勇者になった幼馴染は聖女様を選んだ〈完結〉

ヘルベ

文字の大きさ
6 / 15

疎外感

しおりを挟む
 魔法を使えるようになる薬を飲んでから二週間。
 高熱とめまいと吐き気と頭痛が絶え間なく襲い掛かってくるので意識が朦朧とし、日常生活すらままならなかった。
 アーノルドや侍女さんたちに助けて貰わなければ薬の効果よりも飲まず食わずで死んでいただろう。
 やっと熱も落ち着きベッドから出られるようになったが、まだ足に力が入らない。
 
「どう?体に動かし辛い部分はある?指先とか、顔とか、足の指とか」
「ん……いいえ。まだだるいけど、動かし辛い所は無いわ」
「そうか、良かった…。熱も下がったし、あとは体の調子を整えながら魔法の使い方を覚えなくちゃね」

 そうだ、やっと一山越えたというのにまだ次の課題があるんだ。
 萎れそうになったところで、アーノルドが慰めるように優しく肩を叩いてくれた。

「勇者…ジグ殿が剣の練習のために稽古場にいるそうだ。見学しに行くかい?」
「良いの?邪魔になっちゃわないかな」
「見学するだけなら大丈夫さ。けど、絶対無理はしないこと。少しでも具合が悪くなったらすぐ僕に言うんだよ」
「うん!ありがとうアーノルド!」

 落ちていた気分が一気に上を向く。
 二週間もジグの顔を見ないなんて初めてで、なんだか凄く久しぶりに会うような感じ。村に居た時はお隣の家だったから、外出するだけで度々顔を合わせてたもの。
 アーノルドが杖を持って来てくれて、それを支えに大きくて広いお城の廊下を進む。

 途中でアーノルドに少し年下の婚約者が居て、アーノルドと結婚することを渋っているんだという話をした。
 「仕事に没頭したら家に帰って来なさそうで嫌だって言われちゃったよ」と肩を竦めるアーノルド。婚約者さんは彼の事をよく見ているんだなと思った。

 城の端まで歩くと、兵士さんたちが足場が砂場になってる、中庭の開けた場所で訓練をしている場所に辿り着く。
 杖を付きながらなのでかなり時間が掛かった。もう城の中だけでうちの村より広いんじゃないのと心の中で愚痴を零す。
 そこにはジグが素振りをしていて、あたしたちを迎えに来た例の厳つい隊長さんが横で時折喝を入れている姿があった。

(なによ、かっこいいじゃない)

 兵士さんの訓練用の格好だろうか、皆で揃って簡易的な鎧を纏っている。
 真剣な表情で剣を振るジグは、村の女の子たちがここに居たら頬を赤く染めながらきゃーきゃー言いそうな程凛々しい。
 なんて客観視気取ってるあたしも、そのジグのかっこよさに心臓がどくどくとうるさい。

「そこに椅子があるから座って見学しようか」
「あ、うん。ありがとう」

 アーノルドが日陰にある椅子まで誘導してくれて、そこに座ってジグに話しかけるタイミングを待つ。
 叱られているような声とそれに対してジグのはい!という鋭い返事が何度も聞こえてきてはらはらしてしまう。
 やっぱりお城で稽古を付けて貰うとなると物凄く厳しいんだろうな。
 話しかけたいのと心配なのとでそわそわしている間に、お供を連れた女性が訓練中のジグに駆け寄って行くのが見えた。

「ジグ!」
「マリン様?」

 ジグが名前を呼んだことで、駆け寄った女性がマリン様だとわかった。
 いつのまに呼び捨てにさん付けになったのだろう。なんだか胸が苦しくなる。

「なんか偉い人たちからお菓子いっぱい貰っちゃったからお裾分けしに来たの!皆で食べて」
「マリン様、稽古中に突然来られては困りますと何度申し上げれば…」
「もーう、お菓子休憩くらい良いじゃない!」
「いいじゃないっすか隊長、優しい聖女様の頼みを断るなんて不躾ですよ」
「ねー?そうよねー?」

 どうやらこういうことは日常茶飯事のようだ。慣れたように兵士さんたちがマリン様の周りに集まり、談笑し始めた。
 隊長さんは納得いっていないようで、マリン様が持って来たお菓子を受け取らずに難しい顔で黙っている。

「はい、ジグの分」
「ありがとうございます。いつもすみません」
「どう?訓練捗ってる?」
「対人訓練は終えましたが、ここには俺より強い人ばかりなので…負けっぱなしで成果が出ている実感があまり感じられません」
「当たり前だっての!いくら聖女様に選ばれた勇者とはいえ、剣を握って二週間そこらの奴に負けたら俺らの立つ瀬がねえよ!」
「ったく、ちょっと練習したらすぐに勝てる気でいるのかこいつ」
「い、いえそういう訳じゃ!」
「そんな勘違い野郎には直々に稽古つけてやろうかなー?」
「あははははっ!皆いじわるなんだから」

 すでに親しい人たち同士で出来上がっている空気。
 あたしがいない間に、随分仲良くなったみたい。
 呆然とそれを眺めていたら、アーノルドがあたしの視線の前に立って遮った。

「今日はもう帰ろうか。病み上がりで疲れてるだろ?また今度来よう」

 優しい人。
 婚約者の人、アーノルドは仕事の虫かもしれないけど、こんなに紳士でいい男よ。
 アーノルドから差し出された手にそっと自分の手を添える。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

嫌われたと思って離れたのに

ラム猫
恋愛
 私は、婚約者のカイルに嫌われたと思った。冷たくそっけなく、近づくたびに避けられる日々。  距離を置くことを選び、留学の準備も進めて心を落ち着かせようとするけれど——。

結婚5年目の仮面夫婦ですが、そろそろ限界のようです!?

宮永レン
恋愛
 没落したアルブレヒト伯爵家を援助すると声をかけてきたのは、成り上がり貴族と呼ばれるヴィルジール・シリングス子爵。援助の条件とは一人娘のミネットを妻にすること。  ミネットは形だけの結婚を申し出るが、ヴィルジールからは仕事に支障が出ると困るので外では仲の良い夫婦を演じてほしいと告げられる。  仮面夫婦としての生活を続けるうちに二人の心には変化が生まれるが……

無愛想な婚約者の心の声を暴いてしまったら

雪嶺さとり
恋愛
「違うんだルーシャ!俺はルーシャのことを世界で一番愛しているんだ……っ!?」 「え?」 伯爵令嬢ルーシャの婚約者、ウィラードはいつも無愛想で無口だ。 しかしそんな彼に最近親しい令嬢がいるという。 その令嬢とウィラードは仲睦まじい様子で、ルーシャはウィラードが自分との婚約を解消したがっているのではないかと気がつく。 機会が無いので言い出せず、彼は困っているのだろう。 そこでルーシャは、友人の錬金術師ノーランに「本音を引き出せる薬」を用意してもらった。 しかし、それを使ったところ、なんだかウィラードの様子がおかしくて───────。 *他サイトでも公開しております。

【完結】愛しき冷血宰相へ別れの挨拶を

川上桃園
恋愛
「どうかもう私のことはお忘れください。閣下の幸せを、遠くから見守っております」  とある国で、宰相閣下が結婚するという新聞記事が出た。  これを見た地方官吏のコーデリアは突如、王都へ旅立った。亡き兄の友人であり、年上の想い人でもある「彼」に別れを告げるために。  だが目当ての宰相邸では使用人に追い返されて途方に暮れる。そこに出くわしたのは、彼と結婚するという噂の美しき令嬢の姿だった――。 新聞と涙 それでも恋をする  あなたの照らす道は祝福《コーデリア》 君のため道に灯りを点けておく 話したいことがある 会いたい《クローヴィス》  これは、冷血宰相と呼ばれた彼の結婚を巡る、恋のから騒ぎ。最後はハッピーエンドで終わるめでたしめでたしのお話です。 第22回書き出し祭り参加作品 2025.1.26 女性向けホトラン1位ありがとうございます 2025.2.14 後日談を投稿しました

全部私が悪いのです

久留茶
恋愛
ある出来事が原因でオーディール男爵家の長女ジュディス(20歳)の婚約者を横取りする形となってしまったオーディール男爵家の次女オフィーリア(18歳)。 姉の元婚約者である王国騎士団所属の色男エドガー・アーバン伯爵子息(22歳)は姉への気持ちが断ち切れず、彼女と別れる原因となったオフィーリアを結婚後も恨み続け、妻となったオフィーリアに対して辛く当たる日々が続いていた。 世間からも姉の婚約者を奪った『欲深いオフィーリア』と悪名を轟かせるオフィーリアに果たして幸せは訪れるのだろうか……。 *全18話完結となっています。 *大分イライラする場面が多いと思われますので苦手な方はご注意下さい。 *後半まで読んで頂ければ救いはあります(多分)。 *この作品は他誌にも掲載中です。

好きな人ができたので婚約を解消して欲しいと言われました

鳴哉
恋愛
婚約を解消して欲しいと言われた令嬢 の話 短いので、サクッと読んでいただけると思います。

あなたでなくては

月樹《つき》
恋愛
私の恋人はとても女性に人気がある人です。いつも周りには美しい人達が彼を取り囲んでいます。でも良いのです。だって彼だけが私の大切な…。

メリンダは見ている [完]

風龍佳乃
恋愛
侯爵令嬢のメリンダは 冷静沈着という言葉が似合う女性だ。 メリンダが見つめているのは 元婚約者であるアレンだ。 婚約関係にありながらも 愛された記憶はなかった メリンダ自身もアレンを愛していたか? と問われれば答えはNoだろう。 けれど元婚約者として アレンの幸せを 願っている。

処理中です...