいな呟きをジグが零した。
あたしはまた泣いてしまって、袖で乱暴に涙を拭う。
…これからどうなるんだろう。
百年に一度、聖地が力を使い果たす頃。異世界から聖女を呼び出し、その聖女が勇者を一人選んで世界に点在する聖地に力を注ぎこむ旅をするのだ。
どんな僻地の田舎者でも知ってるくらい有名な話で、もし聖女様が立ち寄ることがあれば村でも国でも総出で協力、歓待するよう偉い人からお達しも出てる。
――その勇者にジグが選ばれた。
聖女様はなんでよりによって彼を選んでしまったの?別にジグじゃなくたって、もっと強くて物知りな人が世の中に居るはずでしょう?
威圧感のある兵士たちに囲まれ、拒否権もなく連れて行かれるジグ。
ジグがどんな表情をしているのか見たくても兵士の人たちが邪魔で見られない。
「いや、ジグ…待って……」
このままもう二度と会うことができないんじゃないか。
そんな気がしてあたしはジグに手を伸ばしたけど、一番目立った鎧を着てる厳ついおじさんがそれを阻む。
「いやです、ジグ連れて行かないで!こんなのいきなり酷い!」
「何も酷いことなどない、必要な事なのだ。君の我が儘でどうにかなる問題ではない」
「我が儘…!?」
ジグはこの村の人間なのよ?突然来て勝手に連れて去ろうとする貴方たちの方がおかしいのに!
怒鳴ってやりたいのに声にならない。
味方してくれる人が欲しくて周りを見回したけど、友達も近所の人も難しい顔をして黙っているばかり。
ジグのお母さんは泣きながらジグの弟妹を抱きしめるばかりで、ジグを引き留めようとはしない。
皆運命なのだと受け入れてしまっているのだ。
「あ、あたしも連れて行って下さい!お願いします!」
「アンヌ!何を言っているの!?」
お母さんに咎められながら厳ついおじさんに縋りつき、必死でお願いした。
このままジグと引き離されるのは嫌だ。
「ジグ殿は遊びに行く訳ではない。君のようなか弱い少女が付いて来ても足手まといになるだけだ」
「お願いします!荷物持ちでも料理番でも、なんでもやりますから…あたし体力には自信あるんです!だから…!!」
「駄目だ。離しなさい」
「お願いします!絶対邪魔にならないようにしますから!」
ほとんど悲鳴のような声を上げているあたしを止めるように、お父さんがあたしの肩を引いたけど、それを跳ねのけた。
次はお母さんが傍に来て「もうやめなさい」と説得しようとするから、あたしは泣きながら首を左右に振る。
なんで皆いきなりやって来た兵隊たちの言う事を素直に聞いてしまうの?ジグが、ジグが連れて行かれちゃうのに。
「団長、ちょっとこの子面白いですよ。同行させたら聖女様の負担が減らせるかもしれません」
「なに?」
団長と呼ばれた人よりも背が低くて眼鏡の、鎧を着ていない男の人があたしをまじまじ見つめてきた。
ちょっとの間観察してから、眼鏡の人は何人かに耳打ちした。
「…わかった。君も一緒に来なさい」
「!?あ、ありがとうございます!!」
眼鏡の人が何をしてくれたのかはわからないけど、あの人が口を挟んでくれた途端に同行への了承が下りたので、それについて何度もお礼を言うと苦いものでも噛んだような表情で制された。
「君は素直な子だね、いやまいった。僕にお礼なんてしなくていいよ。お礼されるような事はしてないんだ」
なんだか変なことを言っていたけど、意味が分からないから深く考えなかった。
お父さんとお母さんはあたしの名前を何度も呼びながら、なんで、どうしてアンヌまで!?と騒いでいる所を兵士に止められていた。
「お父さん、お母さん、行ってきます」
「待ちなさいアンヌ!」
二人に止められたって、あたしはジグに付いて行くのを諦める気は無かった。
また気が変わってあたしの事を置いていくことになったら困るので、さっさと案内された馬車に乗り込む。
「え、お前……なんでお前まで!?」
先に乗っていたジグがあたしを見て凄く驚いていた。
あたしはジグの前の席に座る。
「兵士さんにお願いしたの。あたしも一緒に連れてってくださいって。あんただけじゃ聖女様にどんな粗相するか分かったもんじゃないもの」
「ばかお前、これはそういう話じゃ…!今すぐ馬車から降りろ!」
「嫌よ、なによ偉そうに!勇者に選ばれたからって調子に乗り過ぎよ!」
「調子になんか乗ってねえ!俺はお前が危ない目に遭ったらって…!!」
言い争っているうちに兵士さんの一人が乗り込んで来て、扉を閉めたと同時に馬車が出発したからぐらっと揺れた。
さっきの勢いはどこへやら、ジグは中腰になっていたのを座り直しそっぽを向いてしまった。
外を見ているから話しかけるなという雰囲気で、あたしも気まずいまま自分の手元にやり場のない視線をやった。
「……本当は不安だった。アンヌが来てくれて、ちょっとほっとしてる」
しばらく馬車が走った所で、誰にも聞かせる気がないみたいな呟きをジグが零した。
あたしはまた泣いてしまって、袖で乱暴に涙を拭う。
…これからどうなるんだろう。
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