勇者になった幼馴染は聖女様を選んだ〈完結〉

ヘルベ

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一緒に旅するための条件

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 聖女様はなんだか性格が平民のあたし達に近い気がした。貴族の人たちのことなんて詳しく知らないけど。
 気取らなくて話しやすい、多分同じくらいの年頃の聖女マリン様。
 きっと家族を置いて来てるのはマリン様も一緒のはずなのに、まずあたしたちの心配をしてくれるその姿に胸が締め付けられた。
 
 しばらく三人で話し込んでいたら、廊下に居た兵士さんと侍女さんたちがノックをしてから入って来た。
 聖女様とジグが王様に呼ばれたらしく、玉座の間って所へ向かった。
 あたしは二人とは別行動で、村を出る時にお世話になった眼鏡の人に連れられ、なんだか変な道具がいっぱい置いてある部屋に来ている。

「まず改めまして。僕はアーノルド。よろしくね」
「はい、あの、よろしくお願いします。アンヌです」

 アーノルドさんが椅子の上に雑多に積んであったものを適当に避けると、あたしをそこに座らせた。
 今度は自分の椅子を発掘しているようで、物を動かす度に埃が舞っている。お城の中にある部屋なのにこんなに汚していていいのだろうか。

「アンヌ、君はジグ君の恋人?」
「違いますっ」

 こちらを向きもせず聞かれ、反射的に否定する。
 椅子探しを諦めたアーノルドさんは分厚い本を縦に積んで代わりにし、あたしの前に座った。
 高そうな本だけど大丈夫なのかしら。

「まず忠告ね。君がいなくても聖女様とジグ君には全く影響も問題も無い。選ばれた人間じゃないから国で歓迎をしてくれる訳でもない。ただ居てくれたなら少し便利。君はそういう扱いになるだろう。男に惚れてるってだけで同行した所できっと辛い目に遭うよ。それでも二人の旅に付いて行きたい?」

 どこか予想していた自分の立ち位置を明確に言葉にされ、胸が詰まるような感覚がした。
 押し黙ったあたしを見て、アーノルドさんはばつが悪そうに頭を掻く。
 
「いや、うん。僕が余計なこと言って君を連れてきちゃったのに何様だっていうね」
「ううん、あたしはどうしてもジグと一緒にいたかったんです。アーノルドさんが取り成してくれなかったらきっと近所のロバを借りてでも追っかけたと思います」
「はは…そりゃまた、お転婆がすぎる」
「そうです。あたしお転婆なんです。考え無しのあたしが危険な目に遭わずにお城まで来れてほんとに幸運でした。ありがとうございます」

 座ったまま頭を下げる。
 遠回しにアーノルドさんの責任ではないと言ったのだが伝わっただろうか。
 
「いや困った。本当に素直な…いい子だね君は」
「村ではもうちょっと落ち着けとか気が荒いとか散々言われてましたけど」

 苦笑しようとして失敗したような変な表情。
 アーノルドさんには、今の状況は心苦しいらしい。

「さんはいらない。アーノルドでいいよ。二人のときは敬語も要らない。聖女様と勇者様の旅に付いて行きたいって気持ちはどうしても変わらないんだね?」
「うん、アーノルド。ぜったいぜったい一緒に行きたい」

 姿勢を正し真っ直ぐ目を見て答えると、アーノルドはふーっと長い溜息を吐いてから、何かを決心したように立ち上がる。
 汚い部屋の中で唯一綺麗にされている戸棚の鍵を外し、瓶に入った液体を取り出してあたしに渡した。

「これは…?」
「魔法を使えるようになるための薬」
「ええ!?そんな凄い薬があるの!?」
「まあ、そんないいもんじゃないけど。この薬は素質がある人の奥底から無理やり魔力を引き出す薬さ」
「む、無理やり…?って……痛いの?」
「痛いし苦しいよ。二週間くらいベッドから動けない状態が続くし、最悪そのまま死に至る。無事生還できても後遺症が残ることだってある。本来は素質がある人間が勉強しながら修行と練習を繰り返して魔法が使えるようになるのを、無理に目覚めさせるんだからね。代償としてはまぁ、当然のリスクかな」

 当然と言いながら苦しそうな顔をするアーノルドで、言いたい事を察した。

「これを飲んで魔法を使えるようになる事が、二人の旅に同行する権利を得る唯一の方法だ」

 しんと沈黙が下りる。
 窓から差し込む日に埃が照らされ、煙のように充満してるのがわかる。
 
「…アンヌは僕が見立てだと、秘めている魔力量が多い。この薬は魔力量が多ければ多いほど死亡リスクは減るけど…絶対に大丈夫とは言ってあげられない。それでも飲む覚悟はあるかい?」

 君は普通の女の子なんだから、今なら引き返せるよ。
 死ぬかもしれないと伝えられ揺らいだ心にアーノルドの優しさが染みる。

 別に誰にも望まれていないのに命を掛けるなんて、なんて馬鹿な事をしようとしてるのだろう。
 お父さんとお母さん、村の人たちの顔が頭を過る。
 あたしは瓶の中の液体をじっと見つめた。
 
「あたし、それ飲みます」 

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