135 / 291
地潜りの竜(1)
しおりを挟む
アンダー・ドラゴン討伐隊である私達はひたすら西へと駆けた。そして17時少し手前の頃だろうか、馬に乗って馬車に並走していた騎士が、片手で私達にジェスチャーを送ってきた。連絡事項が有る時に使う合図だ。
マキアが少しだけ馬車の扉を開いて外部と音が通じるようにした。確認した騎士は大声を張り上げた。
「信号弾確認! 前方で戦闘開始!!」
馬車の窓からは見えなかったが、西の空に信号弾が上がったらしい。尖兵《せんぺい》として先行していた部隊がアンダー・ドラゴン本拠地に一足早く着き、構成員達と戦闘になったのだ。
扉を閉めたマキアが緊張した面持ちで言った。
「アンドラの構成員は本拠地にまだ留まっていたようだね」
戦闘開始となればそういうことだ。アンダー・ドラゴン首領はさっさと本拠地を放棄して構成員を散り散りに逃がせば良かったのに、財宝を残しておくことを惜しみ、運び出し作業に時間をかけ過ぎたのだ。
「欲を出して逃亡が遅れたんですね。愚かしい奴ら」
銃を握る最年少のリーベルトは案外落ち着いていた。私以上に実戦経験が少ない彼だが、単身ガロン荒野に乗り込んでみせた豪胆者だ。戦闘中にパニックを起こす危険は少ないだろう。
「………………」
私はエンをチラリと見た。
冒険者ギルド関係者は馬車の走行順と同じ様に、本拠地に着いてもルービック師団長と行動を共にすることになっている。隊の最高責任者の側に居られるのだから心強くは有る。最前線に比べて危険も少ないだろう。
だが後方に居て、ユーリを生かして捕えるという目的が果たせるかが心配だ。
(焦っちゃ駄目。無茶はしない。みんなと足並みを揃えるんだ)
昨晩ユーリと戦ってみんなに心配をかけてしまった。戦ったこと自体は後悔していない。エンを救う為に必要だった。だけど独りで突っ走らないように。
私は心の中で何度も復唱して戒めとした。
ガタン。
馬車が停まった。ついにその時が来たのだ。私達は各々の武器を手に取り馬車を降りた。一つ前に停まっている馬車からは年長組が、そして更にもう一つ前の馬車からは聖騎士達が降りていた。
「行くぞ」
ルービック師団長が速足で歩き出し、ギルドメンバー達も後に続いた。
視線の先にはガロン荒野を思い起こさせる廃墟群が広がっていた。規模的にはかつて街だったのだろう。ガロン荒野ではモンスターだったが、ここの廃墟は犯罪組織によって占拠されていたようだ。
「グラハム、どういう状況だ」
前方に陣を張っていたグラハム連隊長がルービック師団長を振り返った。
「街の中央に在る公民館が奴らの根城のようです。現在私の連隊が公民館を囲み、中に居るアンダー・ドラゴン構成員と睨み合いの状態です」
グラハムはコネも有っただろうが連隊長職まで出世しただけあって、仕事はちゃんとできる御仁のようだ。うるせぇとか思ってごめんなさい。
「それでいい。おまえの連隊はそのまま囲みの陣で奴らの逃亡を防いでいてくれ。本拠地への突入は私達がやる」
「えっ、しかし……」
納得していない感のグラハムの横を通り過ぎて、師団長はマントを翻して颯爽と歩を進めようとしたが、
「お待ちを」
左に控えていたエドガー連隊長が進言した。
「師団長はどうか外にいらして下さい。突入は私とマシューが残り半分の兵を率いて行います」
「そうですよ。追い詰められたアイツら、どんな卑怯な手段を使うか判りません。指揮官に何か遭ったら師団は総崩れとなりますから」
マシュー中隊長からも止められ、ルービック師団長は渋々立ち止まった。
「……了解だ。私はここで指揮を取ろう。ギルドメンバーの諸君らも後方支援に回ってくれ」
「いえ、自分は突入班に加わります」
エンが即座に言い切った。ルパートは彼を止めずに宣言した。
「冒険者ギルドは全員で突入します!」
エンがユーリを救いたがっている。私達はそれに協力すると決めたのだ。
「行かせないぞルパート、おまえ達はあくまでも協力者だ。突入行動など明らかな危険に身を置く必要は無い」
ああ、やっぱ師団長は私達を気遣ってくれていたんだな。その気持ちはとてもありがたい。でも私達の決意は揺るがなかった。
「ルービック隊長、いえ師団長。アンダー・ドラゴン壊滅は冒険者ギルド全体の願いでもあります。いくつかの支部で職員が殺害されています。これは彼らの弔い合戦です」
「熱くなるな。せめてロックウィーナと年若いそこの青年はここに残らせろ」
「コイツらは言っても聞きません。放っておくと無茶をするので、目の届く範囲に居てもらった方がいいです。なので連れて行きます」
「それならばやはり私も行く。外部の協力者を危険に曝させておいて、自分だけ安全な場所になど居られるか!」
師団長は力強く表明したが、
「四の五の言わずに大人しくしていて下さい」
「前回の遠征任務でも、ちょっとの怪我なら回復すれば元通り~、とか言って暴走されてましたよね?」
速攻でエドガーとマシューに却下されていた。
元通り~で暴走? 落ち着いた大人であるルービックのイメージと異なるな。
「……変わってないんですね、師団長」
ルパートが苦い表情で呟いて、師団長はバツの悪い顔をした。あれ? もしかしてイケオジ師団長ってばヤンチャ寄り?
「グラハム連隊長、申し訳ありませんが師団長を宜しくお願いします」
「了解した。任せてくれエドガー連隊長」
この師団の高官達は困った上官ルービックの扱いを心得ていた。明らかに拗ねた表情の最高責任者を置いて、私達は廃れた街の中心部へ向かった。
マキアが少しだけ馬車の扉を開いて外部と音が通じるようにした。確認した騎士は大声を張り上げた。
「信号弾確認! 前方で戦闘開始!!」
馬車の窓からは見えなかったが、西の空に信号弾が上がったらしい。尖兵《せんぺい》として先行していた部隊がアンダー・ドラゴン本拠地に一足早く着き、構成員達と戦闘になったのだ。
扉を閉めたマキアが緊張した面持ちで言った。
「アンドラの構成員は本拠地にまだ留まっていたようだね」
戦闘開始となればそういうことだ。アンダー・ドラゴン首領はさっさと本拠地を放棄して構成員を散り散りに逃がせば良かったのに、財宝を残しておくことを惜しみ、運び出し作業に時間をかけ過ぎたのだ。
「欲を出して逃亡が遅れたんですね。愚かしい奴ら」
銃を握る最年少のリーベルトは案外落ち着いていた。私以上に実戦経験が少ない彼だが、単身ガロン荒野に乗り込んでみせた豪胆者だ。戦闘中にパニックを起こす危険は少ないだろう。
「………………」
私はエンをチラリと見た。
冒険者ギルド関係者は馬車の走行順と同じ様に、本拠地に着いてもルービック師団長と行動を共にすることになっている。隊の最高責任者の側に居られるのだから心強くは有る。最前線に比べて危険も少ないだろう。
だが後方に居て、ユーリを生かして捕えるという目的が果たせるかが心配だ。
(焦っちゃ駄目。無茶はしない。みんなと足並みを揃えるんだ)
昨晩ユーリと戦ってみんなに心配をかけてしまった。戦ったこと自体は後悔していない。エンを救う為に必要だった。だけど独りで突っ走らないように。
私は心の中で何度も復唱して戒めとした。
ガタン。
馬車が停まった。ついにその時が来たのだ。私達は各々の武器を手に取り馬車を降りた。一つ前に停まっている馬車からは年長組が、そして更にもう一つ前の馬車からは聖騎士達が降りていた。
「行くぞ」
ルービック師団長が速足で歩き出し、ギルドメンバー達も後に続いた。
視線の先にはガロン荒野を思い起こさせる廃墟群が広がっていた。規模的にはかつて街だったのだろう。ガロン荒野ではモンスターだったが、ここの廃墟は犯罪組織によって占拠されていたようだ。
「グラハム、どういう状況だ」
前方に陣を張っていたグラハム連隊長がルービック師団長を振り返った。
「街の中央に在る公民館が奴らの根城のようです。現在私の連隊が公民館を囲み、中に居るアンダー・ドラゴン構成員と睨み合いの状態です」
グラハムはコネも有っただろうが連隊長職まで出世しただけあって、仕事はちゃんとできる御仁のようだ。うるせぇとか思ってごめんなさい。
「それでいい。おまえの連隊はそのまま囲みの陣で奴らの逃亡を防いでいてくれ。本拠地への突入は私達がやる」
「えっ、しかし……」
納得していない感のグラハムの横を通り過ぎて、師団長はマントを翻して颯爽と歩を進めようとしたが、
「お待ちを」
左に控えていたエドガー連隊長が進言した。
「師団長はどうか外にいらして下さい。突入は私とマシューが残り半分の兵を率いて行います」
「そうですよ。追い詰められたアイツら、どんな卑怯な手段を使うか判りません。指揮官に何か遭ったら師団は総崩れとなりますから」
マシュー中隊長からも止められ、ルービック師団長は渋々立ち止まった。
「……了解だ。私はここで指揮を取ろう。ギルドメンバーの諸君らも後方支援に回ってくれ」
「いえ、自分は突入班に加わります」
エンが即座に言い切った。ルパートは彼を止めずに宣言した。
「冒険者ギルドは全員で突入します!」
エンがユーリを救いたがっている。私達はそれに協力すると決めたのだ。
「行かせないぞルパート、おまえ達はあくまでも協力者だ。突入行動など明らかな危険に身を置く必要は無い」
ああ、やっぱ師団長は私達を気遣ってくれていたんだな。その気持ちはとてもありがたい。でも私達の決意は揺るがなかった。
「ルービック隊長、いえ師団長。アンダー・ドラゴン壊滅は冒険者ギルド全体の願いでもあります。いくつかの支部で職員が殺害されています。これは彼らの弔い合戦です」
「熱くなるな。せめてロックウィーナと年若いそこの青年はここに残らせろ」
「コイツらは言っても聞きません。放っておくと無茶をするので、目の届く範囲に居てもらった方がいいです。なので連れて行きます」
「それならばやはり私も行く。外部の協力者を危険に曝させておいて、自分だけ安全な場所になど居られるか!」
師団長は力強く表明したが、
「四の五の言わずに大人しくしていて下さい」
「前回の遠征任務でも、ちょっとの怪我なら回復すれば元通り~、とか言って暴走されてましたよね?」
速攻でエドガーとマシューに却下されていた。
元通り~で暴走? 落ち着いた大人であるルービックのイメージと異なるな。
「……変わってないんですね、師団長」
ルパートが苦い表情で呟いて、師団長はバツの悪い顔をした。あれ? もしかしてイケオジ師団長ってばヤンチャ寄り?
「グラハム連隊長、申し訳ありませんが師団長を宜しくお願いします」
「了解した。任せてくれエドガー連隊長」
この師団の高官達は困った上官ルービックの扱いを心得ていた。明らかに拗ねた表情の最高責任者を置いて、私達は廃れた街の中心部へ向かった。
1
あなたにおすすめの小説
時空の迷い子〜異世界恋愛はラノベだけで十分です〜
いろは
恋愛
20歳ラノベ好きの喪女の春香。いつもの週末の様にラノベを深夜まで読み寝落ちし目覚めたら森の中に。よく読むラノベの様な異世界に転移した。
突然狼に襲われ助けてくれたのは赤髪の超男前。
この男性は公爵家嫡男で公爵家に保護してもらい帰り方を探す事に。
転移した先は女神の嫉妬により男しか生まれない国。どうやら異世界から来た春香は”迷い人”と呼ばれこの国の王子が探しているらしい。”迷い人”である事を隠し困惑しながらも順応しようと奮闘する物語。
※”小説家になろう”で書いた話を改編・追記しました。あちらでは完結しています。よければ覗いてみて下さい
転生したら、実家が養鶏場から養コカトリス場にかわり、知らない牧場経営型乙女ゲームがはじまりました
空飛ぶひよこ
恋愛
実家の養鶏場を手伝いながら育ち、後継ぎになることを夢見ていていた梨花。
結局、できちゃった婚を果たした元ヤンの兄(改心済)が後を継ぐことになり、進路に迷っていた矢先、運悪く事故死してしまう。
転生した先は、ゲームのようなファンタジーな世界。
しかし、実家は養鶏場ならぬ、養コカトリス場だった……!
「やった! 今度こそ跡継ぎ……え? 姉さんが婿を取って、跡を継ぐ?」
農家の後継不足が心配される昨今。何故私の周りばかり、後継に恵まれているのか……。
「勤労意欲溢れる素敵なお嬢さん。そんな貴女に御朗報です。新規国営牧場のオーナーになってみませんか? ーー条件は、ただ一つ。牧場でドラゴンの卵も一緒に育てることです」
ーーそして謎の牧場経営型乙女ゲームが始まった。(解せない)
ご褒美人生~転生した私の溺愛な?日常~
紅子
恋愛
魂の修行を終えた私は、ご褒美に神様から丈夫な身体をもらい最後の転生しました。公爵令嬢に生まれ落ち、素敵な仮婚約者もできました。家族や仮婚約者から溺愛されて、幸せです。ですけど、神様。私、お願いしましたよね?寿命をベッドの上で迎えるような普通の目立たない人生を送りたいと。やりすぎですよ💢神様。
毎週火・金曜日00:00に更新します。→完結済みです。毎日更新に変更します。
R15は、念のため。
自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)
異世界に喚ばれた私は二人の騎士から逃げられない
紅子
恋愛
異世界に召喚された・・・・。そんな馬鹿げた話が自分に起こるとは思わなかった。不可抗力。女性の極めて少ないこの世界で、誰から見ても外見中身とも極上な騎士二人に捕まった私は山も谷もない甘々生活にどっぷりと浸かっている。私を押し退けて自分から飛び込んできたお花畑ちゃんも素敵な人に出会えるといいね・・・・。
完結済み。全19話。
毎日00:00に更新します。
R15は、念のため。
自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)
王宮侍女は穴に落ちる
斑猫
恋愛
婚約破棄されたうえ養家を追い出された
アニエスは王宮で運良く職を得る。
呪われた王女と呼ばれるエリザベ―ト付き
の侍女として。
忙しく働く毎日にやりがいを感じていた。
ところが、ある日ちょっとした諍いから
突き飛ばされて怪しい穴に落ちてしまう。
ちょっと、とぼけた主人公が足フェチな
俺様系騎士団長にいじめ……いや、溺愛され
るお話です。
英雄の番が名乗るまで
長野 雪
恋愛
突然発生した魔物の大侵攻。西の果てから始まったそれは、いくつもの集落どころか国すら飲みこみ、世界中の国々が人種・宗教を越えて協力し、とうとう終息を迎えた。魔物の駆逐・殲滅に目覚ましい活躍を見せた5人は吟遊詩人によって「五英傑」と謳われ、これから彼らの活躍は英雄譚として広く知られていくのであろう。
大侵攻の終息を祝う宴の最中、己の番《つがい》の気配を感じた五英傑の一人、竜人フィルは見つけ出した途端、気を失ってしまった彼女に対し、番の誓約を行おうとするが失敗に終わる。番と己の寿命を等しくするため、何より番を手元に置き続けるためにフィルにとっては重要な誓約がどうして失敗したのか分からないものの、とにかく庇護したいフィルと、ぐいぐい溺愛モードに入ろうとする彼に一歩距離を置いてしまう番の女性との一進一退のおはなし。
※小説家になろうにも投稿
まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?
せいめ
恋愛
政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。
喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。
そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。
その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。
閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。
でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。
家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。
その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。
まずは亡くなったはずの旦那様との話から。
ご都合主義です。
設定は緩いです。
誤字脱字申し訳ありません。
主人公の名前を途中から間違えていました。
アメリアです。すみません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる