ギルド回収人は勇者をも背負う ~ボロ雑巾のようになった冒険者をおんぶしたら惚れられた~

水無月礼人

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不安定なこの世界(2)

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(岩見鈴音……、あの子は私達が神様と呼んでいるあの少女だ……!)

 聞き覚えの有る声。そして保健室の薬棚のガラス戸に反射して映った鈴音は、草原の夢で会った少女の姿をしていた。

(創造主…………)

 神というものは絶対的な存在だと思っていた。でも鈴音に対してその感想は湧いてこない。病弱な身体を嘆く力無き少女にしか見えなかった。
 彼女の唯一の心のり所は…………。

 私はエリアスを見た。私の視線を受け止めた彼は柔らかく笑い返してくれた。夢の中の衛藤先輩のように。
 衛藤先輩に背負われたあの日、あの瞬間、岩見鈴音は幸せだった。彼女とリンクした私が寝ながら笑顔になるほどに。

「何いいムード作ってんだよ。やっぱりおまえら二人、寝る前に何か有ったのか……?」

 ルパートがおっかない顔ですごんできた。不意打ちキスしたアンタが言うな。

「……エリアスさんは抜け駆けとか不意打ちとかしませんよ。紳士ですもん」

 皮肉で返したらルパートの目が泳いだ。キス魔の自分を思い出したようだ。

「昨日は情けないことに、血の匂いに酔って体調を崩してしまったんです。それでエリアスさんに背負われたんですが、ホッとしてそのまま眠ってしまったようです」

 マキアが頷いた。

「ここにもアンドラの陽動部隊が出たんだもんね。キミ達が無事で良かった。敵の死体は兵士の皆さんが運んでくれたから、もう外に出ても大丈夫だよ」
「財宝馬車の方も大変だったの?」
「うん、結構な数の敵が攻めてきたよ。でも聖騎士の二人が鬼強だったし、他の兵士さん達も頑張ったし、キース先輩とアルがバリアを張ってくれたから、みんな無傷で何とか乗り切られたんだ」
「良かった……。でもアンドラも無謀だよね。勝てっこないのに挑んでくるなんて」

 ユーリが見解を述べた。

「本拠地が兵団に落とされて組織は混乱している。首領の指示が届いていない状態なんだろう。中堅以上の構成員はそれなりの頭が有るから、しばらくは身を隠して様子を窺うだろうが……」

 エンが追随した。

刹那せつな的な欲求に溺れる末端のチンピラ共に我慢は無理だな。邪魔な上が居ない今、財宝を自分達の物にできると喜び勇んで来たんだろうさ」

 それで手に入れたのは己の死。欲を搔くとろくなことにならないな。

「……おいおまえ達、夕べの夢見は良かったか?」

 突然アルクナイトが妙な質問をしてきた。みんなは首を傾げながらも答えた。

「疲れてたから夢も見ないで寝ちゃいましたね」
「俺も~」
「僕もです」
「……そうか」
「夢がどうかしたのか? アル」
「いや俺は、白の腕に首を圧迫されたので夢見が悪かったんだ」

 恨めしそうにアルクナイトはキースを睨んだが、キースはどこ吹く風だった。

「ま、そろそろ起きていい時間だな。ユアンにエン、見張りお疲れさん。俺達が朝食の準備とテント撤去するから、二人は馬車で横になってていいぞ」

 ルパートがテントを出たのを皮切りに、みんなは朝の支度に移行した。私もテントを出て、前を歩く魔王の背中を軽く叩いた。

「ごめん。ちょっといいかな?」

 彼に相談したいことが有るのだ。アルクナイトは私の顔をじっと見た。洗顔前の酷い顔、ボサボサの髪について何か言われるかと身構えたが、魔王は静かに私の手を引いて林の方へともなった。
 ここは昨夜私が隠れた辺りだな。他のみんなから見えないように大木の陰に入った私達。ルパートに先導された時は逢引きだった。それを思い出して少し緊張した私だが、振り返ったアルクナイトは真面目な表情だった。

「どうしたんだ」
「あ、うん。あのね、聞いて欲しいことが有るの。夢の話なんだけれど」
「夢? ……おまえも見たのか? アレを?」
「アレ?」
「………………」

 アルクナイトはもう一度私を真正面から見た。何だろう。

「……違うか。そうだな、おまえは幸せな夢を見たんだものな」

 違う? おまえは? そう言えば彼は悪夢を見たとか言っていた。

「アル?」
「何でもない。話せ小娘。聞いてやる」

 口調こそ偉そうだったが、彼にはいつもの威圧感が無かった。私はそれを少し不安に思ったのだった。

「私ね、また神様が出てくる夢を見たの」

 私はできるだけ細かく丁寧に、岩見鈴音に関する夢を話して聞かせた。
 アルクナイトは眉間にしわを寄せながらも、途中で邪魔することなく最後まで、私の荒唐無稽こうとうむけいとも思われる夢の話を静かに聞いてくれた。こういった所が彼の賢者としての資質なのだろうか。

 あの夢を独りで抱え込むには荷が重過ぎる。かといって誰かに話しても、岩見鈴音が住む世界を理解できる人はそう居ないだろう。
 でも賢者と呼ばれた彼ならあるいは……。それがアルクナイトに声をかけた理由だった。

「…………私が見た光景はそこまでよ。私にはアレがただの夢とは思えないんだ」

 話し終えた私はアルクナイトの反応を待った。彼は二~三度大きく頭を横へ振った。

「ただの夢ではないのだろうな。これまでもおまえは神と夢の中で何度も邂逅かいこうしている。神にとっては必然の出会いだろうが」
「うん。今までの夢では私へメッセージを送ってきていたよね」

 『思い出さないで』、『エリアスと幸せになって』、そして『気をつけて』。少女はその都度、何らかの感情を私へぶつけて訴えていた。

「でもね、昨日見た夢はいつもと雰囲気が違っていたの。ただ神様の記憶を見ている……そんな感じだった」
「………………」

 アルクナイトは難しい顔つきで黙ってしまった。心なしか顔色が悪く見えた。
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