ギルド回収人は勇者をも背負う ~ボロ雑巾のようになった冒険者をおんぶしたら惚れられた~

水無月礼人

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不安定なこの世界(4)

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 そうして幾分か冷静さを取り戻した私は、気になっていたことを彼に尋ねた。

「ねぇアル、あなたはどんな夢を見たの? 私とは違う夢だったんでしょう?」

 彼の背中がピクッと動いた。

「……くだらない夢だ」
「あまり良い内容じゃなかったんだね? だからみんなにも見たかどうか聞いて確認したんでしょ? 神様からのメッセージかどうなのか」
「他に見た者は居なかった。俺個人が見ただけのよく有る悪夢だよ」
「なら言って」
「……………………」

 私は一旦身体を離してアルクナイトの瞳を見た。

「アル。独りでソルさん達と戦った時に、みんなに心配されて散々怒られたのを忘れた? 独りで抱え込まないで」

 アルクナイトはふうっと息を吐いた。

「……世界が崩壊する夢を見た」

 小さな声での発言だったが、私の身体の震えを復活させるには充分な響きだった。

「崩……壊……?」
「大地も空も人も、バラバラになって散っていった。エリーも、おまえも、この俺も」
「ど、どうしてそんなことに!?」
「崩壊は突如始まった。夢の中の俺は事態を掴めずに右往左往するだけだった。だが目覚めた今なら原因に心当たりが有る」
「それは……?」

 私は生唾を呑み込んで先をうながした。

「俺達が十日間の先へ到達したせいだ」
「え…………」

 アルクナイトの口調は真剣そのものだった。

「神が創作した物語は十日間だけだった。それで俺達は終わった瞬間にスタート地点に戻されてループを繰り返していたんだ。その先の物語が用意されていなかったから」
「うん……」
「だが俺達は先へ行ってしまった。今居るここは神の守護と創造から外れた世界。つまりとても不安定な空間なんだ」

 私は足を付けている土を見下ろした。どっしりとした大地が急に崩れたらと恐怖に襲われ、再びアルクナイトにしがみ付いた。

「すまないロウィー、脅かし過ぎた」

 アルクナイトはまた私の背中を優しくポンポン叩いてくれた。

「先程も言ったが、俺が見た夢は神とは関係の無いただの悪夢だった可能性が有る。だからあまり深刻になるな」

 そうだったらいいのに。だけど慰めの言葉をつむぎ出すアルクナイトの表情は沈んでいた。
 私が神である岩見鈴音の夢を見た晩に、引きられるようにアルクナイトが世界崩壊の夢を見た。私はとてもただの偶然とは思えない。彼もそうなのだろう。

「……他のみんなにも相談しておいた方がいいかな?」
「今は待て。まだ俺達だって正確に事態を把握していない状態なんだ」
「そうだよね。上手く説明できる自信が無いや……」

 これまでの人生は設定された情報。実際には体験していなかったと知ったらみんなはきっと混乱するだろう。今の私のように。

「配下の魔物にひずみが生じた土地が無いか調べさせる。世界の崩壊については部下の報告が届いてから考えよう」
「うん」
「また神がおまえに接触を図るかもしれない。奴と関係が有りそうな夢を見たらすぐ俺に話せ」
「解った」

 しっかり頷いた私へ、アルクナイトは今日初めての笑顔を向けた。

「大丈夫だロウィー。俺が居る。絶対におまえ独りにはしない」

 私も笑い返した。

「あなたもだよ。私が居るんだから、独りで悩まないでよ?」

 世界で何が起きているか判らない。とても怖い。でも重い秘密を共有できる相手が居る。独りじゃないんだ。

「それにね、アル。たとえこれまでの過去が設定だとしても……」
「………………」
「今こうして悩んだり笑ったりしているのは私達の意志だよね? もう神様とは関係の無い時間軸を生きているんだから」
「! それはそうだな……」
「だからさ、今からまた始めようよ。ここからあなたはうんと長生きすればいい。五百年だろうが千年だろうが」
「……………………」
「誰も文句をつけようがない、本当の魔王になっちゃえばいいんだよ。それでもっていっぱい思い出を作ろう。神様が用意した人物紹介欄を書き換えちゃう勢いで」
「……ハハッ!」

 アルクナイトは軽く噴き出した。

「それはいいな。何ならこの世界を俺が乗っ取ってやろうか」

 そして挑発的な口調で私を誘った。

「立案者なんだからおまえも付き合えよ? せいぜい長生きをしてみせろ」
「長生きか……。できるかな? 私は魔力が少ないみたいだからさ」
「できる。高濃度の魔力保持者の俺と契ればいいんだ。そうすればおまえの肉体にも魔力が循環する。一時的なものだから、定期的に何度も契らなければならないがな」
「契るって……」

 恋人や夫婦がやるアレ!? ぎゃああ、急に彼と密着していることが恥ずかしくなった。

「おい、腕の中で暴れるな」
「アンタがえっちなことを言うからでしょ!」
「くくく……ハハハハハ!!」

 アルクナイトは本当に楽しそうに笑っていた。

「おまえの言う通りだロウィー。俺は何を暗くなっていたんだか」

 魔王の瞳にはいつもの力強い生気が宿っていた。

「神のシナリオではおまえの結婚相手はエリーだった。それを変える為に奔走して、結果おまえに恋をしてしまったこの俺が」

 改めて言われてドキリとした。
 アルクナイトは起き抜けで乱れている私の髪の毛を、自分の長い指をくし代わりにしてといた。されている側は非常に照れ臭い。

「ロウィー、おまえへのこの想いは神の設定には無かったものだ。俺自身が神に逆らって行動したことによって、新しく生み出された感情なんだ」
「アル……」
「おまえを愛している。その気持ちが破滅と戦う剣となろう」
「ア……」

 ユーリが絶賛した魔王の整った顔が急接近してきた。キスされると思って全身カチン!と固まってしまった私だったが、予想に反してアルクナイトは私の耳元に囁いただけだった。

「ありがとうロウィー。俺はもう自分を見失わない」

 その言葉を聞いて、ああやっぱり彼も動揺していたんだ、怖かったんだなと私は悟った。夢の中で、世界や仲間達がバラバラになっていく様《さま》を見てしまったんだものね。
 今度は私の方からアルクナイトを抱きしめた。
 アルクナイトもギュッと私を抱きしめ返した。今度は力強く。保護者としてではなく、目的を共にする同志として。
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